Muv-Luv 〜赤き翼を持つ者は悲劇を回避せんがため〜   作:すのうぃ

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12話 エスケープ

六月某日

 

「これで、終わりだー」

 

大きく腕を振り上げて、エンターキーに向かって下ろす。小気味いい音が室内に響いた。

 

休日の内にやっておきたい仕事を九時から開始した俺は、必死こいて作業を終了。伸びをする為に思い切り仰け反ると、体重が掛かった背もたれがギシリと悲鳴を上げた。

 

長時間PCと睨めっこした為に固くなった首をコキリと曲げながら執務机に置いてあるデジタル時計の表示を見ると、示されたのは十一時。仕事を始めてから二時間程経っていた。

 

窓から見えるユーコンの空は雲一つ無く、快晴と呼ぶに相応しい。

 

「外、出てみよっかねー」

 

モニターの電源をスリープにしてから、俺は国連のジャケットを手にドアノブを回して外へと足を踏み出す。

 

「あ、冬夜。」

 

廊下へ出ると、目の前には黒髪のナイス美人が一名。

国連の士官服に黒のタイトスカートという組み合わせの彼女からは、アジア人の持つ魅力の一つである奥ゆかしさが感じられる。

 

随分初対面みたいな言い方してるけど、俺の部屋の近くに居るアジア系の女なんか一人しか居ない。

居ても女性整備士くらいだ。

 

「おー。おはよう、唯依。」

 

俺の挨拶の何が気に食わなかったのか、唯依は肩を竦める。

 

「お早う、じゃない。今何時だと思ってるんだ。中々出てこないから、まだ寝てるのかと思ったぞ。」

「失敬な。今の今まで休日返上で仕事してたわ。電磁投射砲の最終調整の経過報告とか俺に聞かれても知らんっつーの。」

 

整備班に聞けー、と手をヒラヒラさせながら言ってみる。

でも真面目な娘 唯依は「割り振られた仕事はキッチリこなせ」とバッサリ切られました。いや、俺が悪いんだけどね。

 

 

唯依が俺を起こしに来たのは何か仕事があったからとかそんなのではなく、単に「流石に午前中ずっと寝るのは駄目」だからだそうだ。「お前は俺の嫁か」とのツッコミも

 

「それも良いな。ずっとお前を見てられる」

 

とのお言葉を小声でだけど頂きました。何だ、常に監視さてないと仕事しないってか。信用無いな俺。

 

そんな会話をしつつ、辿り着いたのはPX。朝から何にも食べてないと言ったところ、じゃあ食堂で早めの昼食を摂ろうという話になったのだ。渡りに船、ではないけど丁度俺の胃袋が悲鳴を上げてたのでその案は採用となった。

 

基本このユーコンに居る衛士は与えられた任務柄、昼休憩ギリギリまで職務に勤しんでる奴が多い。

だから態々座席を確保しなければならないなんて面倒な事は起きず、食事を受け取ってからでも余裕があった。普段はガヤガヤと騒がしいPXも、ここまで静かだとなんだか物寂しいものを感じる。

 

「頂きます。」

 

例え異国の地であろうと、食事前の合掌は忘れない。転生する以前の世界じゃあんまり意識した事は無かったが、ここは『マブラヴ』の世界。例え合成であろうと、三食の食事が出来るということ自体が有難いんだ。

 

頼んだ合成カレーを食べ終えると、俺は食後のコーヒーモドキを飲む。前の世界からの習慣の一つなのだが、これはもはやコーヒーではない。喉越しがエグい。苦いとかじゃなく、エグい。『泥』って言われる所以を改めて痛感した。

 

「あー、やっぱり不味いなぁ」

「全く、そんなに嫌そうな顔をするなら飲まなければ良いだろうに」

「イヤイヤ、染み付いた習慣ってモンは中々体から抜けなーーーうん?」

 

と、水の入ったコップに口に持っていこうとした時、入り口から此方へ小走りで向かって来る小さな

人影が視界の隅にある事に気付いた。

 

別にただ走ってるだけなら気にも留める必要が無い。それでも俺が伸ばした手を引っ込めたのは、その人の、遠目に見ても分かる、窓から差し込む陽の光を受けて銀に煌めく髪に、ひどく見覚えがあったから。

 

その人は俺達の座る席の所へと辿り着くと、

 

「やっぱり。トウヤだったの。」

 

満面の笑みを浮かべたかと思った次の瞬間には、猫顔負けの速度で膝の上に乗っかって来た。

 

「ん、イーニァか。久し振りだな。」

 

その少女 イーニァは、朗らかな笑みを浮かべながら「うん」と頷く。こちらの胸板にもたれかかって来る感触が、何だか心地良い。妹とか居らこんな感じなんだろうか。あー、もうこの娘お持ち帰りして愛でてもいい…………ッ!?

 

「あ、クリスカ」

 

背筋が凍るような感覚。

出元を辿る為に視線を巡らせると、膝のイーニァがそっちへと一直線に飛んで行った。

 

居たのは、イーニァと同じ銀の髪を肩辺りまで伸ばした少女。

抱き付いたイーニァの肩に手を置きながら、勘違いで無ければじっと俺の方を見ている。その瞳に敵意を秘めて。

 

だからな唯依。そんなに睨むんじゃない。わかるでしょあのやくざ屋さんすら裸足で逃げ出しそうな鋭い視線。貫かれてんの俺は。見つめあってなんかいない。

 

二方向からの同時砲火に、俺は少し身を縮こませた。

 

 

「おい、VG! 見ろよアレ!」

「何だよヴィンセント、胸の大きなナイス美人でもーーーほう。」

「なーなーステラ。あれ日本語で何て言うんだったっけ? あたしど忘れした」

「確か、『シュラバ』じゃなかったかしら」

 

「テメェらは黙ってろ」

 

 

 

 

場所が悪い。

 

そう言って移動を提案すると、まるで春の陽の暖かさをつい感じちゃう程素敵な笑顔で応じるイーニァに、ジロリと青色の瞳を向ける銀髪ーーイーニァ曰く クリスカ・ビャーチェノワ少尉。めっちゃ警戒されとるがな。

あ、唯依? 今は三歩下がって後ろを付いて来てる。「お、お前は俺の嫁か」とビビりながら告げると

 

「それも良いな。お前をずっと見てられる」

 

と小声でお言葉を頂いた。大体四十分前と同じセリフに何故か恐怖を覚えた。ドッキドキが止まらない。色んな意味で。

 

暑さとは別の理由で出た汗が頬を伝った時、ビャーチェノワ少尉が優しい声でイーニァに何事か囁くと、不満そうに頬を膨らませながらも彼女はトテトテと走り去って行った。

多分、誰にも聞かれたくないのだろう。しかも相手は俺。何故分かるかって、超ガン見されてたから。お前もソイツ下がらせろってか。

唯依にここから離れるよう割と真面目に告げると、渋々ながらも元来た道を引き返してくれた。理解のある娘で助かる。

 

「……クロダ トウヤ」

 

周囲に誰も人が居なくなった事を確認すると、今まで沈黙を守っていたビャーチェノワ少尉が口を開いた。それはもう、友好的な雰囲気は無しで。

 

「貴様、一体何者だ……?」

「あの、俺、一応大尉なんだけどなー……」

「…………」

 

えー、無視か。初対面の美人にこんなあからさまな拒絶をされたの初めてだわ。ちょっとショック……。

 

い、いや。ここで勝手にうな垂れても話は進展しない。未だこちらをガン見する彼女に、取り敢えず疑問をぶつけた。

 

「何者って言われてもなぁ……。何でそんな事を俺に聞く?」

「…………」

「自分は質問しといて、俺からの問いには答えない、か。ま、良いけどな」

 

彼女の問いに答えるべく、納得いくような答えを探してみる。

 

「…………」

 

が、今思い出した。この少女、確かESP発現体だったじゃん。やっべ、まさか向こうから接触して来るとか思って無かった。いやソレはそれでどうなんだって話だけど。取り敢えずちょっと相手に対する対策を兼ねて考察を。まぁこっから胸糞悪くなるやも知れんがソコは我慢だ。

 

本編に登場する社 霞と見た目同じなイーニァと比べると、随分大人っぽい彼女は、多分六期に分けられる発現体の完成形である第六世代より以前だろう。しかも、言動に幼さの目立つイーニァとは違い、こちらは"軍人"って感じ。前にソ連の施設に潜入した時の態度から、中々警戒心が強いと思われる。リーディングは出来るのだろうが、おそらく第六世代のイーニァ程ハッキリとはイメージを認識出来ない筈。

 

だから安心とまでは行かないがゆっくり思考は出来ると、そう思っていたのだが。

 

「…………!? 貴様、どうしてそれを!」

 

流石に銃を向けて来る事は無かったが、突然 詰め寄る彼女に、気を少し緩めていた俺は反応出来ず そのまま押し倒された。

 

ちっ、迂闊だった。あんまり強くイメージすると伝わるのか。

 

「痛っ」

 

硬いアスファルトに体が背中から倒れる。受け身を満足に取れなかったから少し痛かった。しかも声のオプション付き。斯衛軍人が、何て情けない声出すんだよ。

 

自分を叱責しつつ反射的に瞑ってしまった目を開ける。

開けなきゃ、よかった。

 

「ーーッ!」

 

凛々しさを感じさせる目。吸い込まれそうな程澄んだ青の瞳。整った鼻筋。桜色の唇。

言うまでもあるまい、ビャーチェノワ少尉が目の前にあった。

 

「何故だ、何故私達を"知っている"? 何故知った上で私達を気味悪がらない?」

 

互いの吐息が掛かる距離で浴びせられる疑問、疑問。

それに構わず体を起こそうとするも、腹部に感じる柔らかな重み。どうやらマウントポジションを取られているらしい。

その気になれば力に任せて突き飛ばす事も出来なくはないが、流石にそれを女性にするのは気が引けるというもの。かと言ってココで質問に答えようにも「俺 転生者だからゲームの知識を頼りに推測したんだよねー」なんて言った日には正気を疑われるだろう。絶対そうなる。

 

つかこの状況、見られると結構ヤバイ。

 

片や、押し倒された斯衛軍 大尉。

片や、顔を口付け一歩手前の距離まで持って行っている美人なソ連軍人。

 

もしここに近所の奥様方が居たら「あらあら、真昼間から大胆ですこと」「若いわねぇ」などと言われる事間違いなし。つまりそういう事なのだ。

でもソレが唯依だったら。

「斯衛軍 大尉ともあろう人物が、不潔な、恥を知れッ!」

とか言われそうだ。被害妄想である事も否定出来ないが。

 

何か打開策は無いか、とスパーク寸前の思考をフル回転させていた時だ。

 

「あー! クリスカ、ズルいー!」

 

天 使 降 臨

 

「イーニァ!?」

 

近くの物陰から飛び出して来たのは、さっきどっか行った筈のイーニァだった。

 

「かわってかわってー」とビャーチェノワ少尉の腕をグイグイ引っ張る彼女の姿は、まさに暗闇に差し込んだ一筋の光。

 

ビャーチェノワ少尉が体勢を崩し、腰の重心が揺らいだのを見逃す俺ではない。

 

フリーになった両の手を彼女の後頭部へと持っていく。

 

「なっ」

 

何か抗議の声を発しようとした彼女に構わず、上半身を無理矢理起こし、次いで脚に力を込めて立つ。手を後頭部に持ってったのは万が一滑り落ちた時に頭を打たないようにする為の保険だったのだが、準備しといて正解だったわ。危うく怪我させるトコだった。

 

「く……何を!?」

 

が、流石は軍人。素早くこちらの腕の中から抜け出すと、即座に体勢を整える。

 

でも、ここでドンパチ起こす気はサラッサラ無い。

そっちで目を輝かせてるイーニァには悪いがココは…………。

 

「戦略的撤退ッ!」

「あ、待て、待たないか!」

 

 

180度ターンANDダッシュ。

 

華麗な2コンボを決めた俺は、後ろを振り返る事なくその場から逃げ去った。女の子から逃げ出す、なんて事は考えないようにする。

 

その後、銀の髪を持つ姉妹が追って来る事は無かった。

 

 

 

 

 

 

「あーあ、いっちゃった。トウヤの色、もっとみたかったのに」

 

「……イーニァ」

 

「なぁに、クリスカ」

 

「あいつの色って、普段何色なの? 私の時は、動揺が強く出てたのもあってイーニァみたいに他のモノが分からなかったの」

 

「トウヤのいろ。トウヤのいろは、やさしい オレンジ。たのしそうな ピンク。もえる あか。それと……」

 

 

 

「こわがりの、あお。」

 




挿絵機能付きましたね。絵なんて描けない私には無縁の話です。
男性キャラ描くにしろISの方のオリ主にしろ。

壊滅的だからな、私の美的センス!

後ですね。私、あまりハーレム展開に希望が見出せないんですよね。
一人の男を、何人もの美少女が囲む。「あんたもあいつ好きなの? じゃあ共有しましょ」なんてならないと思うんですよ。いつだって取り合い。きっと私がハーレム書くとこうなる。

だから、ヒロインは多くて三人が適量。本家みたく五人も六人も動かせる程の器量は私には無い。


そろそろオリキャラ出したい。

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