Muv-Luv 〜赤き翼を持つ者は悲劇を回避せんがため〜 作:すのうぃ
とある衛士の供述。
え? この前日本から来た大尉の事?
何だお前知らねぇのか、あの噂。じゃあ教えてやろう、耳の穴かっぽじってよく聞けよ?
大尉がこの基地に来た日にさ、あの人が乗ってた輸送機が爆発したじゃんか。
その爆発の原因って、実はアクティブ・イーグルが発砲した実弾が当たったかららしいんだよ。
で、偶然その輸送機の近くで演習してた二機のストライクが乗ってた奴らを救出したらしくてさ。
無事、大尉とその他の奴らは生きてアラスカの大地を踏めたんだと。
え? それだと大尉以外の奴の名前を聞かないのはおかしい?
いいから黙って聞けよ、こっからが話の肝なんだからよ。
無事に滑走路に降り大尉はまず、不時着したアクティブの方に向かっていってさ。管制ユニットから出てきたあのちびっこいのを見るや否や肩に担ぎ上げて、唖然とする周囲の人たちを尻目に基地内に消えて行ったんだ。
んでその後、自分が死にかけたのと階級が高いのをいい事に、かなりアレな事を迫ったらしい。
アレって何ってか?
何はナニだろうよ、なんせ夜中には女の悲鳴が聞こえて来たからな。それぐらいの事じゃねぇ限りあれだけの声は出ねぇだろうさ。
ほんで、そっから付いた大尉の渾名がロリ「ザイニンニハサバキノテッツイヲ サーチ アンド デース」う、うわぁぁぁぁああ!!何か来たぁぁぁぁぁああ!?
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2000年 6月 某日。
京都内にある帝国斯衛軍基地。
ちょうど昼時となり混雑するPXの中。
そこには、赤と山吹の斯衛軍服を着た、二人の若い衛士の姿があった。
赤い軍服の男ーー黒田 冬夜は目の前にある合成鯖煮定食を食べようと箸を持った時、ふと思い出した事を、極めて軽く言い放った。
「唯依、付き合ってくれないか?」
「……………へっ?」
何とも間抜けな声を出して箸を落としかけたのは山吹の制服の女性衛士ーー篁 唯依。
現在絶賛硬直中なのだが、そんな彼女の様子に気付かずに冬夜は話を進める。
「いや、今まで色んな奴らとやってきたんだけどな。そう言えば唯依とは一度もやったとないなと思ってさ。」
「や、ヤった!?」
顔をボンッと赤くしながらあわわとパニクる彼女。普段真面目であるが故、彼女は今考えているであろう『あんな事』に対しての耐性があまりないのだ。
しかも目の前の彼はソレを自分に要求してきている。
それもど直球に。
あまりのストレートにバットを振れなかったどころか取り落としてしまった自分の姿を想像する唯依。完全に意味不明である。
「あぁ。月詠中尉や大尉とも一緒にしたんだが、付き合いが長いお陰なのか中々良かったんだよ。」
「ち、中尉に大尉まで!?」
まさかいつの間に、と驚愕の唯依。
ね、寝取られたでござるぅ!!
某忍者の幻聴が聞こえた気がした。
「ならもっと付き合いの長い唯依だったらどうなるのか、って考えてな。だからさ、この後にでもどうかと思ってるんだけど。」
「こ、こにょ後らとぅ!?」
もはや言語がおかしくなっている唯依。
しかし今の彼女は、想い人が自分を求めてくれているだが他の女性にも手を出していてでもだからこそ………といった感じに混乱しているのだ。多少は許してやって欲しい。
「あ、もしかしてこの後予定があったりするのか? だったら無理しなくて良いぞ、俺の勝手な我儘だったんだからな。」
「え?」
だが、そんな彼女の反応を見て拒否されていると解釈した冬夜は優しい言葉で肯定する。
乙女の心知らず、である。
展開に付いていけず唯依は混乱。
そんな彼女を尻目に冬夜はうーんと唸る。
「ならどうしよっかなぁ………。無難に沙耶でいいか、うちの副隊長だからあんまし新鮮味は無いけど。」
「し、新鮮味が無い!?」
まさか彼女まで冬夜の毒牙に掛かったのか。
唯依は考える。
こいつがこんな男だったとは。
しかも美人達ばかり。
このままでは『斯衛の黒田は軽い男』という認識が広まってしまう。
それが他の奴らなら唯依の知ったことではない。軽蔑するだけだ。
だが、冬夜となれば別。
二年前、友達を失い悲しみに暮れていた時に、彼自身もツライ体験があったにも関わらず見ず知らずの自分を優しく受け止めてくれた。そんな冬夜の優しさを知っている唯依は、そんな評価が彼に下されるのは許せない。
なら、やる事は決まっている。
ゴクリ、と喉を鳴らして覚悟一発。
「と、冬夜ッ!!」
「ん?」
鯖煮うまー、と口に昼食をかきこんでいた冬夜に若干上擦った声を出す。
「こ、この後だが。その………私で良ければ………いや、私がッ!! つ、つつつ付き合ってやろう!! 一日と言わず、これからもずっとな!!」
多数といたすのが駄目なのだ。
ならそれを一人に絞ってしまえばいい。そして、その一人には、自分こそが!!
硬い決意を宿した言葉を彼女の口は紡ぐ。
だが、そのけついは儚くも崩れ去る。他でもない、冬夜の手によって。
「おぉ、そうか。ならこれからは付き合ってくれよな、シミュレーター。」
「……………は?」
嬉しそうな彼の口から発せられた文章の中に、聞き捨てならないワードが含まれていたのを唯依の耳は捉えていた。
「ほら、俺と唯依って一度もシミュレーター訓練した事ねぇだろ?
やっぱ連携するなら付き合いの長い方がお互いのクセとか分かってるから結構いい結果が残せんだよ。その考えで行くと唯依とならかなりいい成績が………………ど、どうした?」
俯いてプルプル震える唯依の様子に戸惑った感じで声を掛ける冬夜。
もしや食当たりがっ!? と勘違いした彼は立ち上がって彼女の隣に移動。
「だ、大丈………」
大丈夫か、と言おうとした瞬間、唐突に立ち上がる彼女。その長い髪はユラユラ揺れていて背後には変なオーラすら見える。
あ、何か嫌な予感。
「…………冬夜の」
「な、何でしょうか。」
その表情は見えなかったが何かただならぬモノを感じ取った彼は思わず敬語になる。
そして次の瞬間ッ!!
「冬夜の………ばかぁぁぁ!!」
「がるむっ!?」
可愛らしい声と共に放たれる、弾丸を連想させるパンチ。
下半身に重心を落とし、しっかり腰の捻りによって生み出された一撃は吸い込まれる様に彼のボディへヒット。
ドゴムッ!!
120mm弾を撃った時ような衝撃音がPXに木霊する。
派手にぶっ飛ぶとかいうギャグパンチではなく、リアルな痛みでその場に膝を着き、崩れ落ちる冬夜。
周りには何だなんだと人垣ができる。
「…………ふんッ、日本語を学び直してから出て来い!!」
ツーンとした態度でPXを出る唯依。もちろん冬夜は放置。
「ん? 何だ、随分騒がしいな。」
唯依と入れ違いに入ってきたのは月詠 真那中尉。すぐさま騒ぎに気付いた彼女は現状把握のために人垣の中心へ向かう。
「何だ、この人垣は。一体何があるんだ………って、冬夜!? おいしっかりしろ、何があったんだ!! 」
ゆさゆさと冬夜の肩を揺する真那。
すると、反応が返ってきた。
「…………真那さん……」
「お、おぉ。意識はあるみたいだな、待っていろすぐに」
「分かってます。………あの河を……渡ればいいんですね? 」
「冬夜!?」
反応はあったが、黄泉の国へ旅立つ寸前だった。
「……何、六文払え? 全く、そんな話聞いてないぞ。仕方ない泳いで渡るしか……」
しかも橋渡しの船の所まで行っているらしい。
「駄目だぞ、その河は絶対に渡るなよ!? 」
「……ははは、大丈夫ですよ。こう見えて水泳はとく、い……」
カクン。
真那に抱き起こされた冬夜の首から力が抜ける。
頬をぺちぺち叩いても、彼の瞳は開かれない。
「冬夜、冬夜!? おい、しっかりしろ!! 衛生兵、衛生兵ぃぃぃぃぃぃい!!」
ちなみに後日、真相を知った真那に全力で冷たい目を向けられる冬夜の痛々しい姿があったという噂が流れたがあまり広まらなかった。
つまり皆どうでも良かったのである。
何か思い付いたんです。