機動六課ではかなり珍しい丸々1日休み。僕ら新人は街まで買い物に来ていた。僕の場合は付き合わされているって言った方が正しいんだけど…………
「エリオー、これどうかな?」
「ス、スバルさん!? 下着ならティアナさんにでも訊いて下さい!!」
「エ・リ・オ、ちょっと目を瞑りましょうね。キャロも手伝って」
「喜んで!!」
「ホッチキス使ってどうするつもりですか!? 目を瞑るじゃなくて目を潰すつもりですよね!!」
どうしてランジェリーショップに男を連れてきて意見を聞くのか分からないよ。女の子同士で来ればいいのに。荷物持ちをしてほしいなら外に待ってるよ。
「要さん、この下着どうですか?」
「そういうのもいいが、早めにマタニティーを揃えていってもいいんじゃないか? ほれ、これなんかお洒落だぞ」
「可愛い♪」
…………今例外が居たけど気にしてはいけない。バカップルは違う人種なのだ。
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重い…………おかしいな、服だけなのにどうしてこんな重さになるんだ。僕は何も買ってないから全部女性陣の物なんだけど、女の人の買い物は恐ろしい。
「す、少し休ませて」
「エリオ君頑張って。少しくらい私も持つから」
「えっ…………(フェイトさんに殺されるから)キャロにそんな事させるわけにはいかないよ。もう少し頑張るよ」
「そう? ありがとう」
時折こうやってキャロは優しくしてくれる。なんだか飴と鞭を上手く使われている気がしてならないけど…………やっぱり嬉しい。ちょろいなぁ、僕。
「…………あれは!?」
「エリオ! どこ行くの!?」
荷物を投げ捨てて走る。路地裏に駆け込んでそれに近付いていく。見間違いではなかった。僕やキャロよりも小さな金髪の女の子がマンホールから這い出てきていた。服はボロボロ。体も下水道を通ってきたからか汚れている。
「エリオ君、その子は?」
「分からない。けど保護した方が良さそうだ」
「その意見には賛成ね。キャロ、すぐになのはさん達に連絡。要さんは近くに居たからすぐに来てくれるはずよ。エリオとスバルは周囲の警戒。私はこの子を診ておくわ」
「「「了解!」」」
少なくとも現状敵の気配はしない。この子は一体どこから来たんだろう。
「嘘……この子レリックを持っているわ」
「レリック!? じゃあこの子はガジェットから逃げていたのかもしれないの?」
「可能性は高いわね」
「要さんはすぐに来るそうです! なのはさん達もヘリを派遣してくれると」
「待たせたな」
「早すぎです…………」
「遅くて困るよりはいいだろ。そこの幼女か。ちと失礼」
要さんはペットボトルの水でハンカチを濡らして女の子の顔を軽く拭く。なんだか気品のある顔だなぁ。レリックなんてどこで手に入れたんだろう。
「気絶しているが、外傷によるものじゃないな。あってもかすり傷。骨にも一切問題はない。病気とかだと俺じゃあ診断しきれないが
《ならば私が行います》
「そういえばお前が居たな、アリストテレス。頼んだ」
《既にスキャンは終了しております。病気の方も気にする必要はありません》
良かった。なら疲れて倒れただけなんだ。後はヘリがくるまで現状維持するだけだね。やれやれ、とんだ休日だよ。
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ヘリが到着した後、少女はヘリへと乗せられ、新人達は少女がやってきたマンホール内の調査をする事となった。地上は要とフェイト、そしてはやてに守護騎士も居るため問題はないであろう。なのははヘリに乗ってシャマルと共に少女の容態を診ている。
「下水道のわりに臭いはしないね」
「ここは使われなくなって長いそうよ。それでも害虫や害獣は湧くでしょうから怖かったら注意なさい」
「それって、もしかしなくても」
「ゴキブリね」
「はっきり言わないで下さい!!」
かなり緩い雰囲気の中で調査は進んでいく。そんな時、エリオが足を止めた。
「何かあった?」
「今……黒いのが」
「エリオ君まで止めてよ!!」
「そんなつもりは…………! ぐぅっ!?」
「! 下がるわよ!!」
高速でやってきた何者かの一撃でエリオは吹き飛ばされた。ティアナの咄嗟の指示で全員が後方に飛ぶ。してみ見たものは黒い人型の生き物だった。
「エリオ! 生きてる!?」
「なんとか防ぎましたので。要さんの攻撃に比べれば大した事ないです。自動車にぶつかられた程度ですよ」
「それ結構な衝撃だよね。でも何あれ」
「きっと黒光りするあれの怪人です!!」
「ガリューはそんなのじゃない」
暗がりから出てきたのは紫色の髪をした少女と、赤い妖精のようなものだ。ガリューと呼ばれた黒い人型の生き物は少女の隣に立つ。
「随分と可愛らしいのが出てきたわね。食べられたいの?」
「!?」
「おいてめぇ! ルールーに変な事言うな!!」
「わぁ、ちっちゃい」
「うっせぇぞ!!」
とても敵対勢力と遭遇したとは思えないほど騒がしい状況だが、誰一人として隙を晒したりはしない。
「それじゃあご用でも伺おうかしら。ええと、名前は?」
「答える必要がない。用はレリックを貰う」
「無理な相談ね」
「知ってる。ガリュー!!」
少女の掛け声に合わせてガリューが飛び出す。標的はティアナのようだが、それを簡単に許すほど新人達も甘くない。スバルとエリオが前に出てガリューの突進を止める。
「重っ!!」
「ね、自動車、でしょ!!」
「よくやったわ。主人は私が、って何!? 虫!?」
「フリード! 燃やして!!」
「キュイイッ!!!」
少女へと銃口を向けようとしたティアナへ次に襲い掛かったのは大量の羽虫の群だ。少数精鋭の機動六課に数の暴力は意外に効果がある。新人となれば特にそうだ。だが羽虫の群もフリードの業火に焼き落とされていく。
「やってくれるじゃないの!!」
「ティアナさん! あの子も私と同じ召喚師です!! さっきの羽虫、どれだけ来るか分かりません!!」
「やられる前にやれって事ね!! シュート!!」
「させねぇよ! 烈火の剣精・アギト様の炎を見な!!」
「私の射撃を落とすなんてやるわね。アギトちゃん」
「ちゃん付けすんな!!」
双方の攻撃が双方に通らないという均衡状態が続く。この状況を変えるのに手っ取り早いのは新たな戦力が加わる事だ。そう考えたティアナだったが、それを先に実行していたのは敵であった。
「やっほ、ルーちゃん」
「クーちゃん!」
「新、手…………あれ? から、だ……が……」
「うご、けな……い……!」
「狐火・金縛り。霊感でもないと見えないよ」
やってきたのは金毛九尾を持つ少女、久遠だ。久遠以外には見えていないが、今新人達は狐の姿をした炎に全身を押さえ付けられている。彼女の得意妖術の狐火の発展技だ。これを抜け出すには相当な妖術や陰陽術で狐火を破壊するしかないだろう。
「この人が持ってるんだよね。この箱かな?」
「かえ……して!」
「ごめんね。ルーちゃんには必要なんだ。ルーちゃん、アギト、帰ろ」
「ありがとう、クーちゃん」
「相変わらず変な術使いやがる」
久遠達が去ってからようやく金縛りから解放された新人達の顔は絶望に染まって、いなかった。むしろしてやったりとしたり顔だ。
「私達が持っているわけないじゃない。持っているのは要さんよ」
「でも本当に持ってたら危なかったね」
「そうね。まだまだ私達も未熟だわ」
「あの女の子達は何者だったんでしょう」
「分からないけど、あの狐の子だけは危険だわ。見えないバインドとか反則よ。さあ早く帰りましょう。偽物ってバレたら今度は生かして見逃してくれるか分からないわよ」
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地下から戦闘音が聞こえるな。あいつらから呼ばれない限りは応援に行くつもりはない。こっちはこっちでガジェットが大量に出てきて大変なんだ。まあぶっちゃけ…………
「ヒャッハー!!! O・BU・THUは、消毒やーーー!!!!」
「ヒャ、ヒャッハー…………はやて、やっぱり恥ずかしい」
制限がなくなったはやてがガジェットを一掃しているから放置してもいいんだけどな。シグナムやヴィータも眺めてるし。広域魔法が使えるからフェイトも参加しているが、無理にはやての真似しなくてもいいんだぞ。
『アインス、お前の主人はどうにかならんのか』
『許してやってくれ。久しぶりに力を振るえて嬉しいんだ』
ったく、お前が甘やかすからこうなる。もっと厳しく躾すればあのセクハラ癖も治ったかもしれないのに。あー、あの幼女はどうなったかな…………なんか、ヘリおかしくないか? プロペラの回転が遅く…………
『おいなのは!! 聞こえるか!!』
『ごめん要君! 今ヘリがおかしくって、全部の機能が停止したの!!』
『見りゃなんとなく分かる! 逃げろ!!』
『ドアも開かないの! 内側から砲撃で開けるなんて危なくて無理!!』
チィッ! 浮かせる魔法なんてないぞ!! もし落下を何とかしても敵に砲撃娘が居るのは知っている。って忘れてた。あの魔法があったな。
「シールドプリズン!」
シールドが組み合わさり箱のようになってヘリを閉じ込める。これで落下もしないし、ヘリに攻撃も出来ない。こんなふざけた事したのはどこのどいつだ?
「こんにちは、タイプ・マアキュリー」
「その呼び方…………何者だ」
「アンヘルはアンヘルだよ」
いきなり俺の前に飛んできたガキが名乗ったのは天使の呼び名の1つ。確かに見た目は天使みたいだな。
「ねぇ、しんで」
「! っ…………!!?」
声が! いや声だけじゃない。筋肉が一切動かない。筋肉が動かないから心臓も停止しやがった。流石に…………ヤバい!!
「アンヘルはね、エネルギーをうばえるの! ねぇすごい?」
体が冷えてきやがった。筋肉が動くための熱エネルギーを奪いやがったのか。ヘリを停止させたのもこいつだな。しかし奪う力。天使のような見た目…………成る程な。色々と分かった。それにこいつの力にも、もう効かない。
「タイプ・ヴィーナスの捕食端末か。この世界にも転がっているとはな」
「えっ! どうしてうごけるの!?」
「同じように星から生まれたのに分からないか? ああ、お前は星から生まれたのから作られたんだったな。何であれ、俺達に死の概念はない。倒すなら物理的破壊が基本だ」
「でも、いまのあなたは、にんげん」
「悪いな。心臓をORTに譲った。これで俺に死の概念はなくなった。それにORTもキレていてな、能力も何とかしてくれるらしい。しかしお前みたいのが居ると面倒だな…………潰す」
「ひっ!!?」
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生まれて間もないアンヘルは死というものを感じた事がない。一度スカリエッティの提案で姉である戦闘機人全員と同時に試合をしたが、生命エネルギー以外の全てのエネルギーを奪い去り勝利した。彼女にとってそれは遊びでしかなかった。
だが今は違う。初めての、圧倒的な死の気配。アンヘルは奪ったエネルギーを利用し超高速で飛んだ。膨大なエネルギーを全て逃走に回したためか初速が既に音速を突破していた。だがその逃走劇は、僅か10mしか続かなかった。
ーークシャッ
紙風船が潰れたかのような軽い音。だがそれは勿論紙風船などではない。アンヘルの頭部が要の両手で潰された音であった。
その様子を見た者は何を考えただろう。アンヘルが死んだ悲しみ、怒り。要が人を殺した事への驚愕、嫌悪。いや、要の姿への恐怖だ。
全身が武装・ORT化したその姿。誰もが初めて見た本気の要、完全武装・ORT状態。人とはかけ離れたその姿は見た者を恐怖させた。例外は要の全てを受け入れたすずかと、要を超える事のみを考える鏡だけであった。
「…………フンッ!!」
ここから行った要の行動が更に見ていた者の思考を停止させた。頭部がなくなったアンヘルの肉体へ要が追撃をしたのだ。殴る。踏み潰す。叩き潰す。追撃はアンヘルの肉体が欠片も残らないまで続いた。
「ふぅ……こんなもんか。まだガジェットが残ってるな。やっておくか」
要は軽く息を吐き、背伸びをした。要が残ったガジェットを粉砕し、この事件は終決したが、その空気は決して晴れやかなものではなかった。
アリサ「…………えっ、アンヘルちゃん……死んだの?」
シャマル「作者の脳内がどうなっているのか分からないわ。登場時人気がそれなりにあったはずなのに」
アリサ「おかしいわ。入院して頭おかしくなったのかしら」
シャマル「そうとしか思えないわ」
アリサ「…………今日は何の日やりましょう」
シャマル「もう今日は何の日やったわよ。アリサちゃん、精神的にキテるわね」
アリサ「アンヘルちゃん好きでしたから…………」
シャマル「私もよ。では、また次回」