「なぁ要、今度の休みだけど」
「んだよ」
「……いや、ごめん」
「言いたい事があるなら言えよ。ったく」
昨晩の戦いから一夜明けた学校の、いや正確には要のクラスなのだが、ともかくそこの空気はとてつもなく最悪だった。原因は勿論不機嫌な要だ。教師すら話し掛けられないほど威圧的が出ている。クラスメイトがどうにかしようと話し掛けたが、結局何も出来ずに退いていく。
(最低だな、俺って奴は)
だが要もそんな空気にしている事を反省はしているのだ。ただ心の奥から湧き出るムカつきを制御出来ていなかった。あの仮面の男、あれが居なければやりたい事が出来た。途中で戦いを止めた事を管理局にとやかく言われる事もなかった。あの男が居なければ……考えなければいいのについつい考えてしまい勝手にムカついて、それが周りに悪影響を出してしまっている。
「なあ」
「ひっ……な、何?」
「今日は体調悪いから早引きするって先生に言っておいてくれ」
誰が聞いても分かるような嘘だった。しかし今の空気に耐えられなかったのだろう。クラスメイトは無言で首を縦に振った。それを確認した要はさっさと荷物を纏めると学校を出ていった。するとすぐに何かを思い立ったように携帯電話を取り出して祖父母へメールをした。
『今日は帰りが遅れます。学校を早退しましたが健康だから心配しないで下さい』
ーーーーーーーーーーーー
「アリストテレス、この辺りで大きめのスーパーマーケットはあるか?」
《お買い物ですか?》
「探し物という意味では間違いではないな」
探しているのはヴォルケンリッターなんだが、あいつらを探す上で楽なのははやてを見つける事だ。はやては学校に通っていないらしいから昼間は買い物をしているか、図書館に居る事が多いとすずかから聞いた。図書館にはもう行ったが居なかった。ならば買い物だろう。
はやては車椅子だから遠くには行けないだろう。そう考えると以前出会ったこの場所周辺の店、特に何でも揃うようなスーパーマーケットに居るはずだ。
《ではこの周辺の地図をダウンロードします…………ダウンロード完了。おや》
「どうした?」
《このまま真っ直ぐと進んだ先に八神姓のお宅がありますが、如何致しましょう?》
「行くぞ」
はやての家なんて見つからないと最初から決め付けてしまっていたな。でもはやて自身は一般人なんだ。隠す必要性なんて一切無いんだ。俺って馬鹿だなぁ。
「この家か。立派だな」
早速インターホンを押そうか。初めて人の家を訪ねる時ってもし間違ってたらどうしよう、とか考えるよな。でも八神なんて珍しい姓は国内を探しても数件だろうし大丈夫だよな。
ーーガチャ
「ほぇ? 要さんやん。どないしたんです?」
「偶然見つけたから挨拶しようかと」
ちょうど出掛けるタイミングだったのか、インターホンを押す前にはやてが出てきた。その後ろには警戒しまくりのヴォルケンリッター一同が居る。
「これからみんなでシグナムがお世話になっとる道場に行くんやけど、要さんも来ます?」
「マジか。でもそっちの親戚さん達に悪くないか?」
「ええんやで」
凄くいい笑顔で許可されてしまった。これは遠慮出来ない。遠慮したら恐ろしい事になりそうだ。向こうも誰一人としてはやてに意見出来ないようだし。
「じゃあお供するわ」
元々の目的を果たせそうだから良かったと言えば良かったのだろうか?
ーーーーーーーーーーーー
背後から常に敵意を受けながら歩くのもいいメンタルトレーニングになるな…………胃がいてぇ。
「ここやね。お邪魔しまーす」
「よくお越しになった。外はまだ暑かったじゃろ。お茶でもどうじゃ?」
おそらくこの道場の持ち主と思われる老人が丁寧にもてなしてくれた。孫でも遊びに来たような感じだ。そんな人の良い老人が俺を見た瞬間に目の色を変えた。
「少年、何か武術を嗜んでおるな。しかし心が乱れておらぬか?」
「分かります? 昨日ストレスが溜まる事がありまして、体を動かしてそれを発散しようかと」
「良い心掛けじゃ。どれ、シグナム殿も乱れが見られる。少年と試合をして発散しては如何かな?」
「しかし師範、彼は剣を使いませんが」
「俺がやりたいんです。付き合って下さいよシグナムさん」
「敬語を使うな! 気持ち悪い!!」
「そりゃ失礼」
師範の老人の好意もあってシグナムとの試合が決まった。トントン拍子で俺の目的が達成されてしまった。昨日仮面のせいで溜まったストレスをどうにかするためヴォルケンリッターと個人的に試合がしたかったのだ。
「そういや何でシグナムは要さんが剣を使わんって知ってたん?」
「えっ!? そ、それは……剣術家として相手の得意分野が分かるのですよ」
「ほぇ~、凄いなぁ」
そういうのは追求したら駄目なんだぞ。いくら家族でも秘密にしておきたい事はあるもんだ。
「では一条、覚悟はいいか?」
「そんな殺し合いじゃあるまいし」
シグナムは竹刀を正眼に構えて訊ねてくる。俺は拳を胸元へ持ってくる。分かりやすい例としてはボクシングの構えだな。
さて折角だから実戦に近いイメージで試合をしよう。シグナムが持っているのは日本刀。触れば戦闘不能だ。
「フゥー…………」
少し息を吐いてゆっくりとシグナムへ近付いていく。間合いに入れば斬られるが、懐に入り込めれば勝てる。だがどう入り込む。残り半歩だというのにシグナムには付け入る隙がない。
こうやって技量の差を見せ付けられると普段俺がどれだけ力に頼っているか分かるな。だがそれがなんだ。それが俺のやり方だ。迷うな俺。突き進め!
「オォッ!!」
「シッ!」
踏み込んだ瞬間に突きが喉元目掛けて飛んでくる。それを体を捻ってなんとか避け、捻った勢いそのままに回し蹴りを放つ。
「効かん」
それをシグナムは竹刀の柄を使って受け止める。更に意趣返しと言わんばかりに攻撃を受けられて硬直している俺を蹴り飛ばした。ここで無理矢理回避するのは可能だったが、致命傷になるような攻撃でもない。あえて受けて間合いを離そう。
「いって……」
蹴りを受けて転がるように離れたが、戦闘に支障はない。シグナムはここで斬りかかってくればいいものを警戒しているのか知らないが、その場から動かず再び正眼の構えをとった。
あれが一番隙がないから困る。正眼は剣術における基本の構えであるがため、そこからあらゆる技を放てる変幻自在の構えだ。間合いを見切るにも最適だし、正に攻防一体だ。素人目とはいえこれが完璧に出来ているシグナムは本当に一流の剣士だよ。
「あんたが蹴るとは意外だったよ」
「時には剣の効かぬ敵も居るだろう。そういった時には使えるからな」
「流石だねぇ……潰す!!」
脚に力を込め一気に飛び込む。真正面からの突進だ。会話中だったとはいえ不意打ちにならないのは重々承知している。シグナムも俺の行動を見てから振りかぶり、そして高速で降り下ろしてきた。
受け止めるか? いや自分で課したルールに反する。なら白刃取り……論外。素人が出来る技じゃない。こうやって考えているうちにも竹刀は迫ってくる。どうするどうするどう
ーーゴチンッ
「ッ~~~」
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫、痛いだけだ」
結局考えているだけで食らってしまった。情けない。まあ成人と小学生の差だよな。
『本気はこんなものではなかろう。どうした?』
『プライベートじゃん。俺は喧嘩とか殺し合いをしに来たんじゃない。お前達と体を動かしに来たんだ。なのはやフェイト相手じゃこんな事は出来ないからな』
『シャマルから聞いてはいたが、プライベートは本当に自由な奴だな。普段は管理局に協力していないという件も信じてやろう』
『信じてなかったのかよ』
『信じられるか』
シグナムと念話をしていたらヴィータが近付いてきて耳元で囁いた。
「ざまぁみろ(笑)」
「んだとチビ!!」
「はやてー、一条が怒るー」
「要さん、小さい子にカッとなったらあかんで」
「悪いの俺かよ」
傍目から見たら確かに俺が悪く見えるかもしれないけどよ、理由くらい聞いてくれや。全く。
「師範さん、今回は場所を貸して頂いてありがとうございました。シグナム、次は一撃食らわすからな」
「よいよい、また来なさい」
「一撃とは謙虚だな。倒すぐらい言えんのか?」
「それはもう少し成長したらだな。んじゃ、お邪魔しました」
負けた負けた。どうしようもないくらいに綺麗に負けた。でも大切な戦いで負けなけりゃいくら負けても気にする事はない。でも負けっぱなしってのもいいもんじゃないから、力の解放なんてなくても少しずつ追い詰められるようになって、最後は勝ちたいな。
アリサ「最近のペースに比べると早かったわね。どうしたのかしら?」
すずか「それには事情があるんだよ。えっとね」
雨期「本日6月12日は『松井秀喜元プロ野球選手の誕生日』にして『俺の誕生日』です!!」
アリサ・すずか「「帰れ」」
雨期「サーセンwwwww」
アリサ「わざわざ自分の誕生日を言うために更新したの? 馬鹿じゃないの?」
すずか「一応松井秀喜さんの誕生日も言ったわけだけどね。国民栄誉賞なんて凄いよね」
アリサ「私も会社を引き継いだら国民栄誉賞が貰えるくらいに立派になるわ!
すずか「大きいとはいえ一企業の社長が国民栄誉賞を貰えるのかな? ではまた次回」