チートじゃ済まない   作:雨期

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今回はほのぼの予定でしたが、予定を変更してヒロインを決定する回にしました。
あ、誰かコラボしてくれたり、逆にしたかったりしたらいつでも連絡下さいね。こっちから連絡する場合もあるかもしれませんけど。


第24話

 事件というものはいつどこで起こるものか分からない。自転車が側溝に嵌まって転ぶかもしれない。突然コンビニに強盗が押し入ってくるかもしれない。落石に潰されて転生するかもしれない。何故わざわざこんな話をするかって? 簡単な事だ。

 

「ぶち殺されたくなけりゃ騒ぐなよ」

 

 今まさに事件に巻き込まれているからだ。では今どうなっているかとどうしてこうなったかを話すとしよう。

 

 

 

 

 

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 それは俺と三人娘が夏休みの学校へ行った帰りの事だった。うちの学校では夏休みにお楽しみ会みたいのがあってそれに参加したんだがな、これが思いの外楽しくてかなり長い時間学校で過ごしていたわけだ。

 

「暗くなったな。夜道は流石に危ないか?」

 

「お姉ちゃんに連絡してお迎えを頼んだからもうすぐ来ると思うよ」

 

「すずかちゃんありがとう」

 

「手際がいいわね。助かるわ」

 

 帰りはそれぞれ別れちまうからな。全員同じ道なら俺の護衛で終わるんだが、この場合は車が一番安全だろう。ナイスな判断だ。

 

「あ、あの車じゃない?」

 

 黒いリムジンがこちらに向かってくる。お金持ちらしい車だ。別に嫌味を言いたいわけじゃないが、根が貧乏だからそう思っちまうんだろう。しかしすずかが少し首を傾げているのは何故だ?

 

「あんな車うちにあったかな?」

 

「何? じゃあアリサか?」

 

「似た車はありますけど、暗いからよく分かりませんね。お父様が心配してやって来たならいいんですけど」

 

 リムジンが俺達の前に停まると屈強な男が出てきた。あー、こりゃお迎えはお迎えでも違うタイプのお迎えだな。

 

「大人しく車に乗れ。質問は受け付けん」

 

「ひっ、拳銃!?」

 

「ヒュー、本物か?」

 

「質問は受け付けん。言ったはずだ」

 

「へいへい。ただこの質問だけは許してくれ。抵抗しなけりゃ身の保証はしてくれるんだな?」

 

「……リーダー」

 

 男の1人がリムジンに向かってそう言うと、窓から腕が出てきてOKサインを出した。腕から見るに車の外に居る男と違って細身のようだ。

 

「保証しよう」

 

「OK。お前達も変な事すんなよ? 犯されっぞ」

 

「もう要君は嫌な事言わないでよ!!」

 

「乗れ」

 

 ぶっちゃけその気になればこいつらを倒して逃げ出すのは容易だ。でも何かの拍子で三人娘に怪我をさせたら大変な事になる。ここは大人しく従って潰す機会を窺おう。

 

 

 

 

 

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 車の中で大人しくしている分には待遇は悪くなかった。少しなら話す事も許されたし、飲食も大丈夫だった。それだけ重要な存在として扱われているのか。ただ携帯電話は没収されて壊されてしまった。仕方ないな。

 

「降りろ」

 

 到着したようだ。住宅街からは離れた場所にある廃ビルだ。車から降りると漫画でよく見るヤクザの若い衆みたいのが何人か居た。

 

「ふーん、秘密基地のつもりか? 男の子の永遠のロマンの1つだもんな」

 

「そこのガキ」

 

 若い衆の1人が俺の近くに来ると拳銃を頭に突き付けた。

 

「ぶち殺されたくなけりゃ騒ぐなよ」

 

「人質に手を出すのか? 下手したら殺されるのはそっちだろ?」

 

「クソガキ……こっちは月村が居れば」

 

「やめんか」

 

 誘拐の時に俺達に話し掛けてきた屈強な男が若い男の拳銃を片手で包み込んだ。そして手を離すとそこには銃口がグニャグニャになった拳銃があった。とてつもない握力だ。これは感心しちまう。

 

「少年は不明だが、残りはバニングスと不破だ。分かるな?」

 

「チッ、すいやせんした」

 

 不破? なのはの事か? まあその疑問は置いておいて、相手の狙いはすずかだったのが分かったな。こうなると金目的の誘拐と考えるのが妥当だ。

 

「全く君達は落ち着きがありませんね。子供達の手前、大人らしい対応をお願いしますよ」

 

 リーダーと呼ばれた細身の男が車から降りてきた。車の中だと前の席はスモークガラスで遮られていて見えなかったからその全貌がようやく分かった。そしてその姿に誰もが驚きを隠せなかった。確かこいつは1ヶ月ほど前に月村家に雇われた新しい執事だ。

 

「執事、さん」

 

「こんばんはすずか御嬢様、御学友様方」

 

「リーダー自ら潜入していたって事か? たまげたな」

 

「一条様は実に冷静でいらっしゃる。本当に、ムカつくほどに。そういったガキは私大嫌いなのです」

 

ーーパンッ

 

 右腕が熱い。どうやら撃ち抜かれてしまったようだ。弾は貫通しているみたいだから助かる。痛覚は遮断しておこう。

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「撃っ、た……ひぃ、あぁ……」

 

「落ち着けてめぇら! 俺は大丈夫だ!!」

 

「撃たれて平然としていられるとは……ではもう1発」

 

「止めて下さい!! 執事さん、貴方の目的は何ですか!?」

 

「流石はすずか御嬢様、話が早い。抵抗せずに私達に従って下さい。そうすれば御学友様方は無事にお帰りいただきます」

 

「分かりました」

 

「おいすずか、何されるか分からんのだぞ」

 

「心配してくれてありがとうございます。でも、これ以上私のせいで誰かが傷付くのは見たくないんです」

 

「すずか御嬢様は健気ですね。おい、このガキ共を暫く閉じ込めておけ。目的を果たすまでは逃がすなよ」

 

 目的はすずかを捕まえる事ではないと。確かに1ヶ月も前から潜入しておいて何もしていないのはおかしい。ならすずかで何をするつもりだ。すずかでしか不可能な事があるというのか。

 すずかと別れさせられ、俺達は何もない部屋に監禁された。手足には手錠がされている。

 

「要さん、腕は」

 

「大丈夫って言ったろ。もう治った」

 

「嘘!?」

 

「大声を出すな。なのはは落ち着いたか?」

 

「うん。さっきはごめんね」

 

 ま、普通に過ごしてたら人が撃たれるのは見ないからアリサみたいに叫んだり、なのはみたいに言葉すら出ないのが普通だ。むしろ落ち着いていたすずかがおかしいんだ。

 

「なのは、レイジングハートは取られていないな?」

 

「うん、首に掛かってる」

 

「よし。なら俺が手錠を外すからセットアップしてしたっぱ共に魔法をぶっぱなせ。ああ、でもその前にユーノに念話しておいてくれ。俺はすずかを助けてくる」

 

「分かったの」

 

「え、あ、ちょっと、何の話? 私にも分かるように教えて」

 

「俺となのはは魔法使いで誘拐犯を全滅させるって事だ。50%でいいな」

 

 今説明したってより混乱させるだけだからアリサには分からないままでいてもらおうれこれが終わればすずかにも説明する事になりそうだ。

 手錠を引き千切った俺はなのはとアリサの手錠も外してやった。勿論力でな。

 

「えっとアリサちゃん、あんまり驚かないでね。セットアップ」

 

《set up》

 

「えっ、えぇ!? 変身!?」

 

「アリサはなのはから離れるなよ、っとりゃ!」

 

「ひぎゃっ!?」

 

 アリサはなのはに任せて俺は扉を蹴破った。どうやら扉の前に居た見張りも一緒に蹴飛ばしたようだ。都合がいい。このまま抜けさせてもらおう。

 

「待て」

 

「ぬ、てめぇかデカブツ」

 

 あの屈強な男がやってきやがった。だがこいつはおそらく誘拐犯共のリーダーの側近だろう。あのリーダーが居る場所を教えてもらおうとしよう。

 

「デカブツ、握手しようぜ」

 

「何だと?」

 

「力には自慢がありそうだからな。てめぇの得意分野で競ってやるって言っているんだ。有り難く思えよ」

 

「その手、無くなっても後悔するな」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 要さんは無事だろうか。あんな風に振る舞っていたけど、きっと痛いなんてものじゃなかったはず。私のせいで……

 

「さあ御嬢様! 私の計画に付き合ってもらいますよ!」

 

「計画……人を傷付けてまでやりたい事なんですか」

 

「ええ。計画が成功すれば傷付いた人間もすぐに治ります。この不老不死計画が成功すればね」

 

「不老不死なんて存在しません」

 

「そうかもしれません。しかしそれに近付く事は可能です。そのために不老不死と呼ばれた存在達のサンプルが必要です。吸血鬼一族であるすずか御嬢様など適任だと思いませんか?」

 

「どこでそんな情報を。でも私達の一族は貴方の望むような吸血鬼ではありません」

 

 確かに私達は他人から血を吸う事が出来るし、同年代の子より身体能力が高かったりと普通の人間とは違う部分がある。でも決して不老不死なんてものではない。老化もするし怪我を負って死ぬ可能性だってある。

 

「分かっていますとも。ですが御嬢様のような存在はこの地球上にほぼ居ません。使えるものは使いませんと、ねぇ?」

 

「下衆」

 

「化け物に比べたら可愛いものですよ」

 

「っ! 私は化け物じゃない!!」

 

「化け物ですよ。御嬢様は普通の人でない異常な存在でしょう」

 

「違う、私は……」

 

「なかなかに面白い話だったぞ。人を化け物呼ばわりして自分がその化け物になりたがるとはな」

 

「誰だ!」

 

 ドアがゆっくりと開いて声の主が姿を現す。そこには要さんと要さんに引きずられているあの屈強そうな男の人が居た。

 

「これをお返しするぜ」

 

 要さんは屈強そうな男の人を元執事の前に投げ捨てた。彼の右手は何かに潰されたようにグチャグチャの血塗れになっていた。元執事はその様子を見て怪訝そうに眉をひそめた。

 

「大上、お前ガキにやられたのか?」

 

「すみません……リーダー。しか、し」

 

「言い訳は聞きたくないな」

 

ーーパンッ

 

「うっ……」

 

 当たり前のように元執事は男の人の頭を撃ち抜いた。私を使って変な計画を考えていた時から分かっていた事だけど、やっぱりこいつは最低だ。

 

「おいおい、忠実な部下だったんだろ。優しくしてやっても良かったんじゃないか?」

 

「いえ、折角人を越える改造してやったのに子供に負ける程度の失敗作はいりません。しかしどうやってこれを倒したのですかね?」

 

「力で。俺はお前が目指している化け物な上に魔法使いなもんでね」

 

「…………ふ、はは……ははははははっ!! 面白い、本当に面白い。君が化け物なら確かに納得だ。ではその力を見せてもらおうか」

 

ーーパンッ

 

 元執事は一切の躊躇もなく要さんの顔目掛けて発砲した。一度放たれた凶弾は誰にも止められない。さっきのように腕とは違って当たれば即死だ。しかし銃弾は要さんを貫かず、潰れて落ちた。

 

「どうした?」

 

「……は? なぜ……無事?」

 

「いい射撃の腕だな。眼球クリティカルだ」

 

「だったら何故死なない!!」

 

「どうしてだと思う?」

 

「く、来るな!!」

 

 要さんは元執事へゆっくりと近付いていく。元執事は狂ったように銃を乱射するけど当たっても要さんは怪我を負わない。服に穴が開いて潰れた銃弾が散らばらなければ当たったのかも分からないほど自然体だ。

 

「なんなんだ、なんなんだよお前はあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「言ったろ。化け物な上に魔法使い」

 

「うわぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「よく見ろ。これがてめぇの望んだ存在だ」

 

 要さんはもう元執事の目の前だった。弾の無くなった拳銃を撃ち続ける元執事の姿を哀れんだ目で見た要さん元執事の右腕を折り曲げた。

 

「うぎゃあぁぁぁぁぁ!?!?」

 

「お前がどういう事をしようと別に興味はねぇんだ。ただ俺の友人に手を出したのが間違いだったな。生憎と俺は友人の危機を見捨てるほど冷たくはない」

 

「いがああぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!?」

 

「不老不死? 素晴らしいぞ。人類の夢だし、その技術があれば救われる人だって沢山居るだろうさ。でもよ、もうちょっと考えて行動しようぜ」

 

「はひっ、へへ、うへへ……手が、足が……タコになっちゃ、た…………へへ」

 

「あ、狂っちまった。気絶しないように気を付けたのが失敗だったか。すずか、何かされてないか?」

 

「私は、大丈夫ですけど……さっきまでの話、聞いたんですよね?」

 

「お前が吸血鬼だって話か?」

 

「はい」

 

「俺の秘密も知ったんだからおあいこだろ」

 

 そういうわけにはいかないんだけど、何だか言い出しづらい。だってあの話を知ってしまった人には…………うう、どうしよう。

 

「すずかぁ!!! 無事!!?」

 

「お姉ちゃん!? どうして此処が」

 

「恭也が教えてくれたのよ! 今は恭也と士郎さんとノエルが雑魚の殲滅をしているわ。ビルの周りはバニングス家のSPが囲んでる」

 

「ノエルさんの戦いとか超見てぇんだけど」

 

「あら要君も居たのね。まあそんな事よりこれが主犯だったのね」

 

「俺はそんな事かよ……」

 

 意外とメンタルは弱い要さんは置いておいて、お姉ちゃんに何があったのかを説明しないと。秘密を知られちゃった対応なんかもお姉ちゃんは得意だろうし、何より私からは言いにくい。

 

「あのねお姉ちゃん、実は…………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あー、要君は秘密を知っちゃったんだ。死 ぬ が よ い」

 

「お姉ちゃん!!」

 

「冗談よ。それでね要君、月村家の秘密を知った人は一生月村家の監視下に置かせてもらうの」

 

「一生ですか」

 

「そうよ。まあぶっちゃけると結婚しろって事よ」

 

 これだから言いにくかったんだよ。どうしてうちのご先祖様はこんな風習を作っちゃったの。同性の場合はずっと親友で居る程度なのに。

 

「確かにそれは効率的な監視方法ですね」

 

「えっ!?」

 

 なんで要さんは当たり前のように順応しちゃってるの。私を受け入れてくれていると考えれば喜ばしい事なのかもしれないけど。

 

「でもすずかの気持ちを無視は出来ませんよね」

 

「あー、それは大丈夫。私だってすずかや要君の嫌がる事はしないわ」

 

「お姉ちゃん……ちゃんと私の事を」

 

「だから要君、うちに婿入りなさい」

 

 ちゃんと考えてなかったよこの人! 要さんが婿入りすれば解決するとかいう問題じゃないからこれ!!

 

「これはツッコんでほしいのですか?」

 

「そう冷静に訊かれるとお姉さん虚しいな」

 

「分かってて言ってますから」

 

「酷いなぁ」

 

「結局どうするんです? すずかも意見を言ってくれ」

 

「えぇ、私は婚約とかそういうのはまだ早いと思うな。同性の人に知られた時と同じで親友になるっていうのでいいと思う」

 

「要君は優良物件なのに勿体無い。じゃあこうしましょう。今度デートする事でチャラにしてあげるわ。デートしなかったら無理矢理にでも婚約を結ばせるから」

 

 お、横暴だ。でもデートだけで無理に婚約する必要がなくなるなら……

 

「分かったよ」

 

「俺もOKです」

 

「じゃあ日時はこっちで指定するからよろしく! 誘拐でムカついてたけど楽しくなってきたわ!!」

 

 主犯の元執事を引きずりながらお姉ちゃんはスキップして行ってしまった。

 

「すずか……ドンマイ」

 

「要さんも関係者なんですからね」

 

「そうだな」

 

 どこか他人事な雰囲気を醸し出しているけど、これは大変な事だというのを要さんは分かっていないのだろうか。なんだか誘拐された事よりよっぽど疲れそう。

 

「あ、要さんさっき魔法使いとか言ってましたけどあれってどういう事ですか?」

 

「なのはも魔法使いだから一緒になった時に説明する」

 

「……え、なのはちちゃんも?」

 

「ついでに言えばユーノも」

「動物なのに……魔法使い?」

 

 この後、アリサちゃんと一緒に説明されたけど頭がパンクしそうだった。以前妙になのはちゃんが隠し事をしていると思ったらこれの事だったんだ。確かにこれは隠すよね。




すずか「はい、ヒロインに抜擢されました。すずかです」

アリサ「いや、どうしてすずかなのよ。本編だと恋愛感情が一切無いんだけど」

すずか「親友、恋人、婚約者という形で進めてくんだって」

アリサ「そう。とりあえずおめでとう?」

すずか「ありがとう。アリサちゃんも早くあの後書きパートナーが登場するといいね」

アリサ「余計なお世話よ。それで本日4月18日は何の日?」

すずか「今日は『発明の日』。特許法の前身である専売特許条例が発布された日だよ」

アリサ「人類は発明があるから豊かな生活が出来るのよね。感謝感謝」

すずか「苦労した発明で楽が出来る。ちょっと不思議だね」

アリサ「ではまた次回」

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