チートじゃ済まない   作:雨期

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マテリアル達の日常を適当に書きますた。


第49話

 本日は快晴。洗濯日和。マテリアル3人娘は月村家の庭で大量の洗濯物を干していた。

 

「多すぎー、疲れるー」

 

「文句を言っても洗濯物は減りませんよ。王を見なさい。文句も言わず手を動かしていますよ」

 

「…………♪」

 

「ふぇ~、人って変わるものだね」

 

「オリジナルが八神はやてですからね。こういった作業は元々好きなのかもしれませんよ」

 

「つべこべ言わず働かぬか! まだ半分も終わっていないのだぞ!」

 

「「はい(はーい)」」

 

 始めは一番働かなかったディアーチェだったが、今では一番の働き者。てきぱきと家事をこなす姿はオリジナルとなった八神はやてによく似ている。ただし口の悪さと考え方だけはどうしようもないためメイド長のノエルにはよく叱られているのだ。

 3人が大量の洗濯物を干し終えた時には既に12時を回ってしまっていた。いくら人ではないものから生まれたとはいえ、原型となったものが人なので3人にもしっかり生理現象は備わっている。ようするに食事をしなければ生きていけないのだ。

 

「お腹減ったね。今日のお昼は何かな?」

 

「豚のしょうが焼きか鯖味噌の選択です」

 

「なら僕はしょうが焼きかな」

 

「鯖味噌に使用される味噌が何か、それが分からぬならば選択は出来ぬ」

 

「王はこだわりますね」

 

「当然だ」

 

 この日の鯖味噌はディアーチェの好みではない味噌で作られたものだったため、3人揃ってしょうが焼きにしたようだ。

 昼食が終われば3人は休憩時間に入る。いつもは各人自由に過ごしているのだが、今日はそうでもないようで月村すずかの部屋へと集まっていた。

 

《す、すずか様、何をなさるおつもりで……?》

 

「整備(かいぞう)だからアリストテレスは安心してね」

 

《どう安心すれば良いのですかね!?》

 

「僕はかっくいいビームあるといいと思うよ」

 

「ここは一条要へ確実に精神的ダメージが入るように盗聴器は如何です」

 

「品がないな。ここは妙な仕掛けよりも盛大に自爆であろう!」

 

《本気で止めて下さい! 出番を欲しがった私が悪かったです! ですから、どうか、どうか妙な改造だけは!!》

 

「改造じゃなくて整備だよ。怖くない怖くない。何かあっても科学に犠牲は付き物って偉い博士も言ってたよ」

 

《それは安全を保証する言葉ではなくただの免罪符です!!!》

 

 そう、今日はアリストテレスを好き勝手弄る日なのだ。デバイスマイスター・月村すずかとしての初仕事がとんでもない事にならないようマテリアル娘達が様子見に来ていたのだが、弄るデバイスが一条要のデバイスとなれば話は変わる。本来ストッパーとなるべきシュテルですらはっちゃけている。最早この暴走を止められる者は居ない。

 

「アリストテレスのここってこうなってたんだ」

 

「うわぁ、僕でも解るよ。このデバイス凄い単純」

 

「ここまで理解しやすい構造とは……練習用デバイスの方が複雑ですね」

 

「フッ、酷いものだ」

 

《私が何をしたというのですか…………》

 

「じゃあ本格的に」

 

「待ちなさいすずか!!」

 

「お姉ちゃん!?」

 

《忍様!! 助けに来て下さったの「私も混ぜなさい!!」お願いですから帰って下さい!!!》

 

 完全に逃げ場のなくなったアリストテレスはただただ叫ぶだけであった。ちなみにこの時要は月村家にあるジムで恭也と共に黙々とトレーニングをしていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 結局マテリアル娘達は午後の殆どをすずかと共にアリストテレス弄りに勤しんでいた。遊んでいるようだが、主人を楽しませるのもある意味メイドの仕事と言えるかもしれないから問題ないのだろう。

 時間は深夜になっている。3人はベッドに入っていたが眠れずにいた。

 

「ねぇ、僕らがここで過ごし初めてもうすぐ1年だよ」

 

「早いものですね」

 

「ふん。そもそも鏡が我らの力を奪わなければこのような事をする必要はなかったのだ」

 

「ならさ、もし力が戻ったらどうしたい?」

 

 レヴィの質問にシュテルもディアーチェも固まった。月村家で働き始めてすぐの時ならば逃げ出すなり闇の復活なり即答出来ただろう。しかしこの生活に慣れ親しみ過ぎてそんな事を考える事すら止めてしまっていたのだ。

 

「僕はずっとここに居るよ。僕にとって家はここ以外ないもん」

 

「…………そうですね。私は恩返しのために残りましょう」

 

「温いな。まずはこの待遇を何とかするのが先決であろう!」

 

「ディアーチェはこの生活が嫌?」

 

「嫌だ。我は王だ。王たるものがいつまでも使用人の真似事をしていられるか…………だが仕事を途中で放棄するのも好みではない。故に代わりを用意する」

 

「代わり、ですか?」

 

「鏡だ。あれは使用人の素質がある。あれを捕まえたらお前達も我が使用人として扱ってやろう。無論、この屋敷でな」

 

「……うん、おじいちゃんならぴったりだね」

 

「彼は私達よりもよっぽど仕事が出来そうですね。むしろ彼だけに全ての仕事を押し付ければ良いと思いますよ」

 

「シュテル、お主も悪よのぉ」

 

「王ほどでは」

 

「「「ハハハハ」」」

 

ーーバンッ

 

「早く寝なさい!!!」

 

 いつまでも話し込んでいた3人が騒がしかったのだろう。巡回中だったノエルが部屋へと入ってきて3人はしばらく説教されるのであった。




オマケ・鏡のとある日常

 管理局も把握していない次元世界。そこで鏡は久遠の指導で妖術の練習をしていた。

「…………難しいのぉ。儂には向いていないのじゃろうか」

「鏡は無意識に魔力を使おうとしているから駄目なんだよ。使うのはあくまで魂の力、霊力だよ」

「それは儂には備わっておるのじゃよな? 世辞でもなんでもなく」

「だから霊力はどんなものにもあるの。生き物は当然だけど、無機物にだってあるよ。特に鏡なんて元々はプログラムとかいうのでも今は自我を持って動いてるでしょ。自我は魂がないと形成されないものなの」

「ふむぅ、何かしら魂を理解する切欠があれば良いのじゃが……」

「だったら他の生き物みたいに久遠の力を吸収したら?」

「あまり協力者から力を奪うのは…………」

 ここで鏡はあるアイデアを閃いた。鏡が奪った力は元の場所へは戻らない。ならば奪わないで久遠の力を借りればよいと。

「合体という形になりそうじゃな」

「合体! なんだか格好いい!」

「ならばやってみようかのぉ。久遠、こちらに来なさい」

「うん!」

 鏡に抱えられた久遠の肉体がゆっくりと鏡の中へと沈んでいく。なかなか不思議な光景だが、久遠は楽しそうだった。
 久遠を体内へと取り込んだ鏡に突如として黒い狐の尻尾が2本生えた。体内からはしっかりと久遠の意識が確認出来るので合体は成功だろう。

「面白いものが生えたのぉ。うむ、しっかり動きおる」

『鏡、妖術使ってみようよ』

「そうじゃな」

 久遠に急かされて鏡は初級の妖術、狐火を出してみた。まるで今までの苦労が嘘のようにあっさりと青白い炎が鏡の手から飛び出し、空中で動き回っている。

「成る程、この感覚じゃな」

『やったね!』

「うむ。では合体を解くぞ」

 合体が解かれると久遠は鏡の体内から光の玉に包まれて出てきた。どうやら鏡が魔力の膜で包んだようだ。

「無事かの?」

「大丈夫だよ」

「どのような感覚じゃった?」

「えっとねぇ、水の中でプカプカ浮かんでる感じ。鏡を通して外は見えたよ」

「そうかそうか」

ーーガサッ

「ブオオオオォォォ」

「おぉ、飯がやってきおった。今晩は魔獣肉のポワレにしようぞ」

「やったー!!」

 鏡達を食らうためにやってきた獣はこの後瞬殺され、美味しく料理されたのであった。

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