機動戦士ガンダムSEED 技術試験隊の受難<一時凍結>   作:アゼル

5 / 18
アズラエルの口調は小説版ですとところどころカタカナが使用されますが、私の作品では使用しません。非常にやりにくいですし、手元どころか近所の古本屋に小説版が置いてないため安く手に入らないので。


ボアズ攻略戦

L5に存在する宇宙要塞ボアズ。地球軍がビクトリアを奪還し、地球内に残存するザフトの基地などを地球内だけでなく宇宙をも利用した作戦で襲撃する戦闘が行われるようになってから、緊張の度合いは高まっていた。なにより緊張の度合いとともに増える哨戒部隊の謎の失踪事件。オペレーション・スピットブレイク以降、悪化する情勢から脱走兵が出現したのであれば、それも一大事ではあるが仮に連合軍の仕業であれば重大事だ。

 

 

つい最近も哨戒に出たジンが行方をくらました。

 

そのようにザフトの緊張が高まる一方で地球軍はエルビス作戦を発動した。これはプラント本国攻撃を最終目標とした作戦だ。そのため各方面から戦力が集められ、ビーム兵器を主武装とする無数のMSや戦艦がまずはボアズを、そしてプラント本国を襲撃するだろう。

 

 

無論、集結する戦力の中にはL1に存在する世界樹跡地基地のキメラ隊もその中に入っていた。地球から打ち上げられる多数の物資には新型機も含まれ、短期間ではあるがベテランとなりつつあるパイロットやコーディネータが多くおり、戦力の高いキメラ隊は新型機への機種転換と慣熟訓練をこなしつつボアズ攻略の命令を待っていた。

 

 

 

地球連合軍中尉、アラン・マクレガーはMS工廠にいた。彼は本来の愛機の最終調整のためにその場に来ていた。目の前にある機体は105ダガー。オーブ解放作戦でともに闘った彼の愛機だ。今、105ダガーは従来の装備でないとある装備が施されている。それは彼が部下とともにオーブで見かけたストライクの武装そのものだ。復元したライトニングストライカーを除く3つすべてのストライカーを載せた状態の105ダガーは工廠内の技術陣によりOSの細かい部分の設定変更などがなされている。

 

 

そしてそんな彼のもとに愛機のコクピットでOSなどをいじっていた女性が出てきて無重力のために勢いよく足をけり、近寄る。

 

 

「中尉、OSの書き換え完了しましたぁ。あとは中尉が自分用に設定を加えるだけですぅ」

 

 

ユン・セファン。オーブで生き残ったモルゲンレーテ社の技術者だ。あの解放作戦で彼女とともに同基地内に来たコンピューター内にあった全載せストライクもとい仮称パーフェクトストライクのデータを利用し105ダガーに同様の装備を施したのは彼女だ。マクレガーはそんな彼女によくやった、という言葉を発し質問する。

 

 

「この機体、パーフェクトダガーだがエネルギーの持ち具合はどれくらいだ?ボアズを攻めるとなると相当消費するのであれば、一時帰艦もせねばならないからな」

「そうですねぇ、ストライクはPS装甲で余計にエネルギーがとられていましたのでアグニを乱用しなければそれほど気にしなくてもいいはずです~。105ダガーはコクピット周りがラミネート装甲なので戦艦はともかくゲイツという新型機と推進剤に気を配っていただければ十分だと思いますよぉ」

 

 

ゲイツとは以前の基地周辺で戦闘を引き起こした部隊が鹵獲に成功していたザフトの新型機だ。その性能はストライクダガーをも上回る。所詮は数に押し切られる運命だろうが、キメラ隊が送り込まれる場所は激戦区と相場が決まっている。用心に越したことはない。

 

 

「そうか、了解した」

「はぃ~。それでは私は別の機体の調整に移りますね!」

 

言って彼女は再び床を蹴り新たな機体へ向かう。そこにいるのは主に青に塗装されところどころが黄色や橙色になっている機体。GAT-X133-01 ソードカラミティ初号機。運用データ収集後、デトロイトの国防連合企業体工場に保管されていたが、接近戦を強く望み戦果を挙げるコルテスに対し渡された機体だ。さらにその隣には水色の可変機が。GAT-333 レイダー制式仕様機。オーブで出撃したGAT-X370 レイダー先行試作機を制式運用した機体だ。本来であれば破砕球が取り除かれ、頭部のビーム兵器も取り除かれ実弾を主武器とする機体だが従来保持している馬鹿げた口径の機関砲と複合武装を残したうえで、部隊独自の改修がなされている。

 

具体的には左腕にブリッツの有線式ロケットアンカー、グレイプニールが装備されており、実弾兵器以外での戦闘も想定されているのか、従来のグレイプニールのクロー部分にビーム刃を取り付けられようとしている。右腕の複合武装も試作機の予備パーツを得ていたのか、あるいは独自に作成したのか装備がなされ、一撃離脱用の機体になりつつある。

 

 

ちなみに改造を施そうとしているのは【ダガータンク】を酷評されたアクタイオンチームだ。すこしでも部隊内で有用性をアピールしようと頑張っているようだ。今回の作戦はいろいろと大変であり、ほかの部隊よりも参戦者が異なる。

 

 

港に停泊している黒く染められたナスカ級とローラシア級は地球にニュートロンジャマーが落とされたときに地球にいたコーディネーターたちによる部隊だ。そんな彼らはロングダガーといった連合軍内のコーディネーター用MSに乗り参戦する。彼らは地球にいた自分たちを無視し、家族や肉親を殺しプラント内にいるコーディネーターしか考えないザフトに怒りを覚えて参加するのだ。ナチュラル用MSの出現により各戦線で疎まれるようになったため、もともとナチュラルでありながら友軍に疎まれるこの基地に送られ復讐の牙をむこうとしている。

 

 

なにより、この基地の部隊は基本的に敵機や敵艦の鹵獲を優先する傾向がある。その過程で鹵獲した戦艦などを活用するのにもコーディネーターにやらせたほうがよいため、各戦線から厄介払いできた彼らは非常に重宝されている。だが疎まれるがゆえに彼らもともに最前線で戦う。厳しい戦いになるのは必至だろう。

 

 

 

ちなみにザフト製MSは使用されない。なぜなら混戦になる可能性が高いので友軍に撃墜される危険性があるからだ。一部のパイロットは機体が足りなかったため部隊色のハンターグリーンに染められ、シールドや肩に連合のマークが付けられたアストレイに乗ることが決まっている。もしもこの戦いにアークエンジェル二番艦ドミニオンがL4のメンデルで交戦した脱走艦アークエンジェルとともにいるオーブ軍と戦えばさぞ痛快であろう。

 

 

そうしてマクレガーなどのパイロット達は戦闘準備に勤しみ、司令部などは作戦などについて月基地からの指示を確認し、ボアズ攻略戦を待った。

 

 

 

 

 

C.E.71年9月23日、地球軍のザフトの軍事要塞ボアズへの侵攻が開始された。

 

 

地球軍が差し向けた艦隊は第6、第7機動艦隊。多数のMAメビウスやビーム兵器を標準装備するストライクダガーが殺到した。それに対し、ザフトは実弾兵器を標準装備とするジンやシグー、そしてビーム兵器を初めて標準装備とするゲイツと多数の艦船が迎え撃った。

 

 

キメラ隊はというと当初の予測とは外れて激戦区にはいなかった。というよりも、核攻撃隊とアークエンジェル級二番艦ドミニオンがいる宙域とは反対方向の宙域から進軍を開始したところであった。これはコーディネーター排斥思想によるものと厄介者を集めた部隊にあまり活躍してほしくないという意思の表れだ。そのため、キメラ隊が行う行動は陽動だ。

 

 

ベテランパイロットとTP装甲の機体のいる部隊ゆえにその攻撃力は他部隊と比べるのもおこがましいほどのものがある。何よりMAもメビウスではなくコスモグラスパーであり、その機動力はMSに匹敵している。そのため核攻撃部隊のピースメーカー隊とともに活動すれば核攻撃はやりやすくなるであろうが、あまり同部隊に功績を残させたくないために、反対方向から進軍させ敵の目をひきつけるという作戦だ。要は露払いなのだが新型機を与えられたこともあり士気は高まっている。

 

 

 

キメラ隊は周辺の小惑星に偽装した部隊とともに進軍し、艦隊を二つに分け一方をボアズに。もう一方をボアズからプラント本国へ行くであろう経路に配備した。ボアズに向けられた艦隊はTP装甲を装備し、敵部隊に打撃を与えることを主軸に置かれ、もう一方の艦隊にはバスターダガーやブリッツなどの機体が敗残兵を狩るために配備されている。

 

 

 

 

「ハッハー!選り取り見取りだぜっ」

 

 

第三次ビクトリア攻防戦で投入された新型機ソードカラミティ初号機を駆るコルテスは新たに与えられた機体を思う存分堪能していた。彼が好むのは接近戦。コーディネーターに対し接近戦を挑むのはなかなかに技量がいるのだが、それを意に介した様子もなく敵を葬っていく。そして彼同様キメラ隊に所属する機体は周辺の敵機を葬る。マクレガーの105ダガーから放たれた高出力ビームがまとめて複数の機体を葬ると、バスターダガーの両脇の砲が放たれ、敵艦を沈める。

 

一部の機動力の高い部隊は敵MS隊の後方にいる戦艦群に突撃する。部隊専用に改修されたレイダーが突撃し戦艦から放たれるビームをかわしつつ接近しグレイプニールで敵艦の船体をつかむと、そこを軸に一回転しつつ弾丸を放っていく。そうして攻撃したレイダーはその場から急速に離脱しさらなる敵を捜し一撃離脱を繰り返していった。そうして傷ついた艦は後方の戦艦からの砲撃やアグニなどを装備したMSの餌食となる爆沈した。

 

 

その中でもとりわけ敵機を葬るコルテスは次第に敵が接近戦を避け遠距離から銃弾やビームを放ってきていることに気が付いた。沸き起こるのは侮蔑。常にナチュラル、ナチュラルとほざいていたコーディネーターが自分を恐れて近寄らない。敵の情けない姿を見て一瞬怒りがこみ上げるが即座に冷静を取り戻し離れる敵機に機体胸部に存在するスキュラとシュベルトゲベールのグリップエンドからビームを放った。

 

 

今まで胸部に砲があるのは外観からもわかるものであったがシュベルトゲベールによる接近戦のみやってきたためか、敵機は砲撃をもろに喰らい爆発していく。運良く生き残った敵機も傷ついた機体で戦地の真っただ中にいるためにすぐに友軍に撃ち落とされていく。

 

そして目の前にいる哀れな羊と化すジンを撃とうとしたとき、相手は逃げ出した。だがコルテスは逃がさない。両肩に装備されたビームブーメランを放ちかえる刃でジンの両足を切り落とすと専用に改造を施したシュベルトゲベールの片方を投げ槍のごとく投げ、ジンを背後から串刺しにする。さらに爆発する前に振るい外れたジンを周辺にいた敵機に蹴り飛ばして再びビームを放ち次々と撃破していく。

 

 

こうして核攻撃隊とは反対方向で進軍を開始したキメラ隊は次々と敵を撃破しながらボアズ要塞にどこよりも早く接近していった。そのため周辺の各戦線や要塞内の戦艦、MSはキメラ隊の方角に向けられ一部の宙域、特に反対の宙域での部隊が従来よりも薄く展開せざるを得なくなってしまった。それが核攻撃のための道を切り開く新型3機を中心とした部隊が迫る宙域であり、しわ寄せが如実に生じるとはザフト側は全く思わなかった……。

 

 

 

「艦長、敵部隊は我々とは反対方面にMSを集めつつあります。第6、第7機動艦隊からも同様の連絡が来ており、こちら側の敵部隊の数は以前よりも多少減少している模様です」

「そうか、MS隊を発進させろ」

 

 

キメラ隊が暴れまわる宙域とは反対方面に黒い船体のアークエンジェル級1隻とアガメムノン級4隻による艦隊がいた。この部隊こそボアズ要塞を攻略する切り札、核攻撃隊を有した部隊だ。

 

 

そんな核攻撃隊をボアズ要塞に届けるための道を切り開くMS隊を有したアークエンジェル級ドミニオン艦長ナタル・バジルールは淡々とMS隊の発進を命じた。ドミニオンに搭載されたMSはそれぞれ何らかの機能を特化したMSだ。そしてストライクダガーといった連合軍初の量産型MSも発進させる。

 

ナタルは戦闘開始前に行われたブリーフィングにて受けた説明で、ボアズ攻略のための切り札を持った自分たちとは反対方面から独立艦隊が突出して敵部隊をたたくという案がうまくいっていることに安堵した。L4での脱走艦アークエンジェルとオーブ残党との戦闘以来、乗艦しているムルタ・アズラエルには内心あまり良い感情を持ってはいないため、最近はあまり良い感情を持てなかったが作戦がうまくいっていることを知り気持ちがすこし和らいだ。だが、そんなささやかな気持ちの和らぎも艦橋に響く男の声によりすぐに消えてなくなる。

 

 

「あぁ、もう何をやっているんですかね、第6艦隊も第7艦隊も。これではあの部隊に功績を与えてしまうじゃないですか」

 

言ったのは戦場には似つかわしくないスーツ姿の金髪の男。国防産業委員会理事、ムルタ・アズラエルだ。彼はひどく面白くない表情をしつつ言う。そんな彼にナタルは言う。

 

 

「我が軍の部隊が奮闘しているのです。今もサブナック少尉達も彼等がいないよりは戦いやすいはずで・・・」

「あ~、はいはい。全く本当にわかってないね、君は。」

 

 

手を払い目線を合わせず言う。

 

 

「いいですか?彼等は存在していては困る存在なんですよ。ただ、有能だから使ってあげている。そして彼等はそれに満足している。まさに互いが納得する状態です。需要と供給がマッチしているんですよ。でも互いが納得している状態で、一方が多大な活躍をしたら?もう片方はどうなるか、それくらいはわかりますよね、艦長さん?」

 

 

人を小馬鹿にしたような態度で言葉を発する。いちいちこの男の発言は気に障る。そう思っていると、オペレーターのフレイ・アルスターが声を発する。

 

 

「ワシントンより入電です」

 

 

正面のスクリーンに男性が映る。後方の4隻のアガメムノン級のうちの1隻ワシントンに乗るサザーランド大佐だ。アラスカでアークエンジェルクルーを迎えたのもこの男だ。

 

 

「忌々しいことですが、あの部隊のおかげで敵部隊が薄くなり道は開けるようですな。これよりピースメーカー隊、発進させます」

「了解。反対側のあの部隊にあまり功績を与えないように早く済ませてよね。青き清浄なる世界のためにね」

「はっ。青き清浄なる世界のために」

 

 

アズラエルとサザーランドのやり取りが終わる。通信が切れると後方の4隻から核攻撃隊が発進した。向かうはボアズ要塞。圧倒的な熱量を発する核でその堅牢な要塞を破壊するために。

 

 

 

ボアズ駐留部隊の前線にいた兵士たちの中には核攻撃隊に気が付く者たちもいた。だが、ボアズに向かうMAを迎撃せんと動いたがすべてが新型機により撃墜されていく。なにより核攻撃隊の反対方面のキメラ隊が与える圧力は相当のものであり、キメラ隊のほうへと回された部隊が増えたためにそのしわ寄せが出たのだ。

 

 

新型機とストライクダガーのような簡易量産機ではない機体に乗るベテランパイロットが密集するザフト部隊から突破口を開き、猛烈な火力にもの言わせ接近しようとする。そのため第6、第7機動艦隊を相手取っていた周辺部隊も集結せざるを得ず、圧倒的数量を誇る連合軍に押され気味になりつつあったのだ。

 

 

 

そして、とどめの一撃が加えられた。要塞の対空砲を新型3機が破壊し、迎撃することができなくなった区画を中心に次々と核ミサイルが放たれる。次の瞬間、宇宙に輝かしい光が灯った。要塞内にあった構造物だけでなく戦艦などをいとも容易く飲み込んだその光はボアズ要塞の司令部にまで達し、次の瞬間には全体を覆った。

 

 

 

 

 

それを見ていたザフト兵は呆気にとられる。かつてユニウスセブンを襲った忌まわしい核が目の前で、つい今しがた自分たちが仲間たちがいた場を焼き尽くしている。そのために移動も指示も忘れ、各戦線のザフト兵はその光に釘づけになってしまった。だが、そんなザフト兵に対し連合軍は容赦するわけがなかった。特に突出して攻撃を加えていたキメラ隊はさらなる猛威を振るう。

 

バスターダガーがソードカラミティが105ダガーがロングダガーが、宇宙空間で棒立ちのように呆けているザフト兵に襲い掛かる。今この瞬間こそ、ボアズ要塞周辺宙域は彼らの絶好の狩場となった。以前からブリッツなどのミラージュコロイドを搭載した機体などで周辺を偵察していただけあって周辺の状況をよく知っている彼らは次々と敵を撃破しながら敵残存部隊を狙った方向へと移動させていく。もはや残存部隊の士気は低い。故に彼らは最後の仕上げと行くために、敗残兵狩りを行う"ハンター部隊"の待つ宙域へと押しやっていく。

 

 

 

もはや、残存部隊は無残な状況であった。古今東西敗北した軍隊の撤退戦は大変なものだ。しかも今回は追撃する部隊に狙撃などができる機体も多く、戦闘で比較的損傷の少なかったネルソン級戦艦なども参加している。

 

バスターダガーのパイロットにして、キメラ隊の中でも珍しい女性パイロットであるイリーナは自分たちに背を向けて逃げるMSに向けて銃口を向けて放つ。銃口から吐き出された散弾は面白いぐらい敵に直撃し、中にはスラスターを損傷した機体や艦もいる。ある程度敵部隊が離れたところで彼女は両脇に抱えた砲を連結させ、長距離狙撃に入った。狙うは戦艦。短時間であったが戦艦の中にはMSが収容され、そのMSにいた虫や整備が大好きな虫など多くの害虫がいる。彼女はたくさんの害虫を納めた戦艦という箱に向けて精密射撃を敢行し、数隻が損傷して目標の宙域へと向かうのを見た。

 

 

 

射程範囲外に敵が逃げた後も彼女にはやることがある。別にやらなくてもいいことだが、彼女はやる。彼女の趣味は虫探し。虫採取。地球にたかる虫を潰すためにスラスターが傷つき武装も失った機体に機体を寄せ、接触回線を開く。

 

 

 

「すいません、聞こえていますか?今からあなたを少々拷問したいと思います。今から私の言うことにイエスかノーで答えてくださいね」

 

 

優しげな、可憐な声が敵機のコクピットに響く。

 

 

(なんだとっ、野蛮なナチュラル風情がこの俺に拷問だととッッッ!)

 

 

敵機のコクピット開閉部に連結され狙撃形態をとっていた砲の先端にあたかも銃剣のように取り付けられていた剣が突き刺さる。彼女用につけられたそれは開閉部のみを切り裂きパイロットはスクリーン越しではなく直に宇宙空間をのぞかせるようにした。

 

 

「あぁ、イエスかノーで答えられない質問にはしっかりと具体的に話せるようにしてくださいというべきですたね。申し訳ありません。それではさっそくですが選んでいただけます?」

(え、選ぶだと?)

「えぇ、黙って死ぬか喋って死ぬかどちらか一方を選んでくださいね」

 

 

にっこりとほほ笑みながらイリーナはまるで子供にどっちのものが欲しいのか尋ねるかのような声音で言う。

 

 

「正直私はどちらでもいいんです。この付近にはあなた以外にもたくさんの虫がいますし」

(虫、だと……?)

「はい、虫です。地球にたかって悪さをする虫です。あなたもそうなんですよ。自覚はありませんでしたか?先程も殺虫剤を撒いたところなんですよ。ブルーコスモスの方々もきれいなお花に害虫がつくのは嫌な様で、巣に直接撒いたようですね」

 

 

地球という母なる星にたかる虫。それが彼女から見たザフト。彼女は農家の長女。昔から農園を荒らす虫を見つけてはその手で殺してきた。幼いころは昆虫採集に生きよく遊び、軍に入りいくらか経ったころに放たれたニュートロンジャマーで実家の農業は難しくなった。だから彼女はやる。地球にたかる害虫を潰すために。

 

ほかの部隊員であればザフトを飼い主に逆らった飼い犬だとか、自分たちを殺処分の執行役、処刑執行人だとかいうのだが彼女はあくまでも農家の長女。趣味は虫探し。昆虫採集。採集された虫は逃がさず虫かごで死ぬまで面倒を見る。そこには自由はなく、かごから離れた悪い虫は周りに迷惑をかけさせないために潰す。ただそれだけ。

 

 

「どうしましたか?返事は?」

(き、貴様ふざけ……、りゅにゃがぁ!)

 

 

虫と言われ反論したパイロットは銃剣で潰された。そこに一切の慈悲はない。彼女は切り裂かれたコクピットから漏れる赤い水玉を眺めつつため息をつく。

 

 

「はぁ、もとより虫が言葉をちゃんと発するなんて思ってなかったのだけど、言葉も通じないなんて。私は本当に拷問の仕方を学ばないといけなさそうね。でもまだたくさんいるみたいだからいい機会だわ」

 

 

 

彼女は周囲を見渡す。付近にはスラスターと武装を破壊されたMSが数機。中にはもちろん虫がいる。練習にはうってつけだ。彼女は自分でも気づかず笑みを浮かべる。その笑みは悪いネットリとした、他人が見れば戦慄するような笑みであった。

 

 

 

キメラ隊はいらない人材の掃溜めどころ。故に変わった人材も入る。それは無能な者もいれば嗜好の変わったものまで千差万別。彼女もそんな一人。だが彼女は気付かない。彼女のやっていることはただの害虫駆除なのだから。

 

 

 

 

こうしてボアズ要塞は陥落した。核ミサイルは要塞に突き刺さり岩塊へと変えた。だが要塞近くにいた艦やMSを除き各戦線にいたものたちなど辛くも生き残り、連合の追撃を逃れるべく本国へと逃げ出した。だが、彼らの行く末は波乱に満ち溢れている。なぜならすぐそばに獲物がいると知っていて逃がす狩猟者はおらず、罠も仕掛けもすでにあるのだから。

 




感想・批評よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。