チートじゃ済まない   作:雨期

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要君が武術を習うよ!


第26話

 俺は基本的に力で戦う。しかしいつまでも力だけでは限界があるのではないか。そう考えた俺は爺ちゃんに本格的に古武術を習おうと思ったわけだ。

 前世では親父が道場をやっていたから息子の俺も多少なりとも基礎は出来てる。そこまで時間は掛からないだろう。

 

「だから俺に武術を教えてよ」

 

「儂ので良いのか?」

 

「どういう事さ」

 

「儂が使える武術よりも優れた技を使える知り合いが居るんじゃが、興味はないか?」

 

 それはかなり興味があるな。爺ちゃんは一般的には達人と言われるほどだし、その武術も効率的な戦いを可能とするものだ。それよりも優れたものを使える人が居るとは会ってみる価値はある。

 

「どうやったら会える?」

 

「儂の名前を出せば良い。旧友の頼みを無下にはせんじゃろ」

 

 

 

 

 

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 というような経緯もあり、俺は白神山地を突き進んでいる。なんでも政府にすら特別に認められている人だとかで、こんな自然遺産の中での生活も許されているらしい。というか先祖代々住んでいた土地で、政府が無理矢理でも追い出すのが不可能だったんだとか。

 

「ふぅ、一休みすっか」

 

 整備されていない山中を歩くのは疲れてしまう。木々の癒し効果で疲労は溜まりにくいからまだマシか。しかし本当にこんな場所に人が住んでいるのだろうか。

 

「子供? 迷子か?」

 

「ッ!?」

 

「おぉっ、元気だな」

 

 落ち葉や枝が散乱するこの土地で、全くの無音で背後を取られた事に驚いて思わず裏拳を叩き込んだ。だがその一撃はまるで鉄板のような腹筋を叩いただけで、背後に立っていた人物にダメージらしいダメージは与えられなかった。

 その時確信した。この無精髭を生やしたおっさんが爺ちゃんの言っていた人だと。ん? でもそれにしては若いな。

 

「鬼島(おにじま)さん、ですね」

 

「僕の事を知っているのかい?」

 

「一条零太の孫の一条要と言います。貴方の事は祖父から伺って」

 

「一条さんのお孫さんか。悪いけどうちの父ちゃんはもう死んだよ」

 

「…………はい?」

 

「僕は鬼島賢一。一条さんが言ってたのは父ちゃんの事だと思うよ。まあ折角来たんだ。寄っていきなよ」

 

 道理で若いわけだ。でもさっきの腹筋。そしてわざわざこんな場所に住んでいるのを考えると、息子であるこの人もしっかりと武術を受け継いでいるようだ。

 

 

 

 

 

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 鬼島さんの家は普通に木の家だった。近くに炭焼き小屋があったり、畑があったりと最低限の暮らしは出来そうだ。あ、発電機もある。こんな場所でも電気は使えるんだ。

 

「ささ、上がってくれ」

 

「お邪魔します」

 

「飲み物はどうする?」

 

「あればコーヒーで」

 

「はいはーい」

 

 楽しそうだな。人と触れ合う機会が殆ど無さそうだからそういうのは嬉しいんだろうか。

 室内を見渡してみると動物の毛皮や角なんかがあったり、自作したと思わしき食器類がある。動物のものは自分で狩ったんだろうな。

 

「お待たせ」

 

「ありがとうございます。早速本題について話させてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「いいよ。でも一条さんが亡くなったとかいうのは止めてくれよ。心臓に悪い」

 

「祖父は今でも祖母に尻に敷かれてますよ。俺が話したい、というよりもお願いしたいのは武術を教わりたいんです」

 

「うん、いいよ」

 

「軽っ!?」

 

 あまりに軽すぎて驚いてしまったぞ。普通こういうのは一子相伝とか、試験を受かったら教えるとかが定番だろ。漫画の読みすぎかな。

 

「僕は子供が5人居るんだけど、全員女の子でね。流石に女の子にこんな事を教えられないし、一条さんのお孫さんなら大丈夫じゃないかと思ったんだ」

 

「はぁ、そうですか」

 

「どれくらい期間に余裕がある?」

 

「帰りのチケットの事を考えると一週間が限度です」

 

「基礎とトレーニング法を教えるには十分だ。早速始めよう。まず君は象形拳を知っているかな?」

 

「人並みには」

 

 象形拳は中国武術の一種で、文字通り動物の動きを模した技を使う武術だ。

 

「これから教えるのは一種の象形拳なんだ。でも模すのは動物じゃない。こういう『モノ』さ」

 

 鬼島さんが懐から取り出したのは折り畳み式の小さなナイフだった。これを模す?

 

「『武装拳』って名前の武術でね。身分が低くて武器を持つ事を許されなかったうちの御先祖様が編み出した武術さ。刃物、鈍器、はたまた銃器まで、あらゆる武器を己の肉体で再現する武術だよ」

 

「銃器て、それは大袈裟では?」

 

「ふふ、これを見てて」

 

ーーバスッ

 

 な、床に穴が……しかも硝煙のような煙まで立っている。どうやったっていうんだ。これが人の技なのか。信じられん。

 

「今のは指で銃弾を模したのさ。さあ時間はないんだ。早くやろうか」

 

「言ったのは自分ですけど、本当に短期間で出来ますか?」

 

「やれるさ。君は一条さんのお孫さんだもん」

 

 爺ちゃんのお陰で信頼されちまってるな。面倒事が少なくて助かる。

 

 

 

 

 

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 いやー、一週間ってのは随分と長かったな。何? 修行風景? 地味だからカットだ。しかしどういう事をしたか軽く説明しよう。

 まずはこの武術拳の基礎を得るため、全身を叩きまくって筋肉を硬くした。そして手足で釘打ちしたり薪割りをしたりと、ぶっちゃけ小学生がやるような事じゃない修行ばっかりだった。よく修得出来たな俺。

 

「もうバッチリ! 基礎は完璧だよ」

 

「ありがとうございます、鬼島さん」

 

「日常でもトレーニングを怠らなければ僕以上になれるよ」

 

「ご冗談を。ではもう時間ですので」

 

「僕も家族に顔を見せないとな。じゃあ元気でね」

 

「鬼島さんも」

 

 俺は鬼島さんと別れて山地を突き進む。行きに比べればかなり楽になったような気がする。修行で体力が付いたからかな。

 

《主、よろしいでしょうか?》

 

「どうしたアリストテレス」

 

《武装拳とやらについてなのですが、これは魔力を使った技術のようです》

 

「何?」

 

 となると鬼島さんは魔導師? いやいや、魔力を感じなかったし、魔法らしいものを使っている様子もなかった。武装拳は一般人から見れば十分魔法だが、やれば分かる。純粋な体術だ。

 

《おそらく無意識なのでしょうが、鬼島様は非常に少ない魔力を一点に集中させる事によって肉体の一部を強化していました。その瞬間の魔力密度は私のデータにあるどの魔導師をも上回ります》

 

「天然の魔導師、って感じか?」

 

《そのような認識でよろしいかと。主はそれなりの魔力を持っていますので、そこまで魔力を集中しなくとも出来たのだと考えます》

 

「なら俺が魔力の集中を覚えたら鬼島さん以上になれるのか。あながち鬼島さんの言っていた事も嘘じゃなかったな」

 

《しかしこれは高度な技術が必要です。正直乱暴な主に出来るかどうか》

 

「デバイスのくせに主人を馬鹿にするな」

 

 原理が分かったならより効率的にトレーニングが出来る。この技術、完全に俺のものとしてやろう。




すずか「要さんが厨二的な武術を覚えました」

アリサ「ちょっと待って。この技ってとある読者様の感想にあった魔力集束打撃じゃないの? 要さんは出来ないって作者言ってたじゃない」

すずか「元々はただの体術の予定だったんだけど、作者が最後の方のシーンを書いてる時にこれ使えんじゃね? と思って追加したそうだよ

アリサ「作者謝罪しろ」

すずか「さあて本日4月26日は『世界知的所有権の日』」

アリサ「知的所有権? 知的財産を保護したりするのかしら」

すずか「そんな感じ、かな? みんなで守ろう知的所有権」

アリサ「よく分からないからって適当に締めるんじゃないわよ。ではまた次回」

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