チートじゃ済まない   作:雨期

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40話なんで少しやる気出した。


第40話

 くっ、意味不明な世界を歩き回っていたが出口らしきものは見当たらない。街中、砂漠、流氷、高地、海中、様々な世界を歩き回ったが、今居るのは森だ。僅か一時間ほどでこれだけの環境を見て回ったのは初めてだ。

 小川があるな。少し喉を潤してから探索を再開しよう。どっかに食えそうなものもあれば嬉しいんだが。

 

「よう、こんな場所に迷い込んでどうした?」

 

「!?」

 

 誰だ!? 周囲に気配は欠片も感じなかったのに突然話し掛けられた。咄嗟に飛び退いて姿を確認しようとしたが、先程まで俺が居た場所には誰も居ない。

 

「ビビるなよ。おじさんは怖い人じゃないぞ」

 

 頭に手を置かれてぐりぐりと撫でられる。俺の動きについてきた? いやそれ以上の速度で背後に回り込んだのかもしれない。

 

「止めろ!」

 

「おとと、短気は損気だぞ」

 

 頭に置かれた手を振り払ってから振り向くと男が居た。初めて見るはずなのに初めて会った気がしない。それも当然と言える。こいつは俺がそのまま大きくなったような奴なんだ。

 

「……名前は?」

 

「分かるだろ、過去の俺」

 

「やっぱり俺なのか?」

 

「何も驚く事じゃない。座れ、説明してやろう」

 

 敵意はなく、まるで俺が居ないかのようにゆったりと地面に腰を下ろす未来の俺らしき存在。少し、試したくなった。もし俺なら俺の一撃くらい受け止められるはずだ。勿論全力のものであろうと。

 

「なぁ」

 

「どうした?」

 

「喰らえ!!!」

 

 俺の拳が顔面に突き刺さる。普通なら上半身すら吹き飛んでいる威力だ。未来の俺の後ろは衝撃波で地面が抉れている。だというのに未来の俺は微動だにしていない。

 

「今の、本気だったり?」

 

「……ああ」

 

「そっちも少し教える必要があるか。力比べが済んだなら座れよ」

 

「…………」

 

 従うしかない。勝てない奴にこれ以上反抗しても無駄だ。

 

「よし、まずはこの世界からだ。ここは『次元の狭間』と俺は呼んでいる」

 

「次元の狭間?」

 

「そう。何らかの原因で世界から弾かれたもの、消されたものが流れ着く。神隠しと言えば分かりやすいか。俺ほどになれば任意で来れるがな」

 

 管理人格に呑まれた時に偶然来てしまったのか。俺だけか? それともフェイトも居るのだろうか?

 

「ここは不定期に変わる多種多様な環境、遅い時間の流れがあるから修行にぴったりなんだ。見た事はないがアルハザードもあるかもしれんな」

 

「俺以外には誰も居ないのか?」

 

「居ない。誰か居れば空気が変わるからな。さて次だが、お前をこのまま外に出してもいいんだが、あまりの弱さに驚いた。少し鍛えてやる」

 

「あまりの弱さは余計だ」

 

「俺を動かす事すら出来なかったくせに」

 

 チッ、事実だから腹立たしい。だがここで未来の技術を得られるのはありがたい。素直に受け取ろう。

 

「じゃあ一条流の奥義だな」

 

「一条流?」

 

「前世で親父に奥義以外習わなかったか?」

 

「前世はそんなものなかったが。親父はただの拳法家でオリジナルの流派なんて持ってなかったけど」

 

「前世から違うのかよ。まあいい。俺なら出来るからしっかりついてこい」

 

 なんか激しく心配になってきた。こいつ本当に未来の俺なんだよな。ORTじゃなくて違う究極の一を宿しているって事はないよな。

 

 

 

 

 

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「いいぞ。流石俺。すぐにマスターしたじゃないか」

 

「思ったより簡単だったからな」

 

「ある程度武術の基礎が出来ているなら誰でも出来るからな。武装拳とやらを覚えてて良かったな」

 

 教えてもらった技は『抜骨(ばっこつ)』という関節を外す技だ。これが出来たら後は自分で発展させていくものらしい。

 

「そうだ。外だとどれくらいの時間が経っているんだ?」

 

「知らん。まあ気にするほど経ってないだろうさ。次行くぞ。次はORTとお前の親和性を高める」

 

「親和性を? どうやって?」

 

「目を瞑れ。心を鎮めろ」

 

 言われた通りに目を瞑って静かにする。すると頭に手を置かれた。なんだか暖かい。眠たくなってきた。

 

「目を開けろ」

 

「…………ここは?」

 

 暗く何もない、俺はそんな場所に立っていた。未来の俺の姿かわない。どういう事だ?

 

ーーそこはお前の心の中だ。ORTを捜せ。何をすべきかはそこで分かるはずだ。

 

 どこからともなく未来の俺の声が聞こえてきた。今意識があるのは心の中らしいから外から聞こえる声が変わった風に聞こえるのもおかしくはないだろう。

 この世界のどこかにORTが居るのか。巨大なあいつを見つけるのに苦労はしないだろう。でも見つけてどうするのやら。

 

「…………iii」

 

 歩き回っていたらORTの声が聞こえた。遠くに小さく姿も見える。近付くほどに足が重くなる。吐き気がする。今すぐ死んでしまいたくなる。俺は、こんなものを従えたつもりでいたのか?

 

「Giiiiii」

 

「…………」

 

 なんとか目の前まで歩いてこれたものの声がでない。何をすべきかは分かるとか言われたが分からねぇよ。

 

「Gyuii」

 

 そういえばなんでこいつは俺に反抗しないんだ? 神様の力で封じられているなんて感じはしない。俺を殺せば自由になれるのに。俺みたいのと一緒に居てなんの利益になるっていうんだ。

 どうすればいいのか分からない俺にORTはゆっくりと顔を近付けてきた。そこにORTらしい凶暴性は感じられない。なんだ、自分は怖くないとでも言いたいのか?

 

「気遣いのつもりか?」

 

「Gii」

 

「ざけんなよ」

 

ーーパシンッ

 

 ORTの顔を叩く。それだけなのに俺の手は裂け、血塗れになる。触れるだけで全てを傷付ける化け物。そんなのを求めたのは俺が初めてだったのかもしれない。それが嬉しいからこいつは俺の中で大人しくしているのかもしれない。だけどな……

 

「俺が求めたのはこんな大人しい奴じゃねぇ! 存分に暴れろ!! その全てを受け止めてやる!! 宿主(俺)なんて気にすんな!!! だから今まで以上の力を寄越せ!!!」

 

 …………言ってしまった。これで本当に死んだらどうしよう。でも男なら自分の発言にくらい責任を持たねぇとな! 有言実行してやるよ!!

 

「Gyuaaaaaaa!!!」

 

 俺の言葉に応えるかのようにORTは吼えた。飛ばされそうになるが踏ん張れ。耐えきる事がこいつへの誠意となる!!

 結論無理だったんだけどな! 吹っ飛ばされて地面に転がされたよ。ORTが心配そうに近付いてきたが、片手を上げて無事だと応える。しかし、疲れた……もう…………眠ろう。

 

 

 

 

 

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「おはよう。水飲むか?」

 

「……いただく」

 

 染みる…………無事に生きて戻れたんだ。でも強くなれたのか?

 

「早速試すか。殴ってみろ」

 

 未来の俺が自分の頬を指差す。例え強くなっても俺の攻撃は効かないと自信満々な雰囲気を出している。どうも未来の俺は自分最強主義のようだ。見せてやる。

 

「潰れろ!!!」

 

ーーゴッ

 

 …………ぶん殴った俺の拳の方が痛いって理不尽じゃねぇか。でも未来の俺は仰向けに倒れた。最初に比べれば驚くべき進歩、でいいよな?

 

「そこそこ親和性が高まったんじゃねぇの。でもまだだ。もっと伸びるぞ」

 

「ならあんたの力を見せろよ」

 

「いいぜ。これが最高潮だ」

 

ーーブォンッ

 

 振るわれた腕が残像すら見えなかった。そして腕が振るわれた空間は裂けて…………

 

「ハアァァァァァッ!!!? 何やってんだ!!!?」

 

「次元を裂いた。これで元の世界へ帰れるぞ」

 

「いや、助かるけど……次元を裂くってどんな技だよ」

 

「技なんか使ってねぇよ。さあ帰った帰った」

 

「うわぁっ!?」

 

 半ば無理矢理次元の裂け目へ押し込まれ、出口の見えない穴を落ちていく。落とされた時に未来の俺が武装拳とORTの力をうんたらかんたら言っているのが聞こえたが、何が言いたかったのかはさっぱりだった。これで元の場所に戻れるんだろうか。戻れなかったら恨むぞ俺。

 

 

 

 

 

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「行ったな」

 

 未来の要は過去の自分が完全に見えなくなったのを確認してから空間を力でくっつけた。一仕事終え、グッと背伸びをしているところへ誰かが歩いてきた。

 

「お疲れ様」

 

「神様ですか。おいそれと死人を起こさないで下さいよ。ぶちギレられても文句は言えませんよ」

 

「君なら怒らないと分かっていたからね」

 

 現れたのは要を転生させた神であった。どうやら未来の要も彼に転生させられたらしく、更に既に死んでいるようだ。

 

「どうだった、過去の自分は?」

 

「違う可能性だからでしょうね。あれは俺よりよっぽど優れた才能を持っている。羨ましい限りです。全知全能の神様ならそれくらい解るのでは?」

 

「別に神は全知でも全能でもないさ。全知なら人間との知恵比べに負ける神は居ないし、全能なら僕は君に負けたりしない。神が出来るのは切っ掛けを与える事なんだ。人が火を扱えるようになったりしたのなんかその最たるものだ」

 

「でも神様の切っ掛けは大きすぎるんですよ」

 

「他の神は転生特典をいくつもあげたりするんだから僕は厳しい方さ」

 

 長年の友人であるかのように楽しげに会話する2人だが、時間は永遠ではない。

 

「僕はそろそろ仕事だから行くよ。要君もどこかへ行くなら送るよ」

 

「どうしましょうか。久しぶりに戦いのない世界へ遊びに行きますか。あ、最後に質問なんですが、どうしてこんな事をしたんです? 俺が闇の書に関わった時はこんな事しなかったでしょう」

 

「神は気紛れなんだよ」

 

「納得しました」

 

「じゃあね」

 

「ではお先に」

 

 未来の要をどこかの世界に送り、神様は気だるそうに歩き始めた。のんびりしていたら部下や秘書に怒られてしまう。だが仕事なんてやりたくもない。神様は足を止めて座り込んだ。仕事をサボって、今は強くなった要を見てみる。そんな結論に到ったようだ。わくわくしながら観察の準備している間、後ろに立つ笑顔の秘書に気付く事はなかった。




アリサ「前の更新から1日。普段からこんくらいやる気出せばいいのに」

すずか「作者が珍しく前々から考えていた話だから早くもなるよ」

アリサ「普段からその場の思い付きで話を書かなければ早いのに。でも昔は思い付きでも連日更新だったのを考えると、衰えたわね」

すずか「人間には衰えが来るものだもん。作者はそれが早かったんだよ」

アリサ「哀れな奴。じゃあ今日は何の日行きましょう」

すずか「本日7月28日は『菜っ葉の日』だね」

アリサ「頭が禿げててクンッてやったら街を崩壊させるエリート?」

すずか「同名なだけだよ。野菜だよ」

アリサ「でも菜っ葉ってよく言うけどどんな野菜?」

すずか「正確には野菜の種類だよ。ホウレン草とかアブラナみたいなのも菜っ葉だし、キャベツやレタスみたいのも菜っ葉なんだよ。ネギなんかも入るね」

アリサ「随分と広い範囲を指す名前だったのね。久しぶりに勉強になる話題だった気もするわ」

すずか「ではまた次回。そろそろA'sも終わりだね」

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