Muv-Luv 〜赤き翼を持つ者は悲劇を回避せんがため〜   作:すのうぃ

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第1章── 新たなる夜明け ──
4話 固定概念の崩壊


【アルゴス小隊】ブリーフィングルーム。

 

「昨夜はお楽し」

 

「うるさいだまれそれ以上喋ったらその無駄に長い髪の毛引きちぎってやる」

 

「あらあらタリサ。ちっさな女の子がそんな野蛮な事言っちゃダメよ?」

 

「ちっさい言うなし!!」

 

そこでは今、2人の女性と1人の男によるコントいや、会話が行われていた。

 

「いやいやお前はステラどころか他の女と比べても確かに小さいぜ?胸とか手とか足の長さとか胸とかな特にな。」

 

「なにさりげなく胸のこと二回も言ってやがんだよ!?」

 

「そりゃな?ステラ。」

 

「えぇ。そうねVG」

 

「「大切な事だからに決まってるじゃねぇか(わよ)」」

 

「テメェら喧嘩売ってんのかゴラァ!!」

 

事前打ち合わせなしにも関わらず息ピッタリなVGと呼ばれた青年ーーヴァレリオ・ジアコーザ少尉ーーと、胸元を大胆にはだけさせた女性ーーステラ・ブレーメル少尉ーー。2人だけでなく、部屋の中に居る他のスタッフ達も頷いている所を見る限り、どうやらアルゴス小隊にとってこれは共通認識であるようだ。

 

「というより、逆にスタイル抜群なタリサなんて想像出来ないわ。」

 

「やっぱりお前にはその幼女体型が似合ってるんだよ、タリサ。」

 

「「「うんうん」」」

 

「よーし分かった!!お前ら全員表出ろ!!」

 

「「「だが断る」」」

 

「うがぁーー!!何なんだよこいつらぁーー!?」

 

繰り出されるアルゴス小隊の連携技に翻弄されるタリサ。

それにしてもこの小隊。ノリノリである。

 

「ほらほらタリサ。静かにしろって。もうすぐ新しい人達が来るんだぜ?」

 

「誰のせいだと思ってるんだよ!?」

 

騒ぎの原因が自分達である事を棚に上げてタリサを窘めるヴァレリオ。中々図太い精神をお持ちのようだ。

その様子を眺めるスタッフからは「あぁ…ちっちゃい体なのに無理して大声出すタリサちゃん可愛い……」やら「息を荒げるタリサちゃんハァハァ………」などと、かなり危ない発言が聞こえてくる。ダメだこの小隊。早くなんとかしないと。

 

しばらくタリサ弄りが行われていると、その時間は唐突に終わりを迎える。

アルゴス小隊のリーダーであるイブラヒム・ドーゥル中尉と、今回帝国技術廠から派遣されて来た帝国斯衛所属の篁 唯依中尉が入室したのだ。

2人の上官の姿を確認した彼らは、先程までの浮ついた雰囲気は何処へやら。全員の顔が真剣そのものになる。どうやらただの変態小隊ではなく、出来る変態小隊のようだ。

 

「全員揃っているようだな。では只今より、現時刻付けでこの小隊に加わる事になった新しい仲間を紹介する。本来なら、昨日顔合わせをする予定だったのだがな。諸事情により、今日に変更となった。」

 

諸事情に、の辺りでタリサを見るイブラヒム+アルゴス小隊。昨日の謎の大尉によるお説教を思い出して、元々小さい体を更に縮こませるタリサ。あの後彼女は、その手にジャパニーズ・カタナを持つ大尉に一晩中この基地内を追い回されたのだ。その様子を見た人々は『まるで、修羅を見ている様な気持ちだった』と後に語っている。

 

若干青い表情を浮かべるタリサにヴァレリオは「自業自得だ」といいながら笑っていた。

 

「ンンッ!!……では、入室して貰う。少尉、軍曹。……そして、大尉。入室して下さい。」

 

大尉、というイブラヒムの言葉に嫌な予感を感じたタリサ。その顔には、決して冷房のせいではない大量の汗が浮かぶ。

ギギギ、と機械の様にぎこちない動作で顔を入ってきた三人に向けるとそこには。

 

「また会ったな。少尉?」

 

件の大尉が、物凄く良い笑顔を浮かべてながらそこに立っていた。

 

途端にどこぞの少女漫画よろしく劇画タッチになるタリサの顔。

 

彼女にとっての悪夢は、まだまだ終わらない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

イブラヒム中尉に入室を促されたので、ブリーフィングルームへと入る俺たち。まるで転生前の学校で極稀にあった転校生の紹介みたいだ。

部屋に入ると、固まった表情を浮かべる見知った顔があったので挨拶を忘れずにする。うん。ちゃんと向こうも俺を覚えててくれたようだ。「あ、あんた、何でここに……?」と言いながらこちらを指差していた。

 

とりあえずアイツは放って置いて、と。

 

「アメリカ軍所属・ネバダのグルームレイク基地から来た、ユウヤ・ブリッジス少尉だ。よろしく頼む。」

 

「同じく、ヴィンセント・ローウェル軍曹です。自分は主に、少尉の専属整備兵を担当させて頂いております。」

 

ユウヤとヴィンセントは普通な自己紹介だな。ここは俺も名前と階級だけを述べるのか無難だろう。

 

「私は、帝国斯衛軍第19番戦術機甲中隊【赤鷹中隊】隊長、黒田 冬夜大尉だ。今回は、階級は自分より下だが篁中尉の補佐としてここに来ている。諸君、よろしく頼む。」

 

唯依が向こうで「良かった。ちゃんとした普通の挨拶だ………」とか言ってそうな表情をしている。

 

……だがな、唯依姫よ。こんな無難な自己紹介で終わる程、俺はつまらない人間ではないんだ。別にユウヤとヴィンセントをディスってる訳じゃないけど。

【ムリーヤの誓い】(今命名)を、たかが死にかけた程度で忘れる俺ではない。あ、やっぱり訂正。程度なんかじゃなかったわ。アレは危なかった。

いや、今はそれはどうでもいい。

 

「……イブラヒム中尉。まだ時間はあるか?」

 

「はぁ。まだ余裕はかなりありますが………」

 

俺の発言に、部屋にいるユウヤとヴィンセントと唯依姫以外の面々が?な表情を浮かべる。

 

俺が何をするのか気付いた唯依姫が「まさか!?」と止めに入ろうとするが、もう遅い!!

 

今こそ輸送機の中で決めた事その1を実行するのだ!!

 

【ムリーヤでの誓い】

その1。

 

第一印象で、かっ飛ばす。

 

「よし。真面目タイムは終了だ。俺と話す時は最低限、時と場所を考えてくれれば呼び捨てで呼んでくれても構わないし敬語もいらない。俺は階級なんぞに余り囚われない人間だからな。」

 

輸送機爆破犯が「嘘だっ!!」とか叫んでいるがスルー。

 

俺の言ったことが意外過ぎる様で、皆( ゚д゚)ポカーン …とした表情を浮かべる。

 

俺の隣では輸送機の中の自分達の表情と全く同じものを見たユウヤが苦笑していた。

 

「ん?何だ?遠慮してんのか皆。そんなものBETAにでも喰わせちまえよ。なぁヴィンセント?」

 

「いや、これは当然の反応だと俺は思うぜトウヤ。」

 

「えー?マジかよー。」

 

「ね、ねぇ。」

 

「ん?どーした?」

 

俺とヴィンセントの軽い会話を聞いた金髪の女性がおずおずと話し掛けてくる。多分大尉と軍曹が砕けた口調で喋ってるのを見て大丈夫だと少なからず思ったのだろう。だが、それだけじゃ俺は満足しない。

 

「あなた、本当に日本のインペリアルなの?」

 

来た。

しかも、ユウヤと全く同じ質問。

 

それに対して、俺も全く同じ返事を返す。

 

 

「なぁに言ってんでぇい?帝国斯衛軍第19番戦術機甲中隊【赤鷹中隊】の隊長たぁ、俺の事よっ!!」

 

ヴィンセントも、よっ日本一っ!!と言うのを忘れない。

 

そんな俺の姿に唯依姫は右手を顔に当てて溜め息をついていた。

 

これが切っ掛けとなり、俺にドンドン話し掛けてくるアルゴス小隊のメンバー達。もちろんその口調はフランクだ。

 

ーーーこうして俺は、アルゴス小隊に完全に馴染んでいきましたとさ、まる。

 

 

 

 

 

 

「……………はぁ。全く。場所や環境が全然違っていても変わらんな、お前は。………冬夜。」


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