チートじゃ済まない   作:雨期

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明日は大腸カメラなんで夜は何も食えません。


第70話

 先日助けた金髪少女は念のため入院という事になった。無難な決断だな。誰か分からないとはいえ放置はいかんからな。しかし調べても行方不明とか捜索依頼の類いはなかった。どういう事だろうな。

 まあそんな事考える前に俺はある種の尋問に掛けられている。面倒な事極まりない。

 

「聞いているのか一条要!!」

 

「何か質問しましたか?」

 

「貴様! ふざけるな!!」

 

「ふざけてませんよ。聞いていなかっただけです」

 

「それがふざけていると言うんだ」

 

 バンッと机を叩くお偉いさん。そんな怒ってばっかだと早死にするぞ。俺のせいで死んだって言われても目覚めわりぃし、少しは話を聞いてやるか。

 

「それで、何でしたかね? 最初からお願いしますよ」

 

「……一条要、君に訊きたい事は2つだ。まずはあの姿は何か。そして何故殺人を犯したかだ」

 

「ほう! 殺人! 証拠はあるのですか?」

 

「機動六課のヘリから撮影された映像がある」

 

「見せてもらっても?」

 

「…………いいだろう。おい、あれを」

 

 映し出されたのは確かに俺が捕食端末の頭を潰したシーンだ。だがおかしいな。あまりに映像が鮮明過ぎる。あの時ヘリはシールドプリズンに囲まれていた。俺の魔力光によって不鮮明に映らなければおかしい。何かあるな。だがそれを詮索しても答えてくれねぇよな。

 

「確かに俺ですね。で?」

 

「で? ではない!! 局員でありながら殺人を犯し、平然としていられるとはどういう事だ!!」

 

「だってあれ人じゃないですから」

 

「…………何を言っているんだお前は」

 

 うわぁ、この場に居る全員から頭おかしい奴みたいに見られてる。超ムカつく。まあ俺は大人だからな。無視してやろう。

 

「それじゃあ次のあの姿は何かですね」

 

「待て! まだ質問は終わっていない!!」

 

「終わりましたよ。そちらが訊きたいのは殺人について。しかし俺は殺人犯していないので何も話せない。はい終わり」

 

「何度ふざければ気が済む!! ならばあれが人ではないという証明をしろ!!」

 

「ならそちらもあれが人であるという証明をして下さい。映像を観ただけなんでしょう? 肉片でも見つけて調査しましたか?」

 

「くっ、ああ言えばこう言いおって」

 

 へっ、そっちの態度がムカつくからこういう目に遭う。ちゃんと論破してくれるなら俺だって話してやるよ。

 

「もういい! あの姿についてだ!! 貴様があれになった瞬間に次元震が発生したのだぞ!!」

 

「ORTです。もう分かったでしょう? さようなら」

 

 実は俺が管理局に所属し続けるにはある条件がある。ORTについて詮索しない。これだけだ。これがかなり効果がある。俺という戦力を失いたくないのは当然だが、もし出ていって敵に回った時の管理局の被害がどうなるか分かっているんだな。

 

「はぁ、かったるかった」

 

「お疲れさんやったね」

 

「お疲れ様です、一条さん」

 

「おう…………はやて、どちらさんだ?」

 

「初めまして、カリム・グラシアです」

 

「あんたがカリムか。はやてがたまに話してくれるから知ってるよ。俺は一条要だ。んで、ついでに訊くが、そこに隠れているのはお知り合いかな?」

 

 廊下の角でこっちを伺っているのを気配で感じる。敵意や殺意なんかとは違う、戦意みたいなもんが放たれている。何であれ気になってしょうがない。

 

「流石です。シャッハ、出てきて」

 

「はっ!」

 

「彼女は私の補佐のシスター・シャッハです」

 

「シャッハ・ヌエラです。一条殿の噂は伺っております」

 

「そりゃ嬉しい。んで、さっきの気配から察するに、手合わせしたいのかな?」

 

「あっ…………分かってしまいましたか?」

 

「シャッハ、貴女はまた」

 

「ええやんカリム。要さんだってやりたそうな顔しとるし

 

「どんな顔だよ。ま、否定はしねぇ」

 

 このシャッハってシスターもシグナムから話は聞いてる。なかなか楽しい奴みたいだ。くそうぜぇおっさん達に尋問されてイライラしていたところだ。体を動かさせてもらおう。

 

「さ、やろうか」

 

「ここ廊下やで!?」

 

「実戦じゃどこが戦場になるか分からんぞ」

 

「一条殿の言う通りです。セットアップ」

 

「シャッハ!?」

 

 双剣のデバイスか。いいね。どんな場でもそれなりに戦える。ここでの試合に応じた理由もそれか。よし、まずは軽いジャブでビビらせてやる。

 

ーーパァンッ

 

「あり?」

 

 想像よりも拳が速く、音速を越えてシャッハの顎を捉えた。音は空気が弾けた音であってシャッハの顎を砕いてはいないから安心してもらいたい。何にせよこのスピードで顎に拳がかすったシャッハは一発ノックアウトだ。立ったまま気絶している。って何気にシャッハすげぇ。

 

「要さん…………ないわ」

 

「今のは俺でも想定外だった。この歳になって更に拳速が上がるとは思わなかった。反省している」

 

「えぇ…………ないわ」

 

「シャッハを運ぶから勘弁してくれ」

 

「当然や。カリム、固まってないで行くで」

 

「ひゃい!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 はやてに着いていった先は機密会議とかで使用される外部から完全に遮断された部屋だ。管理局の技術部お手製だから十分信用出来る。しかしこんな場所に招待されるとは何事?

 

「要さん、機動六課の創設について不思議に感じた事ない?」

 

「いや全く」

 

「……………………実は機動六課の創設にはカリムが関わっとるんよ」

 

「それを話して何になるんだ?」

 

「まあまあ、話はこれからや。カリムにはあるレアスキルが備わっとる。簡単に言えば未来を預言する力やな」

 

「すげぇじゃん。占い師やったら儲けそうだな」

 

「私もそう思う。それでカリムが将来起こる危機を預言して、それに対抗するために創設したんが六課なんよ」

 

 へぇ、六課も随分と重い責任を背負って生まれてきた部隊なんだな。でもそれと俺。どんな関係があるんだ?

 

「重要なのはカリムが預言出来るってとこや」

 

「ここからは私が話します。実は先日、一条さんが今回尋問される原因となった事件が起こった頃に機動六課誕生に関わった預言とは別の預言が現れたのです。おそらく一条さんに大きく関わる事かと思いますので聞いていただけませんか?」

 

「ああ、それくらいお安いご用だ」

 

「では

『一つの幕が降りし時、天より二本の大樹を背負いし巨魚が現れん。

巨魚、世界に根を下ろし、世を浄化せんと天使を遣わす。

されどそこに現れしは異界の蜘蛛。蜘蛛は巨魚と対峙し』

ここまでです」

 

「なんか中途半端だな」

 

「すみません。預言は一度に全て現れる事はないんです。このスキルもいつ発動するかは私にも分かりませんし」

 

「これでも一度に現れた預言では長い方なんやて」

 

 なんか微妙なスキルだな。実用性も薄そうだし。まあ管理局みたいのは危機対策が出来るから重宝するんだろうけど、個人的には使えねぇなぁ。

 

「この預言が要さんについて、ちゅうかORTについて示してるんちゃうか思うて要さんに聞きに来たんよ」

 

「幕というのは機動六課誕生に関わった預言の事だと思うのです。結果はどうあれそれが終わった後に世の中を浄化してくれる何かと一条さんが争うのではないかと心配しているのです。一条さんの意見を伺わせて下さい」

 

「一先ず、俺に手を出してほしくないのか違うのか。それを教えてくれ」

 

「出来るなら、手を出してほしくはないです。世が良くなるならそれに越した事はないので」

 

「浄化をそう読み取ったか。死ぬぞ?」

 

 はっきりと死という言葉を出すとはやてもカリムも目に見えて動揺した。そうだよな。そんな反応しなかったらどうしようかと思った。

 

「どういう事なん?」

 

「そうだな…………もしこの戦いになったら誰も手出ししないで大人しくシェルターにでも引きこもっている。約束出来るか?」

 

「…………聖王教会は約束しましょう。なので、教えて下さい」

 

「いいぞ。まずは巨魚だな。それはORTと同質の化け物の事だ」

 

「ORTみたいのがまだ居るん!?」

 

「おう、しかも1㎞くらいの大きさだったな」

 

「「……………………」」

 

 はは、固まってる固まってる。当然だ。知らなきゃこうなる。

 

「まあそんなに驚く事でもないさ。他にも3㎞くらいの奴や、理論上いくらでも巨大化する巨人も居るぞ」

 

「…………あかん、意味分からん」

 

「えぇと…………続きを」

 

「次は浄化だな。浄化はたぶん人類の殲滅だ。ORTとかって基本星の味方だからな。星を痛め付ける人類は殺すべき対象だ。この星にはそういった超存在が居ないから他から呼んだのかもしれん」

 

「とんでもない話で頭が追い付きません…………」

 

 普通は信じられないだろうけど、今こいつらは俺の言葉を信じるしかないから大変だな。まあ信じてもらわないと俺も大変だけど。

 

「次は天使だが、これは天使型の捕食端末。こいつを使って人類の殲滅をするだろう。これがまた面倒な奴で本体を倒しても定期的に産み出されるんだ。本体を完全に消滅させないとミッドチルダはこれと長い付き合いをする事になる」

 

「そや! アルカンシェル…………あかん、ORTにはこれっぽっちも効かんかったんや」

 

「俺が頑張るさ」

 

 なるべく粉砕していくつもりではあるが、欠片でも残るとそこからでも再生しそうなのがアリストテレスだ。体内のORTが居るからあまり悪い事は考えたくないが、本当に化け物集団だ。

 

「教える事はこんなところか。はい質問タイム」

 

「勝てるん?」

 

「邪魔がなければ勝てる自信はあるな」

 

 でもこれは予感だが、鏡が邪魔しそうなんだよな。他の誰も表に出てこない状況はあいつにとって最高の戦場だ。俺と一騎討ちが可能だからな。何とか言いくるめて共闘出来ればこの世界で数少ないアリストテレスと戦える可能性のある戦力なんだが。

 

「一条さん。私達はお願いしか出来ません。どうかミッドチルダを救って下さい」

 

「そんなに重くなんなよ。もしかしたら俺の解釈が間違いかもしれねぇんだからよ」

 

 間違いであってほしいなぁ。間違いじゃないかなぁ。はぁ、めんど。




アリサ「はい、アリシャの部屋の時間です」

シャマル「それはリメイク前の後書きの題よ」まだアンヘルちゃんが死んだショックを引きずっているのね

アリサ「今回はアリストテレスについてでしたね」

シャマル「そろそろぶっこんでおきたかったんですって」

アリサ「しょーじきどうでもいいわ。調べれば出るじゃない」

シャマル「作品として必要なのよ」

アリサ「そーですね。今日は何の日の時間です」

シャマル「次回までにはこの子治るかしら。本日2月2日は『お麩の日』よ」

アリサ「また地味なのを選択しましたね」

シャマル「美味しいじゃない、お麩」

アリサ「そりゃ美味しいですけど」

シャマル「お麩料理今度作ってあげるわ」

アリサ「何それ。お麩メインなんですか? なんか微妙そう」

シャマル「だから美味しいわよ。ではまた次回」

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