機動戦士ガンダムSEED 技術試験隊の受難<一時凍結>   作:アゼル

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今回戦闘はありません。オリジナル機とオリジナル艦船、キメラ隊にまつわる話です。


新型機開発録

世界樹跡地基地は慌ただしかった。先日9月23日に行われたボアズ攻略戦は大勝利に終わった。今日は1日が経過し追撃戦で鹵獲したザフトの艦などを連合軍各基地に割り振り係留したのだ。最も、追撃戦に参加したのは実質大西洋連邦の支配下にあるキメラ隊のため大西洋連邦関係の基地に係留されるのがほとんどだ。

 

 

一応は東アジアやユーラシアなどからも人員が入ってはいるのだが大西洋連邦が優秀だが癖がきつすぎる人材を送っているのに対して、本当に厄介な連中かなぜこの実力でこの階級になるまで生き延びれたのだろうかという疑問を抱かずにはいられない人員がほとんどのため大西洋連邦の支配下となっているのだ。無論アクタイオンなどのユーラシアの企業の人員もまわっているがやはり問題があるものが多く半ば企業から見捨てられている。

 

そんな各企業の人員が集まるMS工廠にピネラペの艦長グラマンはいた。今回はマイネンフェルトとメートランドの両艦長からの進言を聞き、アクタイオン班が進めている半MSもどきに対して基地に戻るまでの航海中や無能を抹殺して以降MSパイロットや元戦車乗り、陸戦隊たちから話を聞き情報化したものを私に来たのだ。そのため元戦車乗りや陸戦隊も同行している。

 

 

MSパイロットは今日だけ休憩をとり2日後のヤキン・ドゥーエ侵攻戦まで船内で待機をするためここで油を売る理由もない。生き残るためにも休息は必要なのだ。

 

 

 

 

MS工廠は相変わらず忙しかった。先の戦闘で鹵獲した新型機ゲイツもMSハンガーに固定され解析が急がれている。さらに前回の戦闘で著しい戦果を挙げたブリッツ重装型は次の戦闘でも活躍するように残る2機も同様の仕様が施されていた。グラマンと意見を出すべく選抜された陸戦隊員たちはアクタイオン班を前もって一か所に集め意見書を提出した。

 

 

「今回君たちに集まってもらったのはほかでもない。以前君たちが開発したダガータンクに関連した話だ」

 

 

そう言うと技術者の一人が声をあげる。

 

 

「ダガータンクは不採用となったはずではないのですか?それに今の忙しい時期に続けるべき話ではないかと思いますが…」

「それは私もわかっている。だからこそ君たちにチャンスが与えられたのだよ。オーブ班の機体は開発自体にGOサインが出たのは知っての通りだが、君たちの機体も改良次第ではGOサインが出ることになりそうだ」

「本当ですか!?」

 

 

アクタイオン班は歓喜の声を上げる。無理もないだろう。せっかく出した機体が一切の賛成の言葉もなく不採用されてしまったのに今度は賛同の言葉がでたのだ。だが、それにも条件はある。

 

 

「本当だ。戦後を見据えた目聡い一派の処置だそうだがMAに需要が出てこようとしているらしい。そこで君たちには戦車形態のとれるMAを作ってほしい。そのために陸戦隊や元戦車乗りを連れてきた。そして今回の戦闘までにパイロットたちなどからとった要望だ。よく目を通しておいてくれ」

 

 

その要望は現状のダガータンクをかなり一変させる物なのは間違いはない。なぜならばその要望はかなりこっているからだ。大体の要望は以下の通りだった。

 

 

・機体は戦車形態が好ましい。半ばMSの上半身を使ってビームも放てるならうつ伏せ状態にしてほしい。

・車高はできる限り低めが望ましい。バクゥに接近されたら終わりだ。

・MSの上半身を起き上がるようにして傾斜角を付ければよいと思う。

・ストライカーパック換装機能を使える機体にしてほしい。

・アンカーは敵機への接近戦対策だけでなく崖などに射出して機体を傾けられるよう頑丈にしていただきたい。

・陸戦隊を輸送するためのカーゴを望む。

・ストライクダガーを含んだダガー系統の再利用が可能な機体を望む。

・実弾兵器だけでなくビーム兵器の使用も可能にすること。

・乗員は最低でも一人で移動は可能な状態に仕上げること。

・指揮車両とそれ以外の車両なども所望する。

・センサー機能を高めてほしい。

・射程をのばすように。

 

 

あらかたの要望は書かれていた。そしてそれをじっくり見つめる技術者。おそらく開発はヤキン・ドゥーエに侵攻した後だろうが、陸戦隊員や戦車乗りとさっそく白熱した議論が巻き起ころうとしている。グラマンは用件は済んだため、これでいくとするよと言って出ていった。

 

 

 

 

 

パイロットの休憩室では自室でおとなしくするか寝ることをしなかった連中がたむろしていた。

 

休息を取る一人、アラン・マクレガーは他の部隊員とともにポーカーをしつつ話をしていた。

 

「フルハウスだ」

「だあ~、もう、また隊長の勝ちですか。何かトリックでもあるんですかね」

「あったとしても気が付かないお前達が悪い」

 

 

 

そう言い切った。別にズルをしているわけでないが勝負は常に非情なのだ。

 

 

「どうせ見えないところで何かやってはいるんでしょうが、もう別にいいですよ」

 

 

ヤレヤレといった具合でポーカーの参加者が嘆く。そして話題は『みえない』というキーワードにからんできた。

 

 

「そういえば、中尉は昨日の戦いでブリッツ重装型が活躍したのは知ってますか?」

「ん?そうだな、話は聞いているよ。私のいた方面は混戦状態だったから追撃部隊のみに参加していたらしいな。今もそこで残りの2機とともに改造中だろう」

 

 

休憩室はMS工廠の近くの部屋と離れた実験場の近くの部屋、そしてその他3か所と合計5か所作られている。今いる工廠近くの休憩室は窓から内部を見渡せるつくりだ。強化ガラス越しにみえる機体群にはブリッツが3機固定され装備が追加されていく。

 

「追撃部隊では大戦果だったらしいんですが、あれはまだ不完全な状態だったらしいですよ。本当はもっと重武装で出撃するはずだったそうです。ジンの重斬刀も臨時的な物らしいですから今はアーマーシュナイダーになっているでしょう。本当はステルス重爆撃機のMS版を目指してたそうです」

「ふ~む、なるほど。確かに重武装だな。誘爆したら危ないが」

 

 

窓越しに見えるブリッツは所々追加武装がなされていく。昨日の戦闘に参加しなかった2機はあらかじめ装備していたのかほぼ完了しているように見える。左腕に機能出撃したブリッツと同様の対艦用大型ミサイルランチャーが装備され両足にはバスターダガーの220mm径3連装ミサイルポッドが、さらに背部スラスター脇に大型多目的ミサイルランチャーとバズーカが装着されている。念のためなのか腰に重斬刀の代わりにアーマーシュナイダーが装備されているが完全に爆撃仕様のようだ。あまりに重武装過ぎて流れ弾が怖い仕様だが。

 

 

 

「いくらなんでもあれは危なすぎるだろう。一応話は下でメカニックに聞いてたがPS装甲をカットした状態で突っ切るんだから背面の多目的ミサイルランチャーは邪魔だな。計画段階で終わったガンナーブリッツのことを考えてないのか?」

 

 

以前メカニックから聞いたブリッツの派生機を思い出し苦言を呈してしまった。だが、ガンナーブリッツを知らないパイロットからブリッツ重装型のミサイルランチャーに関する返事と共にデーター上で消えた機体に関する追及が始まってしまう。

 

 

「あの背面のミサイルランチャーは敵の密集するところに投下して、周囲にミサイルをばらまく仕様だそうです。だからいざとなったら置き土産的な役割をするための装備のようですが中尉、なんですか?ガンナーブリッツという機体は。聞いたことはありませんが」

 

 

それもそのはずだ。ガンナーブリッツはシミュレーターを使ったデータ分析で問題点が洗い出されてしまったために実弾兵器主体の重装型に仕様変更された経緯を持ついわば重装型の原型機だ。実機製作にこぎつけなかった機体故にあまり知られてもいない。

 

 

「ガンナーブリッツはブリッツの中距離支援能力向上型の機体だ。センサーポッドとか装備された狙撃戦対応機だな。装備の問題で採用に至らなかった機体だよ。今回の戦闘でもC分隊が連結機能をオミットして作られた超高インパルス長射程狙撃ライフルを使っていたが、あれはその機体のために設計された武装なのだよ」

「あの武装はなかなかのものだったという報告は出ていますよ?ストライクダガーみたいな簡易量産気も火力上昇に使える武装だと好評のようですが…」

 

 

 

確かにその面では正しいがブリッツの仕様面を考えてない答えにため息を吐きつつ教えてやる。

 

 

 

「ブリッツは電撃戦仕様の機体だぞ。それにエネルギー消耗を減らすためにPS装甲を切ってコロイドを展開するんだぞ。あんなライフル撃ったらエネルギーがなくなってすぐに戦えなくなるしでかすぎで使い悪すぎるんだ。それに何よりもっとやばい問題がある」

「と、いうと?」

「熱量だ」

 

 

そう、最大の問題は熱量だ。スラスターの噴射で熱紋や電磁波の秘匿が不可能になるという問題点を抱えている機体が高威力の砲撃をしたらどうなるか。答えは簡単だ。即座には冷却できないのだから熱量が原因でばれる。姿が見えなくともそれが原因でばれてしまえば元も子もないのだ。

 

 

「なるほど、そういうことですかい。で、実弾兵器主体の機体ができたってことですか」

「そういうことだ。私はもう行くよ。この酒はもらっていくからな」

 

 

そういい、ポーカーをしていた机に置かれた酒のボトルを持っていく。見えないところでやることは良いことだ。ポーカーも瓶に反射した相手の札を見ながらやっていた。改めてばれなかいようにすることの大切さをマクレガーは噛みしめた。

 

 

 

 

基地内のMSは急ぎ改装が施されている。ストライクの量産機である105ダガーは全機がエール装備に換装され、105ダガーの簡易量産機であるストライクダガーにはフォルテストラが装備され火力、防御力ともに増加している。その他にもボアズ戦で戦った機体のメンテナンスなども行われている。

 

 

これらを急ピッチで行っているのはひとえにキメラ隊が前線に出るのがほぼ確実であるからだ。ボアズでもそうだったが危険な場所に追いやられるのは目に見えている。今回は核があるので巨大砂時計のある右翼方面にいるのはブルーコスモスの一派になるだろう。そして中心の旗艦は連合主力艦隊なのでキメラ隊はまず参加できない。ということは残るは左翼方面、つまりヤキン・ドゥーエ方面にキメラ隊は派遣され、最前線で動くこととなるだろう。

 

 

そのため艦隊直衛機にフォルテストラを装備したダガーにより艦を援護しつつ、デュエルダガーや105ダガーなどの主力機によってヤキンへ突撃する算段なのだ。護衛のためのストライクダガーは従来フォルテストラを装備するデュエルダガーなどとは違い増加装甲の他はリニアキャノンのみを装備し従来の機体よりも身軽な機体に仕上げられ、整備性も高められていた。

 

 

ストライクダガー援護・突撃仕様とされたこれらの機体は艦砲射撃とともに砲撃を行い接近を許さないようにすることを念頭に置かれている。さらに追撃戦でも使用された超高インパルス長射程狙撃ライフルも装備される予定で遠距離攻撃に主眼を置かれている。

 

 

 

次のヤキン・ドゥーエに攻め込むときは第一陣としてボアズ周辺で戦闘を行っていた部隊ならびに基地で改装のため待機していた部隊などが参加する。追撃部隊は一日の休憩後に少し時間をおいて増援部隊として派遣される予定だ。ただいくら月基地と近いとはいえ全く同じように進むわけではなく、月基地への通信の中継基点としても機能するためにまず攻め込む部隊を第一陣とすればこの部隊は第二陣、そして月基地から送られる部隊が第三陣という流れのようだ。

 

 

結局のところキメラ隊が行うのはヤキン・ドゥーエの対空砲を沈黙させることと、敵本拠地のために出現するであろう新型機か試作機の鹵獲なのだ。そしてボアズへの核攻撃は工場を不法占拠する不良労働者に警戒をさせた。そのため彼等が足をつける砂時計の周辺は護衛部隊が多数配備されるであろうことは予想に難しくない。元よりユニウスセブンもそれを怠った結果でもあるというのが表向きだ。そのため盛大にヤキン・ドゥーエ周辺で暴れることで部隊を分裂させるよう活動するつもりだ。

 

 

連合軍とは違い民兵の集まりにすぎず、投降したものも皆殺しにする野蛮な不良労働者への鉄槌を下す気でいるブルーコスモスよりは冷静だが、最前線というのは緊張させるものだ。

 

 

 

 

 

その緊張は基地の守備のために残らざるをえない司令室も同様に張りつめていた。司令室は基地内の艦への補給に関する事柄やヤキン・ドゥーエへ侵攻する部隊に関し編成を行っている最中である。

 

 

だが、そんな司令室において本来なら仕事をすべき年老いた司令は副官に司令部での活動を任せ、基地内の高級士官用のバーで相手を待っていた。カウンター横の高級ソファーに腰かけているとドアをノックする音が聞こえ、案内役の男の声が聞こえてくる。

 

 

「司令、ヴィルマン提督がお着きになられました」

 

 

腰かけていたソファーから離れ振り向き、やってきたスーツ姿の男に目線を寄せる。

 

 

「昨日はご苦労だったな、ヴィルマン提督。こうして直接話をするのはピネラペが港に着いた時に概要を話した時以来かね」

「ええ、キメラ隊が試作機実証部隊として正式に稼働した時以来ですな」

「あれ以来は全くこうして会う機会もなかったからの。本当は今も会う暇はないに等しいのだが、持つべきは良い部下ということだ」

 

 

今頃司令室で自分の分も働く副官のことを思う。大変だろうと思うが今は今後のことも考え納得して代行してくれているのだから甘えるべきか。バーの椅子にヴィルマンと隣り合わせで座り、酒を水割りで頼む。ヴィルマンはロックでの注文だ。

 

 

「それでどのような用向きなのでしょうか。我々にはあまりにも時間がないはずなのですが」

「敬語は使わんで良い。これはキメラ隊に関わることなのでな。初期メンバーの一人である君の意見が欲しい。これを君に見ていただきたい」

 

 

言ってタブレット端末を渡す。

 

 

 

 

「キメラ隊と周辺護衛基地部隊の特殊情報部への異動か…。最近では特別に核ミサイルとダガーLという最新鋭機を10機近く送ってもらったがその程度で周辺部隊ごと異動とはいささか腑に落ちんな」

「そうなのだよ。核ミサイルとダガーL程度でバックの一つである特殊情報部に異動というのは腑に落ちん。その他にソキウスを数名派遣してもらっているが仮にも人をこういうのはなんだが廃棄予定のものを有効利用しているともいえるからもらった、という言い方があっているのかもわからないがな。確かにあそこの指揮官は奇妙な点があったし、どうやってプラント制圧用の機体を我々に送ったのかもわからないというのに、その程度で部隊自体を特殊情報部付けにするというのはいささかの…」

 

 

司令が提督に出した議題はヤキン・ドゥーエ侵攻後の世界樹跡地基地の処遇だ。世界樹跡地基地は試作機のオンパレードだが発言権はないに等しく試作兵器補充という名目で試作兵器などが送り込まれたら、それを改良して再び月基地などに実証データとともに試作兵器を戻すということを繰り返してきた。だが、ここに来て月基地にのみ配備されている新型機であるダガーLというストライカーパックに対応した機体がいきなり届けられ、そのうえ部隊のバックであった部署の一つ特殊情報部への編入が通達されたのだ。

 

 

しかも奇妙なことにキメラ隊と周辺基地の部隊に所属する兵全員が一階級昇格という通達も込みで。戦死時の二階級特進であれば表向き死んでくれ、というメッセージだと理解できるが何とも奇妙な通達であった。

 

 

「詳しくは私もわからないが、我々を表の部隊にするという話も出ているようだ」

「表というと特殊情報部のか?」

 

 

その問いに司令はは首を横に振り、

 

 

「いや、我々が表になるのは特殊情報部の上層部を押さえている集団の表向きの顔になれという話だ。どのような形で戦争が終わるかはわからないがユーラシアがアラスカの一件などで国力が低下しているうちに、我々を地球軍という集団から切り離し、民間軍事企業として飼うという話だ。きな臭い話だとは思わんかね?」

「それはまた、突拍子のない話だ。だが、何故この時期に。この通知はいったいいつ来たのだ?」

「昨日、君たちが闘っている間にだ。周辺基地と通信がリンクした状態で通達されたから驚いたがね」

 

 

 

その時再びドアがノックされる。ドア越しに聞こえるのは先ほど提督を案内した男の声だ。

 

 

「司令、最後のお客様がご到着なされました」

「うむ、入れ」

 

 

入ってきたのはMS工廠整備班長のゴッサムであった。普段の整備服でなく高級そうなスーツを着ている。

 

 

「なかなかに高級な場所ですな、ここは。私にはあまり縁がないのでスーツをレンタルしてしまいましたよ。レンタル料は経費で頼みますよ、司令」

 

 

ゴッサムは開口一番にそう言ってヴィルマンの反対側の席に司令を挟むようにして座った。整備班のゴッサムの来訪。それに驚いたヴィルマンが質問を投げかける。

 

 

「失礼。なぜ彼が?失礼な物言いになるが初期メンバーでも整備班の彼が重要な会話に入るというのは予想外であるのだが?」

「ふっ、これからいう話に関連するのでな。彼は君と同様にキメラ隊の根幹に関わる秘密の窓口の一人だからな。窓口自身も誰が互いに窓口同士かわからないという話は事実ということか……。彼は物資と人員に関する事柄を請け負っているよ。替えは他にもいるが一番の経験者だ」

「この立場では初めましてですな、提督。ピネラペの試験以来のようで」

「あの時の整備班長は君だったのか。改めてよろしく頼む。私は艦船の窓口だ」

 

二人が挨拶を終えたのを見計らって司令は本題に入る。

 

 

「君たちは最近疑問に思うことはないかね?最近やけに我々に最新の試作機が送られていることなどをの。試作用のブリッツ全機にソードカラミティ、レイダー制式使用機にパーフェクトダガーにフォルテストラが多数流れ込んでいる。それに人員もすさまじい勢いで増えておるし、最早大隊定数を超えておる。特別編成大隊とはよく言ったものだ。しかも人員の質は問題児ではなく癖はあるが一級品揃いだ」

「確かに一級品が来ていますね。フォルテストラも多数来たのでストライクダガーにすら装備できていますし、艦で運用しきれない数のMSやMAが来てますな」

「それは艦船にも言えることだ。聞いた話では造船区画で動きがあるそうだが……」

 

 

 

そうじゃよ、という言葉が紡がれる。

 

 

「新型巡洋艦製造のオファーが技術部に来ているらしい。ナスカ級やローラシア級の情報は鹵獲艦がたくさんあるからわかるが1番艦が脱走したはずのエターナル級という核動力機専用MS母艦の設計図までいつの間にかあったらしい。これは確実に特殊情報部が何らかの思惑で我々に接してきていると考えるべきじゃろうな」

「エターナル級…、L4のコロニー・メンデルで確認された度きついピンク色の船のことか。サイズはでかいが戦闘力は駆逐艦か軽巡洋艦くらいの奴だな。しかし何故戦闘記録程度しかないはずの艦の設計図が?」

「それはわしもわからん。が、特殊情報部が得体のしれない集団だということは確実じゃな。マティスというトップには注意が必要じゃな。そしてゴッサム、君に確認したいことと頼みたいことがあってな」

 

 

ゴッサムを呼んだわけが出ようとしている。ゴッサムも普段とは違いきちっとした行動をとっている。

 

 

「確認とは?それはここに来ていないパイロット窓口担当に関係しているのではないのですかな?」

 

 

鋭い眼光が司令を貫く。それを司令はひょうひょうとした態度でやり過ごし、回答を出して見せる。

 

 

「ほう、お主はパイロットの窓口担当を知っておったか。確認しなくて済むというものだそれでよく生きているものだな。奴はことわざを知らぬようでな、好奇心は猫を殺すという言葉が東アジアにも大西洋連邦にもあるはずなのだがな。奴は単独で特殊情報部を、特にマティス関連を調べておったらしい。そして行方が知れなくなった。それだけだ」

「消された、ということか?」

 

 

ヴィルマンの言葉に首を縦に振ることで肯定し、

 

 

「ゴッサム君、君には新しいパイロット窓口を選んでほしい。初期メンバーは窓口になるということは任官直後にある程度の階級のものならば知っているはずだが、君には彼のようにならないよう信頼を置ける人材を見つけてほしい。艦船を担当しているヴィルマン君よりもパイロットに接するきみだからできる仕事だ」

 

 

 

得体のしれない特殊情報部。そしてその部隊を率いるマティス。いままでも様々な貢献を果たしてくれていたが最近は怪しさ抜群と言えよう。だが、そのおかげで部隊は潤沢な装備品で溢れストライクダガーにすらフォルテストラを装備することが可能となっている。その点は感謝してもいいのかもしれない。もしかしたらこの感謝も特殊情報部の狙いのうちかもしれないのだが。

 

 

そしてそんな怪しさに惹かれてパイロットの窓口担当は消された。もしかしたら特殊情報部の手足になるための登竜門だったのかもしれない。そうゴッサムは酒に手を付けつつこれまで会ってきたパイロットを考え、結論に至った。

 

 

「マクレガー、アラン・マクレガー中尉はどうだろうか?彼は初期メンバーのはずだ。他の戦闘狂や拷問狂いなどとは違い、まともな人材だったと記憶している」

「マクレガー中尉…。ピネラペの試験時にブリッツのテストパイロットだった男だな。ボアズ周辺の鹵獲機は彼の活躍だったな。確かコーディネーター並みにMSを操縦できるはずだ」

「ふむ、ヴィルマン君の言う通りならば逆に危なくはないかね?下手に目立てば情報が抜ける可能性もある。それにもしも人選ミスを行えば君もただでは済まないはずだ。そこも考えているんだね?」

 

 

消えた窓口担当を知っていたという点だけでも怪しいが替えが効かないからこそ首の皮一枚で生き残れているのだろうゴッサムはもう二度と失敗できないはずだ。これでしくじれば命はない。

 

 

「そこは信頼していただきたい。彼は私が保証しますよ。何よりピネラペに配属された上にブリッツに乗っている時点で秘密厳守をできる証拠でしょう」

「ふむ、では新たな窓口は彼にするとしようかね。次の戦いを生き残ればの話だがね。彼は何に乗って参加するんだね?」

 

 

手元の端末によるとマクレガーの乗機はデュエルダガーと105ダガー、そしてブリッツ。ブリッツは重装型に換装され出撃することが決まっているので相当の操縦技術が必要なはずだ。昨日の戦いでもソキウスが選ばれた理由の一端がこれだ。昨日ブリッツ重装型に乗ったエイト・ソキウス以外のソキウスを乗せるという案もあるがどうなるかは今のところ未定のはずだ。

「恐らく105ダガーで出撃するでしょうな、彼は。鹵獲した機体がいずれ自分の乗る機体の原型になることが好きのようですからね」

「ほう、所詮我々は居残り組だが。確信を得ているような発言じゃな。ではブリッツに乗ると予測しよう」

「私はあまりそう言ったことを予測するのは好きでないがデュエルダガーに一票としよう」

 

 

三人はマクレガーの乗る機体を関し予測すると、それぞれ部屋を出て行った。彼らを含めたキメラ隊初期メンバーの上層部はキメラ隊が結成された際のとある思想を知る者たち。その思想は決して口外するわけにはいかないため、その思想を守ることを課された人員が存在するのだ。

そして今、彼らキメラ隊上層部に初期メンバーの一人であるアラン・マクレガー中尉が参加することは確定事項になった瞬間であった……。

 




感想・批評よろしくお願いします。感想あると本当にやる気が出ますね!すぐに書く気になりました!

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