クリスマスなんてなかった。幻想だ。
「新郎新婦の入場です。皆様盛大な拍手でお迎え下さい」
ーーパチパチパチ
クロノとエイミィが結婚した。正確には入籍をしてはいたのだが、それを世間に公表して式を挙げたのが今日だ。クロノの顔はかなり広かったようでかなりの著名人も出席している。お、クロノがこっち来る。
「おめでとう。決まってるぜ」
「ありがとう。君達はまだ入籍はしないのかい?」
「こんな事言ってるぜすずか」
「まだ早いですよ」
「だとさ。それで何か用なんだろ。じゃなきゃわざわざそっちから来ねぇよな」
「ああ。式が終わったら仕事を頼む」
「めでててぇ時まで仕事か。いいぜ。俺だけか?」
「一応いつものメンバー全員集まってくれ。では」
全く真面目だね。これからは家族が増えるんだから家庭の事を考えて仕事を控えてほしいもんだ…………その控えた仕事をこっちに回しそうだな。やっぱり真面目なままでいてもらおう。
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式も終わり、要達がクロノとエイミィを待っていると着替えた2人が歩いてきた。
「お疲れ」
「2人共すっごい綺麗だったよ」
「ありがとう。あ、要君にはこの飴あげる」
「飴? まあ貰っておく」
エイミィから渡された小さな赤色の飴を口に含んだ要ほポンッという軽い音と共に煙に包まれた。エイミィとクロノはそれを少しにやつきながらそれを眺めていた。
「ケホケホッ、何が起こったのよ」
「…………要、さん?」
「何よすずか、おかしな顔して…………って何よこの体!? てか口調もおかしくなってる!?」
「これはまた、綺麗になったわね。嫉妬しそう」
おめでとう! 要は女性に進化した!
「何が進化よ!! クロノ、説明して」
「見ての通り性転換薬だ。ロストロギアだが、限定的に使用が許可されている。見た目はもちろん、精神面でも変化するようだ」
「……変化というより別物になっているわ。二重人格と言えば分かりやすいかしら?」
「ほぇー、要さんそんなんも分かるん?」
「落ち着いたら何となく理解出来たわ。私が薬で生まれたからかしら。さっきまで意識が混同して混乱してたけど、男の要は今はふて寝しちゃってるわ」
女性となった要、ではなく要の女性人格の話に全員がなんとなくだが納得する。今まで非常識を貫いてきた要の側に居たのだ。今更性転換や二重人格で慌てるほど精神も弱くないのだろう。
「じゃあクロノ、私をこんな風にした責任、じゃなくてこんな風にした理由を教えてもらえる?」
「これから君には潜入捜査をしてもらう。生憎と入れるのが女性のみだったからそんな姿になってもらったよ。なのは達には要に服を提供してやってくれ。潜入するのはライブ会場だからそれに合うように」
「私の服は使えんかもなぁ。こんなに胸あるし。シグナムとええ勝負や」
「こらこら胸揉まないの。気持ち良くなっちゃうじゃない」
「なんだか要君とは思えない発言なの……」
「私は要が反転した存在ですもの。どうせなら名前も変えましょう。これから楔(くさび)って呼んでね」
「どうして楔なんです?」
「(前世の)知り合いから借りたのよ。そんな事よりコーディネートは頼んだわよ。フェイトの服なんてサイズが合いそうじゃない?」
「どうかな。試さないと」
要の女性人格、楔は思った以上にスタイルが良く、なのは達を嫉妬させるのであった。要に戻った時に地味な嫌がらせをしてやろうと彼女達は誓うのであった。
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おぉ、広いライブ会場ね。地下にあるって聞いてたからもっとじめっとしてるのかと思ってたけど、客は女性のみのライブだからそこら辺は考慮しているみたいね。
中毒性が高くてリピーターの多いライブって話だけど、管理局の考えだと麻薬を扱ってる可能性があるみたいね。持ち物チェックが厳しかったし、デバイス持ち込み不可だから確かに怪しいわね。
(おい)
あら起きたの。おはよう。気分はどうかしら?
(どうでもいい。この状況はいつになったら戻る?)
1日よ。明日の昼頃まで待つ事ね。
(そうか)
それだけのために起きたの? ってた寝ちゃった。どれだけ私の事が不満なのよ。もういいわ。客も増えてきたし仕事に集中しましょう。あ、バンドメンバーが出てきたわ。顔は悪くないわね。でもチャラそうだから好みじゃないわ。
「みんな今日も来てくれてありがとぉー!!! 楽しんでいってくれぇー!!!!!」
結構スモーク炊くのね。ん? このスモーク匂いが…………もしかして薬? 周りの客の目がおかしい。あっ、倒れているのもいる。どれだけ強い薬なのよ。こんな薬ならライブに参加した客の体を調べれば検出されそうなものだけど。ってもう殆ど倒れてる。私も倒れないと怪しまれるわ。
「…………毎度チョロいねぇ。おい、全員運べ」
ちょっ、どこ触ってんのよ。ムカつくわ。でもまだ我慢よ。手足を縛られたくらいじゃ拘束にもならないわ。
「この女初めて見ますけどいい体してますよ」
「ヒュー、俺が最初にヤるぜ。しかし本当にボロい商売だな」
「この薬のおかげですね。でも最近管理局が嗅ぎ付けたって噂ですよ」
「証拠がないから大丈夫だって。煙にすれば検出されないんだしよ。まあ中毒性が高すぎて金蔓が増えすぎなのも問題か」
面倒な薬ね。でもそれも今日で終わり。女を食い物にした代償はしっかり払ってもらうんだから。
「じゃあいつも通りブスは血と魔力を抜いて金にして、イケてる女は犯してくぞ」
『ウィース!』
「はいそこまで」
「!? なんだてめぇ!?」
「管理局の者よ。さっきまでの会話は全て録音したわ」
「おい! どういう事だ! チェックは完璧だったんだろうが!!」
「ま、間違っても録音機など」
「気付かなくて当然よ。この指輪が録音機だもの。これなら金属反応が出ても録音機なんてバレないでしょ」
「このアマ……ぶっ殺して」
「遅いわ。抜骨」
ーーコキッ
「がっ!? か、肩が」
「ふっ!」
ーーメキョッ
リーダーと思わしき男の両肩の関節を外し、顔面をおもいっきりぶん殴ってやった。吹き飛んで壁に衝突した男の顔は見事に拳の形に陥没していた。これを見た他の男達は青ざめて膝をガクブルさせている。意外と可愛いところがあるじゃない。でも誰一人として逃がしはしないわよ。
「遊んであ・げ・る」
私が出ていられるのは今だけだもの。好きにさせてもらうんだからね。
〈後日談・はやて編〉
はやて「要さん要さん」
要「どうしたはやて」
はやて「はい、これ昨日女の子になっとった時の写真」
ーーザワッ
要「おい誤解を招くような事は言うな。てめぇらもこっち見てないで仕事に戻れ!!」
はやて「また今度女の子になってみてな♪」
要「お断りだ!!」
〈後日談・フェイト編〉
フェイト「ねぇ要」
要「何かあったかフェイト」
フェイト「昨日要が着てた私の服についてなんだけど」
ーーザワッ
要「俺じゃなくて楔だろうが。てめぇら散れ!!」
フェイト「なんだか薬とか掛かったって聞いたからしっかり洗ってね。柔らかい素材だから手洗いでね」
要「そのためだけに来たのかよ。分かったやっとく」
〈後日談・なのは編〉
なのは「要君!」
要「いきなり抱き付いてくるなんてどうしたんだ、なのは」
なのは「なんだか反応薄いね。昨日は胸を触られたら気持ち良くなるって言ってたのに」
ーーザワッ
要「あれは俺の発言じゃねぇだろ。てめぇらもいちいちざわつくな!!」
なのは「昨日は楽しかった? ねぇ楽しかった?」
要「楽しかねぇよ」
〈後日談・すずか編〉
すずか「要さん聞いて下さい!」
要「騒がしいぞすずか」
すずか「昨日の薬を解析して同じものを作りました! これでいつでも性転換出来ます!」
ーーシーン
要「あれロストロギアじゃなかったのかよ…………ってか今回は誰もざわつかないのかよ!!」
すずか「せっかくですから今すぐ楔さんになって下さい」
要「嫌だよ。やる必要ないだろ」
すずか「だって楽しそうじゃないですか」
要「……胃がいてぇ」