機動戦士ガンダムSEED 技術試験隊の受難<一時凍結>   作:アゼル

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これまでの話の幾つかを改訂しました。ナスカ級は知識人の名前が戦艦名となっているそうなのでボアズ追跡戦にて出たナスカ級をジェノバからマンハイムに変更。第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦 Ⅰに出てきた火器運用試験型ゲイツ改の状態もMSV戦記を再度読んだところ少々違ったため直しました。

その他、自分で発見した読みにくいだろうところを改訂しました。しばらく改訂を文章書きながら並行して行いますが、飽きずに読んでいただければ幸いです。


第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦 Ⅲ

ヤキン・ドゥーエ要塞を要としたプラント防衛艦隊の外縁部、プラント側ではなく先の連合軍の核攻撃への報復として放ったジェネシスを守るべく配置された艦隊にナスカ級戦闘艦マンハイムは存在した。突撃してくるであろう連合軍艦隊を何としても防ぐために単横陣を敷き、想定通り突撃してくるのであればT字戦法に近い形となるだろう。マンハイムはというと艦隊左翼、敵側から見て右翼の位置で周辺の艦船を指揮する役目を負ってこの場にいる。ボアズ要塞が核攻撃を受けて壊滅した後も生き残り、他の残存艦隊と共に逃げた際に追撃を受けたが何とか本国に戻れた実績が買われたのだろう。

 

 

実際、マンハイムとともに逃げ延びた輸送艦やその護衛部隊は大多数が今も周辺で任務に就いている。彼らの任務は放たれるまで存在を秘匿されていたジェネシスという兵器の護衛だ。ヤキン・ドゥーエとは少し離れた配置にもなっている。これは、この艦隊が損傷艦に比率が多いことに起因する。ボアズ要塞での戦闘後、本国に戻った戦闘艦群は大なり小なり損傷を負っていたが急ピッチで修理を受け戦闘が可能な状態の戦力として扱われていた。

 

 

さらにボアズ要塞のすぐ近くにいたか要塞内にいた艦は核に焼かれて消滅したが、防衛線を敷いていた艦船は本国まで撤退しようと行動を取れた。とは言え、なかなかうまくはいかないものであった。撤退艦群は途中に起きた追撃戦で何割かが削られてしまったことが連合軍との間にかなりの物量差があるザフトにとって最悪なことだった。このことは結果として、本来ならば地球と本国を結ぶ輸送艦にまで武装を施すことに繋がり、この防衛艦隊の戦力として戦列に加わえられている状態に繋がる。

 

 

そしてマンハイムの指揮官には心配事があった。それは艦隊のMS隊はボアズ要塞で辛くも生き残ったパイロットたちのためにナチュラルへの怒りは激しく、強力な戦力となるのは頼もしい。だが、仮にここを抜けられた場合に敵部隊と戦闘するべく配置された艦隊群が頭痛の種であった。

 

 

その艦隊は左翼に展開するマンハイム率いる小艦隊のような酷いなりに連携して補う姿勢を見せず酷い有り様だ。無論、左翼だけでなくマンハイムが所属する艦隊自体も酷いが。その内情はボアズ要塞の陥落と撤退艦群の戻りの遅さにより徴兵された実戦経験のないパイロットによって占められた艦隊だ。MS母艦もこの艦隊の艦よりも損傷の割合が多いか、輸送艦に武装が施されただけの艦が多数存在するという地球から物資の来ないザフトの悲しい事実を示していた。

 

 

ヤキン・ドゥーエにある司令部の考えとしてはPS装甲で守られ、たとえビーム兵器でさえ防ぎきれるジェネシスに連合軍艦隊が到達しないよう時間稼ぎをしたいと考えているのだろう。事実、コロニー群には最新鋭量産機であるゲイツと連合軍より奪ったデュエルなどの精鋭が送られている。戦闘艦も万全の状態のものが送られており、迎撃態勢は万全でこちらとは雲泥の差がある。

 

 

 

そのため出来ればここに敵艦隊が来ないでくれることを祈るばかりであったが、その思いは通じなかった。

 

 

「12時の方角より大型の熱源多数、急速に接近。ネルソン級、ドレイク級、アガメムノン級、コーネリアス級無数に、いえ多数確認!輪形陣の形でこちらに突っ込んで来る模様!!」

「くっ、そううまくはいかないか。MS隊を発進させろ。なんとしてもここで食い止めるんだ!」

 

 

 

ナスカ級を筆頭に、ローラシア級の艦上部などにまで搭載されたMS隊が出撃する。いままでの戦いであれば互いのMS対MAあるいはMS対MS、そして戦闘艦対戦闘艦という戦いであった。MSやMAは互いの戦闘後、戦闘域より脱し敵陣に侵攻した機体が敵艦隊に攻撃を加え、それを艦が迎撃するという流れであった。だが、それを想定してMSを出撃させたザフトへの連合艦隊の反応はザフト側からして想定外と言わざるを得ないものであった。

 

 

それはローエングリンを中心とした艦砲射撃だ。それもMS隊目掛けての砲撃であった。無数に存在するネルソン級などから放たれるビームが、陽電子砲が連合軍艦隊めがけて突き進んでいたMS隊に襲い掛かる。さらに敵艦隊のドレイク級から放たれたミサイルにはニュートロンジャマーへの対策なのか時限信管で爆発するように細工されており、MS隊のいる付近で爆発していく。中には散弾を爆発直後に撒き散らさすミサイルまで混じっていたのか艦隊にまで届いた。

 

 

愚直に敵艦隊へと突き進んでいたMS隊の被害は相当なものだ。三機で一つの小隊を形成し、まとまった状態で突き進んでいたため陽電子砲などの連射により一度に複数の機体が消滅していく。うまくかわすことができたMSには自爆するミサイルと散弾のシャワーが襲い掛かるという二段構えの攻撃だった。

 

 

盾を持っているシグー以降に開発された機体は何とか盾を利用して最小限の被害で済んでいたが旧式機であるジンはそうもいかない。ジンが次々と撃破されているのだ。今大戦において開戦初期より運用され、ザフト全体を見回しても一部のベテランや指揮官クラス以外のパイロットの多くにジンが回されている。一部のエースは高機動型のジンであるジン・ハイマニューバに乗っているという例外はあるが、それはあくまでも例外だ。今、この場にいるノーマルジンはもはや太刀打ちできない空間となってしまった。

 

 

そして、そのようにMS隊の多数がジンで構成されていたのにもかかわらず、その大多数が敵艦に接近できずに落とされればどうなるか。答えは単純明快だ。MS隊はもはや攻撃部隊としての機能をほとんど喪失してしまっているのだ。仮にPS装甲であれば……、という考えも出るがPS装甲の大部分をジェネシスに回している中ではワンオフ機か試作機に回すのが精一杯であり、事実上不可能な話だった。

 

そうして多数の敵艦からの猛烈な攻撃によりMS隊の数が激減すると標的は次第に艦隊に移る。一部の砲撃がザフト艦隊に向けられる。ザフト側も想定外の事態から立て直し、アンチビーム爆雷などで必死に防ぎ、防戦一方になると敵艦隊がついに本格的に動き出す。

 

 

「敵艦隊よりMS並びにMAの出撃を確認!急速に接近しています!」

 

 

ついに敵艦隊は攻撃部隊を繰り出してきた。そう思っているのも束の間に、さらなる情報が指揮官に伝わる。

 

 

「敵MS並びにMA、二つの集団となり艦隊上部と下部に分かれ突破を図っている模様です。ルート上のMS隊を撃破しつつ一直線に向かっています。既に我々のMS隊は大多数が撃墜されているので、このままではっ!」

 

 

 

敵艦隊の砲撃への対処に精一杯の中、オペレーターの悲痛な叫びが艦橋内を木霊した。

 

 

 

 

「コスモグラスパー中隊、敵直上より突撃します」

 

 

キメラ隊の誘いに乗ったジブリール派艦隊のネルソン級戦艦の艦橋で艦長を務めるイアン・リー少佐はオペレーターから戦況を聞いていた。戦況は圧倒的に自軍有利に進んでいた。

 

 

キメラ隊の旗艦を中心に構成された輪形陣は正面に展開したキメラ隊のコーネリアス改級の陽電子砲と右翼と左翼にそれぞれ展開したジブリール派の戦艦など合わさった艦隊からの猛烈なビームは地球連合軍の圧倒的な力をザフトに見せつけていたのだ。

 

 

既に敵MS隊だけでなく敵艦の一部にも被害が生じている。しかもこちらの機動部隊は順次発進しており、直上から攻撃を加えようとするコスモグラスパー隊とは反対方向の直下から彼の本来の所属である艦隊から発艦したメビウスが襲い掛かろうとしていた。

 

 

彼ら、ブルーコスモスの中でも現主流派のアズラエルの一派とは異なるジブリール派の部隊はアズラエルやサザーランドの指揮する艦隊とは異なり核ミサイルを持っていない。コーディネーターの殲滅は派閥が違えど願っていることではあるがせいぜいが核攻撃隊のための囮を務めるしか術がなかった。

 

 

だが、そこに降ってわいたように話を聞かされるまで存在すら知られていなかった第二の核攻撃隊との共同戦線。これに飛びつかない手はなかった。そして、キメラ隊と共に行動する艦隊の中でも側面に位置する小艦隊を率いるイアン・リー少佐は敵艦隊のうち損傷の少ないナスカ級を狙うことにした。

 

 

「主砲並びにミサイル一斉発射!目標は敵艦隊右翼のナスカ級。MA隊に当てるなよ!」

 

 

直上より突撃したコスモグラスパーが敵艦隊に擦れ違いざまに攻撃を行いそのまま敵艦隊をすり抜け奥へ飛んでいく。リー少佐たちブルーコスモス艦隊所属のメビウスが傷ついた敵艦に対艦攻撃を行うまで一旦猶予がある。それまでの間、彼の巧みな指揮のもとリー少佐率いる小艦隊は目標に仕立てた敵艦に出血を強いることに成功したのだった。

 

 

 

 

一方のザフト艦隊は悲惨であった。いくら個では優れていようとも一つの艦を運用するだけで多くの人々が集団で動かねばならない。まして艦隊での戦いではさらに多くに人が一致団結して戦うのだ。士官などの階級を持たず、個人の優秀さに頼る彼らが戦闘序盤に戦闘の軸となるMSが大多数喪失してしまうとどうなるか。それは一つの艦の砲門数や艦の数も多く、統率までもが取れている連合軍に一方的な攻撃を食らうことに直結している。根強いMS偏重主義のザフト艦隊はアンチビーム爆雷で防ぐがそれも完全ではなく、時折届く散弾やアンチビーム爆雷で防ぎきれなかったビームなどにより多くが被弾していた。

 

 

そんな状態で艦隊を突破する機影が複数存在した。その機影は二つの集団となって被弾を続けながらも必死に地球軍艦隊に反撃をしているザフト艦隊に最小限の攻撃を敢行していく。

 

 

一つはコスモグラスパーによる直上から直下に向かい、そのまま艦隊後方へと機首を上げることで突破する一群。もう一つはエールパックを装備し、同様に直下から最小限の攻撃を行う105ダガーとダガーLの部隊だ。通り魔的なコスモグラスパーの部隊はアンチビーム爆雷では防げない実弾で対空火器や直援機を攻撃し突破したため被害はさらに大きくなっていく。

 

 

被害を拡大させていくザフト艦隊。そんな艦隊にさらなる攻撃部隊が現れる。開戦初期にジンにさんざんやられてきたメビウスによる攻撃隊だ。コスモグラスパーに比べ、機動力も攻撃力も圧倒的に足りない機体だが、今ここでは役に立つ機体であった。メビウスに搭載された有線誘導式対艦ミサイルやバルカン砲は、既に傷つき直援機すら満足にいない艦隊に襲い掛かる。

 

 

特にメビウスを運用しているのはコーディネーターに嫌悪と憎しみの感情を持っているブルーコスモスにより構成されていたためその攻撃は苛烈であった。

 

 

 

 

あるメビウスのパイロットは標的と定めたローラシア級に向かい接近しながら対艦ミサイルを放った。直下への対空火器が少ないうえに、被害の大きかったローラシア級は満足な回避もできず被弾する。それに満足した彼はさらに接近した。だが、それが仇となったか彼の乗るメビウスは被弾した。ジンによって馬乗りされての直接攻撃や背後からの攻撃ではないため撃墜は免れたが時間の問題である。

 

 

そのため、彼がとった行動はミサイルがない状態でも敵を葬れる方法。つまりは特攻だった。接近するにつれ激しさを増す対空砲。対するメビウスは機体の各所から火を噴きつつもバルカン砲を放ち接近する。そしてついにはコクピットにも被害は生じ、パイロットに破片が突き刺さっていく。

 

 

だがそれでもパイロットは操縦桿を離さない。既にコクピットは火花と彼の血液が乱舞する空間と化していた。突撃するメビウスのパイロットの目の前に映る画面には敵艦の艦橋が。慌てふためく宇宙人どもの姿が映る。そして彼は艦橋に直撃する直前に血を吐きながら、ありったけの気力を振り絞り叫んだ。

 

 

「青き、清浄なる世界のためにっ!!!」

 

 

血を吐きながら壮絶な叫びを吐き出しつつ、彼は爆発の中に消えた。一瞬、エイプリルフール・クライシスで亡くなった家族の幻影を見ながら……。

 

 

 

 

ローラシア級が特攻を受けたとき、ナスカ級戦闘艦マンハイムはイアン・リー少佐が乗艦するネルソン級戦艦とそれに随行する艦隊と砲火を交えていた。互いの砲門を全開放し全力で戦う中、マンハイムの右に並ぶようにして戦闘を行っていたローラシア級にメビウスが特攻を仕掛けた瞬間を彼らは目撃した。各所から火を噴きつつ艦橋に飛び込んだメビウスは衝突と同時に爆散したが、直撃を受けたローラシア級もただではすまなかった。艦橋にメビウスという名のミサイルよりも巨大な兵器を受け、さらには艦を制御する人員を失った艦は回避のためにスラスターを動かしていたのが災いし、マンハイムへと接近してくる。

 

 

 

「緊急回避!」

 

 

慌てて指揮官が叫ぶがそれは間に合わなかった。マンハイムの右舷に接触するローラシア級。制御不能に陥り、速度を緩めることすらできなかったローラシア級はナスカ級の右舷の船体を潰しながら接触箇所が爆発する。マンハイムも同様に右舷に積まれていたミサイルなどの火器や推進剤などが引火し右舷が大破した。だが直前に指揮官の命令により回避しようとしていたため何とか被害は右舷に留まる。スラスターを全開にしたため、移動速度に衝突した際の反動が加わりローラシア級の爆発による被害を何とか軽減出来たのだ。だが被害は深刻であり、事態も深刻さを増していた。

 

 

リー少佐らの艦隊がこの好機を逃すはずがなかったのだ。ローラシア級との衝突によりマンハイムの火器の一部、右舷の66cm2連装レールガンと120cm高エネルギー収束火線砲を爆発の衝撃により喪失していた。この出来事としては一瞬のことはマンハイムの運命を分ける出来事と言ってもよい状況を作ったしまった。

 

 

回避のために右舷スラスターを全力で動かしたことにより艦の位置の変化による敵艦へのビームの照準の変更。そして衝撃による火器の喪失で砲火が途絶えたのだ。一方の連合軍はザフト側の事情などお構いなしに砲撃し続ける。

 

 

そのため次の瞬間、艦橋と衝突箇所から火を出し、ナスカ級が元々いた場所付近で止まっていたローラシア級をビームが貫いた。続いて多数のミサイルが降り注ぎ、ローラシア級は宇宙の塵と化すべく無事な乗員を巻き込んで火球と化した。しかもローラシア級の爆発はローラシア級の乗員だけでなく破片の一部が凶器と化してナスカ級を襲う。

 

 

僚艦との衝突による被害と連合軍艦隊からの砲撃を必死に耐えていたナスカ級は破片から逃れる術を持たなかった。というよりもザフト側が防ぐ対象はあくまでも敵艦隊からのビームであるためアンチビーム爆雷が有効に効果を発する対象は結局のところビームなのだ。破片といった物理的なものを対象とはしていない。そのためさらに逼迫した状態に陥ることになるはずだった。

 

 

 

破片による被害を受けた次の瞬間、ジェネシスが発射されたのだ。そのため一瞬だが気をとられた連合軍艦隊からの砲火は激減する。マンハイムの指揮官はこの隙を逃すほど馬鹿ではない。ボアズ撤退戦において友軍艦隊が奇襲でやられていく中、最も非力な輸送艦を率いて脱出に成功したのは彼の手腕によるところが大きいのだ。そんな指揮官は咄嗟に艦橋員に指示を出し戦線を離脱する。

 

 

「残存スラスターを全力解放しろ。ただちに戦線を離脱する!」

「スラスター全開。戦線離脱します」

 

 

残った方向転換用スラスターなどを全開しただちに戦線を離脱する。無事な左舷に向け艦を傾け、友軍が展開する左翼を突破する。元よりプラント防衛艦隊の外縁部のさらに離れ小島のような区画に配備された艦隊だ。艦体から離れでもしたら単艦となり、危険は増すが今は戦線に残ることすら危ういのだ、

 

 

そうして、彼と彼の率いるナスカ級は戦線を離脱した。

 

 

 

 

その頃、砲撃を一時的に少なくさせてしまった連合軍艦隊、正確にはジブリール派ブルーコスモスとキメラ隊混成艦隊は事態の把握に努めていた。二度目のトンデモ兵器の発射。照準次第では地球滅亡なのだ。

 

 

 

「どこだっ、どこに向けて放たれたっ!?」

 

 

月基地やそのほかの宇宙基地から派遣された地球連合軍の4割を薙ぎ払った一撃。それを恐れての核攻撃だったが、もしも地球にでも放たれていたのならば落とし前をつける意味も込めて目標をトンデモ兵器からほかの、それこそコーディネーターが暮らすコロニーに向けて放つよう変更せざるを得ない。目には目を、歯には歯を。地球を撃ったならプラントを。因果応報のくだりは永遠と続き、撃ったから撃ち返す世情を表す一撃となる。

 

「お待ちください…。これは、月。プトレマイオス基地です。しかもこの攻撃で射線上に我が軍の部隊がいた場合、さらなる被害が予想されます!」

「っ!」

 

 

旗艦では事態の把握に努めていたため、その情報に愕然とさせられた。キメラ隊は第二陣を経由して第三陣である月基地からの増援部隊は分散するよう連絡は送られてはいるが確実にそうなるとは限らない。それに今存在するキメラ隊を除いた派遣部隊の大多数の母港であり、司令部であるプトレマイオス基地の消滅は痛い。

 

 

 

この事態に対して真っ先に動いたのは意外にもブルーコスモスの艦隊であった。それも側面から突撃するジブリール派だけだはなく他の宙域で行動するアズラエル派の艦隊も同様であった。アズラエル派艦隊の一角に存在するドミニオンを中心とした核攻撃隊は舵を切り、プラント殲滅に動き出す。ドゥーリットルなどの核攻撃隊を搭載したアガメムノン級宇宙母艦やそれを護衛するネルソン級やドレイク級、そしてキメラ隊から差し向けられたコーネリアス改級砲撃艦などが一斉に動き出す。

 

 

艦隊は核攻撃の中核となる守るためにアガメムノン級を中心に配置し、コーネリアス改級砲撃艦などの砲撃戦に強いドミニオンなどが並び、向かう先にいる敵を蹴散らしながら突き進む。

 

 

一方のジブリール派艦隊で真っ先に動いたのは混成艦隊の一角、右翼で行動するイアン・リー少佐指揮下の艦隊だ。少佐は直前まで集中攻撃を浴びせていたナスカ級がこの混乱に乗じて戦線を離脱したことを確認すると、即座に標的を変え速やかな突破を目指す。

 

 

「敵艦隊の現状を報告しろ」

「敵艦隊右翼、陣形を維持できていません。既に艦隊中央と分断しつつあります。恐らく指揮系統に混乱が起きていると思われます」

 

 

リー少佐にとってはまたとない機会であった。ここで活躍すればジブリール派の中でも功績は輝かしいものとなる上に核攻撃の成功の礎になるのだ。敵が混乱しているうちに叩くのは常法といったところだろう。

 

 

「よし、周囲の僚艦に打点。敵艦隊右翼の分断箇所に火力を集中させ、右翼を分断させる。このまま敵艦隊を磨り潰し、核攻撃隊の進軍ルートを確保しろ!」

 

 

 

右翼でリー少佐の艦隊がザフト艦隊左翼を切り崩しているが、もはや戦闘の勢いは地球連合軍側に傾いていたのは確実だった。中央で攻撃し続けるコーネリアス改級砲撃艦は陽電子砲だけでなく、片側に二門のゴッドフリートを装備し合計4門のゴッドフリートと陽電子砲を搭載した艦だ。それにネルソン級戦艦などの砲撃が加わっていたためにぎりぎりで陣形を維持できてはいたがそれも時間の問題なのだ。守ってくれるはずのMSもビームや陽電子砲の奔流にのまれ、守りのいない艦艇はメビウスといったMAにすら良いカモ扱いされる状況だ。

 

 

とどめとなったのは結局リー少佐の艦隊が右翼を切り崩したことであったが、陣形も艦隊を維持できなくなったザフト艦隊に対し、混成艦隊はとどめとして旗艦周辺に配置されていたMS母艦から放たれた打撃部隊による攻撃でいともたやすく崩壊し、潰走することになる。アンチビーム爆雷などの対ビーム兵器では防げないリニアキャノンなどを装備した援護・突撃仕様のストライクダガー等に攻撃され散々に蹴散らかされていったのであった。

 

 

 

 

一方、ある程度ザフトのMSや戦闘艦を磨り潰してから出撃した突撃部隊、105ダガーなどのMSやコスモグラスパーといったMAによる部隊はジェネシスが発射されたのとほぼ同時に新たな艦隊を捉えていた。その艦隊はナスカ級戦闘艦マンハイムの指揮官の頭痛の種であった損傷艦と新兵からなる防衛艦隊だ。

 

 

だが、防衛艦隊とは名前だけで実際は素人と損傷艦による足止め用の部隊に過ぎない。しかしマクレガー達はそんなことは知らない。彼らは友軍混成艦隊が来るまでに進軍宙域における情報と、敵部隊を葬るために活動を開始した。

 

 

真っ先に動いたのはマクレガーのパーフェクトダガーであった。今敵艦隊に向かっている中で最も火力のある機体ということもあり、エールストライカーの機動性を活かしてアグニの射程まで近づく。当然、敵艦隊もマクレガー達のMSとMAによる部隊に気が付いており、MSを向かわている。

 

 

それに対峙するのはダガーLなどの僚機だ。105ダガーなどの僚機はパーフェクトダガーと同様に機動性を活かし近寄る敵機を翻弄しつつビームライフルによる射撃で撃ち落としていく。対峙するザフト製MSの動きはぎこちない。しかも向かってくる敵機は全てノーマルジンかシグーといった実弾兵器しか装備していない機体ばかりだ。マクレガー達突撃部隊のMSは10機程の部隊であったが敵機がゲイツのようなビーム兵器使用可能な機体が一切いなかったため、戦況は五分五分で進んでいた。

 

 

 

そしてコスモグラスパーによるMA隊は敵艦隊に攻撃を仕掛ける。敵MSの大多数はダガー隊に目が行き、直援の機体くらいしか艦隊には残っていない。そこでMA隊はボアズ追跡戦においても行った作戦をとった。それは一撃離脱による通り魔作戦だ。

 

 

無論、対空砲火による迎撃が行われているが損傷艦と元が輸送艦による艦隊のため従来の艦隊よりも迎撃の弾幕が薄い。だが、それでもコスモグラスパーのうち数機が撃ち抜かれる。艦隊近くで爆発を起こす友軍機。犠牲を出しつつも突撃したコスモグラスパーは持ち前の火器を全兵装を乱射しつつ敵艦隊を突破し、損耗状態を確認しつつ再度の攻撃準備に入る。

 

 

機体を反転させ、再び攻撃準備に入った突撃を敢行しようとするMA隊。そして突撃するために敵艦隊を見据えたMA隊は敵艦隊のうち一隻が赤いビームに貫かれて盛大に爆発する様を目撃する。マクレガーのパーフェクトダガーがアグニの射程まで近寄ることに成功したのだ。続いて三連射。一撃でコロニーの外壁に穴をあける砲撃は輸送艦と損傷艦による艦隊にはまさしく死神のように恐ろしいものであった。

 

 

 

アグニより発射されるビームに貫かれて爆沈していくザフトの艦が続出する。さらにパーフェクトダガーが敵艦隊へと近寄っていく。しかも向かう先にいる敵機を対艦刀で切り裂きながら。その獅子奮迅のごとき活躍は友軍の切り裂きエドを彷彿させるキレの良さをだしている。

 

 

MA隊はその様子を見つつ、突撃体勢を取る。数の上では負けているがビーム兵器を保持した機体などにより質では自軍が有利なのだ。このまま戦闘を続ければ遠くない未来に敵艦隊を食い破れる。その思いと共に再度の突撃を行おうと隊列を組み直し、敵艦隊に向かった。

 

 

 

 

が、何も女神の微笑みは連合軍にばかり向けられるものではない……。

 

 

 

先頭を行く隊長機に一筋のビームが直撃する。隊長機であるコスモグラスパーは爆発四散する。さらに突然の攻撃に驚いたMA隊の隊列に向けて無数の機関砲とビームが降り注ぐ。牽制の意味合いが強かったのか、機関砲のほうが多かったため撃墜された機体は先頭にいた隊長機と運の悪かった数機に留まるが、勢いを削がれたMA隊は四方に散り、攻撃に移ることはかなわない。

 

友軍混成艦隊から出撃し最初の艦隊に突撃した時と違い、友軍艦隊はおらず支援砲火も得られない中で数を減らした彼らにできることはメビウスとは異なりMSに匹敵する機動性を活かし敵機から逃れMS隊と合流するし戦闘すること。

 

 

彼らは即座に友軍部隊の戦う宙域に急いだ。

 

 

 

 

ちょうどその時、一人突出して敵艦に向かい対艦刀の先端の実体剣をエールストライカーの加速力を活かして敵艦に突き刺し中ほどまで貫いたところでビーム刃を展開。そのままスラスターを吹かして敵艦を横一文字に切り裂いたマクレガーは背後で起きた爆発による熱紋を探知して気が付いた。必死に逃げるコスモグラスパーを追う灰色の機体。

 

昨日の出撃で鹵獲した黄色いゲイツの改良型に酷似している。違いがあるとすればケルベロスを模したのか中心部が黄色く片翼を模したマークをシールドに施し、背部にオーブ解放作戦に現れた赤い機体の装備に酷似した兵装を持っているところか。彼は迷うことなく目の前の敵艦にミサイルを放ち撃破するとともに反転し敵機に向かう。彼は果たさねばならない。艦隊司令官より直々に命じられた敵エースの排除という使命を。

 

コスモグラスパーのいた宙域はヤキン・ドゥーエ寄りの宙域。艦隊とも離れ、この後友軍艦隊が追いついてきても、味方の邪魔にならないと思われるがより離れる必要がある。

 

 

 

自分を囮にしてでもこいつを引き離す!

 

 

 

その思いと共に敵機に急速接近する。対する敵機もこちらに気が付いていたのか、MA隊への追撃をやめて向かってくる。途中、敵機に変化が生じる。灰色であった機体が黄色くなる。PS装甲をオフにしていたのだろう。エネルギーを考え、消耗しないよう本格的な戦闘まで温存していたのだろう。そしてさらに敵機はマクレガーと同じ考えなのか互いに牽制射撃をしながら次第に艦隊から離れつつあった。チラリと友軍部隊を見るとMA隊はボロボロだが、数の差に押され劣勢になりつつあるMS隊と連携して戦い始めている。だが少しずつ戦闘は防御重視になっていっていることがわかる。

 

 

マクレガーは友軍のためにもこの機体に負けるわけにはいかないと思った。そしてその思いを抱きながら、艦隊から離れた宙域で二機は衝突した。片やエネルギーに問題はあるがニュートロンジャマーを装備した試作MS群、ZGMF-Xナンバーに匹敵する戦闘力を誇る試作機。片や宇宙、砂漠、海中と各所で獅子奮迅の働きをしたストライクの正当な量産機であり、且つ全ストライカーパックを装備した試作機。

 

試作機同士の激戦が今始まる。

 

 

 

彼らは知らない。この戦いがこの場では終わらず、約二年後に起きる大戦にまで続く因縁になることを……。

 




火器運用試験型ゲイツ改が飛び出してきたのはボンボン版SEEDから。ボンボン版だと月下の狂犬と戦いますが、私の小説はMSV戦記の流れで行きますので月下の狂犬は他の宙域です。ゲイツ改のパイロットはライバルキャラとして出したオリキャラです。マークはフェイスのマークです。感想・批評よろしくお願いします。

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