小型の結界を張り、俺は自室での鍛練をしていた。やっているのは武装・ORTの安定化なのだが、これがなかなか上手くいかない。
「ぐぅっ!?」
まただ。内側から侵食されていく感覚。長期間続ければORTに喰われる。数をこなせばORTと上手く混じりあう手段が見つかるかと思ったが、もう数百回やっているのに効果は出ない。たまにORTに話し掛けてみるが、何もヒントをくれない。ケチ。
《あの、よろしいでしょうか》
「言ってみろアリストテレス」
《武装・ORTは武装拳を基礎としているのですから武装拳を今一度鍛え直しては如何でしょうか?》
成る程、一理あるな。基礎を鍛えなくては応用が上手くいくはずもない。そんな当たり前の事が頭から抜けてしまっていた。なら久しぶりに会いに行きますか。武装拳の師匠、鬼島さんの住む白神山地へ。
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今が冬休みで良かった。そうでもなければんなは場所まで来て修行をする時間なんて無いからな。鬼島さんの小屋はこっちだったかな。
「グオォォォォォッ!!」
「熊か。冬眠に失敗して餌でも探しに来たか」
1頭での冬眠経験は初めてだった若い熊なんだろうが、俺の目の前に出てきた事が失敗だ。猿でも探して食えば良かったんだ。まあ今回は逃がしてやろう。無駄に命を狩るつもりはない。
「死ぬか?」
「!?」
俺の威圧にビビってくれたようで全速力で逃げていった。野性動物は勝てる相手かどうかを本能で見極めてくれるから下手に手を出さずに済む。
ん? 背後に気配を感じる。また野性動物が来たのか? 俺の威圧を感じただろうに、図太い奴も居るな。
「おんや、要君じゃないか。元気そうだね」
「あ、鬼島さんでしたか。お久しぶりです。早速ですが鍛え直してもらいたいのです」
「んー、今更教える事はない気がするんだけどね。何か事情があるなら教えてもらえるかな?」
「分かりました」
この人に隠し事をする必要はない。俺は武装・ORTについての相談をした。当然その過程でORTがどんなものかの説明もしたし、実際に武装・ORTも見せた。この人相手じゃなけりゃこんな相談は出来ない。
「凄いね」
「思ったより反応薄いですね。普通はこんなのを見たら怯えますよ」
「驚きはするけど怯える事なんてないよ。要するにそれは自然の延長線上なんだもん、ね?」
すげぇな鬼島さんは。いくら説明を受けてもORTをそうやって見れる人は初めてだ。
「それでその武装・ORTというのを使うと激痛が走るんだね」
「ええ。手までなら大丈夫ですが、二の腕辺りまで行くと死にそうです」
「ふーむ、さっきも言ったけどORTは自然の延長線上にあるんだろうから、長い時間自然の中で過ごしたら調和も取れるんじゃないかな。この白神山地で数日過ごすといいよ。あ、その間は常に全力の武装拳を纏っていてね。基礎はさっき見た限り大丈夫だったから」
「分かりました」
元々どうすればいいのか分からずにやってきたんだ。どんなアドバイスであれ貰えるだけありがたい。根拠があろうがなかろうがやってみて損はない。
「そうだ鬼島さん、一度自分の武装拳の精度を確認したいんで、本気で武装拳をぶつけ合ってもらえます?」
「いいけど、怪我するかもしれないよ」
「誰がです?」
「君が」
魔力量は比べるまでもなく俺が上。勿論それだけで勝てるほど武装拳は簡単ではないのは分かっているつもりだ。それでも鬼島さんがここまで自信を持てる理由が分からない。鬼島さんが相手を見下すようなタイプではない。だとしたら俺が弱い…………
「俺は怪我なんて一瞬で治りますからお気になさらず」
「うーん、じゃあやろうか」
鬼島さんの腕に力が集まる。一瞬腕が刀へと姿を変えたように見えた。いやあれは既に刀以上の切れ味を持っているはずだ。俺も腕に刀のイメージを乗せる。あとどうなるか。
「ヤァッ!!!」
「ハァッ!!!」
腕と腕がぶつかり合った瞬間に火花が飛び散り、俺のイメージが折れた。折れた刀ほど脆いものもない。鬼島さんの腕が俺の腕を豆腐のように斬り裂き、顔面へ向かってくる。そこで腕は寸止めされた。
「わわっ、ごめん。腕大丈夫?」
「え、ええ、くっつくんで」
落ちた腕の切れ口は驚くほど綺麗で、くっつけるのに苦労はしないほどだ。
「未熟ですね俺」
「ううん。君は強いよ。ただ心理戦で僕が勝っただけ」
「心理戦ですか?」
「そう。武装拳はイメージが大切だ。でも君はどこかで自分は負けるってイメージしたんじゃないかな? そう仕向けたのは僕だけどね」
「あっ…………」
あそこで俺が怪我をするかもと言ったのが心理戦だったのか。あの言葉のせいで負けるとまではいかなくても俺が弱いんじゃないかと思わされてしまった。勿論普通の戦いならそんな事は考えないが、同じ分野の師匠の言葉だ。気にしないわけがない。
「ちなみに僕は武装・ORTすら斬り落とすイメージをしていた。君にそのイメージは出来るかな?」
「無理ですね。そこも課題と言ったところですか」
「うん。頑張ってね」
軽く言ってくれるよ。しかしイメージか。意外に難しいな。常に勝利するイメージをすればいいかもと考えたが、それは慢心に繋がる。修行必須だな。
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あれから5日ほど冬の山中で生活した。水分も食糧も現地調達だ。水は雪で何とかなるが、問題は飯だ。野性動物はほぼ居ない。草も枯れて食えるものなんてねぇ。木の中から見つかるカミキリムシの幼虫らしきものは旨かった。
そんな生活を続けているうちに変なものを感じられるようになってきた。何て言うかな、森の声が聞こえるというべきか。食糧なんかの必要なものの場所が分かるようになった。きっと感覚が鋭くなったんだろうな。
《主、なのな様よりご連絡です》
「繋げられるか?」
《少々お待ちを…………繋がります》
「おうなのはか。どうした」
『要君! どこに居るの?』
「白神山地」
『なんで!?』
「いや修行のためだが、何かあったか?」
『なんだか私達の偽者みたいのが出たの! 早く帰ってきて!』
「了解した」
偽者とはまた面白いのが出現したな。しかもなのはの様子だとかなり手こずる相手みたいだ。っと行く前に試しておかないといけない事があったな。
「武装・ORT」
一気に腕まで武装してみるが、激痛が走る。やはりたった5日でどうにか出来るものではないかと思ったが、俺の何かが違うと囁いている。こうじゃない。ORTが望んでいるのはこんな方法じゃない。
これまで比較的ORTを自由にさせて武装していたが、こいつはただ好き勝手に暴れる自由を望んでなんかいない。俺と共に暴れたいんだ。これが分かれば話は早い。武装・ORTに俺の魔力を注ぎ込む。ORTからすれば変化とも呼べない変化だが、痛みは一気に引いた。
「こんのツンデレが。そんなに俺が好き、あいたたたっ!!? 暴れるな馬鹿!!」
《楽しそうですね主。早く行きましょう》
「あー、痛かった。よっしゃ行くか!!」
管理局に連絡して転移でも頼もうかと考えたが、あっちもあっちで忙しいだろう。自力で帰ろう。シールドを足場にして全力で跳ぶ。何分で到着出来るかな。なのは達は踏ん張ってくれればいいんだけど。
アリサ「今回はあれね、イメージパネェと要さん超感覚取得とORTはツンデレって感じの話ね」
シャマル「ツンデレな上にドジッ子…………なんてあざとい!!」
アリサ「ORT恐ろしい子!!」
シャマル「でもリメイク前ORTは要君専門のビッチだったのを考えると改善されたのかもしれないわね」
アリサ「そんな設定覚えている人が居ないんですから言わなくてもいいんです」
シャマル「昔からORTはドジッ子って意見があったからそれに反発したくてビッチにしたみたいだけど、結局ドジッ子にする作者は意思が弱いわね」
アリサ「そういう話は置いといて、今日は何の日やりますよ」
シャマル「そうね。本日8月20日は『蚊の日』ね」
アリサ「蚊…………見ませんね」
シャマル「熱いもの。あ、これ誤字じゃないわよ」
アリサ「どんな生き物にも適温はあるって思い知らされます。でも9月頃になったら増えるのかしら」
シャマル「最近は春夏から秋を飛ばして冬になっているから出ないんじゃないかしら」
静葉「我々の」
穣子「秋は」
秋姉妹「「これからだ!!」」
アリサ「幻想郷へお帰り下さい」
シャマル「東方を知らない人が困るじゃない。ではまた次回」