バレンタインデー。世界的に有名なイベントだな。と言ってもミッドチルダじゃそこまで広まっていないのが現状だ。例外的に地球人の多い部隊じゃ人気イベントなんだが、まさかそれに巻き込まれる事になるとはな。
「かったりぃ」
朝からはやてに呼ばれて六課にやってきたが、会う女子の殆どから『バレンタイン楽しみにしていますね』という言葉を言われるのだ。いや、すずかには元々何かプレゼントするつもりでいたが、何故お前達にやらなきゃいかんのだ。
「はぁ……大変だ……」
「ユーノじゃん。なんで六課に?」
「はやてに呼ばれたんだ。それより聞いてよ。なんでか司書の子達にバレンタインのプレゼントをねだられるんだ」
「お前もバレンタインで悩んでるのか」
「って事は要も? どうしたんだろうね。去年までこんな文化なかったのに」
六課はなのはやはやてが居るから分からなくもない。司書も無限書庫でたまたま見つけた可能性もある。だが本当にそれだけなのか?
「はやては俺も呼び出している。とりあえず会ってみようぜ」
「そうしようか」
のよ呼び出しも気になるんだよな。なんで俺とユーノを同時に呼び出したんだ? バレンタインだから日頃のお礼にチョコでもくれるってなら別にわざわざ呼び出さなくてもいいと思うんだが。
「2人共遅いやん」
「っとと、そっちからお迎えとは」
「何があったんだい?」
「ま、機密でもないしここで話すわ。最近妙にバレンタインが持ち上げられとるやろ」
「おお、ちょうどその話をしていたんだ」
「あれな、女性向け雑誌にバレンタイン特集なんてもんを組まれたせいなんよ。これ見て」
何々『地球の文化! バレンタイン特集!!』。ふむ、題名は普通だな。内容は…………
「なんじゃこりゃ!!?」
「うわ…………ひど…………」
バレンタインは上司から労いのプレゼントを貰う日です♪ どんどんおねだりしちゃいましょう♪ だとぉ!? ってかこの特集書いてるのあのバカウンサーじゃねぇか。裏で始末してやろうか。
「これのせいで私にも被害が出とるんよ。この間違いは私が何とかするから、今年だけ要さんとユーノ君で凌いで」
「それはいいけど、なんで僕ら?」
「リア充やから。バレンタインなんて楽しませへんで」
「私情じゃねぇか。しゃーねぇ、プレゼントに指定はないんだな?」
「大丈夫や、問題ない」
「よし、ユーノ。盛大にパーティーやるぞ。食材は俺が集める。会場やらなんやらの手配はお前がやってくれ。料理人もいるといいな。はやては間違いの是正に加えてバカウンサーの仕置きもやってくれ
「分かった。任せてよ」
「元々予定に入っとるから安心してや」
面倒極まりない事だが、やるしかねぇ。バカウンサーの始末をこの手で出来ないのは残念だが、俺がやると殺りかねん。我慢しなくては。パーティーはブッフェ形式でいいだろう。集めるのは野菜、果物、肉、魚、酒辺りか。ソフトドリンクはその場で果物から作ればいい。ああそうだ、バレンタインなんだからチョコもあるといいな。チョコレートファウンテンでいいか。
「バレンタインまで残り1週間! 気合い入れていくで!!」
「「了解」」
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バレンタイン当日まで残り2日と迫った。要は大抵の食材を集め終え、やる事がなくなってしまっていた。そんな要にユーノが雇った料理人からある食材調達の依頼が入った。
場所は極寒の海。要は元気にバタフライをしながら依頼の食材を探していた。
「いねぇなぁ」
《生体反応も全体的に少ないですね》
「確かリヴァイアサンだっけ? あれ実在したんだな」
《地球では伝説でも魔法生物として、って下です!!》
海中から突然上がってきた巨大な生物の口が要を呑み込んだ。海蛇のような体に竜のような顔、そして翼のようなヒレを備えた生物。今回の食材のリヴァイアサンだ。
リヴァイアサンに呑み込まれた要だが、無理矢理リヴァイアサンの口をこじ開ける。それを食らおうとリヴァイアサンは顎の力を強めるが、要はびくともしない。こてわりリヴァイアサンはより深く、深海へと潜り始めた。
長年生きてきたリヴァイアサンは知識を蓄えている。今食らおうとしている生物は陸の生物。水中では呼吸が出来ず、水圧に耐えられる構造はしていないと知っているのだ。しかしその豊富な知識は要には通じない。
「オォォォォォ」
どれほど潜っただろう。陸の生物どころか並の水中生物ですら生きていけないような深さのはずだ。だが要の力は変わらない。ここでリヴァイアサンはようやく理解した。この生物に自分の常識は通じない。これは手を出してはいけない生物だったと。ならばどうするか。簡単だ。逃げればいい。
「オォォォォォオオオオオッ!!」
「?」
ーーゴオッ
体内に溜め込んだ水分をレーザーのように放出し、要を口から吹き飛ばしたリヴァイアサンは即座に反転し逃走を始めた。
どこに行く?
だが逃走が許される事はなかった。リヴァイアサンの尾を掴んだ要は海上ではなく、更なる深海へと潜る。これにリヴァイアサンは恐怖した。この生物は敢えてこちらのホームを戦場に選んだのだ。とにかく逃げようと暴れるその姿に、海中最強の名をほしいがままにしていたリヴァイアサンは影も形も残っていなかった。
海底に着地した要はリヴァイアサンを振り回し、何度も何度も海底に叩き付けた。リヴァイアサンが死に体になったのを確認した要はゆっくりと海上に浮上した。
「ぷはっ。これでいいな」
《流石です、主。深海の水圧も克服済みでしたか》
「何言ってんだ。初体験だよこんなの。さて帰るぞ」
《流石です、怪物(あるじ)》
「深海に放置してきてやろうか」
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バレンタイン当日。無事バレンタインパーティーは開催される事となった。はやての情報修正もあり、参加者全員は今回のみの特別なものとしっかり理解している。
「要さんお疲れ様です。はい、チョコレートです」
「すまんなすずか。手作りか?」
「市販が良かったですか?」
「馬鹿言え。妻から貰うのが市販だったら泣くぞ。そうだ、これ食えよ。頑張って取ってきたんだぜ」
《何を頑張ったんでしょうね?》
今回のパーティーのメインディッシュとも言えるリヴァイアサンのステーキ。その中でも最上級ふ部位で作られたステーキを要は用意していたのだ。
「それじゃあ頂きますね」
「っと、ただ食べるのもいいが…………こんな風景で食べるのはどうだ?」
ーーポチッ
要が懐から取り出したボタンを押すと、要とすずかだけが違う空間へと転移した。
「えっ、ここは?」
「ご覧の通り成層圏だ。室長に頼んで特別な部屋をここに造ってもらったんだ。ほら、地球が綺麗だろ」
「こんな場所を用意しているなんて。お金の無駄遣いは駄目ですよ」
「安心しろ。そのうち有料開放されるらしい。その時料金の1割が俺に入ってくるそうだ。今はそんな金の話よりやる事があるだろ」
「ふふ、そうでした」
「「ハッピーバレンタイン」」
皆様はどんなバレンタインを過ごしましたか? 恋人と一緒? 1人でネット? 俺は友人とゲーセンでした。ある意味楽しいバレンタインでしたよ。ちくせう…………