チートじゃ済まない   作:雨期

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ヒロイン誰にしようかな~


第8話

 昨日は楽しかったな。軽い一泊旅行だったけど、料理も旨かったし宿も綺麗だったし、何より温泉が良かった。

 ジュエルシードの封印を手伝えなかったのは申し訳ないが、今日のサッカーの助っ人で勘弁してもらいたい。

 

「行ってきます」

 

「やるからには勝ってこいよ」

 

「大丈夫。負けないよ」

 

 むしろ敗北を知りたいな。生まれてこのかたスポーツによる敗北はない。あくまで個人競技のみだがな。しかし団体競技のサッカーであっても今回は敗北するわけにはいかないのだ。

 俺が翠屋へ向かうとそこでは士郎さんと翠屋FCのメンバー、そして三人娘がいた居た。どうやら俺待ちだったようだ。翠屋FCは士郎さんが監督をするサッカーチームな。

 

「申し訳ありません。遅れました」

 

「まだ5分前だ。気にする事はないよ」

 

「先輩! 今日はよろしく!!」

 

『よろしくお願いします!!』

 

 キャプテンに続いてメンバーも一斉に挨拶をしてくる。なんかむず痒いな。

 

「おう、よろしく! てめぇらの出番が無いくらいに活躍してやるからな」

 

「それは大変だ。みんな、要君に負けないようにな。では出発だ」

 

 マイクロバスに乗って隣街へと向かう。そのバスの中でなんで俺が助っ人なのか聞いてみる事にした。

 

「なのは、俺が助っ人の理由知ってるか?」

 

「なんだか凄い助っ人が相手チームに居るらしいよ。最初は助っ人を呼ぶつもりはなかったみたいだけど、相手チームが挑発してきたんだって。ほら、お父さんって負けず嫌いだから」

 

「だから先輩が呼ばれたってわけですよ」

 

 挑発されたからといってそれに乗るとは士郎さんらしくない。それだけ負けたくない戦いだったのか。もしくは挑発されたのが士郎さんではなかったか。何にしても士郎さんの事だ。使う必要がなければ俺は最後まで使わないだろう。

 

「そろそろ着くからみんな準備してくれ」

 

『はい』

 

 

 

 

 

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 到着したグラウンドは広くてなかなかに良い。いい歳したおっさん2人がいがみ合っていなければ雰囲気も良かっただろうに。

 

「やあやあ高町さん。もしかして助っ人はあそこに居る少年だけですかな? 謙虚なお方だ」

 

「ははは、御堂さんこそ高々サッカー特待生を3人入れただけで満足とは謙虚ですな」

 

「ふははっ! 高町さんは笑わせて下さる。彼がそれほどまで出来ると?」

 

「正直連れてくるのを躊躇ったほどですよ。そちらのチームに泣かれても責任はとれませんので」

 

「「ハハハハハハハッ!!!」」

 

 あれは本当にどうすればいい。試合が終われば収まるとかいう状態じゃないぞ。少なくとも俺は頼まれた事をこなすだけのつもりだが、それでいいのだろうか。

 

「……まっ、いっか」

 

 あれでも大人だから何も問題ないだろう。関わりたくねぇしな。

 最初にあんないがみ合いがあったものの流石に試合が始まるとそんな空気もなくなる。あんまりサッカーはやらない俺だが、どっちのチームのプレーヤーも上手いのはよく分かるし、相手の助っ人の実力がずば抜けているのも分かる。

 

「頑張れー!!」

 

「ファイトー!!」

 

「いけー!! そこよー!!」

 

 三人娘も頑張って応援しているが、実力差はなかなか補えるものではない。前半は何とか0-0で抑えたが、こちらのプレーヤーの消耗が激しい。ハーフタイムだけじゃ回復しきれないな。

 

「要君、準備しておいてくれ」

 

「俺のワンマンプレーで勝っても文句言わないで下さいよ」

 

「そんな事は誰も言わないから安心してくれ」

 

 でも俺だけの力で勝たないように押さえぎみにいかせてもらおう。

 後半が始まって数分もしないうちに押され始め、点も取られていく。スコアが0-2になったところで士郎さんは交代の指示を出した。さて、やるか。

 

「先輩、後は頼みます」

 

「任せろ」

 

 俺はサッカーが特別上手くはないが、高い身体能力がある。それを披露してやろう。そうすれば敵さんも俺をマークしないと危険と考えるだろうしな。

 

「何はともあれまず1点。ヘイ、パス!!」

 

「はい!!」

 

 開始早々に少し動いて、敵の居ない場所でパスを求める。味方もそれに気が付いてすぐにパスを出してくれた。前方に人影なし。まっすぐぶちこめるな。

 

「ほらよっ!!」

 

 ゴールまでの距離がどんだけあろうと関係ない。入ればそれでいい。

 俺が蹴ったボールはほとんど減速する事なく敵ゴールの隅に入った。狙い通りのいいコースだったな。これくらい出来ないと助っ人として居る意味がねぇ。

 

「さっすが先輩っす!!」

 

「当然。んじゃサッカー特待生共はこっちで潰すから、お前らはいつも通りの実力を見せてくれ」

 

「分かりました!」

 

 そっからは翠屋FCが優位な試合展開となっていった。あっちは俺にボールが渡らないように神経をすり減らし、特待生共のドリブルは俺が悉く止めていく。目が良くて身体能力も高ければフェイントなんかも簡単に見切れるからな。

 動きが制限された相手は思うように動けず、試合は4-2で翠屋FCの勝利となった。

 

『ありがとうございました!!』

 

 

 

 

 

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 祝勝会は翠屋で行われた。俺はこれ目当てで頑張っていたんだよ。タダで士郎さんのコーヒーが飲める機会なんて滅多にないからな。

 

「一条さんもっとシュートしても良かったんじゃないですか?」

 

「甘いよバニングス。俺は助っ人。主役になっちゃいけないんだ」

 

「一条さんはそういう気は利きますよね 」

 

「おい月村、それは普段俺が気が利かないという意味か?」

 

「違いますよぉ」

 

「だよな。俺が侮辱されるのはどうでもいいが、月村がそんなに毒舌だったらどうしようかと」

 

「隠してるだけですずかって毒舌ですよ」

 

「えっ?」

 

 みんなで盛り上がっている中、なのはは何故かそわそわしているようだった。トイレを我慢しているとかそういう理由じゃないよな。

 

「そろそろ解散するか。みんなお疲れ様」

 

 士郎さんの掛け声で祝勝会もお開きとなった。俺もやる事なんてないから帰って明日の学校の準備でもしておこうか。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「!?」

 

 さっさと家に帰ってベッドで寝転がってたのに、俺でも分かるくらいの魔力を感じちまった。ジュエルシードに違いないが、ここまで強力なのは初めてじゃないか?

 

「こっちか!」

 

 家を飛び出し魔力を感じた方を見ると巨木が立っていた。とんでもない大きさだ。ジュエルシードであそこまで成長したのか。

 

「50%解放!!」

 

 一気に巨木まで近付くとまるで俺を待っていたかのように結界が張り巡らされた。

 

「要!! こっちだよ!!」

 

「ユーノになのは! ありゃどうなっている!?」

 

「分からない。けど幹には2人の人が居るみたいなんだ!」

 

「何だと!?」

 

 あれだけ巨大な木だからどこに居るか分かったもんじゃねぇ。下手に殴れば中の人に攻撃を当てちまう可能性だってある。だが放っておくなんて選択肢はない。

 

「! シッ!!」

 

 木の根が鞭のように俺目掛けて振るわれたので引き千切っておく。一般人がまともに食らえば即死するんじゃないか感じるほどの威力だった。

 

「なのは!! 何とかする魔法はないのか!?

 

「わた……が……」

 

「なのは!!!!」

 

「! ご、ごめん」

 

 どうしたんだ? 様子がおかしい。このまま戦わせて大丈夫なのか?

 

「とにかく俺が時間を稼ぐ! ユーノはなのはを頼む!」

 

「分かった」

 

 全く、昨日は俺が居なくてもジュエルシードを封印出来たってのに、何があったんだよ。何にせよ俺がやるべき事は1つ。あれをどうにかしてなのは達が何とかしてくれるまで時間を稼ぐだけだ。

 近付いてくる俺に木は枝や根による攻撃を仕掛けてくる。だが50%解放状態の俺には当たっても掠り傷すら付かない。自分で言うのもなんだが、この力は本当に凄まじいな。

 

「さて……」

 

 幹まで近付いたが、どうするか。ジュエルシードの魔力が一番感じるのはど真ん中だ。しかし人が居るのもそことは限らない。

 

「分からないなら開けるしかないな」

 

 俺は幹に両手を突っ込むと左右に開くようにして引き裂いていく。ジュエルシードを取り出せばこれも止まるだろう。

 

「オラオラ!!」

 

 木を掘るっても変な感覚だな。おっと、再生力も高いな。傷を治すついでに俺も取り込もうとしてやがる。だが関係ないな。食われるより早く掘ればいい。

 

『要君……私はもう大丈夫だよ。魔法を撃つから木から離れて』

 

『おいおい、今は木の中だぜ。数秒待て』

 

「フンッ!!!

 

 木を内側から思いっきりぶん殴って出口となる穴を開ける。こからと飛び出してなのはへ念話を送る。

 

『ぶっぱなせ!!!』

 

 次の瞬間には桃色の奔流が呑み込んでいた。非殺傷設定という人は傷付けないものとはいえ、これで生きているのが信じられない。あ、封印もされてる。手早いもんだ。

 ん? 中に居たのは翠屋FCのキーパーとマネージャーだったのか。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「終わったな」

 

「……うん」

 

 まだ何か悩んでいるのか。これは話を聞くべきだろうか。

 

「あのね、話を聞いてもらってもいいかな?」

 

「おう」

 

 なのはから話してきてくれたか。楽で助かる、と考えてもいいのかな。

 

「私ね、あの2人がジュエルシードを持っているのに気付いていたの。でも渡してなんて言えなかったの」

 

「…………」

 

「駄目だよね。ユーノ君がジュエルシードで困ってるのに、幸せそうだったからあの2人を見逃しちゃったの。だからこれは私が起こしたも同然なの。もう私は」

 

「うっせぇ。反省してるなら同じ過ちを犯すな。それが今のお前に出来る事だ」

 

「……ふぇ?」

 

「聞き返すな。恥ずかしい」

 

「僕も気にしていないよ。ちょっと被害はあったけど、ジュエルシードの封印も出来たし、みんな無事だったんだから」

 

 ユーノもこう言っている。確かに今回はなのはの責任は大きいだろう。だが過ぎてしまった事を掘り返して何か言うつもりは俺もユーノもない。

 

「どうしても償いたいならユーノに奉仕でもしてやるんだな」

 

「そんなのいらないよ!! これからも手伝ってもらえるならそれで十分だから!!」

 

「いいの?」

 

「な・の・は?」

 

「ひゃい!! 手伝います!!」

 

 ったくこのネガティブ娘は。今度コーヒーを奢らせてやる。




要君の能力解放は10%毎に自乗されていく感じです。
ちなみに100%解放しようとすれば5秒ほど時間が必要です。

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