ある昼下がり、機動六課のフォワードやスタッフが集まり、和気あいあいと話し合いをしていた。
「やっぱり要さんは一番強い(おかしい)と思うんです」
『賛成!』
「でも要さんは機動六課の隊員じゃないからこの議題には合わないんじゃないですか?」
「あっ、すっかり忘れてた。じゃあ…………」
どうやら話題は機動六課で誰が強いかというものらしい。やはりと言うべきか、要が一番に上がったが、よく六課と一緒に活動しているだけの局員というのを忘れてはいけない。
「何を話しているのかな?」
「なのはさん! 機動六課で誰が一番強いかって話していたんです」
「面白い話だね。でも強いの基準って何? スバルはどう思う?」
「えっ?」
質問されたスバルの頭に最初に浮かんだのは力が強い事だった。しかしなのはが言いたい事がそんな事ではないのは直感で察した。
「分からないよね? 私だって分からないもの」
「でもなのはさんなりの答えがあるんじゃないですか?」
「にゃはは。私にとって強いっていうのは誰かを守る事かな。でもこれが答えじゃないと思うよ。答えは人それぞれだと私は思うんだ」
なのはの言葉にみんなが考え込む。自身にとっての強さとは何か。考えたところですぐに出る答えではないが、考えずにはいられなかったのだろう。
「そうだ、忘れるところだった。要君見なかった?」
「? いえ」
「今朝から見つからないんだよね。すずかちゃんも知らないって言っていたし。家庭菜園の収穫お願いしたかったのに」
「そんな事やっていたんですか…………」
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「願いを聞き入れてくれて感謝します、神様」
「これくらいならお安いご用さ」
件の要は神様に頼み込み、次元の狭間へとやってきていた。過去闇の書事件の際に並行世界の未来の自分と遭遇したここで修業をしようという考えだ。
「満足したら呼んでね。じゃ」
「はい」
神様が帰ってから要はランニングを始めた。不定期に変化する環境を眺めながら何時間も走り続ける。あらゆる世界から弾かれたものが転がっている次元の狭間。走っているだけで様々な発見もある。
「あれ、スペースシャトルか? どこの並行世界から転がってきたんだ」
「気になるなら持ち帰ってもいいんだぞ。誰も文句言わねぇからさ」
「うおわぁっ!?」
「よっ、昔の俺。また会ったな」
要に全く気付かれず真後ろを走っていたのは闇の書事件でも世話になった並行世界の未来の要だ。かなり成長したつもりでいた要だが、未来の自分との実力差には溜め息が出そうだった。
「見た目年齢は同じくらいになったな。いやぁ、自分が2人ってのは変な気分だな」
「ああ、そうだな」
「ちょっとは強くなったか? 少しやるか?」
「いいのか?」
要にとっては願ったり叶ったりだ。未来の自分ならば自分が持っていないものを持っているはず。そしてそれは自分の技術。習得できないわけがない。
「いいぞ。全力で来なよ」
「全力でか。よっしゃ! 完全武装・ORT!!」
「! もう完全武装まで覚えていたか」
「いくぜ!!」
完全武装をした要が未来の要へと殴りかかる。その拳は直撃し、未来の要を吹き飛ばしたが、そこに全く手応えはなかった。吹き飛ばされた未来の要は当然のように宙返りしながら着地した。
「威力は上がったな。だが力の使い方がまだまだって感じだな」
「そりゃORTに関してはそっちが上だろうさ」
「違う違う。ここで言うのは腕力。ORTならかなりの親和性だよ。基礎能力が上がったりするから思い当たる事があるんじゃないか?」
そう言われて思い出したのはシャッハを一撃で気絶させたあの出来事であった。確かに基礎能力が上昇している。
「どれ、力の使い方を少し見せてやる」
「! 消え」
ーーバキバキッ
「っ…………!?」
一瞬にして間合いを詰めた未来の要の拳は完全武装を打ち砕き、内臓にまで到達した。要は声にならない悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちた。
「流石に生身でORTを殴ると拳が痛いな。裂けちまった」
「ぁ…………ぁ…………」
「大丈夫か?」
「も…………なお、る……ふぅ。なんだよ今の。どうして完全武装が突破出来るんだ」
「説明してやろう。大抵の生き物には関節がある。関節には様々な役割があるのは分かるよな?」
「まあ一応。硬い骨があるのに器用な事が出来るのも関節のお陰だよな。あとクッションの役割も果たすし」
「そう。大切なのはクッションだ。さっきお前のパンチで俺が大丈夫だったのも、主に関節のクッションを利用して衝撃を逃がしていたからだ」
「それだけで無傷なのか?」
「まあ、他にも技術は使ったが、関節のクッションは大きい。そして殴る時はクッションを機能させなかった」
その言葉に要は首をかしげた。これに未来の要は笑う事なく説明を続ける。
「今まで知らなかった技術だ。分からなくて当然だ。関節のクッションを機能させない理由は衝撃を分散させないためだ。さっき衝撃を逃がすのにクッションを使うって言ったが、クッションで逃げる衝撃は何も相手からの攻撃だけじゃない。自分の衝撃も逃がしちまう。だからクッションを機能させない事で100%の衝撃を相手にぶつける事が出来る」
「難しそうだな」
「難しいぞ。でもお前は俺だ。だったらいけるだろ? 頭を使え。よく考えろ。それも強くなるには必須だ」
「頭を使うのは苦手なんだが、頑張るさ。じゃあな俺! サンキュー!!」
走っていく要の後ろ姿を眺めながら、未来の要はポツリと呟いた。
「限界突破300%使ってんのバレなくて良かった」
アリサ「流石に未来(リメイク前)の要さんには追い付けない」
シャマル「基礎能力も技術も段違いだもの。この物語が終わっても勝てないと思うわ」
アリサ「しかし昨日は各地で雪が酷かったですね。そんな雪も収まった今日は何の日?」
シャマル「本日2月9日は『河豚の日』よ」
アリサ「ふふふ、河豚なら多少は詳しいですよ。よく食べますし」
シャマル「それは頼もしいわね。ならアリサちゃんが好きな河豚は何?」
アリサ「ハリセンボンです」
シャマル「…………確かに河豚だけど、フグ科ではないわね」
アリサ「えっ、そうなんですか?」
シャマル「自慢するならもう少し勉強しましょうね」
アリサ「あう、そうですね。ではまた次回」