第81話
もどかしい。ああもどかしい。こうやって待っている時間ってのはどうしてこうももどかしいんだろう。俺が何か出来るわけじゃないから待つしかないのは仕方ないんだが…………少し頭を冷やそう。
「はいはい、お父さんになるんだからどっしり構えましょうね」
「はは…………こういうのは苦手でして。しかし忍義姉さんもついに伯母さんですね」
「それだけ言えるうちは大丈夫ね。初産だから時間が掛かるのは仕方がないわ。私は比較的安産だったけど、すずかはどうかしら。姉妹だから似ていると良いのだけど」
こうやって話をするだけでも多少は心が落ち着く。忍義姉さんが一緒に居てくれて本当に良かった。
「あの、出産ってやっぱり痛いんですか?」
「よく鼻から西瓜を出すとか言うでしょ。あれが良く分かったわ。でも2人目からは流石に慣れたわよ」
「うへぇ…………」
「要君なんて戦いで腕捨てたんでしょ。それに比べたら大した事ないんじゃないかしら?」
「あれは痛みなかったですし。それに戦闘中はアドレナリンが出ているからか、すぐに治るからか知りませんが痛いと感じる機会が少ないんですよ。感じてもつねられたくらいですしね」
まあ1つの命を産み出すんだ。それ相応の痛みも伴うよな。そう考えると女って本当にすげぇわ。
「オギャァ! オギャァ!」
「!」
「はい座る。産まれたからってすぐには会わせないわよ。母子の健康を確認してから。そもそもこの部屋の鍵は先生しか持ってないんだから入れないでしょ」
「本当なら俺も同伴していいはずなんですけどね」
なんでも暴走するかもしれないとかいう理由で外に追い出されたのだ。悲しいなぁ。そこら辺の常識はわきまえているのに。
「旦那さん、忍さん、入っていいですよ」
「すずかは大丈夫なんですね?」
「奥さんもお子さんも元気ですから安心して下さい」
ああ、安心した。んじゃ可愛い事間違いなしな俺の子の顔を拝ませてもらうとしよう。
「要さん、待っていました。この子が私達の子ですよ」
「おお、女の子か。可愛いな」
顔立ちはすずか似かな。髪は俺と同じ青白い色だ。俺が手を伸ばすと、小さな手で指をぎゅっと握り締めてきた。反射みたいなもんなのは分かっている。それでも嬉しいな。
なんだ? 楔か。お前も嬉しいのか。何、ORTまで? らしくねぇ、っていたた。悪かった悪かった。
「さてすずか。名前はあれでいいよな?」
「はい。2人で決めた名前ですから」
「生まれる前から決めていたの? 気が早いわね」
「そうですかね?」
「私はそう思っただけ。それより決まっているなら早く可愛い姪の名前を教えてちょうだい」
「叶(かなえ)です」
この子が将来どんな夢を持ち、どんな道に進むのかは分からない。それでもその夢が叶って欲しいという願いを籠めた名前だ。それと俺やすずかに敵って欲しいという意味もあるが、これに関しては無理してほしくはないな。
「いい名前じゃない。叶ちゃん、伯母さんですよ~」
「だぁ」
まあ人に愛される子になるのが一番なのかな。
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「ダディ、なに見てるの?」
「お前が産まれた時の写真だよ」
「わぁ、ちっちゃい。これがわたし?」
「そうだぞ。お前が産まれてきた時にはみんな喜んだもんさ」
あれから数年。早いもんだ。叶は幼稚園に通うようになり、俺の酒屋もかなり軌道に乗って今じゃ支店も出来るほどになった。正直上手く行きすぎな気がする。
「ねぇダディ、今度みんなでユウトちゃんの誕生日パーティーしたいんだ。うちでやっちゃダメ?」
「いいぞ。準備は俺とマミィがやるから叶は友達を誘いなさい」
「ありがとうダディ!!」
ユウト君は今年で3歳だったかな。ならロウソクも3本でいいな。ああ、ユウト君ってのはなのはとユーノの子だ。叶のお気に入りで、将来はうちに婿入りさせてやろうと俺とすずかは画策している。どこぞの馬の骨なら俺を倒せない限り認めないが、あの子は例外だ。
ーーカランカラン
「おっと、いらっしゃい!! ってクロノか」
「依頼だ。ある組織を潰してほしい」
「しゃーねぇな」
「わたしお店番!」
「悪いな叶。いつも助かる。何かあったらクロノおじさんに言うんだぞ。さて、10分で戻る」
ちゃっちゃと済ませて叶と遊んでやらないとな。
次からはコラボですね。楽しくやらせてもらいます。