機動戦士ガンダムSEED 技術試験隊の受難<一時凍結>   作:アゼル

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口調の再現は難しい…。


オーブ解放作戦 上

L1宙域、世界樹。かつて地球連合軍によって地球ー月間の補給基地として利用された宇宙基地。だがそれは過去の話。戦争初期において地球軍の第1~第3艦隊とザフトの激戦によりデブリの塵と化した宙域である。

 

 

だが、そんな宙域に複数の艦影が見て取れる。ネルソン級戦艦1隻とドレイク級駆逐艦2隻、そしてアークエンジェル級に酷似した艦が1隻。計4隻の艦がデブリの中を進む。デブリは大小様々な残骸があり、中には非常に高速で移動しているデブリもあり危険だ。初めて宇宙に人工衛星を打ち上げて以来、多くのスペースデブリは地球の衛星軌道上を飛び交い宇宙ステーションを危険にさらしたほどである。だが、この4隻はまるで慣れているかのように、一直線にデブリの中を突き進む。

 

不思議と艦船にデブリはぶつからない。なぜなら4隻が進む方面にはデブリが排除されているからだ。傍目から見れば飛び交うデブリの中に突き進む無謀な行いに見えることが、巧妙に隠された秘密の抜け道なのだ。

 

 

4隻の艦艇がたどり着いたのは廃棄コロニーと見える建造物であった。外装は無残としか言えない有り様であるが、たどり着いた4隻に向かってコロニーから光の線が向かっていく。着艦のためのビーコンだ。4隻の艦は静かに、たとえデブリにより外からは一見姿が見えない状態と言えども慎重に廃棄コロニーへと進んでいった。

 

 

 

廃棄コロニーの中は外見とは裏腹にしっかりとした構造であった。円筒形の湾港には上下の区別のない宇宙空間ゆえか、各所に様々な艦が接舷されている。中にはザフトで運用されているはずのローラシア級やナスカ級の姿まである。違いがあるとすれば、それらの艦には外観が漆黒に塗り替えられ、艦上部には連合軍のマークがなされている。

 

 

準アークエンジェル級特装艦ピネラペの艦長、グラマンはそれらの船体をスクリーンで眺めつつほかの3隻と同様にそれぞれに指定された場所から続くビーコンに案内され、係留上に止まるのを待った。彼は思う。何とも不思議な巡り合わせであることを。

 

この地で起きた攻防戦で乗艦が大破、漂流しそれ以降月基地でデスクワークをこなしてきたが、再び艦長として職務に就き、艦長を果たす艦艇の拠点が世界樹跡地に秘密裏に作られた基地とは、なんという巡りあわせであろうか。それに何よりこの基地は異様だ。彼にそう思わせるのは黒く船体を染められたナスカ級やローラシア級の存在だ。本来、敵が用いている艦船が係留され友軍として扱われているのだ。さらに他のスクリーンにはザフト製のMSの姿が映ってている。ザフト内で指揮官用に用いられているはずのシグーや作業用に改良されたワークスジンなどが地球軍の基地であるこの基地では平然と使われている。既にストライクダガーなどの地球軍製MSが開発されていても尚、他勢力の武器を用いる。この基地を知っている他部隊から【キメラ隊】と呼ばれる由縁だ。

 

 

配備されている人員も主にナチュラルが占めているが、1割ほどコーディネイターが存在し異色の部隊と言えるだろうか。なにより友軍が滅ぼしたオーブなどの国々の出身者も属している。そして今日もザフトのMSを鹵獲した。高機動型のジンや偵察用のジン。これらは基地の防衛や友軍のMS開発に役立つだろう。元々、敵兵器の鹵獲などを主軸においた部隊故に、あまり評価されないだろうがやり甲斐はある。

 

そう思いつつ艦が所定の位置へ係留されるのを待った。

 

 

 

 

 

準アークエンジェル級特装艦ピネラペが所定の位置に係留された後、ボアズ近郊にて戦闘したMSパイロットたちは廃棄コロニーに偽装された基地内を移動していた。ブリッツおよびデュエルダガーのパイロットであるマクレガーは整備班とともに基地内のMS工廠に足を踏み入れていた。目的は今回の戦闘により噴出した要望の提出。外見こそ廃棄コロニーといった風貌だが小惑星を基に作られた基地だ。広い基地の一角には多くの技術者による改修のための場が設けられている。

 

 

マクレガーと他数名がMS工廠に入ると、彼らを出迎えたのは各陣営が運用しているMS群であった。港でも稼働していたシグーや高機動型のジン、友軍のダガー系統のMS、そしてオーブ解放作戦においてマニュピレーターの破損やコクピットへの直撃弾により比較的損傷の少ないM1アストレイが並んでいる。集められた機体の中には解体され、構造を確認されている機体もある。

 

 

「あっ、中尉。こちらです~」

 

 

弱弱しい声が工廠内に響く。マクレガーが声のする方向に向きを変えると、そこにはソバカスのある作業服の女性がいた。さらに女性の近くには5つの量子コンピューターが置かれている。彼女の名はユン・セファン。オーブ解放作戦後にマクレガーが保護したモルゲンレーテ社の技術者だ。オーブが自爆という嫌がらせか、はたまた愚行ともいえる抵抗のひとつであるモルゲンレーテ社爆破後に跡地を捜索した際に多少ジャンク屋とトラブルが起きたものの、遭遇しそのまま人員の消耗率が高いこの部隊に入れられたという異色の経緯を持っている人物だ。ようは、MS開発に協力せよ、協力せねば消耗率の激しく、最前線と言ってよい基地とともにあの世行きだ、というメッセージがついている。

 

 

だが、彼女はそれに気づいていないのか、もしくは気付いていて考えないようにしているのか熱心に活動している。オーブのMS、アストレイシリーズの設計に使用された量子コンピューターの力もあり、非常に基地内でも重宝されている。

 

彼女に呼ばれたマクレガーは床を蹴り、重力のないことを利用して完成に任せた状態で彼女のほうに向かう。そして、

 

 

「これが今回の戦闘で得られた情報と噴出した要望に関する書類だ。よく読んで形にしてくれ」

「はぃ、了解しました。でもビクトリア基地が奪還されて、まだ日がたっていないので現地改修か、予備パーツによる追加装備しかできませんが、大丈夫ですかぁ?」

 

 

渡した資料を受け取りつつ、現状を言う。隠されているが故の弊害。デブリの中にひっそりと存在する故にミラージュコロイドにより姿を隠したピネラペの同型艦などによる補給くらいしかできない点や、ビクトリア宇宙港を確保しても今はまだここまで補給が行き届かないのが現状のための苦言だ。まだ地球にざふとの基地が残存しているため大っぴらに普通の輸送艦を使えないのは痛すぎる。まして大幅な改修や、新兵器の開発はできないという問題は深刻だ。ブリッツにウェポン・ラックを取り付けるくらいは朝飯前だが、それ以上のことはなかなかに難しいのである。

 

 

「あと、それと……」

「まだ、何かあるのか?」

 

 

言葉を濁しつつ何かを聞こうとする彼女に問う。

 

 

「はぃ、私と同様にあの時に救助された女の子は大丈夫ですか?右腕が吹き飛んでいるそうですが……」

 

 

ユンが指摘するのはマクレガーが友軍の新型機などの援護のためにオノゴロ島に向かった時に、オーブ軍側で一騎当千の働きぶりをする羽のあるMSによる流れ弾で吹き飛ばされた一家で唯一生存した少女のことだ。近くには戦場から避難民を乗せ逃げようとするオーブ軍の船もいたが、彼が救助に行ったときにはすでに周囲に人影は衝撃で吹き飛び、大地に叩きつけられ歪な形になった母親らしき女性と、木の下敷きになった父親らしき男性の遺体だけであった。偶然、マクレガーが少女がかすかに動いていることに気が付かねば直ぐに命は失われていただろう。

 

「今のところは何とも言えないな。昏睡状態だったが命の安全は何とか保たれているとしか言い切れん。それに何より、目覚めたら右腕のことでひどく衝撃を受けるだろうな……」

 

 

いくら戦争をしており、戦場で引き金を引く者だとしても民間人を巻き込んだことはマクレガーの心に楔を縫い付ける。だからこそ、中立国であろうともニュートロンジャマーを投下したザフトを許せないわけだがそれは別の話だ。

 

 

「そうですか。その話はともかく、中尉の機体の整備は完了しました。いつでも稼働できますので詳しくは担当者の方に聞いてくださいね」

「了解した。要望書に書かれたMSの改修はそこの量子コンピューターや整備斑と済ましておいてくれ。俺は愛機に向かうよ」

 

 

そういって、彼は再び足を蹴る。向かうは本来の愛機105ダガー。それも解放作戦で参加した戦友だ。初のMSはストライクダガーであったがブリッツの調整と検証が終わり次第、この愛機に戻る手はずだ。それまではデュエルダガーとの兼用でもあるが。

 

 

 

マクレガーは固定されている105ダガーを見上げる。そして思い出す。愛機とともに闘った戦場を。

 

 

 

 

 

 

C.E.71年6月15日、地球連合軍は宇宙へあがるためのマスドライバーを求め喪失したパナマに代わり地球上でザフトを除き、唯一保有しているオーブ連合首長国に侵攻した。

 

 

海上で待機する艦艇群の中の一隻、タラワ級強襲揚陸艦の多数のMSが戦闘開始を今か今かと待っていた。艦内にあるストライクダガー6機と甲板にある105ダガー3機は技術試験隊の機体だ。全ての105ダガーはエールパックを換装しており、島群のオーブで縦横無尽に働けるようにされている。それら3機のうち一機の105ダガーにマクレガーは乗っていた。

 

 

機体の右手にはGAU8M2 52mm機関砲ポッドを所持し、背中には従来ストライクダガーが使用するM703 57mmビームライフルがマウントされている。相手国は崩壊したヘリオポリスにてMS開発に参加したモルゲンレーテ社が存在する国だ。当然MSを所有しているであろうし、ナチュラルだけでなくコーディネーターも暮らしている。そのためMSのパイロットがコーディネーター出ないとは言い切れない。そのため外部電力に依存するビームライフルだけでは稼働時間に影響が出るため、実弾兵器も保持しているのだ。

 

 

マクレガーがコクピット内部で機体の最終チェックを行っていると、コクピット内部のスクリーンに2号機に乗るコルテスから通信が突如として入る。

 

 

(隊長さんよぉ、久しぶりに大規模な戦闘だな。ゾクゾクしてくるぜ。俺たちの任務はこの機体の実証試験と敵機の鹵獲でいいんだよなぁ?)

 

ニヤニヤと不気味な笑顔をしつつ問いてくる。

 

「その通りだ。だが鹵獲は無理ならやらなくてもいい、どうせ相手は小国だ。戦後に状態の良い機体を集めて回収してもいいんだ。とにかく相手を減らせ、それだけだ」

(へっへっへ、了解したぜ。だが運悪くコクピットだけ壊された機体が生まれてもしょうがないよなぁ)

 

 

この男は接近戦を好む。理由は生の感触を味わえるからだ。故にコルテス機に装備されたアーマーシュナイダーでコクピットの破壊を目論んでいるのだろう。

 

「自由にしろ。ただし、ジャンク屋には気をつけろ。シュミットもいいな」

(了解です)

 

3号機に乗るパイロット、ハンス・シュミットも賛同する。彼はコーディネーターのために有能だが各所で問題児扱いさて問題のある人材の大多数が集まる人材の墓場、技術試験隊に配属された。大切な機体を守るためにもコーディネーターの彼は必要な存在だ。他部隊からはウケが悪いが大切な仲間である。今回の戦闘はなかなかの戦いになるだろうから、頼もしい限りである。

 

 

そうしているうちに戦闘は開始される。友軍艦艇からのミサイル一斉発射とオーブ側からのミサイル攻撃への迎撃のミサイル。そして航空機からパラシュートを展開し降り立ったストライクダガーにより上陸地点は確保された。そしてついに部隊に出動要請が入る。

 

 

「キメラ隊、全機発進。友軍を援護しつつ、試験を開始する!」

((((了解))))

 

 

105ダガー3機を中心とした9機のMS隊は母艦を発進し、主戦場に向かっていった。

 

 

 

 

 

ビームの奔流が各所で飛び交う。量産型MSを大量投入した戦闘で両軍がともにビーム兵器を標準装備している実戦はこれがはじめてではなかろうか。

 

 

マクレガーはエールパックの推進力を大いに活用し、敵軍の量産型MSからの攻撃を避けつつGAU8M2 52mm機関砲ポッドを放つ。すると面白いくらいにシールドで覆い切れなかった部分が被弾し、マニピュレーターの損傷によりバランスを失った機体は後続の友軍が放ったビームに貫かれ、爆散する。視線を横に向けるとスクリーンでは機動力を活かして接近し、アーマーシュナイダーでコクピットを破壊する2号機とそれを後方から援護射撃する3号機が映る。

 

 

「周囲の敵の掃討を完了。これよりこの場より移動し、友軍の援助に向かう。いくぞっ」

 

 

僚機に通信を送り、友軍部隊の展開する地点に向かう。道中、破壊されたMSが目につく。中にはマニピュレーターのみを破壊され、乗り捨てられた友軍機まである。それらを見て手心を加えられたのか、という思いに駆られるが、進んだ先には意外な機体が意外な装備で現れた。シールドを上空に向け必死にビームを放つ友軍機に赤いビームの奔流が流れる。友軍機はシールドで防ごうと試みるものの、コロニーに穴をあけるほどの威力のビームにシールドが耐えきれず、シールドごと機体を削り取られ一気に3機が撃墜される。赤いビームを放った機体は地表に降り、部品の一部を排除しつつ立ち上がる。

 

 

GAT-X105 ストライク。105ダガーの原型機にしてヘリオポリスでの強奪事件で連合軍に唯一残った機体だ。そして何より目につくのはその武装。背面にはエールストライカー、右肩にはランチャーストライカーのコンボウェポンポッド、左腕にはソードストライカーのユニットを装備している。現在存在するストライカーパックをすべて載せた機体が目の前に立ちふさがった。

 

 

第八艦隊を犠牲にしつつも地球に降り立ち、オーブ近海の島で撃破されるまで多くの敵機を葬り去った機体が目の前に存在する。恐らくはオーブが近海で大破し放置されていたところを回収し、独自に回収したうえで運用しているのだろう。動きにぎこちなさがないことからコーディネーターか、余程腕のあるパイロットが乗っているのだろう。

 

 

そこで感じるのは恐怖よりも高揚感。自機の原型機が目の前に存在し、ストライカーパックを全て装備をして自分たちに立ちふさがっているのだ。瞬間、マクレガーは僚機に指示をだす。

 

「全機、回避を優先しろ!シールドでは友軍の二の舞だ!距離を保ちつつストライクをここに拘束する。接近は可能な限り避け、エネルギー切れを待て。対艦刀に気をつけろよっ」

 

 

ストライクダガー隊は指示後、一斉に動きだす。全機は固まらずシールドを構えつつビームを放ち、目標を定めさせない。105ダガー隊はストライクダガー隊よりも前に出て機動力を活かした牽制に入る。実弾がフェイズシフト装甲には効果がないといえどもエネルギーを消耗させることは可能だ。何よりストライクの兵装はエネルギー消費が高く、実弾兵器はイーゲルシュテルンとランチャーパックに付属してくる装備ぐらいしかない。故にエネルギー切れに追いやることがこの場では最善だろう。

 

 

だが世の中そう、うまくはいかない。破壊されたビル群の影から敵量産MSが3機現れストライクを援護する。数では倍以上存在するがストライクの攻撃力が危険すぎた。キメラ隊はビームを放ちつつ少しずつ後退を開始する。

 

 

スクリーンでは湾港方面で旗艦パウエルから出撃したと思われる水色の新型MSが赤と黒のMA形態に変形して移動している機体から降り立つことで上陸を果たし、次々と敵部隊をその圧倒的な火力に物言わせて打ち破る。局所的にはやられている部分もあるが全体的には友軍有利で進んでいる。

 

 

連合軍(大西洋連邦)とともにフェイズシフト装甲と携行型のビーム兵器を装備した5機を開発したモルゲンレーテを保有するゆえか、各所でバスターやストライクなどの強力な機体で押されている光景はザフトとの戦いである質対量の争いを思い起こさせる。だが、その中でも異様なのは上空を旋回し猛威を振るう羽根つきのMSだ。

 

 

今でこそ緑の防御重視の新型機と赤と黒の高機動重視の新型機の二機に抑え込まれているが新型機の出現まではアレに言いようにされていたのが現状だ。強力な収束式のビーム砲と連射可能なビームライフル、腰部のレールガンによりミサイルも多数迎撃された。おそらく鹵獲は無理だろう。だが、未だに試験を終えてない接近戦の実戦試験などを終わらせるべく機体を操作し、新型機が暴れる区画より離れた森側を経由し森などに隠れた自走砲や敵量産MSを目指した。

 

 

 

森側を経由し進むと先ほどいた港よりもひっそりとした場所に一隻のオーブ艦艇が停泊している。敵機はおらず格好の獲物だがスクリーンに映る画像を拡大させると逃げ遅れた民間人が次々と乗り込んでいく。マクレガーにとって戦争に民間人を巻き込むことは好ましいものではない。そのため、見逃そうとも思ったが付近の斜面にいたオーブの量産型MS3機と遭遇する。

 

 

国民を守っているオーブ軍人であれば撃っては来ないとも考えたが、敵機は構わず発砲する。チッ、と舌打ちするが状況は放っておいても悪くなるため、撃破を優先する。

 

 

「全機散開っ、ストライクダガー隊は援護射撃をせよ。1号機から3号機は全機接近戦のデータ収集のため抜刀し、各自の判断で撃破しろ!港側に被害をくわえるなよ!」

 

 

言って、腰部のビームサーベルをつかみ一気に加速する。民間人にかまわず、敵機がいるというだけで撃ってくる新兵が乗っているのであろう敵機はストライクダガー隊の援護射撃により分断され、105ダガー各機とそれぞれ対峙することになる。マクレガーが対峙した機体はバルカン砲を放ち牽制してくるが、シールドを構え防ぎつつ突撃する。やむなく、敵機もビームサーベルを構えるが振りかぶったサーベルをシールドで防ぎ、レイピアのごとくメインカメラに刺突を繰り出し、突き刺す。メインカメラを失い、一時的に動きの鈍った敵機にマクレガーは次々攻撃を行う。

 

 

左腕、右腕と武装を破壊しとどめにバルカン砲で人でいう腹部付近を射撃して敵パイロットをミンチにして撃破する。ほかの2体に関してもコルテスはアーマーシュナイダーでパイロットを潰し、シュミットは援護射撃で右腕がごっそりと吹き飛んだ敵機を両断して撃破した。

 

 

僚機に被害がないこととストライクのような強力な機体との戦闘でエネルギーの多くを消耗したのか、すでにエネルギーは半分近くになっていることを確認し、念のため港の方角を見ると発進は時間の問題と言える状態だ。だが次の瞬間、上空からビームが港周囲の森林地帯に降り注ぎ、新型機のうち砲撃戦に特化した水色の機体が付近に着地する。

 

 

こんな場所まで戦闘がっ!

 

 

先ほどまで戦闘していたのも忘れ、そのような考えがよぎる。

 

 

砲撃戦に特化した新型機、カラミティは胸部内蔵の大出力ビーム砲を上空の羽根つきに放つ。それに対し、羽根つきは全砲門を放ち応戦する。瞬間、カラミティはかわしたが周辺は強力な砲撃により吹き飛ぶ。

 

 

キメラ隊も戦闘に巻き込まれぬよう戦闘地域を離れるように急速に移動を開始するが、その移動のさなかマクレガーは見たくなかったものを目撃してしまった。

 

無残にえぐれた地域に体があらぬ方向に曲がったぼろ雑巾のごとき女性、吹き飛ばされた木の下敷きとなった男性、そして土があらわになった場所にあおむけになるように少女が血まみれで倒れている。ぼろ雑巾のような女性と木の下敷きとなった男性は即死であろう。だが、少女はかすかに動いたような気がした。

 

 

爆風と移動するMSの衝撃波により、そう見えたのかもしれなかったが拡大した画像の中で確かにそう見えたと思った。そのため機体を反転させ、血まみれの少女へと向かう。

 

 

「中尉、どちらへ!」

 

 

僚機のパイロットが撤退のために移動していたコースから外れたマクレガーに困惑した声で通信をつなげるが、マクレガーは無視した。エイプリル・フール・クライシスにより亡くなった妹と画面に映る血まみれの少女は同い年くらいの年齢だろうか。死なせたくない、という思いがマクレガーをかりたたせる。

 

 

近くの小さな港にいた船と港を守っていたオーブ軍人は周囲にいない。戦闘の流れ弾が周囲に着弾したのを恐れたのか、はたまた船が出港したためか。ともかくその状況はマクレガーに味方した。仮にオーブ軍人がいれば銃撃を受けていたのは間違いないだろう。

 

 

少女の近くまで105ダガーを寄せ、コクピットより降り立ったマクレガーは一目散に少女に駆け寄る。脈を図るとかすかに鼓動を感じ、かすかに息をしていることを確認した。そして即座に止血を施し再びコクピットに戻る。

 

 

エネルギーももう半分以下だ。少女もいるために母艦に戻る必要がある。その後、戦闘を続ける新型機を尻目に、実戦試験を終えたマクレガー率いるキメラ隊は母艦に帰還した。

 

帰還後、元よりウケの悪いキメラ隊がコーディネーターの少女を保護したことは公然の秘密となった。ただ一つ、逃げ遅れたオーブ国民を保護とのみ記載がされ、その保護された人物ががコーディネーターであったのかナチュラルであったかは公式には知られていないという……。

 




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