チートじゃ済まない   作:雨期

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マテリアルだお!!


第46話

 ただいま海鳴! 白神山地から20分で帰ってきたぞ!! 街中に結界が張られているのは偽者とやらが居るせいだな。どんな奴なんだろうか。

 

「…………」

 

「おおヴィータ。ちょうど良かった。現状をぉおっ!?」

 

 どうなっているか説明してもらおうと思ったのにいきなり殴ってくるとは何事か! そんなに俺が居なかったのが不満だったのか。不満ならまず言葉で言えよこんにゃろう!

 

「……………………」

 

「こらっ! やめっ! あぶ、いい加減にしろやぁっ!!!」

 

「…………ッ!?」

 

 あっ、あまりに話を聞かないものだから結構な勢いで殴ってしまった。怪我されちまったかもしれないな。どうしよう、ってなんかヴィータの姿が薄くなって消えていくんですけど…………転移じゃないな。転移ならパッと消えるし。

 

「要さん見っけたで! こっちにヴィータっぽいの来んかった?」

 

「はやてか。殴ったら消えたんだけど、もしかしてあれが偽者だったか?」

 

「せやで。アインスが言うには闇の書の闇の残滓やって」

 

「残滓…………ってなんだ?」

 

「…………改めて考えるとなんやろ。残りかす?」

 

「残りかすか。ならしっかり潰さないとな」

 

「基本的に偽者は能力が下がっとるみたいやから要さんなら心配ないと思うんやけど、気ぃ付けてぇな」

 

 それだけ告げるとはやてはどこかへ飛んでいった。十分な情報だ。俺も偽者探しに乗り出そう。俺の偽者なんかには会ってみたい。

 

「むっ、来やがるな。数は…………多い」

 

『大雑把ですね』

 

「そう言うな。ほらいっぱい出てきたぞ」

 

 気配がしたと思ったら出るわ出るわ、ヴォルケンリッターの偽者達が。各4人の計12人という多さだ。闇の書の闇の残りかすらしいから俺の危険性は知っていてこの人数をぶつけてきたか。

 

「浅知恵だな。3分くらいは楽しませろよ」

 

 まずは1体。最も近かったザフィーラモドキの首を刈る。次にシグナムモドキの心臓を抉る。次、次、次、次、次……………………

 

「終了っと」

 

 最後はシャマルモドキの四肢を潰して終わった。しかし弱すぎる。いくらこの数だからといってここまで弱体化するものなのか。そして消え方も引っ掛かる。最初に倒したヴィータモドキは霧のように薄くなって消えたのに、今倒したヴォルケンリッター軍団は全員泥のように溶けて消えた。何故こんな違いがあるんだ。

 

ーーパチパチパチ

 

「お見事。流石は儂のオリジナルじゃ」

 

「…………てめぇが俺の偽者か」

 

 さっきまでのヴォルケンリッターの偽者と違い、こいつは俺の2Pカラーといった感じの風貌をしていた。俺は青白い髪、偽者は漆黒の髪。俺は赤い瞳、偽者は青い瞳。分かりやすい偽者だ。

 

「よし潰す」

 

「血気盛んなのは結構じゃが、お主はもっと強い儂と戦いたくはないか?」

 

「どういう事だ」

 

「暫し待て」

 

 時間を掛けて力を溜めるタイプなのか。いいだろう、こいつの策に乗ってやる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 俺も偽者も微動だにせず向かい合って10分経ったところで偽者が動いた。偽者が3つの魔法陣を展開し、更に偽者の足下には泥のような魔力が集まってきた。ヴォルケンリッターの偽者を倒した時に出現したのと同じだ。こいつが吸収していたのか。

 そして魔法陣からは3人の少女が出現した。それぞれなのは、フェイト、はやての偽者だと分かる。こいつらも色違いなんだな。なのはの偽者に至っては髪型すら違う。それぞれ同じなのは戦闘後でボロボロという事だ。

 

「拳闘士か。助けろなど誰が言った!」

 

「ははは、王よ。勘違いは困るのぉ。助ける気など毛頭ない」

 

「ならどうして転移させたのはじいちゃん」

 

「雷刃や、じいちゃんは止めておくれ」

 

「えー」

 

「あそこに居るのは一条要ですね。協力して倒そうという事でしょうか」

 

「ほう、あれが敵の最重要戦力か」

 

「僕頑張っちゃうよ!」

 

「まあ待て。ボロボロなお主らとは協力などせん。やるのは協力ではなく」

 

ーードスッ ドスッ ドスッ

 

「吸収じゃ」

 

 あいつ、味方に腕から出した触手を刺しやがった。3人は声にもならない悲鳴を上げている。あいつが闇の書の闇ならやっているのはリンカーコアからの魔力吸収か。これが強くなる方法か。

 

「いやはや自身のオリジナルとの戦いからくる経験や知識、なかなかに旨かったぞ」

 

 こいつらを最初から召喚して吸収しなかったのは弱ったところを狙ったわけではなく、経験を積ませてからそれを奪うためか。

 

「おい、そいつらはどうするつもりだ」

 

「今のこやつらは出涸らしのようなものじゃよ。欲しければくれてやろうて」

 

「いるかよ」

 

『要、そっちで凄い魔力の集中を感じるけど』

 

『こっち来るなよフェイト。全員に近寄らないよう連絡しろ』

 

 相手は闇の集合体。しかもとびっきり濃縮された奴だ。あの時の闇の書の闇を相手に出来るレベルでもなければ勝てないだろう。

 

「来いよ偽者。相手をしてやる」

 

「行くぞオリジナル。お主を越えてみせよう」

 

 偽者が1歩で間合いを詰めて拳を突き出してくる。回避したが、その衝撃波で体が揺さぶられる。威力はかなりのもんだ。当たれば痛いじゃすまないな。

 当然偽者の攻撃はこれだけで止まらない。急所を狙う攻撃、動きを制限してくる攻撃。そのどれもがさっきのヴォルケンリッターモドキとの戦いで俺が使ったものだ。

 

「物真似が上手だな」

 

「そうじゃな。そういえば儂の名を告げてなかったな。我が名は鏡。全てを破壊し、喰らう拳闘士。そして…………」

 

 偽者の腕に力が集中する。漆黒に染まる鎧のようなもの。これは武装・ORTか!!

 

「オリジナルを越える偽者じゃ!!!」

 

「ほざけ!!!」

 

 俺は攻撃を避けてカウンターで腹をぶん殴った。武装・ORTは強力だが、それはあくまで破壊力と強度だ。スピードは変わらない。避けるのは簡単なのだ。しかし武装・ORTまでコピーしてくるとは感心するよ。

 

「くっ、届かぬか。ならばスターライトブレイカー!!」

 

「はやっ!?」

 

 溜め時間が1秒もなかったぞ。いくら俺には目眩まし程度の効果しかないとはいえ、このスピードでの魔法は驚異だ。俺を越えるとか言ってたけど魔法分野に関しちゃ俺どころか次元世界トップだろ。羨ましい。

 

「ん? 消えた…………?」

 

 本当にスターライトブレイカーは目眩ましだったのか。偽者の姿がどこにもない。魔力もあれほどの大きさなら鈍感な俺でも分かるはずなんだがなぁ。あっちこっち走り回ってみたが、見つかる気配もない。実力差を知って逃げた?

 

「なっ!?」

 

 完全に気が抜けた俺の前に魔法陣が出現し、そこから小さな小さな光の玉が出てきた。だがそれに籠められた魔力は計り知れないほど巨大で、速度も速い。避けられない。

 

ーーカッ

 

 玉に触れた瞬間、光の爆発が起こった。咄嗟に右腕で防いだが、そんなもので防げる威力ではない。熱くていてぇ…………魔法でこんなダメージを受けたのは初めてかもしれねぇ。一体どれだけ魔力を籠めたらこうなるんだ。

 光が収まった頃には俺の右半身は消し飛んでいた。周囲が巨大なクレーターになっているのを考えるとまだ軽傷と言えるのかもな。そして新たに出現した魔法陣からは俺の偽者が実にいい笑顔をしながら出てきた。

 

「どうじゃった? 渾身の魔力を籠めたビッグバンブレイカーは」

 

「てめぇ…………どこに」

 

「宇宙じゃ。さてどうする?」

 

「どうするもこうするも、今回は油断したが次はないと言っておこう」

 

「そうじゃな。次などない!!」

 

 完全に仕留めるつもりなんだろう。武装・ORTをした偽者の腕が首へと迫ってくる。流石に左半身のみで避けられる攻撃ではない。右半身の再生にはまだ時間が掛かる。だったら右半身を作っちまおう。

 

「武装・ORTだ」

 

「なんと!?」

 

 無くなった右半身に武装・ORTをする事によって形だけとはいえ右半身を作ってやった。俺の体という核がない分歪な形になっているが、避けるのも反撃するのもこれで十分!

 

「潰れろ」

 

 頭から偽者を殴り潰した。原型も残らないくらいのミンチだ。強い相手であったが、俺に勝つには不十分だったってこった。あの世で後悔しな。

 

『魔力反応がなくなったけど、終わったの?』

 

『終わったぞ。なのは、食い物が欲しい。ちょっと血が足りん』

 

『血って、無茶したら駄目だよ』

 

『はいはいすみませんでした』

 

『反省してないじゃん』

 

『それよりお前達の偽者が転がってるんだが…………』

 

 この時なのはとの念話に夢中で気付かなかった。ミンチになった偽者が泥のようになって消えていったのを。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 海鳴のとある雑木林で要の偽者、鏡は体を休めていた。拳1つでミンチにされた肉体は勿論、精神にも甚大なダメージを受けてしまった。完全回復までには時間が掛かるだろう。

 だが鏡にとって回復などどうでも良かった。要に勝てなかった。それだけが鏡にとって重要な事であった。他の闇の書の闇の残滓は砕けぬ闇を手に入れる使命を背負っていたが、鏡はそんなデータは即座に処分した。彼にとっての使命は要を越える事のみだった。そのために様々なデータを集め、魔導師の知識を奪い、仲間すら利用した。それでも要を倒せなかった。

 

「未熟…………」

 

「クー?」

 

「うむ?」

 

 余りの情けなさに自己嫌悪に陥った鏡の前に1匹の仔狐がやってきた。しかし鏡はその仔狐がただの動物ではないと一瞬にして見抜いた。

 

「何者じゃ」

 

「…………」

 

「そう怯えるでない。襲ったりなどせんよ」

 

「…………ほんと?」

 

 人語を語る仔狐を見ても鏡は動揺する事もなく冷静に分析を始めた。使い魔や守護獣としては幼すぎる。魔力とは違う力を感じる。主にその2つの要素から鏡は仔狐が古来より日本に存在する妖怪だと目星をつけた。

 

「お主は妖か?」

 

「うん…………」

 

「実在するものであったとは…………いや魔法も地球からすればあり得ないもの。妖が居てもおかしくはないという事じゃな」

 

「わたしが、怖くないの?」

 

「お主より怖いものなどいくらでもおるわい。しかし何故儂に接触してきた?」

 

「なんだかわたしに近い力を感じたから、疲れているなら助けてあげたいなって」

 

「優しいのぉ。なに、暫し休めば動けるわい。しかしその善意を無下にするのもなんじゃし、話し相手になってもらおうかの」

 

「! うん! 久遠いっぱいお話しするよ!!」

 

 1人と1匹は楽しげに話をし始めた。いつからか久遠からの一方的な会話になっていたが、鏡はそれに嫌な顔1つせず、全てを聞いていた。自分の体がある程度動けるようになっても久遠の会話が終わるまで動こうとはしなかった。

 

「楽しかったね!」

 

「そうじゃな。さて、儂はもう行こうかの」

 

「えっ…………行っちゃうの?」

 

「うむ。越えねばならぬ者が居る。そのために儂は修行の旅をしようと思っとるのじゃ」

 

「ねぇ、久遠も一緒に行ってもいい?」

 

「止めておくがよい。ろくでもない目にしか遭わぬ」

 

「今でもろくでもないよ。家族も、友達も居ない。きっとこの林がなくなったら久遠も消えちゃう。だったら鏡と一緒に居た方がいいもん!」

 

「ふーむ」

 

 ここで鏡は久遠を連れ歩くメリットを考えた。戦闘、生活、あらゆる面で邪魔にしかならないように感じたが、あるデータを思い出した。狐の妖怪は高い知能と妖術という特殊な力を使うものが多い。それを手に入れる事が出来るなら要への手札になる。

 

「久遠や、妖術とやらは使えるかの」

 

「今はまだ小さい狐火くらいだけど、お母様から教わった知識はあるよ。おっきくなったら色々使うんだ」

 

「よろしい。ならばついてくる対価としてその妖術を儂に教えてくれんかの?」

 

「いいよ!」

 

「交渉成立じゃな。では参ろうか」

 

 久遠を頭に乗せ、鏡は次元世界への魔法陣を展開させた。次は必ず勝つ。心の中でそう決意をし、鏡は別世界へと歩み始めた。




アリサ「希望者のための久遠登場でした」

シャマル「この話のメインってそこなの?」

アリサ「そうですよ。それと作者が呟いてました。『鏡を書くと主人公書いてる気分だわぁ』って」

シャマル「要君を書いている時は主人公を書いている気になれないのね…………」

アリサ「さて今日は何の日やりますよ」

シャマル「分かったわ。本日8月21日は『献血記念日』よ」

アリサ「まだ献血経験はないんでなんとも言えないですね。あれってやればジュースとか貰えるんですよね」

シャマル「献血は一度はやるべきよ。タダで自分の血液チェックと社会貢献が出来るのだから。血は常に足りないわ。みんな献血しましょうね」

すずか「血液チューチュー美味しいです(^q^)」

アリサ「…………すずか、あんたって子は…………前回の蚊の日に出なさいよ!!」

シャマル「ツッコミ所はそこじゃないわよ!? で、ではまた次回。あ、次回からコラボ回です」

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