闇の書の闇が変身した黒いORT。俺の魔力からORTの情報を引き抜いて形作ったんだろう。星のためにあらゆるものを破壊するORTは戦闘用生物として完成している。だからあいつがやった事は正しいのかもしれない。
だがORTはこの世に2体も必要ない。俺の中のORTもあれを見たら騒ぎだした。さっさと潰さないと俺の体を突き破ってくるかもしれん。いや、敢えてORTに委ねよう。
「Giiiiiiaaaaaaaaaa!!!」
俺を確認した黒いORTが自分を縛り付けていた魔法を軽々と破壊して突撃してくる。俺を喰ってORTを完全に自分のものにしようというつもりか? ふん。
「今回はお前に任せるぞORT。少し口出しするかもしれないがな。ORT解放」
ORTを解放して黒いORTに立ち向かう。街の心配は必要ない。世界は既に侵食固有結界『水晶渓谷』によって塗り替えられている。固有結界の展開は自分にとって有利な世界を創り出す事と同義。この時点で俺達と黒いORTには差があるのだ。
「Guooooooooooooo!!!!」
それを理解しているのかいないのか知らないが、黒いORTは止まらない。そこは大した根性だと認めてやる。しかしその無謀な行動が黒いORTの動きを鈍らせている。これではORTを解放しなくても生身の俺で勝てそうだ。
「Giii!」
黒いORTの脚が俺達の頭目掛けて飛んでくる。おそらく最速の動きをしたつもりだろうが、とろすぎて欠伸が出る。
そんな攻撃を軽く受け流し、俺達は黒いORTの体を脚で貫いた。あまりに呆気ない。俺はこのまま決着をつけてもいいんだが、どうやらORTの奴は姿を真似された事について気が済んでいないようで黒いORTを投げ捨てた。基本的な戦いはORTに一任したからな。俺が文句を言う筋合いはない。
「Gaaaaaaaaa!!!」
自分の力が一切通じず、その上で殺されないように手加減されたのが悔しいんだろうな、黒いORTが吼えていた。そんな哀れな行動を自分の姿でやられては堪ったものではないと言わんばかりにORTは黒いORTの頭を潰す。
ーーこのまま潰すか?
内から話し掛けた俺に対しての返答はノーだった。まだまだいたぶりたいんだろう。化け物や怪物と言われるORTだが、なかなか子供っぽい部分もあるじゃないか。
このまま内から眺めているのも悪くないが、黒いORTが変な事をしてこないとも限らない。ここは専門家の話を聞いてみよう。
『もしもし、リインフォース聞こえるか?』
『…………どうした一条、問題があったか?』
『気になる事があってな。あいつはどんな事が出来る?』
『闇の書の闇か。私がやったのと同じように蒐集した魔法は使えるな。しかしお前のレアスキルを使ってアレンジするほど頭は回らないはずだ。まあしかし、何だ。今のお前にはどうやっても傷1つ付けられないだろうさ』
『根拠は?』
『私もお前の魔力からその怪物の情報を引き出した。その時点で回路がパンクするかと思ったほどの情報量だったよ。そしてそこから読み取れた情報を見ればこの世のどんなものでも勝ち目がないのが理解出来る。いくら闇の書の闇がそんな怪物を真似てもあれが真似出来るのは3割。圧倒的な差だ』
リインフォースもORTについては知っていたか。3割ってのは俺が闇の書に与えた分の魔力割合か。それを考えたら勝ち目は確かにない。あの時より俺は更に強くなっているからもう闇の野郎に打つ手はないわけだ。
『サンキュー。じゃあもう少しORTの遊びに付き合ってから終わらせるな』
『その蹂躙を遊びと呼べるお前の感性はどうなのだ?』
ORTに思考を犯されている部分もあるかもな。仮面を半殺しにした時なんかまさにORTの狂暴性が表に出ちまった時だし。
でもこれは遊びだ。黒いORTの再生が間に合う程度に曲げて、潰して、引き千切る。周りから見ればただの蹂躙かもしれないが、本人が遊びと思っているのだから遊びなのだ。
「Gii……iiii…………」
むっ、流石に再生が間に合わなくなってきているようだ。黒いORTの四肢も水晶に侵食されているし、潮時か。うちのORTのストレス発散に付き合ってもらった事は感謝しよう。こいつが好きに遊べる玩具は今後出現するか分からないからな。
ーー名残惜しが、終わらせようか
「Gyuaaaaaaaaaaaa!!!」
俺の言葉に呼応してORTは黒いORTを破壊する。黒いORTの殆どは水晶化し、砕かれて消えていった。しかしどう壊しても高速再生を続ける部位がある。そこし心臓部、コアである事はすぐに分かった。
水晶化すら再生で何とかしようとするコアを破壊するためには一瞬で消滅させる必要がある。しかし残念な事にこの世のどんな広域破壊兵器よりも早く人類を死滅させる事が出来るORTであっても、その攻撃の1つ1つは点でしかない。このコアは点では破壊が出来ない。
『クロノ、俺達ごと宇宙空間に転送させられるか?』
『可能だが』
『転送したら俺ごとアルカンシェルで撃つようにリンディさんに伝えてくれ』
『それは……いや無用な心配だな。準備をするからそのコアを逃がすなよ』
『あいよ』
こんな残りカスを逃がすなんて馬鹿な真似はしない。宇宙空間で放たないといけないアルカンシェルがどんな威力だとしても星を移動してもピンピンしているORTに効くとは考えにくい。効いたら効いたで俺が馬鹿だったという結果が残るだけだしな。
『準備完了だ。飛ばすぞ』
『いつでもこいや』
俺達の周りに魔法陣が展開され、直後に浮遊した感覚があった。周囲の温度は下がり、世界は暗くなる。これが宇宙。普通なら即死を免れない死の世界か。ORTも懐かしかったのか一瞬だけ水星の方面を眺めた。
そんな宇宙に明らかな人工物がポツリと浮いている。アルカンシェルとやらをこっちに向けたアースラだ。今か今かと合図を待っているのだろう。
『リンディさん、いつ発射しても構いませんよ』
『出来ればコアをこちらに向けてくれないかしら?』
『おっと失礼』
ーーORT、コアをアースラの方向に向けて殴り続けてくれ
しっかりと俺の指示を聞いてORTは実行に移してくれる。この位置だとアルカンシェルにエネルギーが溜まるのがよく見える。まさに特等席って感じだ。
『撃つわ。気を付けて』
『楽しみですね。これがもし効けば管理局にとっては俺達を倒せる手段になるかもしれませんよ』
『生憎と味方を倒すつもりはないし、これは簡単に撃てる代物ではないの。それに要君なら溜めてる間に艦を砕きそうだわ』
『戦艦砕き、いい響きだ』
『止めてちょうだいね。話は終わりよ』
『そうですね。さあ来て下さい』
アースラに取り付けられたアルカンシェルから放たれた光はコアごと俺達を容赦なく呑み込んだ。
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アルカンシェルの発射。誰もが固唾を飲んでその光景を見つめた。もしコアが消滅していなかったら、もし要が消えてしまったら、皆が様々なもしを考える。そしてそのもしが現実にならないように祈った。
長いようで短い砲撃が終わり、光が収束していく。遂に結果が見える。
「Gyuaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
音が響かない世界での咆哮。しかしそれはしっかりと皆に届いていた。残っているのはORTのみ。コアは完全に消失していた。ORTも煤けてはいるが、傷らしい傷は見当たらない。完全勝利だ。
「傷は無しか…………管理局の最高火力も形無しだ。もしあいつが反乱するような事があれば」
「どうしたのクロノ」
「ん、いや無事に終わって良かったなと」
「そうだね。要も元気そうだし良かった」
「ねぇ、要君が戻ってきたら改めてみんなでクリスマスパーティーしよ。きっと楽しいよ!」
「出来れば明日がええな。初めての事ばっかりで疲れたわぁ」
これで闇の書の連鎖は終わりを告げだ。暫くは平穏な日常が続くであろう。
アリサ「フルボッコだドン!!」
すずか「もう1回殴れるドン!!」
アリサ「次からはA'sの後日談的な話が続くのかしら?」
すずか「気が付いたら空白期を書いてるかもね。コラボもやると思うよ」
アリサ「空白期とか嫌な予感しかしないわ。さて今日は何の日やりますか」
すずか「本日8月3日は『蜂蜜の日』だよ」
アリサ「語呂合わせね」
すずか「分かりやすい日は好きだよ」
アリサ「蜂蜜ねぇ……パンケーキにかけるかしら」
すずか「砂糖代わりになるから使いやすいね」
アリサ「ではまた次回」