チートじゃ済まない   作:雨期

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一応本編に戻りました。


第47話

 その日は要が翠屋で宿題をやっていた。時間は午後の4時。客足が遠退きがちな時間ではあるが、いつもの翠屋なら数人の客が居るはず。しかしこの日に限って要しか居なかった。

 

「精が出るね。はい、シュークリーム」

 

「ありがとうございます士郎さん。それにしても珍しいですね。翠屋がここまでガラガラなんて」

 

「年に一度くらいはこういう日もあるよ」

 

「そうですか。あ、2つほど質問があるのですが、いいですか?」

 

「何かな? 宿題についてだったら」

 

「どうして心音がしないんですかね? それと店の外の景色が動かないのはなぜですか?」

 

 要の発言と同時に空間が歪み、洞窟になっていく。士郎だったものはのっぺらぼうのマネキンへと姿を変えた。

 

《これは!?》

 

「機械が動揺するな。アリストテレス、一応セットアップだ」

 

《set up》

 

 誰がこんな事をしたのか不明だが、間違いなく罠である。何がどこから来るか分からない現状、要は神経を尖らせ周囲の気配を探った。それに引っ掛かったのは2人分の気配と声だった。

 

「どうしてバレるようなドールを作るんだこの馬鹿!」

 

「仕方ないよぉ。まさか心臓の音が聴く人間が居るなんて思わないじゃないぃ」

 

「一条要は人間のレベルを超えてるって知っているだろこの馬鹿!」

 

「ルームだってバレたくせにぃ」

 

「窓の外はルーム外だよこの馬鹿!」

 

「おーい、そこのあんたら、出てこい」

 

「わり、今行く。歩けこの馬鹿!」

 

「馬鹿馬鹿言わないでよぉ」

 

 要に呼ばれて大人しくやってきたのは厳ついスキンヘッドの男性と、おどおどした赤髪の女性だった。そして彼らが着ているのは要もよく知る管理局の制服であった。

 

「あんたら局員か? どうしてこんな事を」

 

「調査だ。うちのリーダーがお前さんを気に入ったらしい。あわよくば勧誘してこいとよ」

 

「調査ねぇ。んで、どうだったのか訊いてもいいか?」

 

「いいんぜ。最高だ。オレのルームやこいつのドールを見破る奴はそうはいない」

 

「ふーん」

 

 どうやら人形は女性のもので、空間を変化させていたのは男性の力だったようだ。要からすればどうだっていいものだったようで適当に聞き流していた。

 

「でも誰に許可取ってこんな事しているんだ」

 

「ご、ごめんなさいぃ」

 

「なんでお前が謝るんだこの馬鹿。許可ならお前さんの爺様と婆様、さっきの空間のモデルになった翠屋の主人、ついでにリンディ艦長に取った」

 

「文句の付けようがないな」

 

「そうだろう。どうだ、お前さんは才能十分だし、将来的に管理局に入るならオレ達の部隊に」

 

「いや勧誘なら正式に管理局に入ってからお願いします」

 

「今のうちに唾つけといてもいいだろ。じゃあまた会えるのを楽しみにしてるぜ」

 

「あの、進路の1つとして考えて下さいねぇ。さようならぁ」

 

 要が決めないと分かると2人はさっさと帰っていった。そんな2人を見送ったところで要はある事に気が付いた。今、自分はどこに居るのだろうと。どうしようもないのでリンディに連絡して元の翠屋へと帰還した。

 この勧誘を境に要には様々な場所から勧誘が来るようになった。それと同時に増え始めたのは要を狙ったハンターの存在だ。以前からハンターは多少居たが、今は2日に1人は来るほどだ。流石にどちらも煩わしくなった要はリンディに相談する事にした。

 

「どうにか出来ませんか? 勧誘とハンターが同時に来た時なんて俺が仲裁しないといけないんですよ」

 

「勧誘はなんとかなるけど、ハンターはどうかしら?」

 

「どうしていきなり増えたんですかね」

 

「その理由なら分かるわ。まず勧誘が増えた理由は要君がお手伝い程度とはいえ管理局の仕事をしたでしょう。その働きが広まったのよ」

 

「ならハンターは?」

 

「元々危険分子として要君があらゆる組織から注意されていたのは管理局でも把握しているわ。ただ襲撃が増えたのは勧誘のせいかしら。あくまでアルバイトみたいな要君が管理局に本格的に入られたら管理局を目の敵にしてきた組織からすれば厄介な事この上ないじゃない」

 

「つまりは管理局のせいと」

 

「端的に言えばそうね。ごめんなさい」

 

「ああ、そういうつもりで言ったんじゃないんです。好きでやってる事ですからリンディさんが謝らないで下さい」

 

 しかしいつまでも放置出来る問題でもない。今は要だけしか被害はないが、そのうち要の周りにも被害が出るかもしれないのだ。

 

「でも要君と一番関わりのある管理局員は私達だもの。この問題は解決したいわ」

 

「ただいまー!」

 

「お帰りなさいエイミィ。クロノは?」

 

「少し用事が出来たってどこかに行っちゃいました。要君はどうしてここに来たの?」

 

「話すと多少長くなるんだが…………」

 

 これまで自分に起こった出来事を要はエイミィへと話す。この話を聞いたエイミィはどうにも腑に落ちない事があった。

 

「要君のこれまでのお手伝いって魔法生物関連が中心ですよね。それだけで変な組織に目を付けられるんでしょうか?」

 

 確かにエイミィの言う通りであった。これまで要は変な組織に襲われない限りは自分から手を出す事はなかった。だがこれだけではリンディの主張する襲われる理由の否定にはならない。そんな全員が悩んでいるところへ居なかったクロノからある一報が入った。

 

『艦長大変です! っと要も居るのか。ちょうどいい』

 

「どうしたのクロノ。緊急回線を使うなんて」

 

『それが、要のマテリアルを発見したんです』

 

「あいつか!?」

 

 要のマテリアル、鏡。かつて要に物理的に粉砕されたと思われていた存在だ。それがまだ生き残っていた事に未熟さを感じながらも要はクロノに尋ねた。

 

「鏡が何をしていたんだ?」

 

『ある組織の魔導師を襲っていた。リンカーコアを取り出すのを見てすぐに奴だと分かったよ』

 

「要君のマテリアルはどこに居るの?」

 

『僕に気付いたら転移して逃げました』

 

「ねぇ、もしかして要君が狙われているのって」

 

「十中八九あいつの尻拭いだな。めんどくせぇ……」

 

 自分が狙われる理由を理解した要は思わず項垂れた。どうせ鏡を見つけ出しても逃げられるに決まっている。しばらくどこかの次元世界に潜伏しようと要は考えるのであった。

 しかし全ての問題はリンディが解決した。勧誘は入隊後という規制を掛け、これまで混乱を起こさないように機密にしていた鏡の存在を公表し、更に懸賞金を掛け鏡をあらゆる組織が狙うように仕向けた。それからしばらくは要はリンディに足を向けて眠る事が出来なかった。




アリサ「皆さんお久しぶり。アリサです」

シャマル「…………シャマルでーす」

アリサ「ちょっ!? 久しぶりの『今日は何の日』なのにテンション低いですよ!!」

シャマル「何ヵ月もやってなければこうなるわよ。ねぇ、この後書きって必要?」

アリサ「今更!? ま、まあ勘が戻ってないだけですよね。さあやりますよ。今日は何の日?」

シャマル「えーと、本日11月6日はぁ『刃物の日』。語呂合わせでいい(11)刃(8)。おしまい」

アリサ「なんで!? もっと広げましょうよ!!」

シャマル「んー、だって広げる話でもないし。それに」

アリサ「それに、何ですか」

シャマル「適当な女の方が保護欲そそられてモテるらしいから」

アリサ「……だらけても保護欲そそられる女性にはならないと思いますよ。ではまた次回」

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