読んだ感想としては、皆セフィリアさんのことが大好きなんだと思いました(小並感
時刻を確認。
現在、お昼過ぎ。
空を見上げる。
夜空である。
星の色は赤やら緑やら青やらだった。
見慣れたお月様の姿はどこにもなかった。
「わけわかんねぇ」
「ネメちゃん、クロちゃんの様子が変だよ」
「宇宙船だけは駄目だと言っていたからな。船旅が堪えたのだろう。暫くそっとしておけばじきに良くなるだろうさ」
転生して、トリップして、憑依して、逆行して。
つまり、現時点では自分は過去の世界にいる筈なのだが、ふとした時に疑問に思ったりする。
件の創作物って宇宙にまで世界観が広がっていたのだろうかと。
「描写されてなかっただけってオチ? ナノマシンとか普通にあるから医学面とかは進んでるけど、基本舞台設定って現代だった気が。車とか飛行機とか普通にあったし、クロ様なあいつも普通に女子高生してたから疑問に思ったことなかったけど……ハッ!? 実は俺が知らなかっただけで普通に宇宙人と交信してたってのか。だったら≪クロノス≫とか絶対そうだよ。だってそうだろ。普通に意思疎通できてたから疑問にすら思わなかったけど、犬が≪
「ネメちゃん、クロちゃんもう手遅れかもしれないよ」
「大丈夫だメアよ。私はどんなトレインでも受け入れる覚悟があるからな」
一番新しい記憶が結城家で、気付けば宇宙船の中、只今銀河の外れの星に。
目が覚めて最初に見たのが窓から見える宇宙空間だった、そんな当時の心境は語るに及ばず。
事情を聴けば、今まで行方不明だったティアーユの消息が掴め、ヤミが所有するかつての住居である宇宙船≪ルナティーク号≫で迎えに行くことになったとか。
それは朗報だと浮かれるトレインだが、素直に喜べない理由があった。
「なぁ、姫っちや」
「話し掛けないでください」
「なんか怒ってね?」
「怒ってません」
「結城家でクッキングしてからの記憶がないんだけど」
「知りません」
取り付く島もないとはこのことか。
ムスッとしてプイッとそっぽを向き続けるヤミは、目が覚めてからずっとこの調子だった。
「助けて、リョーコえもん」
「ふふっ、嫌よ」
そして、相も変わらず、心の病を負った患者の切なる願いを笑顔で切り捨てる涼子だった。
「もうっ、皆さん浮かれ過ぎですよ。特にトレイン君!」
「シズさんや。なんでもかんでも俺のせいのするのはどういう了見ですかね?」
「トレイン君だからです!」
「なんやねんその理屈……」
がっくりと肩を落とし、荒廃した大地を歩いていく。
ティアーユがいるという星に着陸し、こうして歩き続けること数分。
草木の生えない荒地に、点々と建つ住居は掘っ立て小屋のように頼りない。
お世辞にも生活水準が高いとは言えない、目立つような特産品や観光名所があるとも思えない。
つまり、組織に抹殺されそうになった人間が隠れ住むにはもってこいの場所とも言える。
「此処よ」
目の前に立つのは、一言でいえばボロ小屋だ。
宇宙生物工学の分野で並ぶ人なしと評される天才科学者の住居には相応しいとは言えない。
「此処が、ティアの……」
「あのポンコツ、こんなところに引き篭もってやがったか」
思い詰めたように呟くヤミとは対照的に、トレインの吐いた言葉は辛辣だった。
「トレイン君、女性にポンコツというのはあんまりなのでは」
「ポンコツをポンコツと言って何が悪い」
「ティアーユ博士って私達の生みの親なんだよね?」
「一応そうなのだがな……」
「彼女、研究以外はてんで駄目なのよね。家事なんてさせようものならもう……」
揃って遠い目をするのは、ティアーユの人となりを知るネメシスと涼子。
ネメシスに至っては遠目で観察していただけだが、あの様子だと知っているようだ。
「あのポンコツが、最終的にはヘドロ製造機になるかもしれねぇのか」
知識と記憶、それぞれのティアーユとの差異に、唯一知るトレインだからこその畏怖が湧く。
既に自分の知る道筋など跡形もなくなりつつあるが、油断は禁物だ。
おっちょこちょいで何もないところで転ぶドジッ娘気質は当時から既に健在。
一番新しい記憶の段階で料理に興味を持っていたのだから、もう手遅れなのかもしれない。
「…………」
「ヤミお姉ちゃん?」
怖いもの見たさな心境だったが、メアの戸惑う声がそれを打ち消す。
「……やはり、私は遠慮します」
「今更になって怖じ気づいたか?」
「……否定はしません。実際、ネメシスの言う通りですから」
自嘲するように、ヤミは言葉を続けた。
「私はもう、ティアの知る昔の私ではありません。純粋無垢だった≪イヴ≫はもういない。今、こうして此処に立っているのは、宇宙一の殺し屋と恐れられる≪金色の闇≫なのですから」
生体兵器で、殺し屋で、化物で。
それでも、少しずつではあるけど、ヤミは人間になりつつある。
リトに出会い、美柑と友達になって、トレインと再会し、ネメシスやメアという仲間も出来た。
彩南町で過ごした日々は、人間である≪イヴ≫の心を取り戻させてくれた。
だけど、≪金色の闇≫が、生体兵器で殺し屋で化物だった自分が消える訳ではない。
≪イヴ≫と≪金色の闇≫、対極である両者が混在している状態が、今のヤミなのだ。
「ティアが生きている。それが知れただけでも、此処に来る価値がありました」
≪ルナティーク号≫に戻ってます――。
その言葉を残し、踵を返そうとするヤミの手を、トレインは掴んだ。
身を固くするヤミ、引き留めるトレイン、そんな二人を見守る彼女達。
一体何を語るのかと、場に緊張感が満ちていく。
「えっ、もしかして悲劇のヒロイン気取り? 姫っち、リアルお姫様になっちゃうの?」
周囲のトレインを見る目が微妙なものに変わっていく。
だが、呆れ顔のトレインはどこ吹く風だった。
「姫っちさぁ、問題の先延ばしだって自覚ある? どうせ帰りの宇宙船の中で鉢合わせすんだから、今会ったって同じだろうが」
「…………」
「それとよ、姫っちが≪金色の闇≫だってティアはもう知ってんじゃねぇの? 伝手とかその手の技術からっきしの俺と違って、ティアはポンコツだけど一応天才科学者なんだし」
「……それなら、尚更会わせる顔がありません」
「あー、大丈夫大丈夫。ティアならその辺問題ないって」
所詮は他人事。
どこまでも呑気なトレインの物言いに、沸々と湧き上がる衝動がヤミの金髪へと伝播していく。
周囲にも波状し、まさに針の筵な、当の本人ことトレインはどこ吹く風で。
「俺は姫っちの全部、受け入れたぜ」
優しい声音だった。
呆れ顔は打って変わり、聞き分けの悪い子供を諭すような穏やかな表情へ。
「俺に出来たんだ。ティアに出来ねえわけがねぇ。あいつはなにもないところで転ぶし毎回料理黒焦げにするポンコツだけど、自分の娘が可愛くて仕方がねぇ親バカでもあるんだ。時間が掛かるかもしれねぇし、簡単にはいかないかもしれねぇけどさ。ティアは絶対、受け入れてくれるよ」
楽観視している訳でもなく、根拠がない訳でもない。
原作知識を有しているからとか、それだけでものを言っているのでもなくて。
ティアーユとヤミ、二人と過ごした時間はそれほど多くはなかったかもしれないけれど。
創作物を第三者視点ではない、実際に接して目で見て耳で聞いて心で寄り添ってきたからこそ。
「それでも怖いって言うんならさ」
自分と同じ、小さな手を握りしめる。
俺は此処にいるからと、そんな声なき想いを伝えるために。
「手、握っててやるから。だから、一緒にティアを迎えに行こうぜ」
返事もなし、顔も背けたまま。
それでも、トレインの隣に並び立ち、ヤミは小さく頷いた。
ギュッと握り返された手が、肯定だという声なき想いを伝え返していた。
「うしっ。じゃあ、皆でせーのでいくとしますか」
ドアノブに手を掛け、後ろを振り返る。
何故かジト目なネメシスを視界からカットしつつ、頷く一堂に笑顔で返す。
「んじゃ、せーの゛!?」
「アークス!! …………へ?」
今から扉を開ける、まさにその瞬間。
先に開いたドアがトレインの顔面を強打した。
「…………はっ!? ご、ごめんなさい! 私慌てて――」
「そそっかしいところは相変わらずね、ティア」
「……ミカド、なの?」
見開かれる、緑の双眸。
顔の造形も髪色も、唯一違う瞳の色以外は、その女性は驚くほどヤミと酷似した容姿だった。
かつての旧友との再会に、成熟した肢体に似合わぬ幼き笑みで応える。
「久しぶり! 何年ぶりかしら? 他にもたくさん連れの人達が……」
そして、次の瞬間には笑みが驚愕へと移り変わる。
「……イヴ」
「……ティア」
同じ遺伝子を持つ、同じ顔を持つもの同士。
赤と緑の瞳が、長い時を経て今、交わり合う。
「ひ、久しぶり……元気そうで良かったわ、イヴ――」
「今の私は≪金色の闇≫です。あなたの知る≪イヴ≫は、もういません」
「っ……」
予期していたヤミとは違い、予期せぬ再会をしたティアーユは言葉に詰まってしまう。
聞きたいことがあるだろう、伝えたいこともあるだろう。
それでも、記憶にある≪イヴ≫とは想像もつかぬ、鋭利な表情に言葉が出ない。
傍から見れば虚勢に過ぎない、≪金色の闇≫という仮面を張り付けたヤミにさえ気付けない。
双方が持つ後ろめたさが、離れてしまった心の距離を取り戻すのは簡単なことではないのだ。
同じ遺伝子を持ち、性格は正反対だけど、同じ不器用者同士だからこそ。
「あの、ヤミちゃん……ゴメンなさ――」
それでも、伝えなければならないことがあるから。
口火を切るティアーユの背後に、その男は幽鬼のように忍び寄り、両の拳を彼女の頭に固定。
「ポンコツてめ――――――っ!!」
「きゃああああ――――――っ!?」
ぐりぐり攻撃。
「出会って早々この所業か! また俺が被害者か! なんで毎度毎度テメェのドジっ娘気質に俺を巻き込みやがんだ! ワザとなのか! ワザとなんだな! あ゛あ゛!?」
「ああ!? この女子供だろうが情け容赦のない辛辣な言動! トレイン君なのね!」
「どういう思い出し方してんだ天然娘がぁああああああ!!」
「よがっだぁああああ!! 生ぎででくれでぇええええ!!」
「ぎゃあああああああ!? 鼻水ぅううううううううう!?」
熱い抱擁でトレインを捕獲し、鼻水と涙交じりの顔を押しつけすりすり。
涼子に匹敵する爆乳に顔を埋め、酸素を求め背中をタップするもティアーユは気付かない。
「どれいんぐ~~~ん!!」
「ん――――――――――っ!?」
「わぁ、凄いおっぱい。画像で見たけど、実物で見るとやっぱり違うな。素敵」
「こらーっ!! トレインから離れんかー!!」
「あらあら。女の胸の中で死ねるなら、トレイン君も男冥利に尽きるんじゃないかしら?」
「あの、トレイン君、赤を通り越して青くなってますよ。わりとシャレにならないのでは……」
緊迫した空気から一転、ドタバタ騒ぎへ。
ティアーユがおいおいと泣き、トレインがタップし、メアが感心し、ネメシスが怒髪天を突き、涼子はあらあらうふふとしたり顔、お静が冷静に診察を下す。
そんな馬鹿騒ぎに一人置いてけぼりなヤミはといえば、怒るでもなければ呆れるでもなし。
「……もうっ、ティアったら」
童心に帰ったように、あどけなく微笑む。
それは、かつて存在していた、失った筈だった光景。
この時確かに、≪金色の闇≫は≪イヴ≫だった頃の心を取り戻していた。
◆ ◇ ◆ ◇
ティアーユ・ルナティークはトレインにとって恩人と呼べる存在である。
逆行して最初に出会った人間であり、住所不定無職なショタっ子になった自分に雨風を凌げる寝床と温かくて異臭を放つ黒焦げの料理を提供してくれた、そんなお人好しがティアーユだった。
だからこそ、世話になった恩を返そうと彼女の面倒を見だしたのは自然な流れだった。
巷では天才科学者と評されてはいるが、研究をすれば寝食を忘れるほど没頭し、料理をすれば作るもの全てを黒焦げにし、そこら中で転ぶ、そんなポンコツを見ていられなかったからである。
だが、後にトレインはこう語る――あれが苦難の始まりだったのだと。
かつての職場≪エデン≫で連日のように研究室に泊まり込む彼女を社畜かお前はと定時直後に自室まで引き摺って行くのがトレインの日課だった。
その結果作業速度は大幅に落ち、当然のように研究者共に煙たがられ、なんか物凄く見覚えのある変態ドクターに実験材料だと付け狙われてしまったので取り敢えず半殺しにして島流しの刑に。
一向に上達しない料理スキルに業を煮やし、料理をし出したのはこの頃からだったか。
自分もなにか手伝うと言い出したドジっ子が皿を割れるわ包丁を飛ばすわ発火させるわで余計に仕事が増えるので役立たずの烙印を押し何もするな黙って座ってろとブチ切れたのは一度ではない。
そして、なにもないところで転ぶ奴のドジっ子スキルには常に巻き込まれていた。
これって逆ラッキースケベじゃね? とか一瞬思いもしたが、何度も繰り返されれば色気よりも殺気の方が勝ってきてどうでも良くなった記憶しかないのだが。
そんなティアーユに巻き込まれ続けたのが原因だったのだろう、当時生まれたばかりで幼女だったヤミことイヴが親代わりのポンコツを盗られたとトレインを嫌ってしまう結果に。
ある日突然丁寧な口調で、えっちぃ人は嫌いですと言われた日は反抗期かと泣きそうになった。
「あのポンコツいつか絶対に復讐してやる」
恩人?
もう十分恩義返したよね?
だからもう報いてもよくね?
我慢する必要なくね?
地獄に突き墜としてもいいんじゃね?
「くくく、手を貸そうではないかトレイン。して、どう調教するのだ?」
のりのりであくどい笑みを浮かべるネメシスは、トレインの体に≪
主従とは似るのか、ネメシスに染まったのか、トレインに染まってしまったのか。
ドSコンビに狙われたティアーユの明日はどっちなのだろう。
次々に飛び出す物騒な手法は、耳にした者がいればドン引きするようなものばかりだったとか。
「にしても、傍迷惑な奴もいたもんだぜ。病人なら大人しく寝てろってんだ」
話の切り上げにと発したのは、二人がこうして出歩いている原因だった。
出会い頭に扉と接吻を交わしたトレインだったが、あれだけティアーユが慌てていたのには原因があり、なんでも介抱していた人物がどこにも見当たらないのだとか。
せっかくの再会、ティアーユだってヤミと話したいことは山のようにあることだろう。
聞けば、今回のように抜け出すことは何度もあるそうで、一見慌てていたように見えたティアーユも、よく見れば焦りより怒りの方が強いように思えた。
本来なら出歩けるような体ではなく、いる場所は決まって近場にある小高い丘の上。
ならばとトレインが捜索に名乗り出て、付き添う形でネメシスが同伴する流れになったのだ。
「トレインはよかったのか? かつての同居人だったドクター・ティアーユとの再会なのだ、積もる話もあっただろうに」
「いいっていいって。ティアとはあんな感じの付き合いだったから、俺なんかより姫っちの方が問題ありなんだからよ」
「……羨ましいよ」
内から響くその声には、僅かな影を帯びていた。
「ネメシス?」
「そうまでもトレインに想われているヤミが、私は羨ましくて仕方がない。私はこんなにもお前に尽くそうとしているのに、トレインは何時だってヤミに尽くそうとしていることがな」
「尽くすって、お前な……」
私はお前のものだとか言っていたが、アレってマジだったのか。
調教だの下僕だのと女王様気質なネメシスだからこそ、冗談なんだと流していたのだが。
「私では駄目なのか? トレインが望むなら、私はなんでもしてやれるのだぞ?」
突然の発言に面食らうトレインの頬を、実体化したネメシスの両掌が包み込む。
冗談の類だと笑って流そうとするが、真剣な金色の瞳がそれを阻んだ。
荒廃した大地を踏む足音、時折吹き抜ける風音だけが二人の間に流れる。
「幸せになって欲しいんだよ」
自分と同じ金色の瞳を、真っすぐに見詰めた。
「姫っちも、ティアも、俺のせいで不幸にしちまったからな」
「二人のことはトレインのせいではないだろう。ドクター・ティアーユが≪エデン≫に抹殺されそうになったのも、ヤミが≪金色の闇≫になってしまったのも、トレインは何一つ悪くはないぞ」
――そうじゃないんだよ、ネメシス。
泣きそうなネメシスに掛けたかった言葉を、トレインはぐっと飲みこんだ。
だって、言ったところで誰も信じてくれる筈がない。
未来の彼女達を庇い、致命傷を負って、過去の世界に逆行したなんて、そんな荒唐無稽な話。
争い事とは無縁だった彼女達を巻き込み、涙を流させたのは自分だ。
逆行した世界で出会ったヤミとティアーユが、トレインの知る未来の彼女達とは同一人物であっても別人だということは理解しているつもりだった。
だから、これはトレインの自己満足に他ならない。
そっと抱き締め、ぐずるネメシスの頭をポンッと叩く。
探し人の元へ向かう足は止めず、あやす様に何度も、何度も。
男女平等を掲げるトレインだが、女の涙だけは別だった。
自分などのために涙を流す、
「――おっ、あの人じゃね?」
ティアーユの言葉通り、近場の小高い丘の上にいるのが目的の人物だろう。
遠目なので後ろ姿しか視認できないが、波打つ金髪は特徴通りだった。
「ほれ、ネメシス。何時まで泣いてんだよ」
「……うるさい。ずっとこうしていろ」
「俺のもの発言はどこいったんだよ。主従逆転ってか?」
「ふん、トレインはもっと私を大事にすればいいのだ。立派なご主人様になりたいのならご褒美を寄越せ。鞭ばかり与えて見限られても知らんぞ」
「ネメシスに憑りつかれずに済むってんなら、これからも飴はあげられねぇな」
「……ばか」
不貞腐れたのか、トレインの内に戻るネメシスからの応答はなし。
苦笑を零し、緩やかについた傾斜を昇っていく。
「……おろ?」
気のせいか、手足が震えている。
ネメシスの仕業かと疑うが、そんな感じではないように思えた。
首を傾げるが、震えは一向に収まらず、心なし増しているような気さえしてきた。
挙句の果てには、第六感とでも言えばいいのか、それが懐かしい響きを打ち鳴らす。
それが警鐘だと気付いたのは、小高い丘を登り切り、目的の人物を背中を捉えた時だった。
「…………ははっ」
顔が引き攣る。
冷や汗が噴き出す。
震えは直立が困難なほどにまで増していく。
「…………嘘、だ……嘘に、決まって……」
紫を基調とし、軍服のような意匠を凝らしたロングコート。
波打つ金髪は腰まで届き、風に靡く様は息を呑むほどに美しい。
後ろ姿だけでも相当な美人だと、立ち姿や雰囲気だけで誰もが察するだろう。
条件反射のように腰元に目が行き、何もないことに心底安堵して。
だから、前の時と同じなのだと、他人の空似なのだと思った。
「セフィ、さん?」
女性が振り返った。
「…………え?」
ぐしゃっと、鳴ってはいけない音が胃からした。
「…………」
息を呑むほど、その女性は美しかった。
輝く様な金髪も、涙で潤んだ碧眼も、なにもかも。
その容姿であらゆる異性を魅了する、宇宙一の美女であるセフィに引けを取らない。
髪色だとか、瞳の色だとか、服越しでも伺える筋肉の付き方だとか。
多少の差異はあれど、目の前の女性はセフィと瓜二つだったが、中でも目を引く相違点。
――わぁ、素敵な刺青ですね。
自分の≪XIII≫を彷彿とさせる、額に刻まれた≪I≫のローマ数字が、彼女の正体を告げていた。
――あっ、この人モノホンのセフィリア=アークスだわ。
「……あ、あなたは、は……!?」
何故か自分同様に驚愕を張り付けるセフィリアだったが、その疑問に裂く思考など皆無。
かつてないほど頭が働き、この場を切り抜ける膨大な量の作戦案が浮かんでは消える。
これって走馬灯じゃね? とか思ったりもしたが、次の刹那には消滅。
逆行して初めて会うんだから正体隠す必要ないだろうという、冷静に考えれば湧く筈の当然の解に辿り着く可能性は、生死にかかわるほどの重要な局面に直面しているトレインにある訳もなく。
そして、思考時間では悠久、実際には一秒にも満たぬ時間を経て、トレインは答えを導き出す。
セフィリアに自分がトレインだと悟らせない、その為の最適解、それは、
「あれれ~? お姉さんだ~れ?」
自分のショタっ子な容姿を最大限利用した、自分ただの子供ですよ作戦である。
スモールトレイン CV.高山みなみ
江戸川コナン CV.高山みなみ
突然の報告。
また懲りずに新作を投稿してしまったぜ。
原作:≪遊戯王≫
タイトル:≪トマトとナスとバナナと紫キャベツ≫
暇潰し程度の気持ちでご覧あれ。
報告はこれにて終了っす。