機動戦士ガンダムSEED 技術試験隊の受難<一時凍結>   作:アゼル

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お待ちになっている方がいましたら長らくお待たせしました。あまり暇がありませんでしたのでストックをためてます。現在ストックは空白期を書いてます。暇を使ってDESTNY本編直前まで書いて行こうとしていますので月一の更新になるかもしれないです。


第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦 Ⅳ

キメラ隊とジブリール派ブルーコスモスによる混成艦隊がザフト艦隊を突破せんと猛攻撃を行っている頃、アズラエル派艦隊は二発目のジェネシスによる攻撃により核攻撃を決意し、キメラ隊から派遣されたコーネリアス改級砲撃艦とドミニオンの攻撃力を活かして敵陣に侵攻していた。

 

 

砲撃により侵入区画にいた敵をあらかた排除に成功したことで、砲塔の冷却を兼ねてコーネリアス改級砲撃艦からMSが射出されていく。

 

 

コーネリアス改級砲撃艦は従来であれば格納庫の先端部分である場所にローエングリンが搭載されゴットフリートが上部ではなく、両舷の側面に各二門ずつ装備された艦だ。アークエンジェル級であればゴットフリートを装備している両舷上部の場所は、ジャンク屋組合で運用されているコーネリアス級輸送艦リ・ホームと同様にMSの出し入れが可能となっている。今回は狙撃レーザー部隊はおらず、代わりにMSやMAの射出口となっている。

 

 

 

 

コーネリアス改級砲撃艦から射出されるMSの大半はストライクダガーだ。ストライクダガーのどれもがキメラ隊の機体ではなくアズラエル派ブルーコスモス所属機である。本来であればキメラ隊の艦船のため同部隊所属機が射出されるがキメラ隊の機体は無限に存在しているわけではない。

 

 

 

 

まして、ジェネシスというトンデモ兵器を破壊しに行っているので派遣できる数には限度があり砲撃艦と戦闘狂、拷問狂いとその護衛機しか派遣されていないのだ。では、何故砲撃艦からブルーコスモスのストライクダガーが射出されるのか。

 

 

 

 

答えは簡単だ。ザフトのジェネシス発射により母艦を失ったMS隊のための臨時的対応だ。キメラ隊は限られた物資でやり繰りしていたためコーネリアス級輸送艦にも最低限武装を施し、MS母艦としての能力も与えていた。だが他の部隊はキメラ隊のように限られた物資でやり繰りする必要はなく本部に申請し、時間はかかるが必要に応じて補給を受けていた。

 

 

 

そのためキメラ隊以外の部隊に所属するコーネリアス級輸送艦にMS母艦としての機能はほぼなく、病院船や単純にビームライフルなどの補給物資を満載にしている艦のみで整備は期待できなかったのだ。結果、少数しか配備できないが母艦としての能力を持つ砲撃艦にもMSが搭載され核攻撃隊の護衛をするべく両舷より計四機のストライクダガーと数機のデュエルダガーなどが出撃した。

 

 

四機のストライクダガーは事前に出撃していて呼び戻された後期GATシリーズの一機、ソードカラミティに合流するべく移動していく。ソードカラミティはというと、核攻撃隊を迎撃しに動いたザフトのMS隊と既に交戦を開始していた。

 

 

 

 

ザフトの迎撃部隊は連合軍から強奪したデュエルを筆頭に量産機のゲイツやシグー、そしてジンなどの様々な種類の機体だ。それに対してソードカラミティのパイロット、コルテスは機体の両腕に対艦刀を持たせ向かってくる敵機に対し胸部のスキュラとグリップエンドのビーム砲を共に呼び戻された新型機、カラミティ、レイダー、フォビドゥンやバスターダガーなどと共にそれぞれの武装を解き放って道を切り開く。

 

 

連合製砲撃機の発展型のカラミティ系列機二機と量産機であるバスターダガーの火力は特に凄まじかった。カラミティ二機による大出力のビーム砲は連なるように接近していたザフトのMSを複数まとめて撃破していく。そして後期GATシリーズによる新型機の進撃は続く。生体CPUによる戦いは連携こそないものの、機体の性能もありエースパイロット並みの動きを見せる。さらにベテランパイロットのコルテスのソードカラミティが参戦し、遠距離機のバスターダガーのイリーナが加わったことにより破竹の勢いでザフトの迎撃部隊は隊列を維持できなくなっていく。

 

 

ソードカラミティという接近戦用機に高機動性を活かすレイダー、凄まじい防御力と曲がるビーム砲を保有したフォビドゥン、砲撃戦特化のカラミティとカラミティには劣るが高い砲撃力と狙撃力に加えて接近戦用にビームサーベルを装備したバスターダガーが暴れまわっているのだ。さらに、それらの機体の護衛にブルーコスモスのストライクダガーやキメラ隊のロングダガーが加わり壮絶な戦いがザフト、連合間で勃発していたのだ。

 

 

まともに対抗できるのは連合軍の前衛を務める新型機+αの部隊同様にPS装甲を持ったデュエルや戦争初期からの歴戦の猛者のみ。だがデュエルは高機動性を誇るレイダーによって押される状況で、戦争初期からの歴戦の猛者は護衛部隊のロングダガーにより抑え込まれていた。

 

 

 

 

 

ザフト側は必至だ。なにしろ自分たちが暮らす人工の大地は脆い。一発の核ミサイルでユニウスセブンが吹き飛んだように。ユニウスセブンが吹き飛んだ後、彼らは同胞たちが死んだことに嘆いた。だからこそ再び向かってくる多数の核ミサイルによって同じ事態を作り上げないように必死なのだ。

 

 

だがデュエルが抑え込まれ、ベテランパイロットたちも抑え込まれている状況ではいくら必死であり思いが強くても無駄なのだ。ザフトのパイロットたちはナチュラルめっ、と怨嗟の声を上げるがベテランパイロットを抑え込んでいるのはナチュラルではない。

 

 

 

GAT-01D ロングダガー。

 

 

 

ストライクダガーと同時期に開発された上位機種であり、ザフトの迎撃部隊を纏めるGAT-X102 デュエルのコンセプトを受け継いだ機体だ。本来は戦闘用コーディネーター、ソキウス用に開発されナチュラル用のデュエルダガーが開発された後は生産が中止されたはずの機体だ。

 

 

しかし実際はコーディネーターパイロットの多くを運用するキメラ隊の要請と運用データー確保のために再生産され、この核攻撃のための侵攻に運用されデュエルダガーなどと共に少数が出撃している。

 

 

プラントのコーディネーターにとってこの戦争はコーディネーターの未来をかけた戦いであり、ユニウスセブンの破壊によって同胞を殺されたことやそれ以前からの迫害などに対する報復だ。

 

 

だが、彼らにとっての同胞というのは所詮プラントに住むものたち限定だ。表向きこそコーディネーターのための戦いなどと言ってはいるが実際は違う。ユニウスセブンでの悲しみの代償として投下したニュートロンジャマーは地球の総人口約100億人のうち10億人以上を殺した。その結果はコーディネーターへの怨嗟の声。

 

そして真っ先に起きたのは地球内にいたコーディネーターの排斥。プラントに行かなかった、行けなかったを問わず多くのコーディネーターが犠牲となり、地球で暮らしていたコーディネーターの怨嗟と憎しみは元凶であるプラントのコーディネーターへと少なからず向かったのだ。

 

 

そして中立国オーブのコロニー、ヘリオポリスの崩壊。ユニウスセブンといったプラントのコロニー群と同様に仮初の大地でありナチュラル、コーディネーター問わずいたコロニーを平然と破壊したのは記憶に新しい。これらのことによりプラントのコーディネーターとそれ以外のコーディネーターの間には溝が少なからずある。

 

 

その溝を表す光景が今まさに核攻撃隊を守る連合軍部隊とそれを迎え撃つザフトの部隊の間で起こっているのだ。ビームライフルやフォルテストラに搭載された火器で多数のMSを撃破するロングダガーに乗る連合側のコーディネーター。そしてそれに対抗するザフトのコーディネーター。

 

 

なにもナチュラルだけがコーディネーターを、正確にはプラントを憎んでいるわけではないのだ。ザフト側は全く気が付いていないが、この戦闘はまさしくそのことを如実に表す出来事だった。

 

 

 

 

 

キメラ隊から派遣されたソードカラミティの戦闘狂やバスターダガーの拷問狂いを護衛するべくバスターダガーの前衛を務めながら援護射撃を行っていたロングダガーのパイロット、ハンス・シュミットはバスターダガーに対して接近戦を行おうとした二機のゲイツのうち一方をミサイルで牽制し、続くビームライフルによる攻撃でコクピットを貫いた。

 

 

 

本来、彼はオーブ解放作戦後に奪還に成功したビクトリア基地のマスドライバーによって地球から世界樹跡地基地に試験運用した105ダガーと共にすぐに向かうはずであった。だが、彼がコーディネーターであるということがマイナスに作用し、ブルーコスモス主義の者と機体を優先的に月基地に送っていたため彼はマクレガーやコルテスとは異なりかなり遅れて世界樹跡地基地に着くことになった。この遅れは乗機の105ダガーが他の者に移ってしまい、代わりとしてロングダガーが乗機となったのだ。

 

 

 

 

そんな彼に友軍機を撃墜され激昂したのかもう一方のゲイツはバスターダガーへ向かうのをやめてシュミットに向けてビームを乱射する。彼は内心馬鹿だな、と嘲笑しつつ、その攻撃を機体を動かすことで回避したがその隙をつくようにゲイツはさらに急接近し対ビームシールドの先端に内蔵されたビーム刃を展開し突き刺すような刺突を繰り出してきた。

 

 

ゲイツの厄介な点は連合軍のMSがビームライフルとビームサーベルを持ち替えて戦うのに対し、ビームシールドに内蔵されたビーム刃を展開するだけで即座に行動に移れる点だ。さらに言えば、連合軍のMSは機体左腕にシールドを装備し右腕に攻撃兵装を装備して戦うが、ゲイツは左腕のシールドからビーム刃を展開するので防ぐのが難しい。

 

 

仮にシールドで防いでもゲイツの腰に装備されたビーム砲内蔵型ロケットアンカーが接近戦で厄介だ。ロケットアンカーの長さは有限であるため、距離を稼げば無用の長物であるが、バスターダガーをかばっている状態ではそうもいかない。

 

 

仕方なく突きを繰り出すゲイツをシールドで防ぎながら、敵機の接近する加速を活かしてビームクローがシールドを滑るように受け流し、肩に装備されたリニアキャノンをゲイツに向ける。ゲイツは勢い余ってロングダガーに背を向ける状態であったため、情け容赦ない砲撃を食らう。

 

が、そこは迎撃部隊に組み込まれたパイロットといったところか。即座に機体のスラスターを用いて刺突の勢いを利用して姿勢を反転させ、至近距離で放たれたリニアキャノンの主要区画への直撃だけは何とか回避した。とはいえ被害はなかなかのものであり、右腕は付け根からもがれ、腰部に装備されたロケットアンカーを喪失し、まともな武装は左腕のビームクローと近接防御機関砲のみであった。

 

 

 

普通であればそこまで機体状態が悪ければ一時撤退するほどの損傷だ。しかしザフトの兵隊は退かない。損傷したゲイツは機体右側のマニピュレーターの喪失によりバランスを崩しているが退く気配がなかったため、シュミットはビームサーベルを展開し、切りかかる。

 

 

一方のゲイツはビームクローを展開したままシールドで防ぐ。しかし、ゲイツは損傷により拮抗することはかなわないのか徐々に押され始めている。そんな時、シュミットに通信が入った。

 

 

(その動き、貴様はナチュラルとは思えん!貴様もコーディネーターだな。なぜナチュラル共の味方をする!?)

 

 

驚くことにビームサーベルで切りかかったゲイツのパイロットからの接触通信であった。その言葉にシュミットは侮蔑の感情を覚えつつ答える。

 

 

「貴様らプラントの連中に味方する義理はない!何故コーディネーターだからといってそちらの味方をすることに繋がる!」

(貴様は血のバレンタインを忘れたのか!?残虐なナチュラル共の非道をっ!裏切り者めっ!)

 

 

吐き捨てるように言うその言葉に戦闘中であったが怒りがわいてくる。プラントにいる者のことしか考えず、地球にいたコーディネータのことを一切考えずに行動したのは一体どこのどいつであったか。エイプリルフール・クライシスが原因でいったいどれほどの地球にいたコーディネーターがつらい目を見てきたのか。そんなことすら考えられないのか、と沸々と怒りが込み上げてきた。

 

 

「こっちには貴様たちのプラントに入った記憶もなければ裏切った記憶もない。見ず知らずの赤の他人が死んだことへの復讐心も出ない!勝手に義務付けるんじゃない!」

 

 

そう言い、ロングダガーのスラスターを全開にしてビームサーベルでゲイツを押し切る。さらに、同時にイーゲルシュテルンを放ち、頭部カメラに傷をつける。牽制も込めた攻撃であったためか破壊とまではいかなかったが隙を作るには十分であった。

 

 

シールドから突き出ているビームクローに当たらないように右足でシールドを蹴り、敵機の密集する方向へゲイツを蹴り飛ばす。そして続けざまにリニアキャノンとミサイルを放つ。だが、それらの攻撃はゲイツがシールドを構えたままであったためゲイツを敵陣へとさらに押し出すという結果に終わる。

 

 

そして、件の機体は他の敵機により母艦へと帰還していく。シュミットは即座に迫り来るジンに攻撃を加えて撃破するが、敵機の動きが変化していく。撃破の途中から敵機はロングダガー隊の後方で遠距離攻撃を行うバスターダガーではなく、あからさまにロングダガーを狙うように変わったのだ。恐らくは敵陣後方に逃れたゲイツからロングダガーに乗っているのが彼ら視点でいう裏切り者のコーディネーターだという情報が流れたのだろう。

 

 

多勢に無勢。状況は最悪だ。だが、これは好機でもあった。敵が核ミサイル迎撃という当初の狙いを忘れてこちらに迫ってくれば、核攻撃の成功確率が上昇する。ドミニオンなどから出撃した友軍機は強力な機体が揃っており、ザフトの部隊は封殺できるだろう。

 

 

厄介なのはわずか三隻ながらも、侮れない戦闘力を保有するテロ部隊。昨日の戦いでも様々な妨害を行ってきたことから、今日もやってくるだろう。そう危惧しつつ、彼は迫りくる敵部隊を僚機と共に迎撃した。

 

 

 

 

 

結局のところ、シュミットの懸念は当たってしまった。プラント視点でいう裏切り者のコーディネーターが核攻撃隊にいたため、それの排除を行おうとした一部の部隊が動いてしまったことや連合軍側の新型機などに圧倒されて核攻撃隊は迎撃部隊をすり抜けてしまった。

 

 

そして発射された核ミサイルはコロニー群に向けて順調に進んだが、そこに前日同様忌々しい強化パーツを装備した核搭載MSやPS装甲の機体が出現し、核ミサイルは全て何もない空間で炸裂してしまったのだ。

 

 

プラントにとってはプラント防衛や連合軍への侵攻のための新型機を奪い、敵にNジャマーを教えたというテロリスト集団であったがコロニー群が無事でほっとした、というのが正直なところだろう。だが地球軍側としては最悪であった。いくら新型機などで構成された核攻撃隊の護衛部隊と言えど、ザフトの迎撃部隊に加えてテロリスト集団と対峙せねばならないのだ。しかもその集団の構成はバスターやストライクといった試作機やザフト側から強奪された試作機などの強力な機体だけではない。大多数を占める量産機はビーム兵器を標準装備しているアストレイなのだ。

 

 

装甲こそ薄いがビーム兵器を持っているのは十分に厄介な存在であった。しかも連合軍の護衛部隊は核ミサイルを狙う敵を倒さねばならない。つまりは敵が増えてしまったのだ。しかもザフトのように実弾兵器が主流ではなく、ビーム兵器主体の敵が。

 

 

必ずしもテロリスト集団とザフトが共闘するとは限らないが十分脅威と言えよう。そしてその影響をもろに喰らっている部隊は護衛部隊の要であり、護衛部隊の中で先陣を切っていた後期GATシリーズの部隊であった。

 

 

 

キメラ隊から派遣された機体の内の一機、ソードカラミティのパイロットであるコルテスはザフトとの戦闘を楽しんでいた。彼にとって戦闘は生の実感を直接味わえる場だ。戦前にボクシングで培った勘などを活かし、核攻撃隊に向かう敵部隊に対して突撃し、進路上の機体を次々と対艦刀の餌食にしていた。

 

 

そして共に先陣として突撃した後期GATシリーズの機体は好き勝手に戦い、三機の周りは乱戦と化していたがコルテスは核攻撃隊が敵部隊をすり抜けられるように突撃した後、敵右翼に向かい敵陣をかき乱していた。

 

 

彼が核ミサイルの爆発に気が付いたのはちょうど敵右翼で一方的に殺戮を行っている時であった。ソードカラミティが敵右翼をかき乱したことにより、すり抜ける余地があることを確認した一部のメビウスの一団がすり抜けた後、少し離れた宙域から大規模な熱量を感知したのだ。通常のMAといった兵器の爆発とは違う圧倒的な熱量。本来爆発すべき宙域よりも近くで爆発したことにより、彼は即座に悟った。

 

 

例のオーブの残存兵と連合軍とザフトから離脱した集団が現れたことを。コルテスは自他共に認める戦闘狂だ。だが彼は戦闘狂ではあるが兵士である。そのため軍規に反するようなことはたまにはしても脱走するようなことは考えもしなかった。

コルテスからすれば好き勝手に動ける傭兵という職業はなかなかに甘美なものがあるが、自分の好みに合わせた機体をそろえることは難しいしカスタマイズも難しい。現に今乗っているソードカラミティはコルテス用に独自のカスタマイズが施され、機体の脛の部分にビームサーベルが増設されている。これは対艦刀という強力だが実態を持つがゆえに脆いと考えたコルテスによる注文によるものだ。

 

 

このような改造が脱走すると好き勝手出来ない。それ故にコルテスは脱走してまで戦闘を行う連中を理解できなかった。いくら強力な機体ごと脱走しても使用していけば部品は摩耗していく。十分な補給が受けられねば使い物にならないのに使っている彼らを色々な意味でコルテスは理解できなかった。

 

脱走する理由も、脱走後も使用し続けられる機体なども。

 

 

 

そのような思いを抱きながら彼は機体を操り、敵機に接近する。一刀両断。その言葉がまさにしっくりくるように葬られるザフト迎撃部隊。そうして切り刻み続けながら進んでいると、敵部隊の端にまで到達したため、彼は新たな敵と戦うことになった。

 

 

突如自分に向けて放たれていた実弾の雨の中に緑色のビームが増えたのだ。それもザフトのMSのいるコロニーの方向ではない、反対側の方向から。カメラをビームが放たれたであろう方角に向けると、そこには橙色と白色のMS。M1アストレイというオーブの機体だ。

 

 

 

核ミサイルへの迎撃に向かった機体が、連合軍の機体を見つけて攻撃したのだろう。なにしろ彼らにとって連合軍は仇敵だ。祖国を滅亡に追いやり彼ら風に言う偉大な指導者を殺した国の兵なのだから。コルテスの機体は先陣を切っていた後期GATシリーズの機体の中でも最も戦闘を行っていたおり、一番槍といった状況での突撃だった。攻撃の対象としては申し分ないほど突出しており二機のアストレイはビームを乱射する。

 

 

 

そしてその二機と同様に重突撃銃を向けてくるザフト機。本来ならば味方するという確たる話もないはずである二つの勢力がコルテスに襲い掛かったのだ。それに対しコルテスの判断は早い。

 

対艦刀を構えたまま、一目散にアストレイに突撃する。後続の戦闘艦などを足しても大部隊のザフト側は多少機体を失っても後続の部隊が攻撃を行える。それに対してアストレイは母艦がいるが、ザフトのように友軍との連携を満足に行えるような状況ではない。僅か二機で目先の仇敵を襲ったことが災いしたのだ。

 

 

 

突如自らに向かい一心不乱とも思える突撃をするソードカラミティに狼狽したのか、アストレイ二機はビームライフルを乱射する。コルテスはそれを見るだけで確信した。こいつらは弱いと。

 

 

ある程度の距離に近づいたところでビームを躱しながら近づくソードカラミティに焦れたか、アストレイの内右側にいた機体が背部にマウントされているビームサーベルに手をかける。抜刀。そしてもう一機のアストレイの援護を受けてその機体は突撃した。だが、伊達に格闘戦を好んでいたコルテスではなかった。

 

「甘えっ!」

 

 

振り下ろされたビームサーベルをすり抜けるように躱し、振り下ろした勢いで前傾姿勢をとったアストレイの背中から対艦刀を持った左腕のひじの部分で小突くようにアストレイを押す。押された機体は勢い余って一回転する。これが地上であれば無様にも地面にキスしていただろう。

 

 

コルテスが狙うのはビームを放つもう一機。彼にロックオンされたアストレイはというとソードカラミティが小突かれた機体に近いために攻撃できなかった。そしてそれが命取りであった。

 

 

ロケットアンカー「パンツァーアイゼン」をもう一機に向けて放ち、捕えた機体を綱引きのごとく手繰り寄せ、擦れ違いざまに一撃。コルテスは思わずにやける。切り落とす瞬間に一瞬生じた人を切る衝撃がたまらない。

 

 

初めてこの感触を味わったのはいつのことだっただろうか。戦前の平和だった大西洋連邦内でボクシングをしていたころだっただろうか。それともストライクダガーに乗り込み、敵のコクピットを潰したときであろうか。ともかくいえることはもっとこの感触を味わいたい、という思いだ。

 

 

その思いと共に彼は小突かれてバランスを崩したマヌケに向かい、サッカーのボールをけるように蹴りをコクピット付近にぶち込み、ザフト部隊の方へ吹き飛ばすと何かの中毒患者のように飛び込んでいく。アストレイは装甲の薄さが災いしたか蹴りによる衝撃が、従来相手にしているザフト機に比べて潰した、という感覚が強かった。

アストレイの反応はない。つまり、今目の前にいる人型の中身は…。哀れなオーブ敗残兵の様子を想像し、再びニヤリといやらしい笑みを浮かべる。残るはザフト機だがいつ今しがた潰した敗残兵などが襲い掛かるかはわからない。火急速やかに目の前のザフト部隊を殲滅する必要がある。共闘されるのは厄介極まりないのだ。

 

 

 

現に機体のスクリーンに映る他の友軍機の中にはザフトと脱走艦隊の機体により共闘され、あと一歩のところで敵を撃墜することに失敗しているの者もいる。例としてレイダーがあげられるだろう。

 

 

ちらりとスクリーンで見たレイダーは強奪されたデュエルに対し機動力を活かして、デュエルを攪乱していた。それに対しデュエルはされるがままで、レイダーが攻撃した地点にレイダーが離れた数瞬後に攻撃をしていたずらにエネルギーを減らしているようであった。

そして、ついにデュエルの背後をとったレイダーの攻撃が直撃し、バランスを崩したデュエルにビーム攻撃が迫っていた。コルテスとしてはぜひとも敵のエリート様は自分の手で切り刻みたかったのに……、と迫る雑魚を潰しながら思っていたが、スクリーンに映るレイダーに背後から直撃が弾あり、デュエル同様バランスを崩していた。

 

 

コルテスはその瞬間下手人が何者か理解できなかった。いくら原型機が砲撃機のカラミティといえども離れた宙域で戦闘する機体の情報を即座に入手することは難しい。なにより迫る敵機を無視して索敵に精を出せるほど余裕はなかった。

 

 

うっとおしい。この時は戦闘狂と自身でさえ認める彼らしからぬ思いがよぎった。いくら敵を撃ってもその敵が雑魚ばかりでは飽きる。だがレイダーが、生体CPUが操縦する機体が被弾したのだ。攻撃した奴は運がよかったかエースか、そのどちらしか考えられない。

 

コルテスは確認を急ぐために目の前の敵にビームを乱射して遠距離にいる敵をまず葬り、続いてビームブーメランを放ち敵を攪乱し、群がってくる敵機から離れる。そしてレイダーがいた宙域の方向へ機体を向けると、連合側が危惧していた光景があった。

 

 

レイダーの戦闘はデュエルだけではなく、バスターも加わっているのだ。バスターはヘリオポリスでザフトに奪われたがアークエンジェルにより取戻し、捕虜ごとアラスカで消滅するはずであったが生き残ったアークエンジェルとともにオーブで確認されている。つまりは脱走部隊の機体だ。

 

 

これはまずい、という思いが頭をよぎる。レイダーは高機動性が売りの機体だ。武装も実弾兵器がメインでPS装甲持ちの機体には分が悪い。それに対しデュエルとバスターは奇妙と言えるほど抜群のコンビネーションを発揮して機動性の高いレイダーを封殺している。このままいけば、いずれは落とされる。そう思い至ったコルテスは機体を急加速しレイダーのいる方角へ向かう。

 

 

途中、ストライクダガー三機を拾いレイダーと対峙するデュエルに攻撃を敢行する。グリップエンドのビーム砲二門と胸部のスキュラ、そして連れてきたストライクダガーのビーム攻撃によりデュエルはレイダーへの攻撃をやめ離脱していく。同時にバスターもレイダーも離脱していく。

 

 

張り合いのない敵だ。そう思ったが任務を続行するため、ストライクダガーを伴い戦場に乱入してきた新手に向かう。乱入してきた敵はオーブの敗残兵が多数を占めているとの報告が以前にあった。こちらは連合軍。きっと奴らは今の連中のように不利になったとしても撤退はすまい。

 

 

そのような思いを胸に近くにいる敵機を確認する。するとほのかに赤いストライクとそれを護衛するように近くで戦闘するアストレイが二機。標的が定まり、にやりと普段異常に凶悪な笑みを浮かべたコルテスは三機のストライクダガーに指示をだし新たな標的に向かっていった。

 

 

混戦の中で生き残りをかけた戦いが苛烈さを増していた。

 




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