機動戦士ガンダムSEED 技術試験隊の受難<一時凍結>   作:アゼル

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実直な軍人ナタルさんとの会話が主になってます。あの世界では珍しい実直な方ですよね。


第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦 Ⅱ

第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦は開始早々は連合軍による圧倒的物量とビーム兵器を搭載したMSや全体から見れば数は少ないものの各戦線にいたバスターダガーやソードカラミティなどの高級機によよりザフトは圧倒された。

 

しかし、次に放った核攻撃隊はアークエンジェルなどの各陣営から脱走、あるいは逃亡した艦により妨害されやけに戦力が整った脱走艦隊に対抗するために戦力を裂いた結果、ザフトにより手痛い反撃を食らってしまった。

 

 

詳細は不明だがミラージュコロイドにより隠されていた超巨大ビーム砲と思われるトンデモ兵器は旗艦ワシントンを含む連合軍艦隊の実に4割を薙ぎ払ったのだ。しかもその後の撤退時に敵部隊奥深くまで侵入していた一部の艦隊やMS隊の大多数が息を吹き返したザフトに撃たれたのか、未帰還が圧倒的であった。

 

 

無論、最も奥深くに侵攻していたキメラ隊もただでは済まなかった。攪乱部隊として突出したうえに敵エース部隊と衝突したブリッツ重装型のうち一機が武装の多くを損失し、ビーム兵器など火器の大半を搭載した右腕がもがれた状態で戻ってきたのだ。さらに突撃部隊のロングダガーやデュエルダガーの多くも大なり小なり被害を受けている。だがストライクダガーにすらフォルテストラを装備できたことが幸いし、ビーム兵器による主要部への直撃を受けた機体以外はパイロットが衝撃により内部の破損による被害を受けた以外は無事であったことは幸いというべきだろう。

 

 

キメラ隊の被害は出撃したMS隊のうち大破あるいは撃墜、修理不能の機体が2割ほどであった。敵陣奥深くに突撃したにしては被害が軽微であったといえるが、彼らはあのトンデモ兵器、後にジェネシスと判明する兵器に恐怖とともにある決断をした。

 

 

核の解禁。マティス率いる特殊情報部があの兵器を知っていて核ミサイルを送ったのかはキメラ隊にいる者達は上層部を含め分からなかったが、戦争を止めるなどということを掲げて攻撃してくる三隻の脱走艦部隊がプラント攻撃に拘るブルーコスモスの核攻撃隊に視点が向いている間に反対側からヤキン・ドゥーエかあのトンデモ兵器へ核攻撃を行うことが内々に決定された。

 

 

だがこの作戦には穴がある。それはオブサーバーとして参加しているアズラエルの存在だ。もしもアズラエルがキメラ隊の核ミサイルを先ほどの攻撃で失った核ミサイルの補充として確保しようとするなら作戦そのものが成立しない。独自に裁量権を持っていたとしても旗艦を失い、軍内でもハバを利かせているブルーコスモスのリーダーであるアズラエルには逆らえないのだ。なによりキメラ隊の創始者はアズラエルなのだから。

 

 

しかし、ここで連合軍に異変が起きた。正しく言えばキメラ隊にとっては吉報が。ブルーコスモスにとっては凶報が舞い降りたのである。

 

 

 

「アズラエル理事が負傷しただと!?」

 

 

その話を聞いたのはキメラ隊旗艦アガメムノン級母艦ダラムにてキメラ隊の各艦の艦長による話し合いが行われている時であった。この情報を持ってきたのは他の部隊、特にブルーコスモス派の部隊と話し合いをしていたネルソン級戦艦スプリトの艦長に臨時的になったグラマン中佐からもたらされた。

 

話はこうだ。アズラエルとアークエンジェル級二番艦ドミニオンの艦長が言い争っている際に救援を要請したドレイク級駆逐艦チャーチルが爆発し、救援のために接近していたドミニオンに衝撃が伝わってしまったために起きた事故だという。その事故というのも普通は考えられないがトンデモ兵器で怒り狂っていたためなのか衝撃で手をつかみそこなったアズラエルが頭から角に頭をぶつけ、そのまま気を失ったという。

 

 

今はそのままドミニオンの中にいるのは危険と判断され、後方の病院船に移されたという。ブルーコスモス派、正確にはアズラエル派にとっては痛手だ。ブルーコスモス盟主として出陣している中で当人は気絶し戦線離脱。これでは地球にいるロード・ジブリールあたりの強硬派の面々が新盟主として成り上がろうと動き出すだろう。

 

 

とはいえ、今現在の連合軍派遣部隊の行うことは先ほどの戦いとさして変わりはしないだろう。早くて一日で後方に控えていた補給艦群からの補給と整備を行い、再度の攻撃を行うのは間違いない。何故ならアズラエルが気絶する前にドミニオンと通信を繋いでいたドゥーリットルからあのトンデモ兵器が地球に照準を合わせられることが計算されたのだ。ついでに言えばあの兵器が巨大なガンマ線発射砲台であり、仮に地球に発射されれば地球上の全生命の8割が死に絶えるということが全艦に伝えられたのだ。

 

もはや地球連合軍は撤退など決してしない。そして中継地点代わりに利用されているキメラ隊第二陣にもそれは伝えられ、月基地から増援艦隊が向かってくるだろう。そしてさらにここでキメラ隊は独自に第二陣にそれとなく追加事項を伝えておいた。

 

 

 

(増援艦隊の分散でありますか?)

 

 

そう、グラマン中佐は通信越しに疑問の声を出す。これは同時に通信を開いている別の艦からも漏れ出る。当たり前だろう。分散すれば途中にザフトの艦隊かザフトに雇われた傭兵やジャンク屋崩れが襲ってきて被害を出す可能性があるのだから。

 

 

「そうだ。念のために第二陣に予測される月基地とあのトンデモ兵器との射線軸上には入るなと伝えておけ。あれが地球を撃てるのであれば、連中は先にあの兵器を破壊できる可能性がある核を破壊したがるだろうな。ザフトの連中は核アレルギーとでも言うのかいささか過剰に反応する連中だ。用心に越したことはない」

そう言ったのはキメラ隊旗艦ダラムで指揮をとっているジェイコブ准将だ。彼の意見に艦長のメイソン大佐も賛成する。

 

 

「そうでしょうな。核ミサイルがプラントに当たった程度でニュートロンジャマーを投下する連中です。ニュートロンジャマーはコーディネーターの耐久力を基準にして投下したのかも知れないが、恐らく地球にも放つだろう。先に月基地にある核ミサイルを駆逐したうえでな」

 

 

十分にあり得る話である。鹵獲した黄色いゲイツのパイロットは艦内の牢に収容する前に自分たちにとある発言をしたのだ。

 

 

『核ミサイルを撃ってきたナチュラル共は核で報復しなかった礼を忘れたのか!』という言葉を。

 

 

ニュートロンジャマーによる多数の犠牲者ですら生ぬるいと考えるほどの狂気の集団だ、と話を聞いたメイソン大佐は思った。別に彼自身はブルーコスモス派ではないがあまりの内容に宇宙なのに寒気を感じた。しかもこの言葉は尋問の結果ザフト高官が戦闘前に味方を鼓舞するためなのか発言していたらしくゲイツの記録装置にもその発言が記録されていたのだ。

 

 

もはや核攻撃を躊躇う理由もないが、友軍の被害もできる限り食い止めることは必要だろう。あの兵器にうたれる可能性が高い月基地と月基地からの増援艦隊である第三陣にこのことは念のため危険性を伝えておくがそれを判断するのは月基地の司令部だからどうなるかはわからないだろう。だが彼等は保身に走る連中だ。プトレマイオス基地を囮にローレンツ・クレーターなどの他の基地を使う可能性はあり得る。現に安心感が欲しいのかダガーLの返還要求が来ているらしい。無論無視するが。

 

 

「それと核攻撃に関してだが、あのトンデモ兵器はどうやら換装が必要なのようだからあのトンデモ兵器を第一目標にしたうえで、発射体制に入り間に合いそうにない場合は換装しているコーン状の装置を狙うことにする。異議はあるかね?」

 

((((((異議なし))))))

 

 

 

各艦長は異議なく賛同した。そしてさらに話し合いは続き、ピースメーカ隊を中心とした核攻撃隊にこちらの核ミサイルをあまり持っていかれないようにするためにソードカラミティやバスターダガー、ダガーLの一部を向かわせることが決まった。

 

 

あちらの核攻撃隊は存在が明白なためにザフトの部隊だけでなく厄介な脱走部隊とも戦闘せざるを得ない。いくらソードカラミティと同じ後期GATシリーズの新型機が三機もいるといえども、つらいだろう。そこにソードカラミティなどの格闘戦特化機や高機動機、狙撃機が増援として参加するのだ。もともといた部隊と合わせてもたいそうな戦力である。無碍にはしないはずだ。

 

 

「恐らくはあの三隻も来るだろう。ソードカラミティの戦闘狂とバスターダガーの拷問好きにいってもらうとしよう。それとコーネリアス改級が第二陣にもいるはずだから数隻はあちらに回すとする。我々はローエングリンの連射ができる数があればよい」

(私は賛成です。准将の言う通り増援をあちらに送れば例の三隻はよりあちらに釘付けとなるでしょう。先ほど撤退に成功した最後尾の艦艇からの映像ですとザフトにも攻撃をしていますので無差別テロともいえる状況です。あちらに機体を回して少しでも時間をかけさせるべきだと進言します)

 

 

賛成意見が圧倒的であった。第二陣には核ミサイルを満載した補給艦が多数存在し、戦闘艦艇も基地の警備に最低限残して周辺基地だけでなくその他の基地などから発進した艦艇を取り込んだ艦隊だ。それもキメラ隊の独自裁量権により指揮下にある。戦況は余裕がないものの部隊としては余裕が出ている。

 

「ふむ、ではそれに加えて周辺艦隊にいるブルーコスモス派将校の中でロード・ジブリール派の指揮官にも声をかけておいてくれ。敵主力艦隊に向かうもの達以外に我々と共にあの兵器を破壊するために同行するよう呼びかけるんだ。アズラエル理事が眠っている以上アズラエル派は結果を出さねば失脚するだろう。奴らもここでうまくいけば勢力拡大に繋がることぐらいわかるはずだ」

 

 

そう、なにも泥船にいつまでも乗り続ける必要はない。アズラエルには部隊設立に一躍買ってもらった恩義があるが勝ち組に乗る必要がある。これからはブルーコスモスの中でもアズラエルの次に勢力を持つロード・ジブリールにもよい顔をするべきだろう。何より、アズラエル派はドミニオンなどの核攻撃隊からの映像で例の三隻の核動力機は増加装備により火力が圧倒的な機体二機と対峙するのだ。ミサイルも大量発射しているから恐らくは失敗するだろう。ならば増援を多少やり、こちらはジブリール派と動くだけだ。

 

 

「では、我々は独自裁量権に基づき独自に行動する。目標は敵要塞ならびに敵巨大兵器。第一目標は巨大兵器だ。諸君の奮闘を期待する」

 

 

 

 

そうして話し合いも終わりに入ったところで、ある護衛艦の艦長がとあることを口に出した。

 

 

(そう言えば、先ほどのアズラエル理事の負傷に関してですがドミニオンの艦長は失脚ですな。おそらく我々のもとに来るでしょう)

(確かに。何かとアズラエル理事に反抗的であったそうだ。典型的な軍人らしいから、あまり口出しする軍人でないものに良い感情はなかったのであろう。この世の軍隊はなにも軍規だけで動いているわけではないと知らない実直な者なのだろうよ。あの第八艦隊の提督のようにな)

 

そうなのだ。ドミニオンの艦長はわざとでなくとも自身が艦長を務める艦でアズラエルを気絶させている。なにより何かとアズラエルの発言に異議を唱え続けていたらしい。そのあたりを機敏に察知できるものであれば、たとえばオーブ解放作戦の時の旗艦の艦長などのように内心はどうあれ従順に従えばよかったのだ。

 

 

だが、ドミニオンの艦長は違う。おそらくアズラエルもあのトンデモ兵器の脅威に怒ったうえで、いい加減反論し続ける艦長に嫌気がさし、怒りが余計に爆発したのだろう。もう左遷は確実だ。

 

 

 

「だが、仮にこの戦闘を生き残ればの話だ。核攻撃隊と共に行動するのだろうから危険性は高いだろうな。念のためにコーネリアス改級砲撃艦以外にもネルソン級やドレイク級であちらに回してもこちらに支障が出ない艦は少し回すことにしよう。予想通り月基地が吹き飛べば、損傷艦の一部は我々のところにも来るだろうからな。アークエンジェル級なら既存艦のみの他の基地よりも我々の基地に来る確率は高い」

 

そういい、通信を終える。そしてこれから通信を開くドミニオンのことを考える。アズラエル理事が艦内に消えたためにブルーコスモス派将校の中から上位階級のものが代わりに乗るだろう。あの一番艦のネームシップ艦であるアークエンジェルから離れアラスカの自爆に巻き込まれなかったことは有用と見込まれたことだというのに全く大局を知らぬ軍人だと思いつつ、通信手に回線を開くよう指示した。

 

 

 

一方その頃アークエンジェル級二番艦ドミニオンの艦橋では様々なことへの対応に追われていた。救援に向かい爆沈したチャーチルによる被害の確認や処置、ならびにこのことにより傷つき倒れたアズラエルに関する嫌味をサザーランド大佐などのブルーコスモスの面々から浴びせられ続けていた。

 

 

さらに旗艦ワシントンの消滅による指揮系統の麻痺を止めるために一時的とはいえ連合軍艦隊の指揮を行ったことや、最新鋭艦ということもありシステム的にも他の艦よりも優秀であったために総旗艦が決まるまで旗艦代理を務めていた。

 

 

艦長のナタル・バジルールはまいっていた。L4での戦闘からずっと我が物顔で作戦に口出しする国防産業理事の男に嫌気がさすとともに、GATシリーズの新型機のパイロットたちをまるでモノのように扱う行動や核ミサイルを平然と敵基地に打ち込み殲滅を図る行為などに疑念を抱いていた。

 

一度は核攻撃に対し苦言を呈したが、一蹴されてしまった。確かに自軍の被害を最小限にして敵軍の被害は最大限にするためには核攻撃は理に適う。だが、果たしてそのような手段を択ばない方法が正しいと言えるのだろうかという疑念に心を悩ませ、次から次へと指示や作戦会議のために心身ともに疲れがたまっていた。

 

 

そんな時、通信士が新たに通信回線が開いたことを伝えてきた。

 

 

「キメラ隊旗艦アガメムノン級ダラムより通信です」

「キメラ隊だと?聞かない名前だな。よし、正面スクリーンを開け」

 

 

その言葉により正面のスクリーンに宇宙服を纏ったサザーランド大佐と同年代と見える男性が映った。初めて聞く部隊名だが階級は自身よりも上の将校だ。

 

(キメラ隊旗艦ダラム指揮官のジェイコブだ。ナタル・バジルール少佐だね)

「はっ。本官はアークエンジェル級二番艦艦長ナタル・バジルール少佐であります」

(固苦しい言い回しは良い。それよりも重大な話があるので臨時的に旗艦を務めている君に話があるのだよ。聞いてくれるね)

 

 

サザーランド大佐とは違い柔和な笑みを浮かべるジェイコブ准将。本来であれば彼のような上級将校の者が旗艦などで全体を指揮することが望ましいはずだ。

 

 

「本艦は臨時的な旗艦にすぎません。ですが後程総旗艦が決まった際にはその艦と指揮官のもとに情報を渡すことになります。そして私だけではなく他の方々の意見も聞かねばこれからの作戦に関わるのでは承服することなど不可能で……」

(他の者たちと言えどそれはサザーランド大佐のようなものたちのことであろう。我々キメラ隊には関係のないことだ。それに我々は君たちに許可をもらう必要はない)

「なっ、それは一体どういうことなのです!?」

 

 

許可を必要としない。つまり指揮下に入らないということだ。それはもはや軍隊とは言えない行動だろう。アズラエル理事が軍人でもないのに参加していることやパイロットへの非人道的行動、躊躇ない核攻撃。もはや常軌を逸している。そう感じたナタルは即座に反応した。上官と言えども軍規に背いたことは看過しきれない行動だからだ。

 

 

(我々には独自裁量権があるのだよ。つまり独自の判断で独自に部隊を動かすことができるわけだ)

「なっ!?そのような話は聞いたことがありません!」

 

 

衝撃的な言葉を口に出してきた。もしもいま言った言葉が真実だとするならばこのまま正式に総旗艦が変わったとしても指揮系統が二つに分かれ、しっかりとした軍事行動が行えない。

 

「滅茶苦茶です。そのようなことがあるのだとしたら指揮系統が二つもあることになりまともな軍事行動を行えるわけがない。そのような話、承服できません」

(別に君に承服してもらう必要はない。これはキメラ隊が発足した時からあるのだよ。つまり軍は、正確には軍上層部は知っているわけなのだよ。それに何もいたずらに場を混乱させるつもりはこちらにもない。あるのであればすでに裁量権を行使していたが、違うかね?)

 

そうなのだ。今の今までナタルがキメラ隊という部隊の存在を知らなかったことは偏にその権限を行使しなかったことも原因の一つだ。もっと前から独自に行動していればブルーコスモス同様悪い意味で目立つ部隊であっただろう。

 

 

(ともかく我々は独自に行動させてもらおう。だが我々が独自に動く代わりにそちらに幾分か増援を送るつもりだ。君たちが運用している後期GATシリーズの一機ソードカラミティやバスターダガー、それにコーネリアス改級砲撃艦を送ろう。それで核攻撃を成功させたまえ)

「准将閣下は核攻撃を何とも思わないのですか!?敵とはいえ殲滅を図る行為を……」

(それ以上は言ってはいかんよ、バジルール少佐。これは軍だけでなく連合軍上層部も認めた行為だ。それを否定する権限は我らにはない。黙って従うのが得策だ。軍人は意志無き剣であればよい。それに我らも核攻撃をするつもりだ。目標はプラントではなくあのトンデモ兵器だがね)

 

ナタルに再び衝撃が走る。核攻撃を行える部隊がドゥーリットルなどだけでなく他の部隊にもあったのだ。そしてその部隊が独自裁量権をもとにして独自に核攻撃を行おうとしている。確かに軍は政治の下にあるものだ。軍が行うことは政府が命じたこと。故にそれに逆らうということはどういうことかわかってはいる。それでもやりきれない思いが彼女にのしかかる。

 

 

(こちらからの話は以上だ。それではそちらの健闘を祈る)

 

 

そういって一方的に通信は切れた。独自裁量権を保有する部隊の存在は初耳であったがそれに加えて核攻撃を行う部隊の存在も驚愕した。こちらは核攻撃を妨害するザフトだけでなく三隻と少数でありながら強力な機体を保有する脱走艦との戦闘が待っている。増援として強力な機体と砲撃戦に特化している艦が加わるのはありがたいことだ。だが、彼女はその増援に関する感謝の気持ちよりも、この戦い方に疑問を抱くのはまるで間違いであるかのように諭してくることに余計に言いしれない思いを抱くのであった。

 

 

 

日付が変わった翌27日地球軍は進軍を再開した。地球軍の士気は高い。それはあのトンデモ兵器が地球を射程におさめていることが艦隊に知れ渡り、放置すれば人類が滅亡するからだ。そしてその中の一角、特に艦隊の外縁部より少し離れた位置にキメラ隊とジブリール派の艦隊は存在した。

 

 

彼らはプラント自体の殲滅を図るアズラエル派とは異なり、軍事施設であるヤキン・ドゥーエそのものか例の兵器の破壊を目指すために艦隊を抜け出るのに都合のよい位置に艦隊を配置したのだ。目標が要塞の裏側にある以上向かう方法は二つ。要塞を撃破する必要があるが短距離で迎える正面突破と時間はかかるが敵が正面突破に比べ比較的に少ないだろう迂回していく方法だ。

 

 

そしてキメラ隊とジブリール派の艦隊は迂回していくことを決めた。何故ならボアズ要塞が核に焼かれた以上、プラントも核に焼かれる可能性が高いのにもかかわらず、昨日の戦闘ではエース部隊が要塞正面に多数いたのだ。ベテランが揃うキメラ隊ですら2割の被害が生じた以上迂回していくほうが得策だと判断されたのだ。

 

 

作戦は単純明快だ。艦隊から少し離れた位置から要塞側面に侵攻し、砲撃戦を行い敵艦を釘付けにしたうえでMS隊やMA隊を出す。そしてトンデモ兵器に迫り、あるであろう整備用の通路などから内部に侵入し核攻撃をするというものであった。あるいは換装が必要な発射のための部品を狙って攻撃し、ガンマ線を発射するために穴が開いているように存在する空間めがけて核攻撃をするというものである。前者は内部に護衛部隊がいる可能性が高く、後者は部隊そのものが非常に危険だ。

 

 

だがそれでも行う必要がある。第二陣もじきに到着する以上、ドミニオン率いる核攻撃隊が厄介者をひきつけている間に行う必要がある。そうして戦端は再び開かれる。

 

 

 

「GAT-01A1 パーフェクトダガー発進スタンバイ」

 

 

オペレーターから指示が格納庫に響き渡る。砲撃戦を控えているキメラ隊とジブリール派による混成艦隊が動こうとしているのだ。艦砲射撃後に機動力に勝る機体よる敵艦の封殺、しかる後に援護・突撃仕様のストライクダガーが敵機の掃討。そして重装甲のデュエルダガーやロングダガー、バスターダガーに守られた核攻撃隊が突撃する。

 

 

「ついに始まりますな、中尉殿」

 

 

そう言ったのはパーフェクトダガーの整備員。世界樹跡地基地でも整備を行っていた腕利きの整備員だ。マクレガーの乗るパーフェクトダガーは砲撃戦で弱らせているとはいえ、直前まで砲撃戦を行っていた中を突撃するため危険なのだ。それを気遣っての言葉だろう。

 

 

「ああ、だが誰かがやらなきゃならない。それがたまたま俺だっただけさ」

「中尉は怖くはないのですか?これはキメラ隊が参加してきた中でも飛び切り危険な任務ですよ。それも実証試験が一度しかない機体でなんて……」

 

 

そう。パーフェクトダガーは実戦での試験はもとより試験自体が一度しかない。原型機がオーブ解放作戦で目撃されたストライクということもあるがすべてのストライカーパックを搭載するのはあまりに高級すぎてなかなか手が出せなかったためだ。

 

 

「怖くないと言えば嘘になるな。だが、所詮俺たちは消耗品さ。一体どれだけの死体がこの戦争で積み重なったのかね。今だってどんどん増えている。そこに俺たちが入っても詮無きことだ」

「中尉……」

「戦場ではビビった奴が負けだ。そして俺はビビらない。俺たちキメラ隊という消耗品は戦場での人殺しもあるが試作機で死ぬことだってあるんだ。その覚悟がなけりゃ、この部隊では終わりだよ。お前もビビったら終わりってことを思って身を引き締めておけよ」

 

 

そういってマクレガーはコクピットを閉める。既にこの戦争は最悪な事態にまで陥っている。自分が死ぬことよりも敵が死ぬことだけを考えて、同様に僚機に身を預けた同胞に通信を入れる。

 

 

 

「全員聞け。我々キメラ隊は友軍混成艦隊の砲撃戦後、作戦を開始する。俺たちの出る宙域は昨日の要塞付近の宙域よりも少し離れた宙域だ。だがボアズに核攻撃があったというのに要塞周辺をエースや試作機などで固めていたのはみんな知っているだろう。恐らくアチラもあの兵器を破壊しに動く部隊がいると予測はしているはずだ…。そして俺たちには昨日の作戦通り突撃、護衛、攪乱の各部隊に核攻撃隊が加わる」

 

 

キメラ隊初期メンバーのマクレガーの言葉に隊員は静かに耳を傾ける。部隊に入ったばかりの者たちも地球連合軍の中でもベテランパイロットの中に入るマクレガーの言葉を静かに受け止めた。後戻りができない戦い。あの兵器が地球に矛先を向けたら終わりなのだ。連合軍しか知らない核攻撃隊を保有する部隊故に緊張も高まっている。

 

 

「お前たちは核攻撃隊の盾となれ。俺は艦砲射撃後の突撃部隊に加わり敵艦隊にできた穴が塞がれないように敵を潰す。エネルギーがなくなったら自爆してでも敵を葬るつもりだ。そして、俺には個別に任務がある。それは出てくるであろう敵エースの排除だ。お前たちはできる限り他の雑魚を潰してまわれ。エースを退けて核攻撃をなんとしても成功させる必要がある」

 

 

この作戦はドミニオンの核攻撃隊がいるからこそ成り立つ。成功率もドミニオンなどの存在で大きく変化する。そしてもし一つでも途中で核攻撃が失敗するようであれば敵の注目を浴び、成功率は大幅に下がるだろう。

 

 

「いくぞ、消耗品の同胞達。生きていたらどうせ試作機の確認とかしかないだろうが生きて新たな機体を拝もうじゃないか。所詮俺たちは死ねば補充要員が加わるだけの消耗品だが、俺は写真の前に酒を置く趣味はない。だから、終わったら共に乾杯をしよう!!」

「「「「「了解!!!」」」」」

 

 

 

「GAT-01A1 パーフェクトダガー、カタパルトへ」

 

 

既に砲撃戦は開始されていた。ローエングリンなどの特装砲を装備した艦を多数保有し、艦隊戦でいけばビームやレールガン、ミサイルといった兵器しかないザフト側の艦船は相当につらいはずだ。そんな中で発進の合図が来たということは砲撃戦で敵部隊を多数葬ったということだ。

 

 

 

「アラン・マクレガー中尉だ。パーフェクトダガー、行くぞっ!!」

 

 

言葉と共にカタパルトに乗ったパーフェクトダガーは急加速し、戦場に向けて射出された。同様に10機近い105ダガーやダガーLのエール装備のMS隊とコスモグラスパーのみのMA隊。全てが機動力の高い突撃部隊だ。

 

 

目指すは敵艦隊。そしてその先への道を切り開くべく突撃隊という名の決死隊はカタパルトによる加速を活かして突き進んでいった。

 




今月はいろいろと忙しいので更新は遅めになるかと思います。ある程度分量たまったら投稿という形で行ってますがストックがほぼ切れかけです。新たにDESTINYの外伝本買ったりしてるのでこれからは少し遅いかも…。ともかく感想・批評よろしくお願いします。

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