何やら海鳴で変な転移反応があったと管理局から連絡があった。面倒極まりない話だが、バイト代も出るらしく探索をする事にしたのだ。ちなみにバイト代は日給一万円。まあこんなもんだろう。
「この近辺だよな。アリストテレス、サーチしろ」
《畏まりました》
なのはとフェイト、それに八神一家も探索に参加しているが、未だに何か見つかったという報告はない。ただ反応があっただけで何も出現しなかったんじゃねぇかな? それはそれで面倒事もなく金が貰えるからいいんだけどよ。
「ん~、帰るか」
《形だけでも時間まで働きませんと給与は出ませんよ》
「そうだけどよ。何もないとこでぶらつくのも暇じゃん
《では修行でもなされたら如何です? 私はサーチを続けますので》
「それで我慢するか」
座禅を組んで意識を深層へと沈める。ORTとの同調を高め、より強力な力をより早く引き出すためだ。深く、深くへと
『要、怪しい人を見つけたよ』
「ありゃ」
フェイトが目標を見つけちまったみたいだ。せっかくいい感じに集中し始めた頃だったのに。まあ文句を言っても仕方がない。さっさと現場に向かって仕事をすませちまおう。ええと、こっちだな。しかし人って言ってたな。話が通じない生物じゃなくて良かった。
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おー、居た居た。なのは達はまだ来ていないみたいだ。相手は銀髪の少年か。随分とフェイトに詰め寄っているように見えるが、どうしたのか。
「本当にオレが分からないのか?」
「どこかで会ったならごめんなさい。覚えてないです」
「どこかで会ったとかいうレベルじゃないだろ…………」
聞こえてくる会話から察するにあの少年はフェイトを知っているみたいだ。でもフェイトは知らない。頭のおかしいストーカーって雰囲気もない。俺も会話に参加すれば何か分かるかもしれん。
「お疲れフェイト。そっちが不審者か?」
「そうだよ要」
「いきなりやってきて不審者呼ばわりか?」
「事実、ここじゃお前は不審者だからな。俺は一条要だ。お前は?」
「シノン・ガラード」
「腰の大太刀はデバイスか?」
「そうだ。何があってもいいように武装させてもらっているが、解いてほしいか?
「結構。1人の人間を鎮圧する程度なら片手で出来る」
「……そうか」
フェイトに対しての警戒はなかったが、俺が話し掛けた瞬間に気配が変わった。相当な修羅場を潜っていると見える。だが片手でどうにかするのは十分可能だろうから撤回はしねぇ。しかし分からん。こんな実力者と会ったならフェイトが忘れるとは思えない。
「お前はフェイトといつ会った?」
「昨日も会った」
「えっ!? 私知らないよ」
昨日『も』っていうとその前にも何度も会ってるんだよな。あれ、もしかして…………
「並行世界からか。面倒な」
「! そうか、納得がいったぞ。並行世界だったのか」
「要、シノンさん、2人だけで納得されても困るんだけど」
「気にするな。仕事は終わり。こいつはこっちで何とかする。管理局でどうにかするのは出来ない存在だ」
「要なら何とか出来るの?」
「まあ、な」
正確には俺が頼んだら何とか出来るんだが、そこは詳しく言う必要性もない。
「助かる。要、だったな」
「いいんだよ。変な犯罪者とかを相手するよりはよっぽど楽だ。なんか安心したら腹減ったな。飯食うか」
「見つけたよ! 要君、その人が不審者」
「終わったから帰っていいぞ」
「えぇー」
なのははタイミングが悪いなぁ。
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管理局に文句を言われるような対応をしちまったが、これは許してもらいたい。並行世界なんてもん管理局が手を出せる分野じゃないだろ。ま、些細な事だ。怒られたら怒られた時だ。
今はシノンと話をするためにすずかとのデートにも使ったおじさんの店に来ている。特別に最奥の静かな個室を用意してもらった。
「それでシノンとやら、お前は転生者か? もしくは憑依者?」
「? なんだそれ」
「違う? なら他の分野としては…………たまたま漂流した転移者か」
「多分それだけど、重要な事なのか?」
「いや俺が興味があっただけ」
どうせリリカルなのはの原作に居ないキャラだろうから質問しただけだ。これを知ったからといって何か問題があるわけじゃない。でもそのせいで気になる事が出来てしまった。こいつはどんな世界からやって来たんだろう。戦いに慣れていそうだから少なくとも戦闘がある世界だったんだろうな。
「シノンはどんな世界に居たんだ?」
「グラニデって世界だ。世界樹って巨大な樹が世界の中心にある。モンスターが沢山居てなかなか大変なんだ」
「ふーん。まるでRPGの世界だな」
「ああ、そうかもしれない。要はどこから来たんだ? さっきみたいな質問したっていう事は要は元々この世界に居たわけじゃないんだろ」
「んー、俺は地球の並行世界だな。普通にリーマンやってたけど、死んだらここに転生してた」
「一度死んだのか。なんか悪い事聞いたな」
「寝てる時に死んだから死んだ時の記憶はないんだ。気にするな」
まあ本来はあそこで終わっていた人生だ。むしろ初めからやり直せるなんて喜ばしい限りじゃないか。悪い事なんて欠片もないね。
「そういえば初めて会った時、オレを片手でどうにかするのは十分可能って言っていたな。本気か?」
「本気。なんなら腕相撲でもしてみるか?」
《それでは本当に強いのかは分からないのでは?》
「ああ、ヴェルフグリントの言う通りだ」
おっと、まさかデバイスに反論されるとは。いや確かにその通りだが、簡単に戦うというわけにもいかないだろう。俺としては力比べは大歓迎だからいつでも勝負するんだけどな。ま、やらねぇならさっさと神様と交信してこいつを元の世界へと帰してやるか。
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のせ世界に飛ばされた時は驚きしかなかった。街は海鳴そのものなのに奇妙な雰囲気があるし、フェイトはオレを全く知らない。そして奇妙な雰囲気の元凶らしい男が元の世界へ帰してくれると。
はっきり言ってまだ信じてはいないが、他に可能性がないならそれにすがるしかないんだ。しかしさっきからいきなり黙りこんだがどうしたのか。話し掛けても応えようとしない。
「…………はい、はい」
そしてたまにこうやって呟いている。どこかで頭でも打ったか?
「では…………はい…………よしシノン、30分後くらいに元の世界に帰れるぞ」
「一体何をしていたんだ?」
「神との交信」
駄目だこいつ、もう手遅れだ。1度死んだって言っていたからその時に頭がおかしくなったのかも。いやその死んだすら怪しい。
「んじゃ残ってる飯をさっさと平らげちま、って結界? どこのどいつだよ
《マスター、外に巨大な生体反応があります》
「分かった。ヴェルフグリント、セットアップ」
《set up》
「アリストテレス、留守番な」
《分かっています》
要はデバイスを使わないのか? なら持ち歩く理由がないだろうに。
「良かったなシノン、これで俺の実力が見られるかもしれんぞ」
「あー、そうだな」
適当に返事をしながら外へ出るとヴェルフグリントの言った通り巨大なモンスターが居た。いや、あれは生き物なのか? トカゲのような見た目だが、全身が銀色の光沢を放ち、まるで金属だ。上に人が乗っているから巨大な乗り物に見えなくもない。
「お、おおお前が、いい、い一条……か、かかかか、要だな。け、研究材利ににに、なれ。しししし死ねぇ!!!」
モンスターに乗っている人間が口を開くが、どう聞いても正常な人間の話す言葉でない。目もおかしな方を見ている。薬でもやっているのか。
「おいおい、なんか面倒な奴が来たな」
「どうする?」
「そりゃ倒すだろ。お前もやるか?」
「人の世界の問題に首を突っ込むのとどうかとは思うが、モンスター退治は慣れている。いくぞ! 魔神連牙斬!!」
地を走る3連続の斬撃がモンスターへとぶち当たる。しかし表皮に多少傷が付いた程度でダメージらしいダメージは与えられていない。いくら牽制とはいえ少しショックだ。
「ふ、ふひひひ、ぼ、ぼ、ぼくのシルバードラゴンに、そそそんなも、うぐっ!?」
「はいはい、うっさいから寝てろ」
モンスターに乗っていた男は要によって首を絞められ意識を無くしていた。要はさっきまで隣に立っていたのにいつのまに移動したんだ。デバイスも持っていない状態でも転移系統の魔法が使えるのか?
「後はこのトカゲ、っておぁっ!? 暴れるな!!
「そこから退け!! 烈破掌!!」
「ほい」
主人の指示が無くなったからかモンスターが暴走を始めたようだ。一先ず気を溜めた掌底でモンスターを吹き飛ばしてダウンさせる。要はその前に飛び下りていた。
「やるじゃん。魔法じゃなくて体術か」
「そんなのはどうだっていい。問題は暴走するあれをどうするかだろ」
「ああ、その件だが、これを見てくれ」
ーーベチャ
要が地面に放り投げたのは、銀色の鉄塊? 少し蠢いているし、銀色の汁を流していて気持ち悪い。
「これはあいつの背中から抉った肉だ。皮膚だけじゃなくて肉や血まで鉄らしい」
「…………お前が1人で倒せよ」
「お前の力を見たいし。援護してやるから手伝えよ」
速い上に腕力もある。そのくせ人の力を詮索したがる。要が戦闘狂だというのはよく分かった。ここで断ってもデメリットはないから断ろうかな。っていうかよく考えるとあのモンスターが暴れた理由って主人を失ったからじゃなくて要が背中を抉ったからじゃないか?
「ガオォォォオオオン!!!!」
「起きたようだ。さあお前が戦うと言わない限り俺は動かないぞ。どうするシノン」
《マスター、放置しませんか?》
「…………いや、いい修行だと考えよう」
「なかなかポジティブな考えだ。嫌いじゃないぜ。フンッ!」
「ガウッ!?」
十数メートルはありそうなモンスターの突進を片手で止めるなんて非常識な。やっぱり手伝う必要はないよな。でもやると言った以上やらなくては。
あのモンスターは鉄塊。なら下手な物理攻撃よりも術攻撃の方が通りは良いはず。
「燃え盛る業火よ、吹き荒れろ!! ファイアストーム!!!」
熱風が全てを焼かんとばかりに巻き起こり、要とモンスターを飲み込んだ。…………あ、警告忘れてた。
「熱いなこの野郎」
「無事だったか。悪かった」
「別に気にしてねぇから。しかしまだ倒せてないぞ」
確かにファイアストームの内側からモンスターの唸り声が聞こえてくる。かなりのダメージを与えるのに成功したみたいだが、手負いの獣は危険だ。まだ距離のある今のうちに一気に仕留める。
「にしてもさっきのせいでまだ熱いな。冷やしてくれないか?」
「冷やすって…………そうだな。じゃあ雨でも降らしてやる。アシッドレイン!」
「アシッドっておま」
「酸性雨だ」
しかもただの酸性雨じゃない。とびっきりに酸性の高いものを降らせてやった。味方には効果はないが、モンスターはひとたまりもない。特に全身が鉄で炎によって熱せられたあいつなんかは熱疲労と腐食疲労を同時に起こして終わりだ。
「ガッ…………ゴゴッ…………」
まだ息はあるみたいだが、アシッドレインで冷やされた全身には罅割れが走っていて腐食もしている。生き地獄に落としてやるつもりなんてなかったけどやり過ぎたみたいだ。
「どうせなら大太刀を使った技も見てぇなぁ」
「オレばかりリクエストに応えるのは不公平じゃないか?」
「俺の技なんて地味なんだがな。武装拳」
肩を回しながら要はモンスターへと歩み寄る。その腕には魔力が集まっているのを感じた。おそらく強化系の技なんだろう。
「パイルバンカー」
ーーズドン
一瞬だった。いくら弱っていたとはいえ鉄塊のモンスターの頭から尻まで巨大な穴を貫通させやがった。オレの知り合いには様々なタイプが居る。だがその中にこれだけ速く破壊力のある一撃をあっさりと使える奴は居ない。秘奥義を使っても無理かもしれない。
「ヴェルフグリント、あれはどういう技術なんだ?」
《私に解析出来たのは攻撃の際、高圧の魔力が腕から噴出されモンスターを貫いたというだけです》
「だからパイルバンカーか」
本来は火薬などの爆発で杭を打ち込む武器だが、要はそれを素手でやったのだ。しかもデバイスの補助も無しだ。あれをオレが喰らったとしたら…………想像したくもない。
「要、さっきのについて詳しく…………ここは」
《マスターの自室ですね。戻ってこれたようです。やりましたね》
もう30分も経っていたのか? 少し早すぎたような気がする。最後に要と話す事も出来なかった。しかし並行世界は恐ろしいな。あんな奴が居るなんて想像もしてなかった。
「今は何時だ?」
《深夜2時です》
「分かった。少し寝る」
とんでもない事に遭遇したからか脳が休息を求めている気がした。何故並行世界へ飛んだのか結局理由は分からなかったが、もうこんな事にならないように祈ろう。
いつもの茶番はカットします。