ミッドチルダには多くの商業施設が存在している。その中でも大型とされる店にあるグループが訪れていた。
「マイト、マイカ、好きな物を買っていいんじゃよ。ただペットは既に久遠が居るから駄目じゃ」
「鏡! 私はペットじゃないよ!!」
「はは、すまんの。久遠も好きな物を買いなさい」
現在一般的に発表されてはいないとはいえ、管理局で指名手配されているというのを知らないわけでもないのに、鏡はなんとも暢気にしている。ちなみに今日はマイトとマイカが仲間入りして大体一年記念らしい。
そして今日ここに訪れてきているのは鏡だけではない。当然様々な人がプライベートで訪れているわけで、想定外の出会いもあったりする。
「鏡さん、この人形が欲しいです」
「お姉ちゃん! このお人形さんがいいです!」
「「はいはい、ん?」」
「管理人格。今はアインスか。久しいのぉ」
「拳闘士か。その子達はどうした? 魔力源か?」
「まさか。ただ預かっているだけじゃよ。そっちこそ、そのちっこいのはどうしたんじゃ」
「私の妹だ」
妙にピリピリとした雰囲気に子供達だけでなく、周囲に居た人々も心配そうに眺めている。そこからまず一歩引いたのはアインスだった。
「なんじゃ、やらぬのか」
「無意味な争いは苦手だからな」
「そうかそうか。では背後の主人達は関係ないと」
先程までの雰囲気を察したのか、アインスの後ろにははやてとその騎士達がやっていていた。当然のように警戒している彼女達を見ても鏡は特に何か表情に出すわけでもなく久遠達に指示を出す。
「財布を渡すからお主らは好きな物を買ってきなさい。儂はこやつらと話す事があるからの」
「分かりました。マイカ、久遠さん、行こう」
「ちょいちょい、そう簡単にどっかに行かすつもりはないで」
「主の言う通りだ。貴様は倒せずともその子供達をどうにかするのは造作もないぞ」
「あまり吼えるな剣の騎士。こやつらが人質になった程度で儂が動揺すると思うか? 儂にとって重要なのはあくまでオリジナルに勝利する事。それ以外は些末な事よ。それ以前にお主らではマイト達を捕らえるのは不可能じゃな」
「そんなガキンチョに負けるかよ!」
「鉄槌の騎士がガキンチョと言うても違和感しかないのぉ」
「黙れジジイ!!」
「そうこうしている間にマイト達はもう行ってしまったんじゃが」
「へっ、まだそこに……」
そこには人影などなく、代わりに植木鉢に入った木が2つ置いてあった。
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さっさと逃げ出した2人と1匹は自分の欲しい物を探して歩き回っていた。しかしマイカの欲しい人形は鏡達の近く、マイトが欲しい植物は売っていない。必然的に久遠の欲しい物を探す事になるのだが、目移りしてなかなか決まりそうにない。
「もう全部買ったらどうかな?」
「流石にそれは鏡さんに悪いですわ」
「鏡なら怒らないから大丈夫だよ」
「鏡は随分と優しいみたいだな」
「優しいというか興味がないんじゃ……クーッ!?」
真後ろから話し掛けられ久遠達は飛び退いた。自身らの保護者のような鏡によく似た人間、一条要がそこに居た。鏡の敵は自分の敵というつもりは彼女達にはないが、気配もなく近寄られては警戒するのも無理はない。
「要さん、突然走り出して何があったんですか」
「いや、何があるってほどでもねぇ」
「そうですか……それより要さんのマテリアルが居るって連絡がありましたけど」
「無視しろ。あれがその気になればここを一瞬で更地にする。そうなったらどれくらいの被害が出るか考えるまでもないだろ」
「でも要さんが倒せば」
「生憎とあれを完全に消滅させる自信はまだない。スライムみたいなもんだし細胞(データ)が一片でも残れば再生してくるぞ、たぶん。それより……なあお前ら、少し俺と話そうじゃないか。拒否権はない」
「そんな小さな子に何を」
「分かりました。ただ危害を加えない事を約束して下さい」
「いいだろう。俺がしたいのはお話だからな」
「えっ、えぇっ?」
すずかが状況を飲み込めず混乱しているのをスルーして要達は近くのベンチに腰を掛ける。要はアリストテレスに防音の結界を張らせ、久遠達と話を始めた。
「お前らは今いくつなんだ?」
「久遠は……忘れちゃった。でもきっと貴方より年上だよ」
「僕とマイカは8歳になります」
「わっかいなぁ~。そんな歳でどうして鏡と一緒なんだよ」
「命を救われたからです。そこからは僕らの意思で一緒に居ます」
「……そうか」
要にあの空港火災の時の記憶が蘇った。スバルを助けた後に見つけた血溜まり。そこから感じた鏡の魔力。もしかしたらその時の血溜まりを残したのがこの子達なのかもしれない。あれだけの流血だ。相当な怪我だったはず。自分には治す事など出来なかっただろう。そう考えると少しだけ鏡に感謝したくなった。まあ実際に会えば殴るに違いない。
「モフモフ~♪」
「ク、クゥ~、やめてよ~」
「楽しそうだなすずか。よし、俺にも触らせ」
「クゥッ!」
ーーペチン
「…………地味に傷付くわぁ」
「ガラスのハートですのね」
「まだだ、まだ終わらんよ」
要が無駄に何度も久遠に手を伸ばしている間にマイトとマイカは能力を使い、ある植物を要の足へと伸ばしていく。この植物は他者に寄生し、宿主の水分を一気に吸い取って成長し、最後には絞め殺してしまうというもの。第一級危険植物として管理局では注意されるほどだ。
植物に気が付いていないのか、はたまた無視しているのか、要は久遠しか見ていない。徐々に伸びていた植物が要の足に触れた瞬間一気に…………腐った。
「ん? なんだこの草」
「さあ、なんでしょう」
平静を装っていてもマイトは内心動揺していた。マイカに至っては何も言えずに固まっている。
「ちょっと足に絡まってますね。コンクリートからこんなに早く伸びる植物があるんですね」
「なんか吸われそうになった気がしたが」
「じゃあ栄養の取りすぎで腐ったんですね」
「だろうな。ガキンチョ共、今後は相手を選びな」
「はぁ、やっぱりバレてますか」
「マイトもマイカもバレないと思ってたの? あっ、鏡だ!」
「なんじゃお主らオリジナルと共におったのか」
久遠達を迎えに鏡が歩いてきた。はやて達をどうやってあしらったのかは分からないが、誰かが追いかけてくる様子もない。
「よう、やるか?」
「まだじゃ。勝てる見込みがない」
「そうかい」
「マイカ、欲しがっておった人形じゃよ」
「わぁ、ありがとうございます」
「似合わねぇなぁ」
「理解しておるよ」
要と鏡はいがみ合う事なく、何でもない友人同士のように話し合っていた。2人を知るものからすれば異様な光景と言えるかもしれないが、戦闘意欲がなければどちらも無闇に戦う事はないの。
「すずか、買い物続けようぜ」
「は、はい」
「マイト、久遠、お主らも遠慮せずに買うのじゃぞ」
「……分かりました」
「クゥ」
彼らが次に出会った時どうなるかはその気分次第になりそうだ。
次はコラボです。三が日の間に投稿します。