機動戦士ガンダムSEED 技術試験隊の受難<一時凍結>   作:アゼル

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第一話を改訂しました。特に改行と指摘があった部分を。散弾がミサイルに紛れているのはおかしいとの指摘がありました。それに関してはSEED Reにてストライクがブリッツにバズーカのマガジンを散弾にして放つ描写がありましたがその類の描写を追加。ラミネート装甲の剣に関しては主人公のうんざりとした心境を追加。


その他、タグを変更。原作沿い(SEEDまで)⇒(DESTINY序盤まで)とMSVを追加しました。

今回の話では原作キャラの会話シーンを入れていますが不自然かもしれないです。指摘がありましたら出来る限り不自然にならないよう改善します。


SEED編はあと一話くらいで終了です。


第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦 Ⅵ

『GAT-X207 ブリッツ核装備型、発進スタンバイ』

 

 

 

無機質な声が響く。艦橋から覗く戦場は連合側有利で進行していた。外縁部から侵入したキメラ隊とジブリール派の混成艦隊の攻撃はジェネシス防衛線に綻びを広げていく。だが、いかんせん敵MSの数が多い。機体の大半がジンであり、動きも何故か鈍いが一機を倒すうちに新たに二機出現するというゴキブリを連想させる有様だった。

 

 

今、混成艦隊が戦う場はジェネシス直前の宙域。彼らは急ぎここまで辿りついた。

 

 

彼らは最初に接敵した艦隊をリー少佐やMA隊、そして打撃部隊の活躍で潰走させ、その勢いのままダガー隊に追いついた。近づいていく中、敵艦隊を確認すると突撃隊により損傷も大きいが確認出来た艦のほぼ全てが貧弱な武装の艦であったため、砲撃のゴリ押しでその敵防衛艦隊第二陣をも突破し目標目前にまでたどり着いたのだ。

 

 

突撃隊のダガーはMS用母艦に収用され補給を行っている。突撃部隊は火器運用試験型ゲイツ改による奇襲で撃墜された機体と主力機のマクレガー機を欠いているがそれ以外はほとんど無事だ。彼ら突撃部隊は相手した艦隊がほとんど武装を施された輸送艦だけだったため、突破こそ出来はしなかったが撃墜も免れていた。

 

 

そして今、ジェネシス破壊を急ぐ艦隊で補給とストライカーパックの交換を受け、核攻撃の護衛任務に就こうとしている。

 

だが混成艦隊自体の状況はあまり良くない。ひたすら突破を最優先にし、急いできたがために普段の慎重な行動と打って変わり損傷を負っている。重大な被害を受けた艦こそいないが、少なからず被害が出ている。それでも後続の第二陣といった友軍が来ることを信じ覚悟を胸に、艦隊所属員は自分の役割をこなしていく。

 

 

今戦っているジェネシス周辺に陣取る敵部隊はMSこそ多いが艦艇数が少数。敵艦からの支援砲撃が少ないと判断したため、ジェネシスに取り付く場所を見つけるために、直衛部隊や補給中の機体を除くほぼ全ての戦力を投入した。

 

艦隊の直衛部隊や補給中の部隊を除く全戦力の投入。仮に後方から今まで突破した敵艦隊からの襲撃があれば目も当てられない被害になりうる戦術だ。開戦時から使用されているMAメビウスやパナマ戦以降で投入されたMSストライクダガーなどの機体がザフト製のMSと入り乱れ戦っている。

 

 

コーディネーターへの憎しみや地球を守るという意思により、犠牲を払いつつも発見された整備用通路と思われる場所は発見された。犠牲を払いながらジェネシス防衛部隊を何とか突破した部隊からの連絡だ。

 

その場所は防護壁で覆われているが突破できる可能性は高いという。データを取って戻ってきた機体に記録された画像での検証も即座に行われ、そう推察された。そのため、艦隊から核攻撃部隊が出撃しようとしている。

 

 

 

「突撃隊所属ダガー隊、損耗率10パーセント。補給完了、残存機発進可能です」

「コスモグラスパー隊、損耗率30パーセント。残存機の半数への補給終了。残り半数は核武装中のため発進不能。もともと準備させていたメビウス隊は発進可能です」

「そうか。では残存のコスモグラスパー隊の準備が出来次第、メビウス隊も同時発進させろ。ブリッツ隊はダガー隊とともに即座に発進させろ。それと後方に注意しておけ。友軍以外がレーダーに映ったら即座に準備中の機体以外の直衛隊で対応させるんだ」

 

 

 

そう言い、ジェイコブ准将は戦況を見据えた。

 

 

 

 

艦隊旗艦であるアガメムノン級宇宙空母ダラムと、母艦として運用されているコーネリアス級の周囲には戦艦が護衛として配備されている。ダラムはMAの母艦だが周辺のコーネリアス級はアークエンジェル級と構造が似通っているためにMS母艦として運用されていた。

 

 

 

そんなダラム周辺に配備されたコーネリアス級の中で安全を考えられ、一機ずつ別々の艦で整備を受けていたブリッツは発進準備を済ませ、カタパルトに移動しパイロットは整備士と武装に関する最終チェックをしていた。

 

 

 

「いいか?敵構造物に侵入し、中枢にたどり着いたらミサイルコンテナを機体からパージして中枢区画に取り付けてくれ。決してメビウスのように射出はするなよ。中枢部がどうなっているかは不明だが時間式で爆破する。何か質問はあるか、エイト」

 

 

 

整備士の言葉に対し、エイト・ソキウスは疑問を感じた。今は一分一秒でも早くあの巨大兵器の破壊が求められている。中枢部を発見次第核ミサイルを発射すれば爆発の余波で自分は死ぬだろう。もちろん共に行くほかのブリッツも同様だ。だがそれをして余りあるほどの成果がくるのではないか。

 

 

そう疑問を持ち質問をするが、それは即座に却下された。

 

 

「確かに、貴様らの命を捨て駒にすれば簡単だろう。だがそれをすれば貴様ら以外にも死ぬものがいる。それは俺たちだ。内部から爆破すればあの巨大兵器の外装は無数の残骸となって四方に飛びまくるだろう。そうすれば今この場で戦っている我々にも向かってきて被害を起こすことになる。理由は分かったな?」

 

 

 

愕然とした。きっとこの忠告がなければ自分は中枢部に飛び込んだ途端、核ミサイルを発射していただろう。そうすれば自分は、いや自分たちは満足して死んでいく。だが自分たちの自分勝手な死後に待っているのはナチュラルの苦痛。あってはならないことだ。

 

 

浅はかな自分に愕然としていると、ついに発進を求めるアナウンスが入る。

 

 

 

(GAT-X207 ブリッツ核装備型、発進スタンバイ)

 

 

 

カタパルトが開き、射出口から戦場にビームが飛び交っていることが確認できる。既に近隣の艦艇からは護衛機として再出撃した各種ストライカーパックを装備した105ダガーを中心とした機体が戦場へと移動している。

 

 

彼はスクリーンに映る光景を見て従来の無表情な顔をどこか引き締めたような表情に変える。発進間近、コクピットに先ほどの整備士の声が響く。

 

 

「お前たちの後にコーン状の集光装置と思われる兵器にメビウス隊が攻撃を仕掛ける。だからお前はお前の役割をこなせ。そして今回の反省点を俺に聞かせろ」

 

 

 

 

直後、ブリッツ核装備型は発進した。三機のブリッツは核ミサイルを内蔵したコンテナを装備し、護衛機に守られ飛び立っていく。一機は先の戦闘で片腕を失ったが無理矢理ダガー系の左腕を繋げ、両腕のシールドで身を守っている。エイトは整備士の言葉を発進時にコクピットに伝わった衝撃などで最後まで聞くことができなかった。だが決意した。生きて帰ることを。

 

 

 

 

「ブリッツ及びダガー隊、発進完了。敵防空網に進撃開始」

「敵防空網、左翼並びに中央の編隊で綻び増大。されど右翼は編隊を維持してます。右翼に展開しているナスカ級の存在が大きいものと思われます」

「観測手、索敵を密にしろ。何かあれば即座に報告せよ」

 

 

 

旗艦ダラムにおいて指揮官を務めるジェイコブ准将は戦闘宙域が敵巨大兵器の間近であるためにいつも以上に緊張していた。普段の温和な表情は消え去り真剣な眼差しで前方の戦闘宙域を見つめる。

 

 

作戦は予想以上にうまくいっている。ドミニオンを筆頭にした核攻撃隊の存在が昨日の戦いで敵に見られていたことは非常に有利に事を運ばせている要因だ。敵の迎撃部隊はドミニオンを含めた艦隊が動けば、そちらに対して行われることだろうと予測されていた。仮にこの巨大兵器にあらかじめ迎撃部隊が用意されていたとしても、それはドミニオンなどが戦う部隊に比べれば厚くないことが予想されていた。

 

 

だが、懸念事項も多いと彼は思う。先鋒として出したダガー隊の内エース機のマクレガー中尉が敵エースとの戦闘で行方不明という点だ。本来なら彼はともにこの場で核攻撃を先行させるための役割をこなすはずだった。最悪を想定して敵エースの排除を指示を出したがその通りになった現実が今この場にある。

 

 

故にこれ以上の損失を被るわけにはいかない。その思いと共に見据えている中、報告が届く。

 

 

 

「コスモグラスパー核攻撃隊、準備完了。いつでもいけます!」

 

 

 

付近の輸送艦と通信をしていた通信手から声が挙がった。時間はもうあまりないだろう。故に即座の発進を命じようとするが、ほぼ同時に凶報も来た。

 

 

 

「よし、発進させ……」

「待ってください!五時の方角より熱源出現!オーブ、イズモ級1、エターナル級1。本宙域に接近中」

 

 

 

 

最悪だった。核攻撃を毛嫌いするテロリスト集団。それも連合軍への敵意の強い者たちが多数を占めていると予測されている二隻だ。だが、運は連合軍に味方した。

 

 

「イズモ級の攻撃により敵右翼ナスカ級一隻轟沈。敵右翼に穴が開きつつあります」

「よし、艦隊右翼の戦艦群を例の二隻に向かわせろ。そして右翼の穴に向けて戦闘中のMS部隊を向かわせ同時に核攻撃隊発進。メビウス隊の一部の標準を敵右翼防衛艦隊にさせ、コスモグラスパー隊でコーン状兵装を破壊する!」

「了解!敵右翼にMS隊向かわせます。核攻撃隊発艦します」

 

 

 

二隻の介入は核攻撃の対象を従来の構造物から戦艦やMSに移るきっかけになろうとしていた。

 

 

 

 

 

この時、標的にされた宙域にいたローラシア級の艦橋員は焦りと共に疑問に思った。ジェネシスを守る少数の艦艇のうち一隻が脱走したエターナルとともにいるイズモ級に撃沈されたことにより、宙域の維持が困難になりつつあることはひどくまずい状態だ。そしてその状態を逃すまいとする連合軍のMS部隊は自分たちに向かってきた。

 

 

 

だが、ある程度友軍機が墜ちると波が引いていくように後退し、置き土産にか対艦ミサイルと思われる大型ミサイルが自分たちに向けて多数発射された。ここで自分たちが墜ちることは非常にまずいが、迎撃に向かわせられる余裕のある機体も少ない。元より個人プレイの多かったことも災いしているが、なによりナスカ級の轟沈による指揮系統の混乱でまともに指示を聞く機体が減っている。

 

 

 

故に艦上部に設置された対空砲で迎撃し、それは起こった。数発の大型ミサイルを迎撃し、順調に撃破していく。だが、無駄に終わったかのように見えた連合軍の大型ミサイルにはプラントの民にとって憎むべきものが混じっていたのだ。その瞬間をローラシア級の艦橋員は理解できなかった。いや、理解する間もなく蒸発した。

 

 

 

ガラスは障子紙のごとく一瞬で砕け、莫大な熱量は乗員を焼く。さらに船体を覆った核爆発は周囲に展開するMSを巻き込んで次々と消し去る。そしてさらに遅れて放たれた後続の対艦ミサイルや核ミサイルもその熱量により爆発。一瞬のうちにジェネシス防衛部隊左翼の半数が巨大な光の中に消え、二度と現れることはなかった。

 

 

 

 

核装備型コスモグラスパーのパイロットを務めるヴォルスキィ・ニノミヤとフィゲス・カジモトはその光が収まった瞬間、僚機を引き連れてあいた穴から敵陣に侵入した。事前に知っていた連合軍はいざ知らず、ザフトは戦場でうかつにも棒立ちだ。彼自身核攻撃に関して思うところはある。だが、既に敵も今目の前の標的である兵器により地球を脅かそうとしている。

 

 

 

自業自得と言えばそれまでだが、もはや止められない。自分一人が止めようともう止まらない。互いに消耗し戦争を行える雰囲気を払拭し、どこかで誰かが停戦を申し出ない限り。だが連合軍はしないだろうな、と思った。

 

 

ここまで侵攻してはい駄目でした、とはいかない。戦える限り戦い敵をひねりつぶそうとするだろう。今の自分がそうであるように。対するザフトも同胞の命がかかっている以上は止まらない。仮に停戦しようともそれは事実上降伏に近い。やるとしたらなにがしかの外交上の切り札を持っているか、何も考えていないかだ。

 

 

 

ちらりと後続を見る。自機の後方には残存のコスモグラスパーと核を打ち終えてなお、護衛のためについて来るジブリール派のメビウスが。果たしてコーン状の集光装置と思われる装置を破壊だけで済むのだろうか。巨大兵器の発射校に向けて射出した後も核が残っていればコロニーに向けて放つ可能性もある。最早だれにも止められない。憎しみの連鎖が頂点に達した今はもう、何もかもが終わる日なのだろうと、そう思った。

 

 

 

一方のブリッツ三機を中心とした核攻撃隊は割と順調だった。それは向かう途中、敵機に阻まれることがあっても実弾兵器を主武装とするジンが大半なのに対し、友軍機はビーム兵器が主体。銃で武装した相手に竹槍で襲い掛かるというほどではないがそれでも差は出る。

 

 

しかも今回の出撃では三種のストライカーパックを残存している換装可能なダガー隊に与えられているため、ジェイコブ准将の予想以上に順調だった。

 

 

 

周辺を友軍機に囲まれたブリッツ三機がジェネシスに近づく。そして、ランチャーパックを装備した機体の一撃で内部への整備用通路を閉ざしていると思われるハッチを一撃で破壊し、侵入。シールドを構えたエールパックの機体を中心にソードパック装備機に守られたブリッツは侵入した。

 

 

内部に敵機はいない。画面に映る光景は同じような構造物。シールドを構えた友軍機の背を眺めながらの進軍。永遠に続くかと思える光景はある程度まで続くがついに終わりを迎える。

 

 

開けた空間の中心部に設置された巨大な機械。恐らくはガンマ線を発生させるこの兵器の主要装置。ここまで入られると思っていなかったのか、それともナチュラルに対する偏見か。そのような思いも抱くが、仲間の他のソキウスと共に行動を開始する。

 

 

機体に装備した核ミサイルを搭載したコンテナをパージし、各自それぞれ別々の方面の付根や中部、頂上部にコンテナを設置する。自分たちが来たように他の場所から来た敵に一度で破壊されないようにするための工作だ。そして機体の指でパスワードを入力し、友軍に合図する。

 

 

 

合図を確認した友軍機は先ほどの陣形のまま、先ほどよりもはやい速度で撤退を開始する。もう、ここに用はない。あとは脱出して艦隊に通信を送れる場所まで移動するだけ。だが、不慮の出来事で核ミサイルが爆発すれば被害は甚大だ。それゆえにジェネシス内部への工作部隊は猛スピードで来た道を引き返すのだった。

 

 

 

 

「メビウス隊の核攻撃により敵右翼瓦解しました。コスモグラスパー隊は護衛機と共に突破した模様」

「右翼戦艦群、エターナル級並びにイズモ級と戦闘開始。イズモ級がローエングリンを用いてしきりに前進しようとしている模様。核攻撃隊に向かうつもりかと」

「右翼艦隊に打電。距離をとりつつミサイル攻撃にて牽制させろ。今のところ奴らには量産機しかいないようだ。ローエングリンを警戒しつつ前進を遅らせればいい。MAの核攻撃隊は予備プランだ。成功することにこしたことはないが、ブリッツ隊の存在を気づかせるわけにはいかん。いざという場合には奴らにも核攻撃することも視野に入れていることを伝えておけ」

「了解」

 

 

 

ブリッツ隊が敵兵器内部に侵入し、核ミサイルを内蔵したコンテナを設置している頃、旗艦であるダラムはプラントへの核攻撃を防いだ脱走部隊がこちらに核があることを初めて気が付き、核攻撃を執拗に妨害する行動への対処に尽力していた。既にザフトの防衛部隊は核攻撃により右翼が崩壊。さらに中央はMS隊に押され、左翼もジリ貧だ。

 

 

 

既に気にするべきことは第一に邪魔な二隻の脱走艦艇。第二に後方から来るかもしれない敵増援部隊のことだった。だが、全体的に言えば押している状態とはいえイズモ級は強力な戦闘艦だった。

 

 

陽電子砲にゴットフリートを二門。さらにはMS搭載能力まで備えている。それゆえに慎重だったが来るかもしれない後方からのザフト増援部隊に対処するためにもイズモ級とエターナル級に対する核攻撃を視野に入れつつあった。

 

 

 

矢継ぎ早に各戦線で戦う戦艦などから入ってくる情報に対処する旗艦艦隊。そうこうしているうちに、最悪の敵の接近を許してしまう。

 

 

「右翼艦隊に入電。強力なMSが出現した模様です。敵MSは赤い核動力機のようです。強化パーツはないようですがストライクと思わしき機体と共に戦っている模様。既に攻撃機に限らず、直衛機などにも被害が出ているとのことです」

「そうか。右翼に増援を送ってやれ。可能な数でいい。あと残存の核攻撃隊で例の二隻を狙うんだ。そのMSをその場に釘づけにする」

 

 

何ともタイミングの悪いことだ。そう思わずにはいられない。だが、もうすでに遅い。二つの核攻撃隊は敵陣を突破している。確認できるだけでもブリッツは内部に突入済みだ。見える範囲でできることは集光装置らしき兵装を破壊に言った部隊を止めることだけだろう。

 

 

だが、状況は右翼艦隊にとって悪い方向に向かっていく。悪い報告がさらに増える。

 

 

「右翼艦隊方面に不明機が出現した模様です。さらに核動力のもう片方も出現し、交戦中!すでに我が軍の戦闘艦艇は赤い機体によりかなりの被害が出ている模様。右翼艦隊が後退を打診しています」

 

 

 

ふむ…、と手を宇宙服の顎に当たる部分に寄せながら考える。潮時と言える頃合いだろうか否か。既に友軍ですべきことをする部隊は目的に向かっていった。だが、ともにいるジブリール派のこともある。ジブリール派はイアン・リー少佐の部隊が敵陣を破った以外はあまり活躍をしていない。

 

 

もとより連合軍だけでなく大西洋連邦内でも主流派から蹴落とされた派閥故に次代の最有力派閥への恩を売ることも可能であればやっていきたい、と大局的に見ればそう思わざるを得ない。せめて敵の機体、欲を言えば核動力機の機体かザフト製と思われる不明機が欲しいところだが、あまり右翼艦隊は予断が許されない状態になってきたようだった。

 

 

「右翼艦隊損耗増大しています。ネルソン級3隻中破、ドレイク級他艦艇6隻大破。不明機は報告にあったガンバレルの発展型を装備する機体の改良機と思われます。メビウス隊の核ミサイルを攻撃しながらも十分な攻撃が行えている模様」

「この短時間にその損耗か…。ブリッツ隊は確認が取れたか!?」

 

 

 

本来ならば二十隻ほどの艦艇で構成されている艦隊のキメラ隊だ。半数近くの喪失は許容できる範囲ではない。ジブリール派が混ざっているおかげで艦隊の規模は倍以上に膨れ上がっているがこのままとどまっていてもいたずらに被害を増大させるだけだ。だからと言って撤退できる情勢でもなく、内部に侵入したブリッツ隊と集光装置に向かった核攻撃隊次第と言える状態だ。ブリッツ全機が行っている以上、彼らが確認できれば複数の意味で安全を確保するために撤退ができる。ジレンマに陥ったような状態だった。

 

 

 

「最大望遠にて確認中です!……出ました。ダガー隊を先頭に内部よりMS隊がこちらへ帰投を開始しています!作戦は今のところ成功している模様!」

 

 

声が響く。完全な成功はジェネシスの内部からの爆破だが右翼が潰れる前に撤退する言が叶いそうであったが故に声色は明るい。

 

 

「よし、全艦に通達。破片の飛来が予測される現宙域より一時後退する!残存核ミサイルは二隻の方面とプラント方面に向けて発射させろ。邪魔な不明機も例の部隊も近寄らせないようにするんだ!」

 

 

 

こうしてキメラ隊第一陣とジブリール派混成艦隊は撤退を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

エターナルの艦橋は連合軍艦隊からの攻撃で怒号が飛び交っていた。今は一分一秒でも早く目の前のジェネシスを破壊せねばならない。だが、同時に連合軍にも注意せざるを得ない。

 

 

もしもここで連合軍艦隊を逃せば、ジェネシスを破壊し復讐の牙はプラントに襲い掛かるかもしれない。それだけはあってはならないのだ。罪なき謂われのない人々を撃ったところで真の幸福が訪れるわけがない。そのような思いを胸にラクスは正面スクリーンをキッと意志を込めて見つめる。

 

 

 

「ヤキンの様子はどうなっているのです?アスランやカガリさんらが突入しなかなかに時間は経過したはずです」

「わかりません。ですがヤキンから輸送船を含む艦艇が離脱を開始しています。ヤキンは放棄されたと思われます!」

 

 

それに答えるダコスタは必死に声を上げる。その間にも連合軍艦隊の攻撃も数も増えていく。元よりエターナルは核動力機の母艦として作られた。そのためか武装は他に隻に比べ貧弱で、打撃力に欠ける。その代わりに無数の弾幕を張ることができたため、今も攻撃を加えてくる連合軍のミサイルやMSを撃退している。

 

 

ズゥウン、といった音が響く。

 

 

「艦橋前部ビーム砲に被弾!使用不能!」

 

 

 

エターナルから放たれる弾幕と護衛機の攻撃を躱しながら接近と離脱を繰り返していた敵MSのキャノン砲が直撃した。エターナルにとってミーティアがない状態では主砲と言ってもよい兵装が使用不能になるということは攻撃手段を失ったに等しい。個艦防御に重点が置かれ、艦隊各所に搭載されているミサイルやCIWS、レールガンはエターナルの防衛手段だ。対艦用にはあまり有効とは言い難いだろう。

 

攻撃力を失い防戦一方になりつつあるなかで索敵を担当していた兵が声をあげた。

 

 

「クサナギ、前進しています。敵艦の攻撃がクサナギに集中しつつあります!」

「っ!」

 

スクリーンに映るクサナギは左にいるエターナルとの並走をやめ、前進しながらエターナル側から接近してきた連合軍艦艇へ攻撃を加えていく。そのために連合軍の攻撃はクサナギに集中し始めている。

 

 

クサナギからのローエングリンの一斉射が連合軍艦隊を襲う。運の悪いことに直撃した艦はなかったが、すぐ近くを通過した陽電子砲に耐え切れず艦体の一部からは激しい爆発を生じさせた艦もあり、被害を受けた艦が後退していく。

 

「盾になるつもりなのですか!?バルトフェルト隊長、あのままでは!」

「アストレイ隊を数機を残してクサナギの援護に向かわせろ。こっちは敵の数が減っているんだ。残りの対空火器で防げる」

 

 

バルトフェルトの指示で護衛のアストレイのうち最低限防衛に必要な数を除き全機がクサナギに向かう。クサナギは連合軍の反撃にあい、アンチビーム爆雷で防げなかった攻撃を食らいつつある。

 

 

こうしてエターナルとクサナギが互いに援護しながら戦闘をしている中、巨大な光が発生した。それはあってはならない光。彼らが必死になって止めてきた核により生じた光だった。

 

 

 

「あの光は…!」

 

 

あまりのことにラクスは続く言葉を言えない。今、目の前で連合軍が放った核ミサイルが爆発した。それも自分たちが防ぐための一撃で行ったものではない。二隻の位置では届かない宙域、ザフトのジェネシス防衛線での爆発だ。

 

 

「ジェネシス防衛艦隊右翼において強力な熱源反応です。核攻撃と思われます。熱反応付近にいたローラシア級一隻のならびにMSと思われる熱源反応多数消滅!」

「ッ!」

 

 

防ぎきれなかった。悔やましい限りの一撃は一瞬にして多数の命を奪ったのだ。それも自分たちの目の前で。許すわけにはいかない。

 

 

「核をもう二度と使わせるわけにはまいりません。なんとしても防がねば恨みと憎しみの連鎖は永遠に終わりを見えぬ楔となりましょう。なんとしても、止めねばなりません。皆さんどうか協力を…!」

「「「「「了解!」」」」」

 

 

艦橋のクルーから一斉に声が挙がる。この醜い争いを止めるという思いで皆は動いているのだ。そう決意を改め固めると朗報が入ってきた。

 

 

「後方よりジャスティス、並びにストライクルージュ他アストレイが数機接近。敵艦隊へ攻撃を加えています。敵艦隊からの攻撃減少中」

「それではアスランとカガリさんに通信を。今は一刻も早く情報を手に入れねばなりません」

「了解、通信繋ぎます!」

 

 

 

スクリーンに映し出されたアスランの様子はヤキンに突入する時と比べ表情が暗い。カガリの様子は切羽詰まったように緊張した面持ちだ。カガリの様子からヤキンが放棄されても未だに危機は去っていないと思わずにはいられない。なによりアスランの様子はなにか悲しみをこらえるように見えてならない。

 

 

だが、今はジェネシスを優先せねば。たとえ非情であろうとも。

 

 

「カガリさん、ヤキンは放棄されたのですね!?ジェネシスは!?」

(ヤキンは自爆シークエンスに入った!でもジェネシスの発射と連動しているんだ!)

「っ!?では一刻も早く…」

(ああ、だが地球軍の奴らをどうにかしないと。このままじゃみんな死んでしまうのに、連合の奴ら…)

 

 

吐き捨てるように地球軍への怒りを出している。だがこれは互いに意思を同じくしている両者の行き違いであった。

 

 

地球軍はジェネシスを破壊したいが、そのための核ミサイルを落とされたくない。地球軍から見てエターナル側はドミニオン勢の核ミサイルだけでなく、ザフトのMSにも攻撃し、一見無差別攻撃をしているように思われていた。故に地球軍はエターナルとクサナギに攻撃をしかけているのだ。

 

 

対するエターナル側にとってもジェネシスを落としたい。だがザフト、連合との三つ巴のうえに各勢力の主力機や核ミサイルが博覧会のごとく押し寄せ、ジェネシスに近付けない。

 

 

目的を同じくするものが今までの行状により互いの行き違いが起きていたのだ。

 

 

そのように、三つ巴の戦いで皆が焦る一方、アスランの顔は無表情のままどこか暗い雰囲気を出しながらも淡々と連合軍艦艇に攻撃を仕掛けている。通常のストライクダガーや肩にキャノン砲を装備したストライクダガーを次々と撃墜し、護衛を失ったドレイク級の前上部に装備されたイーゲルシュテルン等の武装を破壊している。

 

 

そのどことなく機械的な行いに嫌な予感がしてならない。そのことを通信の繋がっているカガリに問おうとしたが凶報が入る。

 

 

「後方よりMS接近、数2、片方はフリーダムのようです。ザフトのシグナルを放つ機体を追跡中の模様」「地球軍艦隊、後退を開始。ですが、後退中の艦隊奥の本隊とみられる艦隊から核攻撃隊の発艦を確認。進路から目標は、当艦ならびにプラントと思われます!」

 

 

状況は悪くなる一方である。ヤキンの自爆がジェネシスの発射と連動している以上、もうあまり時間はない。急がねばならないが連合軍が邪魔をする。先ほどローラシア級を消滅させたように、戦艦など一発でたやすく消滅できる核ミサイルは対空火器で近くで爆破することも出来ない。

 

 

ジャスティスとストライクルージュにアストレイ数機の増加はありがたいが、僅かな増加で一体どれほど耐えられるだろうか。しかし、ふとある疑念も抱く。こちらに核ミサイルを放てるなら、何故ジェネシスに使わない?

 

 

 

ジェネシスはローエングリンに耐えるといえど、核攻撃に耐え切れるとは必ずしも言い切れない。多少のダメージであろうともジェネシスの全力を防げる可能性はあるのに。

 

 

 

そこまで考え、ラクスはある考えに至った。連合軍の狙い、それは陽動。つまり何かジェネシスに行った可能性がある。それはまずい。ジェネシスを破壊するのがこちらでなければあまりよくない。

 

 

こちらの攻撃によって目に見える成果が必要だ。艦橋に詰めているもの達やクサナギのオーブの方々、そしてアークエンジェルの皆はそうは思わないであろうが、そのほうが後々何かと都合がいい。

 

 

接近してきたザフトのシグナルを発する不明機、外見からしてフリーダムやジャスティスの兄妹機は自分たちだけでなく、核ミサイルへも攻撃している。連合軍艦隊が撤退したことで余裕が生まれたアストレイ隊も核ミサイルの迎撃に向かい、少しずつだが余裕は出てきた。

 

 

 

それゆえか、沈黙を保ってきたアスランから通信が届く。

 

 

(ラクス、俺は今からジェネシスに向かい、内部でジャスティスを核爆発させる。カガリは残って迎撃していてくれ!)

 

 

そう言ったのも束の間、スクリーンに映るジャスティスを示す光点は急速にエターナルから離脱する。艦橋から見えていたジャスティスは見る間に小さくなり、視界から消えていった。一拍をおいてストライクルージュも後を追っていく。

 

「アスラン、カガリさん!」

 

 

悲痛な叫びが艦橋に木霊する。その叫びはアスランが危険を冒そうとしているが故の焦りか、ラクス自身の狙い通りに行くか否かを心配してなのか、誰もわからない。

 

 

 

 

アスランはジャスティスを駆り、急ぎジェネシスへ向かっていた。バッテリー駆動のMSと違い、核動力機のジャスティスは継戦能力が高い。背部に搭載された巨大なリフター、ファトゥム-00はメインスラスターとして活用され、他の追随を許さぬ加速をしていく。

 

 

現状は厄介この上ない。ジャスティスの兄弟機と思われる新型機とフリーダムの戦闘がエターナルとクサナギの周辺で行われ、さらに核ミサイルが襲い掛かっている。核ミサイルは数に限りがあったのか次第に減ってきたため、アストレイに母艦の護衛を任せてジェネシスに急行する。そうしていると後方から追いかけてきたカガリから通信が入った。

 

 

(どうするつもりだ!?)

 

 

もはや決まりきったことだ。エターナルとクサナギの近くにいたのは短期間であったが得られた情報は非常に有意義だった。ジェネシスの外装はクサナギの陽電子砲一斉射とエターナルの砲撃による同時攻撃すら耐える強固な守り。

 

 

いくら核動力機のジャスティスと言えど効果はないに等しいだろう。だが、それは外からの攻撃に限った話だ。核動力ということはすなわち、核を用いることができるということだ。いくら強固な外装をしていようとも内部まで強いとは限らない。ジャスティスの核エンジンを用いれば容易く破壊できる可能性はある。

 

 

「ジャスティスをジェネシス内部で核爆発せる。お前は戻るんだ、カガリ!」

(そんな、そんなことをすればお前は…)

「これは、こんなことをしたパトリック・ザラの息子、アスラン・ザラがしなければならないんだ。お前はオーブを守らなきゃならないんだ。ついてくるんじゃない!」

 

 

そう言い、ジェネシス内部に通じると思われるハッチに向けファトゥム-00のビームを放つ。核動力により通常の機体よりも高い威力を持つその一撃は簡単にハッチを破壊し爆発による煙がジャスティスを包む。同時にアスランは背部のファトゥム-00を排除し、背部から同様にジェネシス内部に侵入しようとしたカガリを入れないようにする。

 

 

 

僅かに自分の名を呼ぶ声が通信から聞こえてくる。ファトゥム-00との衝突により距離が離れた結果、声が聞こえにくくなったのだろうか。欲を言えばカガリとは一緒にいたいと思う。だが、この愚かなことを仕出かした者の息子としてけじめをつけねばならない。

 

 

その決意と共にジェネシス内部を進むアスランは煙を超え、ストライクルージュが追ってきてないことを確認した。そして、しばらく進み同じ構造の通路を進んでいると奥から漏れ出す眩いばかりの光の奔流がスクリーンいっぱいに広がっていった…。

 

 

同時刻、ジェネシスはコーン状の集光装置において核爆発による莫大な熱量と光の奔流が確認された。ジェネシスに近づいていた各陣営が一瞬停止する中、ジェネシス内部から集光装置での核爆発を凌駕する圧倒的な熱量が放出され、大小の破片を全方面に撒き散らしながら盛大に爆発。集光装置が一瞬で爆発していくのを確認し、同方向に注意を払っていた各勢力はこれを目撃することになった。

 




感想・批評お願いします。


機体の設定集とか載せたいんですけど小説の中に一話分放り込むのはありなのですかね?一応登場人物紹介とかを載せるのは質問掲示板見た限りありみたいですけど、あまりお勧めできないみたいですし…。作品オリジナル機とか登場人物、原作との違いとかを載せるつもりです。場合によっては活動報告欄に載せるかもしれないです。


空白期のプロットはできています。10月と11月中旬までは忙しいのでもう一話今月中に載せる予定です。

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