なっぺ様とのコラボです。
「行くぞ要君」
「ええ、いつでもどうぞ恭也さん」
俺と恭也さんの間にピリピリとした空気が流れる。勝負は一瞬。全神経を集中させろ。
「「ジャンケンポン!!!」」
俺グー、恭也さんパー。
「ヨッシャアッ!!!!」
「卑怯だ!! 俺の手を見てから変えやがった!! あの神速とかいうのを使いましたね!!!」
「そんな事に奥義を使うわけないだろう。それに要君、勝てばいいんだよ」
「ならもう1回!! 次は本気出す!!」
「勝負は1度きり。約束だ。行ってらっしゃい」
恭也さんから買い物袋を押し付けられた。このじゃんけんはどっちがお使いをするか決めるものだったのだ。本来恭也さんが桃子さんから頼まれたお使いなのに行きたくない場所があるからといって客として翠屋に来ていた俺を巻き込んだのだ。勝ったら代金タダになるってのに乗った俺も俺だけどさ。
「買い物場所とリストは袋に入っているから頑張れよ」
「チクショー、100パー解放すれば良かった…………」
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「ありがとうございましたー」
一条要、人生初女性向けショップで買い物をする。これはどんな拷問だろうか。なのは達が居ればまだ誤魔化せたのに。あいつら揃って遊びに行ってるもんな。幸いリストガン見で見た目も中学生だからお使いだと思ってもらえただろうけど。
「や………さ…!」
「…………じゃないか」
「何だ?」
そそくさと帰らせてもらうつもりだったのにショップの近くで誰かが騒いでいるのが聞こえてきた。この微妙な気分を変えるために野次馬させてもらうぞ。
「まあそんな怒らないで。でも怒った顔もキュートだよ」
「何がキュートですか。目障りなので即座に蒸発して下さい
「トゥード、ちょっと言い過ぎ」
「やーん、コータ助けてぇ!」
「リームは引っ付くな!」
「君達なら芸能界トップになれるよ!」
ナンパかと思ったらスカウトか。実際に見たのは初めてだ。もしかしたらスカウトに見せかけたナンパかもしれないな。
ってかスカウトされてるのが小学生の少女2人と保護者の女性かと思ったら1人は少女じゃなくて少年じゃねぇか。コータって呼ばれてたから女にしては変わった名前だと思ったら男かよ。
ま、面白い光景を見せてもらったよ。俺には関係ないし、早いとこ帰ってお使いを終わらせちまおう。
「!」
うわ、スカウトされてる側の男と目が合っちまった。明らかに助けを求めてるよな。ここで見逃したら俺が最低な奴みたいじゃないか。はぁ、やるか。
「ちょいちょい、そこのスカウトマンさん」
「ん? なんだい君は、って君も逸材だな。どうだい芸能界に興味は」
「フンッ!」
「ひぎぃっ!?」
上手く気絶させる事が出来たみたいだ。一般人相手だと手加減が難しいから大変だ。しっかり顔を見られてしまったが、そこは気にしない方向で。
「あ、ありがとうございます」
「これから気を付けるんだぞ。じゃあな」
「お待ち下さい。貴方は普通の人間ですか?」
「保護者さんよ、あんた面白い事言うね。普通じゃない人間ってのはなんだい?」
「トゥード、恩人に対して何を」
「マスターは下がっていて下さい。そうですね、普通ではない人間は、例えば魔法使いなど如何でしょう?」
「いきなり正解を出すのはつまらないぞ?」
「「えっ!?」」
いきなりこんな事を訊いてくるなんて事はこっちの関係者に違いない。そんな奴にわざわざ隠し事をする意味が見当たらない。だが保護者の女性以外は気が付いていなかったようで魔法使いとバラしたら警戒しだした。いくら一般人相手だとしても中学生が大人を一撃で気絶させられるわけがないだろう。
「やはりそうですか。私達に近付いてくるとは何が目的です?」
「目があったから助けただけだ。他意はない」
「それを信じろと?」
「そうだ。これから喫茶店に行くからそこで説明しようか?」
「正体不明の相手が指定した場所に行くわけがないでしょう」
「いい加減にしろよトゥード! この人が悪い人って決まったわけじゃないんだぞ。少しは信じてみろよ」
「……分かりました」
「助かった少年」
「やったねコータ! 男の子って認識されたよ!」
「うっさい!」
これまで勘違いされ続けたんだろうな。でも見た目少女だから間違われてもしょうがないだろう。もうちっと男らしくなる工夫を凝らせばいいのに。
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翠屋についた要達は個室を用意してもらいそこで話し合う事にした。
「自己紹介がまだだったな。一条要だ」
「吉谷吼太です」
「リームだよ」
「フォルティトゥードです」
吼太やリームはともかく、トゥードはいまだに要への警戒を怠る事はない。要ももしもを考えいつでも力を使えるようにしながら話を切り出した。
「お前達も魔法使いなのか?」
「まあ、そうなります」
「地球にも他に魔導師が居たとはな。デバイスはどこで手に入れた?」
「デバイス? 何ですかそれ?」
「知らないのか?」
魔導師であるならばデバイスを持っていなくてはおかしい。要のようにデバイスがメインではない魔導師も世界中を探せばいるかもしれないが、この世界はリリカルなのはの世界。デバイスを持たない魔導師が居るとすればそれはイレギュラーである可能性が高い。
「お前達はどっから来た? 本当に地球出身か?」
「間違いないです」
「ならこの世界の地球出身か?」
「! それは」
「隠す必要はねぇよ。俺は元は違う地球で生まれた転生者だ。あ、転生者ってのは」
「貴方も転生者なんですか!?」
「あぁ、そっちもか。なら説明はいらないか」
これまで異世界人や転生者と出会ってきた要としては驚く事ではなかったが、吼太達は警戒を強めた。敵意にも似たそれに違和感を感じながらも要が話を続けようとすると吼太が口を挟む形で質問をした。
「要さんは…………要は俺の命を狙って近付いたのか」
「はっ? 命? なんで」
「力を奪うためなんだろ。転生者を殺しても転生者の力は手に入らない。諦めるんだ」
「いや待て。そんな話は初耳だ。ちょっと神様と交信するから待ってくれ」
いくら要がこれまで様々な非常識を見聞きしてきたとはいえ、転生者が他の転生者の力を奪うなどという話は聞いた事もなかった。だったらそういう話を一番知っていそうな転生者のエキスパート。神様に訊くのが早い。
『もしもし、神様聞こえます?』
『どったの? あ、また転生者が潜り込んだんだね。帰す準備をするよ』
『それもあるんですが、転生者が他の転生者の力を奪うって話は知ってます?』
『有名なガセネタだね。方法はなくはないけど、少なくとも要君がやる意味はない』
『分かりました。では帰す準備をお願いします』
『仕事があるから2時間後ね』
『長いですね。まあ、待ってます』
もし自分に関係があるならば意識したであろうが、そうでなかったようで要はホッとした。対して吼太達の警戒は続いている。彼らに要と神様の会話など聞こえていないのだから当然だ。
「確認したぞ。ガセネタってはっきり言われた。それとお前達は2時間後に帰れるとさ」
「それは本当に神の言葉なのか?」
「少なくとも俺は神様と信じている人だ」
「根拠は?」
「俺を転生させて」
ーーコンコン
「ん? どうぞ」
「お邪魔します」
「おうすずか、どうした?」
ピリピリとした空気の中、部屋に入ってきたのはすずかであった。客が居るのは予め聞いていたのか吼太達に軽く礼をしてから要と話始めた。
「今なのはちゃん達と勉強していたんですが、ここが分かりにくくて」
「何々……うっわ何このエグい問題。引っ掛けしかないじゃん。ちょっとすずかに説明するから、そっちはお茶でも飲んで待っててくれ」
「分かった」
「すまん」
要がすずかに説明を終えるのをじっと待つ吼太達。一般人と思わしき人物の前で敵意を放つ事はないようだ。かなり難しい問題で説明には時間がかかったが、無事に終わるとすずかは戻っていった。何でもない光景だが、それが好印象だったのかすずかが出ていった後の部屋はかなり空気が和らいでいた。
「いやー、悪い悪い。んじゃ話を続けようか」
「もういいよ。なんていうか今の光景見てたら警戒する必要もないかなって思って」
「仲良しだったもんね。ボクとコータには劣るけどね」
「それだけでいいのかよ」
「マスターが良いと思われたなら良いのでしょう。もう諦めます」
さっきまで疑われていたというのに疑われなくなったら納得出来ないという、なんともすっきりしない状態の要だが、とりあえず面倒事はなくなっため気にしない事にした。
そこからは他愛もない会話が続いた。前世や今世はどんな感じか、どんな魔法があるか。そんな彼らには身近だが非日常的な会話がいくらでも出てくる。そんな中、要がある話題を持ち出した。
「吼太とリームは付き合ってるのか?」
「ブフゥッ!? な、何をいきなり」
「やっぱり分かっちゃう~?」
「リーム!!」
「そう照れるなよ吼太。普段はどんなとこデートに行ったりするんだ?」
「そんな事聞くなんて意中の子でも居るのかな? あ、もしかしてさっきの子?」
「さて、それはまだ分からないな」
ここで要がイエスと言わないのはまだ付き合う自信がないからかもしれない。しかしそんな事はお構い無しにリームは自分の考えを話始める。しかし残念な事に妄想だ。
「ボクはコータと一緒ならなんだっていいよ。でも映画観たりとかぁ、旅行行ったりとかぁ、お金がないなら公園でピクニックもいいよね」
「買い物とかは?」
「いいと思うけど、カナメは女の子の好みに合わせたお店選び出来る? 」
「むむむ、でもそれを言ったら映画とかも」
「映画は残らないけど、服飾品は残っちゃうでしょ」
「あー、そういう」
そこからはもうリームの恋愛相談室が続いた。勿論それが真実かどうか知らない要は至極真面目に話を聞いていた。吼太はどうにかして止めようとしていたが途中で諦め、トゥードは最初から関わるつもりはないようで1人コーヒーを飲んでいた。
「ありがとう、勉強になった」
「女の子はちゃんと幸せにしてあげてね」
「当然だ」
「もう終わった? 聞いてるだけで疲れたんだけど」
「なんだ吼太。彼女さんの話は疲れる事だったか?」
「もう彼女でいいよ」
「? そういえばお前敬語使わなくなったな」
「……あっ」
「しかしもうすぐ2時間経ちますが、私達は本当に戻れるのでしょうか?」
「そりゃもうパッと行けるさ。っと、自分の体を見な」
既に吼太達の体は半透明になっている。全く違和感なく起こった変化はどんどんと進行していく。
「機会があればまた会おう」
「えっ、あ……またな」
「またねー」
「では」
「くくっ」
吼太以外が思ったよりも冷静な返答をした事に要が苦笑しているうちに、3人の姿は完全に消失した。彼らが無事に帰れたのだろうと信じ、要は残った食器を片付け始めた。