機動戦士ガンダムSEED 技術試験隊の受難<一時凍結>   作:アゼル

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SEED編
ボアズ遭遇戦


宇宙要塞ボアズ。かつては地球連合の一角を占める東アジア共和国が所有した資源衛星をザフトが奪い、L5に存在する軍事衛星となった基地である。そんな宇宙要塞から少し離れたところにあるデブリの近くを動くものがあった。それは人の形をしているものの隕石や破壊されかつてはものであった残骸に比べ大きく、相対的にデブリが小さく見える。

 

 

頭部に鶏冠の形状をした特徴的なセンサーを生やし両肩にレドームを搭載しスナイパーライフルを装備したそれはザフト軍がMS、ジンであった。より正式に言えばZGMF-LRR704Bジン長距離強行偵察複座型だ。

 

 

 

この偵察型のサブパイロット、ライアンはいら立っていた。情報収集要員であるため今回はサブパイロットであるが、開戦初頭からのベテランである彼は本来ならメインパイロットしてこの機体を動かしているはずであった。だが何故彼がサブであるかというと後人の育成の為にもと指導も兼ねてメインパイロットを譲ったのだ。だがあまりにも彼にとってはひどく雑な操縦に苛立ちが募っていたのだ。

 

「もう少しまともな操縦はできんのか?本当に訓練をつんできたのか?」

「す、すいません。まだ慣れないんです…」

 

怒気の籠った声で言うライアンにメインパイロットを務める新人がおびえた様子で返事をする。ザフトは正規軍というよりも義勇軍といえる存在のため平時であればパン屋の店主である彼の怒気の籠った声は他人を委縮させる。

 

 

 

なにより複座といえど機体の中の狭いパイロットシートに二人きりなのだ。それは恐ろしく感じるであろう。ともかく新人に注意をしたライアンは正面のメインモニタに映るボアズ近郊のデブリ帯を眺める。今この機体が向かっている場所はまさに映りだされているデブリ帯であった。

 

 

 

ナチュラル共がオーブのコロニー、ヘリオポリスで新型MSを開発し、今やつい先日には量産体制を敷いたのかパナマでビームライフルやサーベルを標準装備する機体が現れたという。いまだ、やりあったことはないがナチュラルに対するハンデをかしたと思えば済む話なのだが一部の兵士には動揺が出ているようだった。

 

 

 

量産機の登場からしばらくしてボアズ周辺を警護する兵が行方不明になるという不可解な事が続いている。今彼らがデブリ帯に向かっているのはその調査の為だ。パナマで現れた量産機はOSが雑でブリキの人形のように動作が雑だという。仮にこの周囲に出たとしても果たして劣っているナチュラル風情が周囲に異変を察知させず、爆発すら起こさないことが出来ようか?

 

 

 

断じて否である。つまりは兵の脱走。以前にも英雄ヴェイアが脱走したこともあったがたかが格下にハンデをかしてやったことぐらいでハンデを恐れるとはなんという愚鈍な輩か!

 

 

そう結論付けたライアンは新人の操縦の低さもあいまってか苛々が高まっていたのだ。そんなライアンと新人の乗ったジンはデブリ帯の中を進む。小さなデブリがコツコツと機体にぶつかり音を発する。

 

「気をつけろ」

「り、了解っ」

 

檄を飛ばされながらも新人の駆るジンは進み、ある程度の大きさのジンを覆い尽くせるほどの岩の横で静止して観測を開始する。サブパイロットとして座るライアンの正面に表示されるモニタには流れていくデブリが見え、ボアズとは反対方向には青い星、地球が見える。今も続く戦乱でいくら戦艦や巡洋艦をおとしても次々と出ていく様は台所の黒いGを連想させる。

 

 

 

 

人はあの青い星の重力に縛られ続ける宿命なのだ。新人類たる我らもあの星から伸びる旧人類という触手によって引きずり込まれようとしているのだ。忌々しい限りだ、そう心の中で思い観測を始めてしばらくたつがレーダの範囲内に異変は見られない。

 

「次のポイントに向かう。デブリに注意し向かえ」 

 

了解、との返事と共にジンは背部のスラスターを点火し慣れてきたのかデブリの中を縫うように移動する。苛立ちは先ほどよりも消えていたが調子に乗ったものほど怖いものはない。

ジンに今までとは比較にならないほどの衝撃が走る。ライアンは苛立ちも相まって新人を怒鳴りつけようとした。だがその前に二人の意識は消えていった。なぜなら怒鳴る前にジンのコクピットに深々とアーマーシュナイダーが突き刺さり、肉体は押しつぶされたのだから……。

 

 

 

開戦初期からのベテランパイロットである彼がもっと冷静であったのならば気がつけただろう。目の前に映し出されたデブリ帯の一角でわずかながらも小さなデブリが不自然に何かにはじかれるように動いていたことを。

 

 

 

 

 

MSは人を模した鋼鉄の機械仕掛けの兵器だ。圧倒的な物量を誇る地球連合軍に対抗できた要因の一つである。MSは移動するために地上であれば足を動かし進むが、宇宙では背部のスラスターを点火し移動する。そのため前かがみとなり進む。

 

 

 

だが、今おかしな光景がみられる。スラスターのある背部を下に特徴的な鶏冠型のセンサーを搭載した頭部を後方にして足を先頭にジンがデブリ帯をボアズとは逆方向に進んでいる。おかしな点はそれだけではない。足の裏や背部のスラスターが一切点火されていない。まるで何かに引っ張られているようだ。

 

 

 

「チルド1よりマザーへ。ホシを確保した。着艦許可願う」

「こちらマザー。コロイドシステムを解除して右舷より着艦せよ」

 

 

 

コクピット部を刺されたま天を仰ぐように寝そべった状態で進むジンの隣に黒いMSが突如現れる。GAT-X207ブリッツというのは現れた機体の名だ。原型機はヘリオポリスでのザフトの奇襲により強奪されたが、増加製作された実験機の一機である。

 

 

 

ジンを引っ張るブリッツの先には4隻の連合軍の艦船がいる。所々武装が施され強化された黒い塗装のコーネリアス級輸送艦とアークエンジェル級強襲機動特装艦によく似た艦を中心に、ネルソン級戦艦1隻とドレイク級駆逐艦2隻がそこにはいた。中心のコーネリアス級らしき艦の右舷カタパルトが開く。そしてかつてライアンという肉塊が乗っていたジンを引くブリッツは見事に着艦したのであった。

 

 

ブリッツのパイロット、マクレガー中尉はコクピットハッチを開き、機体を蹴る。向かう先は待機室。任務の疲れも癒せる便利な部屋だ。だが格納庫を出ようとするマクレガーに声を待ったがかかる。

 

「中尉、お疲れさまでした」

 

整備班長のゴッサムだ。片手に高蛋白飲料のボトルを持っている。さすがに準備がいい。

 

 

 

「班長、出撃前に装備したアーマーシュナイダーは良かったぞ。実体剣なら倒しても爆発はしないで済むからな」

「そう言ってもらえて安心しました。何か意見がありましたら言ってください。今は当試験中ですから実戦での出来事は開発部や上が良く聞いてくれるようです。ほら、デュエルダガーに以前の注文の品を装備させているところですよ」

 

 

 

ゴッサムは奥で換装作業をしているデュエルダガーを指す。パナマにおいて投入された戦力は主にストライクダガーであったが少数だがロングダガーという、連合に協力する稀有なコーディネイターの駆る機体もいた。この機体はそのロングダガーをナチュラル用に改良したものである。今、その灰色の機体は両腰や肩等にアーマーを取り付け右肩に機体と同じくらいの実体剣を装備しようとしている。

 

 

 

「よくもまぁ、早く装備が来たものだ」

 

 

 

 

素直に感想を口にする。早く来たこともだがショートソードのような実体剣を作成するとは予想外であった。

 

 

 

「その剣はエネルギー切れ対策の一環で作成されたもんです。装甲はラミネート装甲なのでビーム兵器も防げます。アーマーシュナイダーと同じで超振動モーターによる高周波振動するようになっています。詳しくはこちらに書いてありますので読んでおいてくださいよ」

 

そう言ってホチキスで留められた厚い紙を渡してくる。どうやらこれを渡す目的で呼び止めたようだ。あまりの内容にうんざりしながらも受け取る。素直に耐ビームコーティングすれば良いだろうに。

 

 

だがこの苦情は届かないだろうと思った。一応は耐ビーム用と銘打った品が早く届いたのだ。だがせめてブリッツの欠点だけでもいうべきだろうか。

 

 

 

「班長、ブリッツの武器が偏り過ぎだ。右腕が破壊されたらグレイプニールしかないのは危険だろう。アーマーシュナイダーでも、あのダガーの剣でもいいから装備させるんだな。あと、ビームサーベルを短剣状に出来ないか?」

 

 

話しているうちに整備が始められているブリッツの問題点を口にする。実際に動かすとわかるが偏り過ぎだ。なにより攻盾システム「トリケロス」は大きい。ミラージュコロイドで姿が消えているのだから小回りのきく装備の方がありがたかった。盾も兼用しているため右腕を防御に回せば攻撃手段はほぼなくしたも同然だ。なにより左腕のグレイプニールは戦艦の艦橋を破壊できる威力を持つがMS戦に有利とは思えない。

 

 

元々が電撃侵攻戦用といえども心もとない。そのためアーマーシュナイダーを今回の出撃の際に無理やり取り付けたのだ。今回は相手が単機で装備のほとんどない偵察用のジンであったため良かったが、複数機であった場合はつらかっただろう。何よりトリケロスの搭載火器ではせっかく隠れているのに敵機を爆発させてしまう恐れが高いうえに、近くに敵がいると気付かせるだけだ。

 

 

 

「了解しやした。隠密用の武器も考える武器が必要かもしれませんね。他に何かありますか?」

「フェイズシフトはいらないな。バッテリーを減らすだけだ。あとは特に今はないな」

「了解しました。そうそう、引き留めましたが艦長がお呼びでしたよ。ブリッジでお待ちです」

 

 

 

言われ、マクレガー再び壁を蹴って艦橋へと向かった。

 

 

 

 

「ごくろうだったな、中尉」

 

 

 

艦橋では艦長のグラマン中佐が出迎えてくれた。中佐は齢50の熟練の艦長だ。元はネルソン級戦艦の艦長であったがL1世界樹の攻防にて乗艦を失い、試験航行中のこの艦の艦長となった人物だ。がっしりとした体格から活動的な雰囲気を漂わせる。

 

 

 

 

「いえ、職務を果たしたまでです」

「そうか。これより当艦隊は月へと向かう予定だ。君の鹵獲した機体は強行偵察用ジンだったから、そろそろ奴らも気が付いてきたのだろう。まだ単機ということは確信してないと考えられる。今のうちに基地へ戻るが、途中に何があるかわからん。休息の後パイロットルームで待機せよ。以上だ」

 

 

 

 

そういって中佐は艦長席に戻る。艦長席の正面に映るモニタからこの艦を中心としたさきほどまでの隊列を変更しているのがわかる。どうやらこの艦は同航艦である他の3隻とは離れて進むようである。

 

 

 

この準アークエンジェル級特装艦ピネラペはミラージュコロイドの艦船利用の実験艦だ。強襲揚陸艦アークエンジェルと同様に原型艦となったコーネリアス級を元に、改良を加えている。艦首両舷上部並びに下部に主砲として225cm連装高エネルギー収束火線砲「ゴットフリートMk.71」を4門装備している。艦体両舷には円錐状の推進剤予備タンクを搭載し熱紋レーダー反応を抑える取り組みがなされている。

 

 

また、進行方向前方にしか攻撃することができなかったアークエンジェル級とは違い、後部には上下各一門ずつ単装ビーム副砲が設置され後部からの敵機に対応する取り組みがなされている。その他にも迎撃用火器であるイーゲルシュテルンを多数搭載して防御力を高めていた。原型艦が補給艦ゆえか、実験艦ゆえかは知らないがミサイルは外付けで配備されるに留まっている。

 

 

 

そしてアークエンジェル級とは違い陽電子破城砲「ローエングリン」は搭載していないが主砲の多さからも戦闘力はかなりのものといえるだろう。友軍3隻と離れているのは3隻を狙いに来た敵艦をミラージュコロイドで隠れて攻撃するためにあえて離れているのだろうか。事実斜め前方に位置するかのごとく移動している。無事月へ着くかはわからないが、今は休息を取るとしよう。そう考えたマクレガーは了解、と答えブリッジを去っていった。

 

 

 

かつてとある学者がいった言葉にこんなことがある。人は賽子(ダイス)と同じで、自らを人生に投げ込む。私は人生とは数奇なものだ、とか人生はどうなるかわからない、そう解釈している。軍に入り戦艦の艦長を務め、ここが自分の終着点かと思っていたがまさか、新兵器の実験艦の艦長になるとは夢にも思わなかった。私は準アークエンジェル級特装艦ピネラペの艦長グラマンという。運命の気まぐれかもはや実験艦と差支えない艦の艦長をやっている。

 

 

 

 

世界樹での攻防で乗艦が大破し、廃艦となって以来デスクに向かっての活動であったがミラージュコロイド搭載艦などという、最新鋭艦に乗れるというのは久しく笑みがこぼれる。離れた位置を航行するネルソン級戦艦を中心とした小艦隊を見やる。係留されたMSが見てとれる。現在格納庫で整備されているデュエルダガーだ。係留されているのはフォルテストラを装備したタイプで2機いる。ドレイク級にも2機ずつコスモグラスパーが係留されていた。

 

 

パナマでのMS戦ではEMPによって効果範囲内の機体が機能を停止し虐殺されたが、今ではしっかりと対策のうたれたMSだ。これでザフトに対抗できる。実弾兵器が主体のザフトに対し、こちらはビーム兵器が主体。なによりデュエルダガーはエース用。たとえこの航海中に来てもこの艦とMSで迎え撃ってみせよう。

 

 

 

そのように意気込んでいる彼にネルソン級戦艦からの通信が入った。艦橋員に支持しモニタに壮年の男性が現れる。深く濃いひげに真面目そうなきりりとした顔つきは、若かりし日がいかに美形であったかを表している。男の名はヴィルマン。ネルソン級戦艦スプリトの艦長でありこの小艦隊の司令だ。

 

 

 

 

「ヴィルマン提督、何かご用でしょうか?」

(グラマン艦長、実は貴艦にはもっと先行していただきたいのだ。これより先は通商破壊活動をしている敵艦が多く出没する。貴艦には先行して敵艦を確認していただきたい)

 

 

 

ヴィルマン提督は開戦初期に失われなかった数少ない有能な将校の一人である。しかもブルーコスモスの思想にも染まらず、責務を果たすべく忠実に動く男であった。ただしそれゆえに上層部ににらまれたわけでもあるのだが。

 

 

 

「しかし、それではこの艦隊が疎かになるのではないでしょうか。小官は賛成しかねます」

(いや、それは大丈夫だ。この艦も他の2隻も対空火器などを改良してある。なによりMSもMAもあるんだ、多少は平気だ。もしも戦闘が起きたら貴艦に直接敵艦を攻撃してほしい。母艦を失えば敵も終わりだ。うまくいけば挟撃も可能やもしれん)

「……了解。本艦はこれより加速し先行します。敵艦を確認し合図を送り次第敵艦へ接近。これを殲滅します。提督は敵MSへの引付け役と見なしてよろしいので?」

 

 

 

 

しばしの熟考の後、そう答える。グラマンのピネラペが先行するということはつまり敵艦はヴィルマン艦隊に向け攻撃をするということだ。小艦隊といえども旗艦が囮役をするというわけである。

 

 

 

(かまわんよ、もとよりそのつもりだ。では武勲を祈る)

「全力を尽くします」

 

 

 

返事と共にモニタが切れる。グラマンは操舵手に命じて加速させる。加速させ、小艦隊からある程度離れた距離まで行くと突如、索敵担当が声を上げる。

 

 

 

 

「十時の方角に熱源あり、数は二、スプリトの方角へ向かっています」

「敵かね?」

 

 

 

用心の為に先行したが本当に遭遇するとは思っていなかったため聞き返す。

 

 

 

「待ってください。艦種特定……、わかりました。どちらもローラシア級です」

 

 

 

ローラシア級はザフトが開戦当初より運用している主力艦だ。MS搭載数は六機で艦体下部の格納庫から射出される。高速艦のナスカ級よりも小さく船体はネルソン級やドレイク級の中間といえるだろう。そんな艦がこんな場所にいるのは哨戒の為かそれとも何らかの任務の帰りか。どちらにせよ、あのまま先行せずに2隻と遭遇戦をするのはきつかっただろう。

 

 

 

「敵艦の様子は?」

 

 

 

もしも気づかれていたら最大12機のMSと戦うのだ。武装が他の艦船よりも高くともつらい。肉薄されてしまえば戦艦ですら墜ちるのだ。運が悪ければ撃沈のおそれもあろう。

 

 

 

「敵ローラシア級に変化なし、依然として友軍艦隊方面に移動中です」

 

 

 

最新鋭技術を搭載したこの艦と艦体の旗艦であるネルソン級の改良艦であるスプリトが互いに何とか確認できる距離である。開戦初期のからの艦では遠方にいる艦隊は気づけまい。もちろん護衛のドレイク級はセンサーの範囲外だ。

 

 

気づかれた様子もないことから艦を覆う形で展開しているミラージュコロイドはしっかり機能しているようである。ヴィルマン提督の考える展開通りにことは進みそうだ。

 

 

 

「旗艦に合図を送れ。当艦は敵艦との位置が垂直になるように移動する。敵に気付かれるなよ。尚、敵ローラシア級は右側から1番2番と呼称する。射程に入り次第、ゴットフリート1番から4番発射。その後ミサイル発射と同時にMS隊を出撃させろ!」

「「「了解」」」

 

 

 

今、ここにミラージュコロイド搭載艦による初戦闘にしてピネラペの初戦が火蓋を切ろうとしていた。

 

 

 

 

 

一方、ピネラペからの合図で敵艦が接近していることを事前に知ったスプリトを中心とした3隻の小艦隊では緊張が高まっていた。敵艦がこの小艦隊とピネラペの半数の2隻といえど、MSによって多くの艦艇がこの戦争の中沈められていったからだ。記憶に新しいのは第八艦隊の壊滅。ナスカ級1隻とローラシア級二隻に容易く壊滅に追い込まれた艦隊だ。

 

 

 

アークエンジェルのアラスカ降下支援のためとはいえ残存艦も僅かであった。いかに冷遇されていた将の下で、さらには今艦に搭載している連合製MSの原型機4機を中心として襲撃されたといえあまりにもひどいざまであった。この艦隊は第八艦隊のような大艦隊ではなく三隻による小艦隊だが、MSを保有する。しかもエース用のデュエルダガーを2機も搭載している。何よりこちらの機体の全てがビームライフルを標準装備している。だがこれまでの相手の実績と数の多さが恐ろしいのだ。

 

 

 

敵艦は二隻とのことだがローラシア級は、五機以上MSを搭載できる。こちらはピネラペ搭載艦を除けばドレイク級に搭載されているコスモグラスパーとMSを含めて6機。不利なことには変わらない。後は敵の攻撃を防ぎ、耐えてピネラペの攻撃成功を祈るばかりであった。戦艦同士の打ち合いならば負ける気はしないが、隠密機能を持ち主砲の数もMS搭載数も圧倒的に多いピネラペに期待するなというのは無理な話だ。

 

 

 

「ピネラペを先行させたのは正解だったようだな。全員そんなに硬くなるな、これからが本番だ。対MS戦闘用意、第一種戦闘配備を発令せよ」

 

 

 

緊張が高まっている艦橋員を宥めつつ、ヴィルマンは言う。警報と共に艦内が慌ただしくなる中さらに言葉を紡ぐ。

 

 

 

「敵艦あるいは敵MSが射程に入り次第、全艦艇主砲並びにミサイル発射。目標はMSだ。その後MS隊・MA隊発進。イエローゾーンで迎え撃て、それまでは艦砲並びにミサイルで動きを封じるのだ!MA隊は一撃離脱に専念せよ。敵の追撃からひたすら逃げて、相手が諦めたら再び襲え。こちらにはMSが存在するのだ、徒に恐れる必要はない。戦闘後にピネラペに我らが余裕であったことを見せつけようぞ!」

 

 

 

ヴィルマンの鼓舞によって先ほどまでは不安や緊張といったマイナス要素が高まっていたが、いまでは士気が高揚していく。そんな中索敵担当が敵艦の変化を確認した。

 

 

 

「敵艦確認。MSを射出している模様。数は十、ジン7、ジンハイマニューバ2、シグー1。その内二機は敵艦付近に留まっています」

 

 

 

各艦の主砲が接近する敵機に向けられる。係留されていたMSが艦より離れ、MAも発進する。開戦の火蓋は間もなく切って捨てられようとしていた。

 

 

 

 

ローラシア級ヨークの艦長ハデスは眼前のモニタに移る地球連合軍の小艦隊を見て、ふっと小馬鹿にするように息を吐いた。モニタにはパナマでの戦闘で確認されたMSが艦から離れ、コスモグラスパーが発進している。対してこちらは既にMSの射出を終えて、攻撃態勢に移っている。トチ狂ったナチュラルがカミカゼを起こす可能性が否定しきれなかったので念には念をと、直掩としてジンを三機艦の周囲に留めているが無駄な徒労に終わるだろうと思った。

 

 

 

敵の数が多いといえどもそれはMAも加えての事。一機でメビウス三機分の性能を持つジンが4機も向かい、その発展機までいるのだ。いかに敵のMSがビームライフルを装備しようとも盾で守るしか銃弾を避けられないナチュラルを馬鹿にしない方がおかしい、と彼は思った。だがそんなナチュラルを見下す態度をとるハデスであったが、戦場では予想外の事が起きる可能性があるので、(以前にメビウスによるカミカゼを受けたため)慎重に行動をとる。

 

 

 

MS隊が敵艦との距離を詰めると遂に敵艦が発砲した。相手もこちらも艦の射程内のため母艦をつぶしにかかると考えたが違うようだ。敵戦艦の二連装大型ビーム砲がMS隊に向け放たれる。何とかMS隊は避けたものの砲身が焼き切れるのではないかと思うほど三基のビーム砲をバカスカ連射して撃ってくるため、隊列が乱れはじめる。そこに護衛艦から放たれたミサイルが殺到した。

 

 

 

牽制のつもりか全体からみれば僅かだが、ミサイルがこちらにも向かってくる。MS隊に張り付かれたくないようで必至だ。死に物狂いな敵艦の攻撃でMS隊に被害が出始め、さすがに機動性の高いHMやシグーは避けているがジンは何機かおとされた。だが敵はMSだけではないことを教えなくてはならないようだ。散った仲間の供養もせねばならない。

 

 

 

「全砲門を敵艦に向けろ。敵艦はMS隊に夢中だ!我々から艦隊へ攻撃すれば終わりだ。敵艦に標準合わせろ」

 

 

 

彼は砲塔を向けている敵艦が今まで対峙してきたネルソン級とは違い改装されていることに気が付いていた。武装が強化されており、ビームをひたすらに連射してくる。ドレイク級も同様に改装されているようだがミサイルを大量にはなっているが戦艦が消えれば脅威になり得ないだろう。Nジャマーでミサイルのいくらかはあらぬ方向へ飛んでいる。故に彼は戦艦を狙った。艦橋員から標準が定まり命令を下せばすぐにでも放てる状態になったことを知らされ、即座に命令を下す。

 

 

 

「撃て!」

 

 

 

 

あまりにも撃ち続けるネルソン級がわずらわしくなったためか意味のない行為だが腕を伸ばし、指を指した。その行為が彼の最後の行動となった。艦砲射撃を行おうとしたヨークに対し真横に移動してきたピネラペのゴットフリートから放たれたビームが船体に突き刺さったためだ。

 

四門ものゴットフリートから放たれたビームは正確にヨークを貫き、うち一つが艦橋を襲う。艦橋を襲ったビームは容赦なく艦橋員を襲い、彼の体は伸ばした肘から先を残してこの世から消滅した。艦全体を襲った攻撃と続く対艦ミサイルの直撃で艦隊が爆発するまでの少しの間が断面を焦がした腕が虚空を漂い存在を証明するものとなったのだった。

 

 

 

連合の小艦隊へ向け射出されたMSのうちの一機、ジンHMのパイロット、キルヒホフ・ブリックレは自分たちに向け乱射されるビームやミサイルをかわしていた。攻撃されるまでは楽勝だと余裕であったがいざ攻撃されると普段とは違った。弾幕が濃いのである。

 

 

 

ミサイルも普段対峙してきた物だけでなく散弾もまぎれていた。さらにその後方からバズーカを装備した連合軍のMSやMAが攻撃をし、アサルトシュラウドを装備したデュエルのコピー機がレールガンやミサイルをも放ち続けて進めない。シールドは保持していないがマガジンが散弾のバズーカを放つ機体すらいる。

 

 

 

既にMS隊の隊長の乗るシグーや他のジンHMが抜け出て件のデュエルダガーと戦闘に入ったため自分たちへの圧迫は減ったものの、その他のジンの指揮をしながらの為なかなか思うようには進めなかった。そんな時センサーが巨大な熱源を探知する。艦が爆沈した時のような熱量だ。だが前方からではない。味方はまだMSに取りつかれていて近づけていない。答えは今しがた自分がいた方角、後方であった。

 

 

 

「なにっ……!」

 

 

 

熱源の正体。それは彼が仲間と共に出撃したローラシア級ヨークであった。大爆発を起こして消滅する際に生じた熱量を感知したのだ。戦艦やMSから放たれる無数に飛び交うミサイルとビームを避け続けていたザフトのMS達は味方の戦艦がいきなり沈められたことに動揺したか、動きが鈍くなる。無論そんな状態で避けられるわけもなく数機が火球の中に消える。

 

 

 

キルヒホフは動揺しつつも機動力を十分に生かし、いまだに動揺し精彩を欠いた味方を指揮しながら後退して味方の援護に向かおうとしていた。直掩に残した機体は僅か二機のみ。前方の敵が自分達へ撃っている以上、別の敵がいるはずだ、とかわしながらかつてヨークがいた宙域付近をみると”それ”は現れた。

 

 

 

オーブのヘリオポリスにて建造された足つきに酷似した黒一色の戦艦が突如虚空より出現し、残った友軍に向け砲塔を向けビームやミサイルを発射しながら新たにMSが射出しているのが見て取れた。その光景を目の当たりして焦った彼に対し遂にスプリトから放たれたビームが彼の機体の足を吹き飛ばす。バランスを失った彼にさらなる追撃が襲いかかる。白い軌跡を残しながら自身に迫るミサイルが迫り、徐々に巨大になっていく。その光景が彼の見た最後であった。宇宙にまたひとつの火球が出来上がった。

 

 

 

カタパルトからの射出と同時にスラスターを点火。前方のローラシア級へ迫る。左舷カタパルトから同時にデュエルダガーが射出されたのが後部センサーからの画像で確認できた。後からも右舷と左舷交互にストライクダガーが射出され、計六機が敵に向かう。

 

 

 

先ほどの奇襲で二隻いたローラシア級のうち一隻を撃沈することに成功し、敵にさらなる被害を出していたようだ。直掩のジンの内一機が爆発に巻き込まれ損傷を被ったのだ。そのジンはコクピットまで損傷を受けたかコクピット付近より黒煙が出ているのが確認できる。

 

 

 

 

「全機につぐ、これより我々は速やかに敵艦の直掩機を撃破する。数では上だが油断はするな。東アジアのことわざには鼠猫をかむというのがあるそうだ。二手に分かれて多対一に持ち込み撃破せよ。撃破次第、敵艦を討つ!」

「「「「了解!」」」」

 

 

 

発進する前に通信で取り決めた通り、命令と共にストライクダガー二機とデュエルダガー一機、計三機による小隊がA・B二つに分かれジンに迫る。ピネラペから放たれるミサイルを迎撃し続けていたジンが迎撃を中断し重突撃機関銃を放ちながら向かってくる。マクレガーが指揮する小隊が接近したのは損傷したほうだ。

 

 

 

 

黒煙を出しながらも迫るとはなかなか気概のあるパイロットだと素直に思った。だが撃ちあう気はさらさらなかった。シールドで機体を守りつつ部下と共にビームライフルを撃つ。マクレガーの戦術は基本的に多対一だ。ナチュラル用OSの誕生によって連合に協力する少数のコーディネイターのMSで対抗することもなくなったが、それも日は浅い。

 

 

 

なによりビームライフルやビームサーベルを標準装備したストライクダガーは戦時量産型で稚拙なOSである。一撃で相手を撃破可能といえども心もとない。故に一対一で倒せないなら二対一、三対一と数を増やしていけば良いとの考えの戦術だった。もとより宇宙での戦闘は戦艦やMAの物量で対抗していたのだ。出来ないわけではなかろう。

 

損傷したジンは三機の攻撃をかわしているが次第にきつくなったか、ボロボロの機体で重斬刀を構え突撃してくる。この間にもジンの援護を失ったローラシア級は被弾を重ねボロボロになっていく。そのためかジンのパイロットは焦ったようだ。だがその焦りは致命的だった。

 

 

三機の連合軍機から放たれたビームは一直線に向かってくるジンに次々と貫いていきそのボディを火球へと変える。マクレガー率いる小隊は残る一機をB小隊に任せ敵艦の攻撃に移る。

 

 

 

ローラシア級は出撃した時点でかなりの損傷を受けていたが、今再び確認するとかなりの被害を生じている。既にいくつかの砲塔が半ばからか、あるいは根こそぎ破壊され戦闘能力すらなくなり始めているが僅かながら対空砲火を行っていた。

 

 

さっそく部下に指示を出し共同で艦体下部の格納庫を狙い撃ち、まず間違いなく逃げ切れはしないだろうが敵艦が逃げた時に敵MSの補給が出来ないよう破壊するつもりだ。既に著しく戦闘能力を奪われ満足に迎撃することすらできなくなったローラシア級におもしろいくらい攻撃が当たる。

 

 

次々と敵艦に攻撃を続けていると、バズーカを構えたストライクダガーが敵艦艦橋方面に向かっているのが確認できる。指揮下の二機は共に格納庫を攻撃しているのでB小隊の機体だ。そのダガーは少し離れた所からバズーカを連続して放ち艦橋付近が爆発を起こさせる。後は母艦が何とかしてくれると考え、艦隊方面へ向かおうとするがそれは止められる。

 

 

 

「隊長!」

 

 

部下の叫びと共にB小隊の隊長機であるデュエルダガーを確認する。ダガーは既にジンを倒したものと思っていたが未だに倒していなかった。それも技と敵を倒していない様である。ジンは両手首を切断された状態で背後から抱き締める状態のダガーを振り払おうと必死に暴れていた。

 

 

 

「コルテス、やめろっ!」

 

 

 

B小隊の隊長、コルテスに向かって叫ぶが返事はどこ吹く風とやらで、

 

 

 

「隊長さんよぉ、今いい所なんだから待ってくれよ。チッ、やっぱ実体剣じゃやりづらいな。ユーラシアのビームダガーを申請しとくか……」

 

 

 

言いながらジンの腰、人間で言う脇腹の辺りから突き刺されたアーマーシュナイダーが徐々に中心部、コクピットの辺りに近づき、切り裂かれていく。接触通信をしているのか言葉の合間に聞き覚えのない若い男の悲鳴が聞こえてくる。

 

 

 

「ふん、命が消えていくこの瞬間、快感。たまらねぇ。開発側に回るってのもなかなかに面白そうだ」

 

 

 

言い終えると同時にジンは左右から切り裂かれる。背中まで貫通させず即座に爆発して自機に被害が出ないようにしていることから技量の高さを感じ取れた。

 

 

 

「友軍の援護とでもいこうじゃねぇか。くっくっく、興奮してくるぜ」

 

 

言うと破壊したジンを未だに爆発していないローラシア級の方に蹴り飛ばしたコルテス機はそのまま、友軍が未だに戦っている宙域へ加速していく。

 

 

 

「待て、先行するんじゃないっ」

 

 

 

マクレガーは両小隊の機体状況を確かめ、B小隊を母艦の直掩に回すとA小隊と共に単機で先行するコルテスを追いかける。残るは艦隊へ射出された敵機のみ。それもあと僅か。高機動を得意とする機体が残ったのでうまくいけば鹵獲できるかもしれない、と思いつつ囮を演じた友軍とバカの下に急ぐのであった。

 

その日、地球―ボアズ間を巡廻していたローラシア級二隻と搭載MS10機は消息を絶つことになる。これは未だに連合軍がナチュラルによって操縦するMSの実戦投入をして日が浅い頃の出来事だった・・・。

 

 

 

これは表舞台に滅多に現れないある部署の技術試験隊の物語。

彼らの主な試作兵器の実用試験あるいは敵機の鹵獲。また所属部署の仕事もこなす。彼ら自身は表舞台に上がることはない。後の戦場に成果が現れるかでのみ存在を許される舞台だ。彼らのいく末は誰にもわからない……。

 




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