チートじゃ済まない   作:雨期

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今年は春夏冬しかなかったような気がします。


第54話

 つい先日ある依頼が俺に舞い込んできた。なんでも俺に訓練生を鍛えてほしいとか。よくもまあそんな事を考えたな。俺だってとんでもない事をするつもりはないが、普段俺がやるトレーニングをやらせるわけにもいかないよな。

 

「参ったな」

 

「悩んでるなんて要らしくないね」

 

「フェイトか。いや俺だって悩む事くらいある」

 

「そう? なら何を悩んでいるか教えてほしいな。友達でしょ」

 

「実はな、訓練生のトレーニングを頼まれたんだ。だがどうするのがいいのか分からなくてな。人の指導なんてクロノに武装拳教えて以来だし」

 

「要は出来る事が少ないんだし、無理して普通の指導をする必要はないんじゃないかな」

 

「地味に酷い事言ってくれるじゃねぇか。ま、少しは気が楽になった。適当にやってくる」

 

 適当も適当。たぶん魔法の訓練校でやるような事じゃないトレーニングメニューになりそうだが、それしか出来ないのが俺だ。悪いのは依頼してきた奴らなんだ。

 

 

 

 

 

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 訓練校にやって来たはいいが、気になる事が1つ。

 

「どうして着いてくるんだ、すずか」

 

「駄目でした?」

 

「いや俺は気にしないが、いいんだろうかと思ってな」

 

 あくまでこの依頼は俺にきたものだ。他の部外者を連れ込んで構わないのか? いざとなれば補佐とかそういうので誤魔化せるなろうが、つなぎ姿の補佐って

 

「要さんってこういうのは慣れてなさそうだからストッパーが必要でしょう。そのストッパーになりますよ」

 

「……悪いな」

 

 事実俺にはトレーニング関係の常識が非常に薄い。俺にとってはウォーミングアップでも他人からすれば富士登山に等しい運動となる可能性もある。それを考えるとストッパーが居るのは非常に有り難い。

 

「サンキューすずか」

 

「お気になさらず。ほら、訓練生が頑張っているのが見えてきましたよ」

 

 ふむ、なかなか立派なグラウンド、じゃなくて有望そうな訓練生達だ。動きも悪くない……一般レベルで言えばな。ここから芽が出るのは何人になるやら。

 

「! 一条要さんですよね!!」

 

「ん、そうだが」

 

 俺の姿を見て訓練生の1人が走り寄ってきた。まるで仔犬だな。しかしあの青い髪どこかで…………あっ、思い出した。

 

「火事現場の嬢ちゃんか。なんだ、局員目指しているのか」

 

「はい! スバル・ナカジマです! 高町さんと一条さんに憧れて」

 

「要でいい」

 

 しかし俺に憧れてとは、光栄だが止めた方がいいと思うな。どんなに頑張っても届かないものはある。

 

「ナカジマァ!! お迎えするならちゃんとせんかぁ!!

 

「す、すみません教官」

 

「あー、俺は気にしてませんよ。むしろ昔助けた子に会えて嬉しいぐらいで」

 

「一条曹長、これは礼儀なのです。口出しは訓練のみでお願いします。いいですね?」

 

「アッハイ」

 

 ここの訓練生は人間的には何も問題なさそうだ。社会に出てもやっていけるだろう。

 

「お前達! 一条曹長と……………どちら様ですか?」

 

「月村すずかデバイス技師です。一条曹長の補佐として参りました」

 

「ご丁寧にありがとうございます。こほん、一条曹長と月村技師に礼!!」

 

『よろしくお願いします!!』

 

「よろしく」

 

「では後の指導はお任せします」

 

「任されます。それじゃみんな、まずは準備体操をしてくれ」

 

 訓練生が準備体操をやっているうちに考えてきたメニューの確認をする。ランニング、筋トレ、組み手、あくまで基礎体力を鍛えるものだから組み手は余分かもしれんが、やって損はないだろう。

 

「準備体操が終わったら集合…………全員終わったな。まずはランニングをしてもらうから俺の後ろに着いてきてくれ」

 

『はい!』

 

 先に誰かが走ればそれが先導となってある程度ペースは揃うはずだ。とはいえ長距離走が得意な者、短距離走が得意な者、様々いるだろうからまずは軽く遅めに。

 

「要さんストーップ!!」

 

「ん、どうし……おお、これはこれは」

 

 気が付けば俺と訓練生の距離は数十mは離れていた。腕時計を確認するとスタートしてまだ1分も経っていない。意識していた押さえていたつもりが、軽めに軽めにと考えている間に無意識にスピードアップしてしまうとは。

 

「えぇ、各自グラウンド50周」

 

「要さん多いです!」

 

「えっ、あっ、すまん。2、いや10周してくれ」

 

 50って多いのか。すずかが居なければ本当に俺はとんでもない事をしでかしそうだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「みんなご苦労。次は筋トレ」

 

「すみません一条曹長。質問してもよろしいでしょうか?」

 

「いいぞ。とりあえず名前を教えてもらえるか?」

 

「ティアナ・ランスターです。私から見れば一条曹長の訓練は魔導師にそこまで必要でないよう感じるのです。確かに基礎体力は大切ですが、魔導師ならば魔法についての訓練をするべきと考えます。一条曹長はどうお考えでしょうか?」

 

「うん、その考えは間違いじゃないと思うぞ。間違いがあるならば訓練を担当する俺が間違っているな」

 

「と言いますと?」

 

「俺は普通の魔法は使えない。デバイスを使ってシールドが使える程度。専用デバイスがあってやっと魔力弾が精製出来るだけだ」

 

「えっ、なら銀行立て籠り事件を解決した時どうやって」

 

「全て腕力。魔法はあの時は一切使っていない」

 

「嘘……」

 

「嘘じゃないさ。嘘は戦闘中、敵を騙すのに利用するだけだ。もし魔法だけで強くなりたい奴が居るなら無理して俺のメニューをこなす必要はない。すずかにデバイスについての講義をしてもらった方が有意義だ」

 

 流石にすずかのところに行く奴はいなかった。もしここですずかのところに行かれたら少し凹んでいたかもしれん。俺は意外とガラスのハートの持ち主なのだ。

 筋トレもすずかの調整もあり、ぎりぎり一般的なレベルで終わる事も出来た。時間はまだあるが、組み手を一組ずつ指導している余裕はないな。

 

「要さん、この後は何をやるんですか?」

 

「スバルは元気ね。私はもうヘトヘトよ」

 

「だってティア、こんな機会なんてないよ。それで要さんどうするんです?」

 

「組み手の予定だったが、時間がないからどうするか迷っているんだよ」

 

「なら見取り稽古にすればいいのでは? 私が相手になりますよ」

 

「すずか? お前で相手になるのか?」

 

「私だって鍛えてますから」

 

 ここまで言うなら相応の自信があるんだろう。実はすずかが士郎さんに戦いについて色々と学んでいたのは忍さんから聞いている。自分の力を試したいのは俺もよく分かる。

 

「いいぜ。ルールとかは?」

 

「要さんが手加減をしてくれればなんでもありという事で」

 

「はいよ。おーい、みんな集合! これから俺とすずかが組み手をするからよく見るように。すずか、どこからでも来な」

 

「ではでは。戦いは最新科学によって成り立つというのをお見せします」

 

 ! 姿が消えた。ステルスなんてもんいつの間に用意してやがった。気配を消すような動きも心得ているな。だがまだ慣れていないのか気配が分かる。この程度なら簡単に勝てるぞ。

 

「こっちだな。シールド」

 

「……ふふ」

 

ーーパリン

 

 硬いしか能がない俺のシールドが砕かれた? いや砕かれたというよりは勝手に砕けた感じがする。何かしらの道具を使ったな。

 しかし問題はシールドよりも胸辺りに刺さっている何かだ。確か女のつけ爪、ここはネイルと言うべきか。とにかくそれが刺さっている。ネイルを引っこ抜き、服を捲って刺さっていた部分を覗くと皮膚が赤黒く変色していた。

 

「あ……電池切れちゃった」

 

「ステルスは電池式だったのかよ。んでこのネイルは? 毒入りみたいだが」

 

「その通りですよ。象でも3日は動けなくなる麻痺毒なんですよ。ネイルには魔法の構造を崩す効果もありますが、理論はいりませんよね」

 

「理論を聞いても分からんしな。さてと俺も攻めないとな。特別に人指し指と中指の2本を使ってやる」

 

「あら嬉しい」

 

「そらよ」

 

「やぁっ!!」

 

ーーガキンッ

 

 ナイフまで隠し持っていたか。準備万端過ぎるな。最初から戦う気満々だったんじゃねぇか? お、チラッと見えたが靴先から刃が出ていたな。そういうのもあるのか。

 

ーーカチャ パスッパスッパスッ

 

「ほいさっさ」

 

 今度は魔導式ハンドガンか。しかも連射性能高めでサイレンサー付きの強化品。ステルス発動中だったら地味に面倒だったな。とりあえず弾は全て叩き落とす。

 次は何をしてくるのか。最新科学がこの程度だったら拍子抜けだが…………ってこれは見取り稽古の一環だったな。ちゃんと訓練生にも分かるような戦いをしないと。

 

「いけっ!」

 

 次は手榴弾って、次々と武器が出てくるな。隠し持つにしてはちと多くないか。この手榴弾も魔導式シリーズの1種に違いないが、地上で爆発させるのも問題だから蹴り上げておこう。さて実戦でも使えるような動きを見せよう。

 

ーードガアァァァァァァンッ

 

「ほっ」

 

 耳がおかしくなりそうなくらいの手榴弾の爆発音に合わせてすずかに近付いて手首を掴んだ。当然それを振り払おうとするすずかだが、その力を上手く利用してすずかを投げ飛ばした。

 

「キャッ!?」

 

「はい終わり」

 

 落ちてきたすずかを抱き締める。見取り稽古もこれで終了でいいかな。

 

「合気道ですか……要さんらしくない小技ですね」

 

「一応は見取り稽古だからな」

 

「お疲れ様でした。しかし、その、どうしても申したい事があるのですが」

 

「言って下さい教官さん」

 

「あれでは訓練生の見取り稽古には到底なりえません」

 

「「……すみません」」

 

 何となく分かってたよ。今後この手の依頼がきたら断るようにしよう。相手のために時には断るのも大切。覚えておこう。




アリサ「今日はいつもと違う後書きですよ、シャマルさん」

シャマル「何をするのかしらアリサちゃん」

アリサ「すずかの装備紹介的なものをやります」

シャマル「わー」(パチパチ)

アリサ「まずはすずかのつなぎ!」

シャマル「手元の資料によると、バリアジャケット並の強度! 常に適温に保つ温度管理機能! 生まれたての赤ちゃんでも歩き回れる身体能力向上機能! これらを兼ね備えたスーパーパワードスーツ!! ですって」

アリサ「パワードスーツじゃなくてパワードツナギですよね。お次はネイル!」

シャマル「正式にはシルバーネイル。大抵のファッションに合う付け爪型の武装で、本編でも語られたように毒を注入する機能と魔法の構造を崩す機能があるみたいね。それらがなくても包丁くらいの切れ味があるから暗殺にも使えなくもないわね。片手分3580円、って売ってるの!?」

アリサ「それはすずかの落書きだと思います。お次は魔導式手榴弾!」

シャマル「爆破による破壊よりも音による耳へのダメージを重視した武装ね。今はまだ開発中みたいだけど、魔導式閃光手榴弾っていうのもあるみたい」

アリサ「他にも魔導式は開発しているみたいです。でもメインは魔導式ハンドガンと魔導式手榴弾になりそう」

シャマル「他にすずかちゃんが使っていたのはナイフと仕込み刃付きの靴ね。どっちも特に説明する事はないわ」

アリサ「では今回はここまで。また次回!」

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