チートじゃ済まない   作:雨期

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寒くて炬燵が超恋しい。あれは冬の対人兵器だと思う。


第61話

「クークークー、久遠が通るー♪」

 

「ご機嫌っスね久遠。何か良い事があったっスか?」

 

「やっほウェンディ。実はね、ずっと練習してた妖術がやっと完成したんだ!」

 

「妖術ってあの魔法みたいなもんスよね。あれ形態が違いすぎて防ぐのが出来ないから苦手っス」

 

「久遠だって魔法は防げないからお互い様だよ。それでね、今回の妖術がね、幻術なんだ」

 

「幻術なら魔法にもあるから分かるっス。どんな幻術っスか?」

 

「地獄の再現!」

 

 とても良い笑顔でとんでもない事を言う久遠にウェンディの思考は停止した。地獄があると信じているわけではないが、どういうものか知識は持っている。だがそれを再現というのは想像出来なかったようだ。

 

「八大地獄を実際に見るわけにもいかないから、色んな術で除き見て、本当に苦労したよ」

 

「へ、へー、そうっスか」

 

「興味深い話だね。是非とも聞かせてもらえないかな?」

 

「わわっ!? ドクター居たんスか!?」

 

「居ては悪いかね?」

 

 神出鬼没のスカリエッティの行動は共に暮らしているナンバーズでも把握しきれないようだ。もしくは敢えて気配を悟られないように行動して驚かせているのかもしれない。

 

「スカリエッティって地獄に興味あるの?」

 

「全く、これっぽっちも興味がなかったのだが、久遠君の先程の言葉から察するに実在するようではないか。ならば私が死後堕ちる世界について知っておいても良いと考えてね」

 

「ドクター、それでいいんスか…………」

 

「私は悪人だよ」

 

「なかなか面白そうな話をしておるではないか」

 

「ふむ鏡君、君も興味が…………それは?」

 

「これか? 少し鍛練してやったら倒れおったわい。これから医務室に連れていくところじゃよ」

 

 鏡はオットーとディード、マイトとマイカの双子2組を引きずっていた。全員が疲労困憊で動けそうにないのは端から見てもよく分かる。少しなどというレベルではない鍛練をされたのは明白だ。

 

「いやはや精力的に働くね。ナンバーズのIS(固有先天技能)がそんなに珍しいかな?」

 

「喰らうてやりたいほどじゃ。6割方模倣したが、やはり覚えるには一度喰うのが早いわい」

 

「…………今なんと?」

 

「どうした。まさか儂が喰わねば能力を得られぬと思うたか。時間はかかるが残留魔力などを吸収して分析すれば喰らわずとも模倣は可能じゃ。まああくまで模倣じゃからオリジナルと比べれば劣化するがのぉ」

 

「はは、君は恐ろしいな」

 

「わ、私のISはどうなんス?」

 

「お主のは単純だったから完全に模倣したが」

 

「そうっスよねぇ…………はぁ…………」

 

「落ち込まないで。今日は久遠と一緒にお昼寝しよ」

 

「あぁ……久遠大好きっス~」

 

「! 伏せよ!!!」

 

 唐突に鏡が叫ぶ。それに驚く事なく全員が指示に従い身を屈めた。スカリエッティは対応しきれないためウェンディに押さえつけられる形になった。鏡は結界を張り、意識のほぼない双子2組を体内へ収め、次に起こる出来事に備えた。

 数秒してとてつもない轟音が響き、研究所は一瞬にして瓦礫の山になってしまった。

 

「全員無事じゃな?」

 

「君が結界を張ってくれなければどうなっていた事か」

 

「他のナンバーズのみんなは大丈夫かな?

 

「生命反応はしっかり感じるっス。でもこの攻撃はなんスか。魔力を感じなかったっスけど、質量兵器っスか?」

 

「外へ出れば答えが見えよう」

 

 瓦礫を押し退け外へ出ると、先程まで研究所があったとは思えないほどの惨状が広がっていた。他のナンバーズも続々と瓦礫から這い出てくる。そこにある声が響いた。

 

「なんで鏡が居るんだよ。ジェイル・スカリエッティとかいうのだけって聞いてたってのに」

 

「…………一条要。これは君の仕業か。どうやったのか教えてもらえるかい?」

 

「殴った」

 

「てめぇざけんな!! 広域殲滅魔法か質量兵器でも使わねぇと」

 

「ノーヴェ、オリジナルの言う事は事実じゃよ。拳圧のみで吹き飛ばしたんじゃろう。それをやってのけるのがオリジナルじゃ」

 

「よく分かってんじゃねぇか。さて、ジェイル・スカリエッティは生け捕りにしろって言われてるが、他は特に指定がないんだよな。抵抗するなら命の保障はしねぇぞ。潰れたトマトになりたくはねぇだろ」

 

「悪いが、今の儂はこやつらの協力者じゃ。邪魔をさせてもらおう。ウェンディ、こやつらを連れていってくれい。久遠、合体じゃ」

 

 鏡は双子2組をウェンディに投げ渡し、久遠と合体をする。黒い狐の尾が9本生えた鏡の姿を見た要は実に楽しそうに口角を上げた。

 

「面白そうだな。仕事じゃなけりゃ相手をしてやるんだが」

 

「全員撤退!!」

 

「逃がすか!! うっ…………!?」

 

「させぬよ」

 

 逃げ出そうとしたスカリエッティ達を捉えようと飛び掛かった要が突然地面に落ちた。何度も立ち上がろうとするが、その度に崩れ落ちる。鏡は両手を要へと向け、大粒の汗を流しながら呪文を唱えている。

 

「ガァ…………ギギッ……アアアアアアアッ!!!」

 

「ブツブツ…………くっ……しつ、こい…………おちつ、かぬ…………かぁっ!!!」

 

「オオッ!!! グアォォッ!!!!」

 

 喉が裂けんばかりに吼えた要は何かを振り払うように立ち上がった。肩で息をしているが、意識ははっきりとしているようで鏡を睨み付けていた。

 

「幻術を、気合い……で……うち、払うか…………」

 

「ハァハァ、なんだ……ハァ……今の……」

 

「八大、地獄…………フゥー。ではなオリジナル」

 

「待て……ゴラァッ!!! 武装拳・刃ぁっ!!!!」

 

 要は武装拳で刃にした腕を振って、斬撃を鏡へと飛ばした。だが斬撃が当たる直前で鏡の転移は完了し、残ったのは瓦礫の山と崖と見まごうばかりの断裂のみであった。




アリサ「平和に過ごすスカリエッティ一行に要さん襲来!!」

シャマル「どう見ても悪者ね。彼はもう少し主人公らしくしようと思わないのかしら」

アリサ「主人公は鏡さんですし」

シャマル「そう……本編では要君に幻術が効いていたわね」

アリサ「八大地獄を体験させる術だったみたいだけど、相手が悪かったとしか言えないですね。本来なら精神が耐えきれずに即死、よくて廃人になる術なのに、術を抜け出して数秒で反撃なんて頭おかしいですよ」

シャマル「まあ要君だもの。頭がおかしくないわけがないわ」

アリサ「そうですよね。では今日は何の日いきますよ」

シャマル「本日1月8日は『平成スタートの日』よ」

アリサ「そっか。今日から平成が始まったんですね」

シャマル「その平成も今は26年。早いわね」

アリサ「平成元年産まれが26才…………不思議な気持ち」

シャマル「ではまた次回ね」

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