森か林の景色が見える。これは少なくともこの街、海鳴のどっかだろう。ランニング中に見た記憶がある。どこかは覚えていないが。
『ハァハァ』
何かが走っている。小動物だが、イタチの類のようだ。まるで人間のような息遣いをしながら何かから逃げているようだ。
『助け……』
助け? 救援を求めているのか? だが生憎今は夢の中、夢の…………中? 夢だよな? あの神様のせいで夢か現実か区別が難しくなってきた。これじゃあ精神病じゃないか。
『誰、か……』
景色が遠ざかっていく。どうやら夢で正しかったようだ。しかし変な夢だったな。嫌な事の前兆じゃなければいいが。
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今日も変な夢を見た事以外はいつも通りの日常だった。いや、なのはの様子が少しおかしかったな。バスの中でも昼食中でもそわそわしているというか、悩んでいるというか、とにかくいつもと違ったのは確かだ。
バニングスと月村も気になったからかなのはに度々質問してはいたが、その度になのはは『大丈夫』としか言わなかった。風邪とかの体調不良ではなさそうなんだが、どうしちまったのやら。
今は珍しくなのは達と下校中だ。6年生と3年生が同じ時間に下校するのはあんまりない。
「今日は私とアリサちゃんは塾があるからこっちに行くね」
「なのは、元気出しなさいよ」
「……うん」
『誰か……こちら……に』
「!?」
「ん?」
今聞こえたのはあの夢の声だよな。なんだよ、また夢じゃなかったのか。
「っ!!」
「なのは!? どうしたのよ!?」
突然走り出したなのはに俺達は戸惑ってしまう。普段は運動が苦手で余程の事がない限り走らないというのに。まさかさっきの声はなのはにも聞こえていたのか!? だから今朝からあの声を気にして様子がおかしかったのか!!
「待て待て!! 置いていくな!!」
「なのはちゃんどこ行くの!?」
こっちの制止も聞こうともしない。友人本位ななのはからは有り得ない行動だ。
『こちらです……』
謎の声もどんどんと鮮明に聞こえ始めた。そしてあまり通らないような道に何かが倒れており、なのはそれの前で座った。
「なんだそれ? イタチか?」
「フェ、フェレットよ一条さん。あー、疲れた」
「なのはちゃんはこの子を探してたの?」
「何だか、呼ばれた気がして」
「(実際呼ばれたんだがな)野犬に襲われたのか知らないが傷を負っているな。近くの動物病院に運ぶぞ。バニングスと月村は塾に行った方がいいんじゃないか?」
「もうこんな時間!? すずか、急ぐわよ!!」
「どうなったか明日教えてね!!」
「なのは、俺達は」
「キュー……」
俺がなのはを呼ぼうとした時、フェレットはなんとか立ち上がり、なのはの指を舐めた。これに何の意味があったのかは知らないがフェレットは再び倒れた。
「行くぞ」
「うん、急ごう」
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あのフェレットを動物病院に届けてから帰宅した。動物病院の先生はペットが逃げ出したものだろうと言っていたが、それはない。人に語りかけてくるペットなんて九官鳥だけで十分だ。
「うーん、終わったー」
宿題がやっと終わった。最近の小学生って意外と難しい漢字とか習ってるんだな。算数とか理科も俺が習わなかったようなものまでやっている。こういうのを見ると感心するよ。
「おや? あれはなのは?」
何かがこそこそしているのが窓から見えたのでよく見てみると、それはなのはだった。高町家はおおらかだが門限に関しちゃ結構厳しかった記憶がある。なのはた誰かが嫌がったり困ったりする行為は嫌いなはずなのにどうしたのか。
「嫌な予感しかしねぇ。尾行するか」
俺は自室から出て外へ向かった。
「どうしたんじゃ要」
「! 爺ちゃんか。ちょっとランニングしてくる」
「気を付けてな」
「勿論」
まさか爺ちゃんが庭で盆栽を弄っていたとは。だが爺ちゃんで助かった。これが婆ちゃんだったら出掛けられなかったぞ。
「……どこ行った?」
いかん。早速見失った。心当たりがあるのはフェレットが居る動物病院だが、違う可能性もある。ここは高い場所から見渡してみるのが一番だ。
「20%解放」
俺がそう呟くと力が満ち溢れてくる。これは力を少しだけ使う時の一種の呪文だ。
「いよっと」
夜の闇に紛れて電信柱の天辺までジャンプする。ここなら周りもよく見える。
「発見」
やっぱり動物病院方面か。地上を歩いて行ってもいいが、補導されると尾行的にも家庭的にも面倒だ。このまま電信柱の上を跳び移って行こう。
軽く電信柱を跳び移っていたらなのはより早くついてしまった。そして目の当たりにしたのはフェレットがスライムのようなものに襲われているシーンだった。これが美少女なら一部の層にバカウケなのに。
「なのはのお出ましか」
フェレットとなのはが何か話をしているように見えるな。グダグダしてるとスライムに襲われるぞ。ほら近付いてきてる。
「守るしかないな」
これからどんな展開になるかは分からない。だが目の前の友人を放っておく事は出来ない。
「オラァッ!!」
ーーグシャァッ
「うわぁ……」
上空から飛び蹴りをしたら地面と一緒にスライムも砕け飛んだ。その様子は思ったよりもエグかった。これからRPGでスライムと戦う時はこの様子を何度も思い出しそうだ。
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今朝は変わった夢を見て何だか気分が下がっちゃってた。そのせいでみんなに心配かけちゃった。
下校中に夢の声を聞いて声の方に言ったらフェレットさんを見つけたり、夜にはまたその声に呼ばれて家を抜け出して動物病院に向かったらフェレットさんが変な物体に襲われてたり、フェレットさんに魔法使いになって助けてほしいって言われちゃったりと、今日はとにかく非現実的で混乱するような事ばっかりだけど……
「うわぁ……」
「な、なんで要君が居るの!?」
「貴方は夕方の、ってどうして素手であれが破壊出来るのですか!?
「なのはの質問に答えると尾行したから。フェレットの質問に答えると……秘密だ」
尾行したって当たり前みたいに言われても……!
「要君後ろ!!」
「あん?」
さっき要君の蹴りでバラバラに弾けたはずの黒い物体の一部が後ろから飛び掛かってきていた。でも要君はまるで誰かに呼ばれたように自然に振り返りながら黒い物体を殴り飛ばした。要君は幼馴染みだけど、こんなに強いなんて知らなかった。
「こっちを心配するのはいいが、そっちはやる事はないのか? 守っといてやるから」
「そ、そうだ!! なのはさん、レイジングハートを持って僕に続いて呪文を唱えて下さい!!」
「う、うん!!」
私はフェレットさんから貰った玉を握り締めて呪文を唱える。
「我、使命を受けし者なり」
「わ…我、使命を受けし者なり」
「契約のもと、その力を解き放て」
「契約のもと、その力を解き放て」
「風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に。この手に魔法を」
「風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に。この手に魔法を」
「レイジングハート、セットアップ」
「レイジングハート、セットアップ!!」
呪文を唱えると優しい光に包まれた。これからどうなるのかな?
「バリアジャケットをイメージするんだ!!」
ば、バリアジャケット? 何か分からないけど大切なものなのかな? イメージしやすい服は聖祥の制服かな。
そうやってイメージしてみたら制服みたいな服になった。この杖が貰った玉、レイジングハートが変身した姿なのかな?
「おお、魔法少女だな」
「恥ずかしい事言わないでよ!!」
「改めて感じると凄い魔力だ……」
「んで変身して終わりか? いい加減スライム処理にも飽きたんだが」
「あれはジュエルシードで動いているのでジュエルシードを封印しないと止まりません。なのはさん、封印しましょう」
「でもどうやって? また呪文を教えてくれるの?
「いえ、呪文はなのはさんから自然と出てくるはずです」
「自然と……」
変身の時のバリアジャケットみたいにイメージしやすいのでいいのかな? でも呪文なんて知らないからイメージのしようがない。
「ヤバイぞ。早くしないと誰かに見られるかもしれん。そうなると被害者も出かねんぞ」
「っ!?」
こんな呪文なんかで迷っていられない。これ以上暴れさせない!
「リリカル! マジカル! ジュエルシード 封印!!」
咄嗟に口から出た呪文。でもそれで良かったのかレイジングハートからはピンクの帯が伸びて黒い物体を次々と包んだ。最後に包んだ黒い物体かり綺麗な宝石が出てきてレイジングハートの中へ入っていった。
「終わったんだな? 早く行くぞ。警察とかに見つかるとヤバイ」
「そうだね」
「その前にどこか人気のない場所へ寄れませんか? 巻き込んでしまったのでせめて説明をしたいんです」
「……この時間なら多少遅れたところで怒られるという結果は変わらんか。なのははどうする?」
「聞くよ。私だって関係者だから」
それに私もお説教確定だもん。お父さん達に何て言おう。
「しかし酷い有り様だ。特にこのクレーター」
「「それをやったのは貴方!!」」
要の能力解放についての説明です。
能力解放は1~100%まで可能で、解放すればするほど身体能力と魔力が上がります。100は人の身で出せる力の限界で、それ以上はかなりデメリットが発生するので使えても僅かな時間だけです。
人の身で出せる力の限界と言っても元の肉体もORTを内包した時点でかなり強化されているので、能力解放をしなくても大人に勝てるくらいには強いです。