「……だから、これは……となってこの解答は……」
今は授業中なんだが、授業に集中している余裕がない。理由は簡単。魔法の練習をしているからだ。
『要君、聞こえてるの?』
『聞こえるぞ。そっちはどうだ?』
『オッケーだよ』
今やっているのは魔法の1つで念話というものらしい。ユーノが俺達に助けを求めた時に使っていた魔法だな。なのはすぐに習得出来たのに、俺は午前の授業の時間のほとんどを費やして何とか出来る程度だ。魔法格差社会が早くも発生してしまっている。
「一条君、これは解けますか?」
「うーん、21ですか?」
「正解です。でも答えだけじゃなくて途中式も答えてもらえると良かったかな」
「はい、すみません」
もう昼だな。慣れない魔法の練習で時間が過ぎるのが早い。そういえばユーノがなのはのカバンの中に居るらしいな。何でも本人が地球の学校に興味があったからとからしいが、んなもんパンフレットでも見て満足しておけって話だよな。
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「昨日のフェレットは大丈夫だった?」
いつもの面子で弁当を食べているとバニングスがそんな事を訊ねてきた。こんな質問が来るのは想定済み。既になのはと授業中の念話で言い訳は考えてある。
「えっと、傷はそれほどでもなかったからうちで預かる事になったよ」
「なのはちゃんのお家は飲食店なのに大丈夫?」
「厨房に連れ込まない限りは良いって言われたの」
「キュ……!」
……ユーノの野郎、何があったか知らないがなのはのカバンの中で鳴きやがった。バレてなきゃいいんだが……
「今変な音しなかった?」
「私も聞こえたよ。なのはちゃんのカバンだよね」
「そ、そうかな?」
「あんた何か隠してない?」
「私は知らないよ!」
必死に隠そうとすればするほど怪しさ満載だ。1年生の頃からなのはの親友をやっている2人がなのはの分かりやすい嘘を見抜けない訳がない。
2人はなのはのカバンを開けようとした。勿論それをなのはは止めようとしていたが、この中で一番貧弱ななのはが太刀打ち出来るはずもない。俺も自業自得と思って止めるつもりもない。
「キュ~」
苦しそうにユーノはカバンから顔を出した。さっきの鳴き声は教科書か何かに潰された時に出てしまったのかもしれないな。なのははこれをどう対処するのだろうか。
「この子は昨日のなんでなのはのカバンに入ってるのよ!」
「ワカラナイナー」
これは酷い。バニングスや月村に追及されてなのはがあたふたしている姿は見世物として愉快だが、助けてやるのが幼馴染みだ。
「動物だから勝手に紛れ込んだんじゃないか? 騒いだらそいつにストレスが溜まるぞ」
「でもこんなカバンの中に居る方がストレスが溜まりそうですよ」
「だとしたら今まで静かに眠ってねぇよ」
「そっか。ごめんね」
「キュッ」
ユーノはまたカバンの中に入っていった。そしてすぐに念話が飛んできた。
『ごめん要。僕が学校に行きたいなんて言ったから』
『俺に謝られてもな。なのはに謝ったらどうだ?』
こいつが我が儘を言ったのは俺じゃなくてなのはだ。謝る対象が間違っている。俺に言う事があるとすればこの場を逃れる事が出来たお礼だろうが、それはくすぐったいから勘弁な。
『なのはに。うん、そうするよ』
「ねぇ、この子の名前は決まってるの?」
「ユーノ君だよ」
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今は俺となのはだけで下校中だ。今日も翠屋寄っていくとしよう。いつも通りコーヒーでもいいんだが、たまには紅茶もありだな。
どうでもいいような事を考えながら歩いているとなのはが立ち止まり、ユーノがカバンから顔を出していた。
「ユーノ君……これって」
「間違いない。ジュエルシードだ!」
えっ、何、ジュエルシードの魔力なんか感じるのか? なのはのレベルアップの早さに全く着いていけない。いいんだいいんだ。俺にはORTがあるから負けねぇしま魔法なんて無くてもいいんだ。
「要君急ぐよ!!」
「ああ」
俺ではどこにジュエルシードがあるのかさっぱり分からないのでなのはの後ろに着いていくしかない。しかし神様も魔法の才能くらい用意してくれてもいいのによ。本当にORT以外の力はくれなかったんだな。セコい。
んな事を考えてるうちに俺達が到着したのは神社へ向かう階段だった。どうやらこの上の神社にジュエルシードがあるようだな。
「俺は先に行って抑えておく」
「お願い」
「30%でやってみるか」
力を解放して一気に階段を駆け上がる。流石の俺でもこれだけ近付くと魔力の暴走ってのを肌で感じるようになるな。この感覚はしっかり覚えておかないといけない。戦闘がメインとはいえそれ以外で足を引っ張るのはごめんだ。
「■■■■■■■■■■■ッ!!!」
「こいつはまたデカくなったな 」
神社前では巨大な犬が咆哮していた。現実にケルベロスが居ればこんな感じかもしれないな。首は1つだけど。近くには気絶して倒れている女性が居る。まずはあの女性の救出が優先だ。
「■■■■■■■■■ッ!!!!」
女性に近付こうとすると一際大きな咆哮を上げて犬が足を降り下ろしてきた。勿論そんなもんには当たらないが、こいつ守っているつもりか? ふむ、なら下手に女性に手を出す必要はないな。
「■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」
「よっ、ほいっ」
噛みつきや引っ掻き、押し潰しと犬の動作は分かりやすくて避けやすいものばかりで助かる。どうせ俺の仕事は時間稼ぎ。なのは達が来るまでのんびり回避を続けよう。
「■■!!」
「んおっ!?」
犬がこっちに向かってこれまでと違う咆哮をした。すると俺の体が浮き上がり、遠くの木に衝突した。声による衝撃波か。ダメージはないが、見えない攻撃は避けられん。
「ヒィヒィ……」
「着いたよなのは!! しっかりして!!」
ようやくなのはのお出ましだが、体力が既に尽きているようだ。あの体力の少なさは致命的だ。なのはの兄である恭也さんや姉である美由紀さんは運動神経抜群なのに、どこをどう間違ってこうなった?
ってかヤバイな。この距離、犬が近いのはなのは。標的は間違いなくなのはに向かう。俺は飛ばされて離されている。
「■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」
「えっ、きゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
「チッ、間に合え!!」
木を足場にして犬に飛び掛かる。犬の牙がなのはに襲いかかる。駄目だ! 蹴り飛ばしたとしてもあいつの噛みつくという行動は止められない!
《set up》
「ウラァッ!!」
「キャインッ!?」
犬を蹴り飛ばしたが、間に合った、のか? いやなのはの前には薄い膜が見える。あれは魔法か? ユーノが守ったのか。ビビらせやがって。
「変身呪文を省略した!?」
「なぬ?」
確かによく見るとなのはの服がバリアジャケットになっている。制服と同じようなデザインだから分かりにくいんだよ。だとしたらあれはなのは自身がやった魔法という事なのか? どんだけ成長スピードが早いんだ。
「レイジングハート、貴方がやってくれたの?」
《yes master》
「……ありがとう」
「そうか。レイジングハートはインテリジェント・デバイスだから自分の意思で」
「意味が分からんから詳しい説明を」
「■■■■■■■■■■ッ!!」
「おっ、蹴られたのが頭に来たか? なのは、封印してやってくれ」
「任せて!」
また時間稼ぎになるが、封印にはそんなに時間も掛からないから余裕だろ。
「■■■■!!」
「ふんぬっ!」
この質量の突進となると重いな。だが俺も一歩たりとも動かない。むしろ押し返して……やる必要はないか。
「いっくよ! リリカルマジカル! ジュエルシード封印!!」
前回と同じように封印が完了した。今回もなんとかなったが、俺は魔力探知、なのはは体力という課題が見えてきたな。こればっかりは努力しかないか。
今回気がついたのですが、要君へのデバイスについての説明は必要だったろうか。まあ次回は軽い特訓みたいのをやる予定なのでそこでそれとなく入れておきます。