チートじゃ済まない   作:雨期

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今回はなかなかに長くなりました。


第21話

 転移先では大量の機械兵との戦いが待っていた。ユーノ君のバインドで機械兵の動きを止め、私とクロノ君の攻撃で破壊するのを基本に戦っていく。でも数が多いし道も複雑だからなかなか進んでいる気がしない。

 

「なのは、もう駆け抜けるぞ!」

 

「分かったの!」

 

 次々と湧いてくる機械兵を相手にしていては魔力も体力も無くなっちゃうもんね。あのプレシアさんは物凄い魔導師みたいだから万全の状態で相手をしないとみんなやられちゃう。

 

『みんな聞こえる?』

 

「エイミィ? どうした」

 

『要君達を今飛ばしたよ』

 

「了解した」

 

 要君達って事は要君だけじゃないよね。フェイトちゃんも居るのかな。なんであれ心強い応援の到着だね。

 

「! この魔力は要の……ジュエルシードを壊した時と同じ感じだ」

 

「これが彼の全力か。人間とは思えない。恐ろしいな……」

 

 要君の到着を知らせるように膨大な魔力を感じた。あの時は一瞬だったけど、今は最初から全力みたい。初めて感じたクロノ君は勿論、私とユーノ君も冷や汗が止まらないほどだ。

 

ーーゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

「な、何!? 地震!?」

 

「分からない! だが普通じゃないぞ! 警戒を怠るな!!」

 

 理由は分からないけど突然地面が揺れ始めた。私達が居る場所が崩れたりしないよね。って、なんだか震動と音が近付いてくる気がする。まさか新手の機械兵!?

 

ーーボコッ

 

「おっ、発見」

 

「……要、君は何をしているんだ」

 

「穴を掘っていた。道は複雑そうだったからな」

 

 ええと、つまりさっきの震動と音は要君が建物に穴掘りをしていたから起こったと…………非常識なの。

 

「君以外は誰が居る?」

 

「フェイトとアルフだな。あいつらは道を知っているしさっさと着くだろ」

 

「大事な案内人を放置するな!!」

 

ーーガッ

 

「~~~っ!」

 

 ああ、要君を叩いたクロノ君の方が痛がっている。要君って硬いんだなぁ。素手で穴掘りをしたんだから当たり前かな。

 

「み、見つけた……」

 

「あんたねぇ! 常識的な行動しなよ!!!」

 

「ほら着いた」

 

「ほら着いた、じゃない!!」

 

「フェイトちゃん、協力してくれるんだね」

 

「お母さんを止めないといけないと思ったから。逆にこっちがお願いしたいくらい」

 

「勿論協力するよ!」

 

 えへへ、これまで一時的な協力が多かったし、フェイトちゃんからお願いなんてなかったらなんだか嬉しいな。

 

「んじゃ道案内を頼むぜ」

 

「その前に動力炉を壊した方がいいと思う。二手に分かれよう」

 

「なら俺とアルフが動力炉を破壊しよう」

 

「分かった。アルフ」

 

「やってくるよ。要、しっかり着いてくるんだよ!」

 

「へいへい」

 

 なら私達はプレシアさんのところだね。説得出来るとは思わない。だから最初から戦うつもりでやるよ。自分の子供を否定するなんて絶対に許さない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「それそれそれ! この程度か雑魚共が!!」

 

 動力炉へアルフの案内で向かう。途中に居る雑魚は殴って破壊する。もう少し強度があれば楽しめるのに、これじゃあ運動にもならない。だが手加減はしないと決めたからな。

 

「この扉の先に動力炉があるよ」

 

「おう」

 

ーードゴオォォッ

 

 扉を殴り飛ばした先には無数の雑魚の残骸が……一体誰がこんな事を……

 

「あんた傀儡兵ごと吹き飛ばしたのかい」

 

「そういう事もある」

 

 扉の前に固まっていた奴らが悪い。俺みたいな規格外が来てるんだぞ。所詮は指定された事しか出来ない機械って事だ。

 

「んでこのデカイ機械が動力炉か」

 

「そうだよ。これを壊せば時の庭園の施設や傀儡兵にも大きな影響が出るはず」

 

「成る程、理解した。そういえば道中にいくつか開いてた穴は何だ? 随分深そうだったが」

 

「虚数空間だよ。落ちたら魔法も何も使えないからね」

 

「お前達の拠点だろ。そんなのあると困らないか?」

 

「普段からあるわけないだろ。どうせあのババアがジュエルシードを暴走させてるせいで起こった現象だよ」

 

 落ちたら終わりってのは覚えておこう。でも使えないのはこの世界の魔法の話だよな。例えばあれなら……試す必要がないな。落ちなけりゃいいんだしよ。今は動力炉が優先だ。

 

「ハッ!!」

 

ーーボンッ

 

 俺のパンチ一発で動力炉は爆発した。アルフは何が起こったのか把握しきれていない様子だ。俺のパンチはマッハを超えるとかいうレベルじゃないからな。これで動力炉の破壊は終わった。最後の締めだ。プレシアを叩き潰す。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 プレシアさんのところへ向かう途中、警備システムなどが突然停止を始めた。どうやら要君達が上手くやってくれたみたい。

 

「お母さんはこの道を真っ直ぐ行った先に居る。でもまだ動く警備システムがあるかもしれない。気を付けて行こう」

 

「警戒しても損にはならないもんね」

 

「ああ、油断ならない相手だ。動力炉が破壊される程度は想定しているだろう」

 

 相手は死人を生き返らせるなんて不可能な事を本気でやろうとしているもんね。どんな手を使ってでも私達の邪魔をしてくるはず。

 だけどそんな予想とは裏腹にあっさりとプレシアさんの部屋の前まで辿り着けた。ユーノ君とクロノ君が調べてくれたけど、扉に罠がある様子もない。それどころか鍵すら掛かっていない。

 

「入った瞬間に何かあるかもしれないな」

 

「でも行くしかないよ。入ろう」

 

 扉を開いて中に入ったけど、プレシアさんはまるでこちらを気にしていないようにモニターを眺めていた。でも少しして私達の存在に気付いたようだ。

 

「来ていたの?」

 

「プレシア・テスタロッサ! お前を逮捕する!!」

 

「お仕事御苦労様。でも捕まれないのよ。見逃してあげるから帰りなさい」

 

「そうもいかないの。フェイトちゃんに謝って!!」

 

「高町なのはだったわね。貴女は人形を捨てる時に謝るのかしら。優しいのね」

 

「ふざけ」

 

 私が怒鳴ろうとしたんだけど、フェイトちゃんが無言で止めてきた。これだけ言われたら悔しいけど、あくまでフェイトちゃんの問題だもんね。フェイトちゃんが自分で解決しようとするのを邪魔できない。

 

「お母さん、お話があります」

 

「なら先に言わせてもらうわ。母と呼ぶな」

 

「いいえ、私にとって唯一の母は貴女ですから母と以外は呼べません」

 

「そう、お前のそういうところが大嫌いよ」

 

「構いません。お母さんが私の事をどう思っていたとしても私の気持ちは変わりません。そして貴女を止めます。お母さんにこれ以上罪は重ねてほしくないんです」

 

「勝手な事ね」

 

「人間なんて勝手な生物だろ」

 

「要君!」

 

 プレシアさんとの話し合いの間に要君とアルフさんが間に合ったみたいだ。

 

「やっと来たのね一条要」

 

「ほう、お待ちだった、かぁっ!?」

 

 要君がバインドによってすぐに捕まってしまった。しかも並大抵の強度ではないみたいで要君が大人しく縛られたままだ。そこへ更にガスが流れてきて部屋を充満した。

 

「これは!?」

 

「神経を麻痺させるガスよ。一生動けなくはなるけど死にはしないから」

 

「ど、どうしよう!」

 

「落ち着くんだ。バリアジャケットはそういうものも防ぐ。だが要は」

 

「ユーノ君とアルフさんは?」

 

「僕はこの変身自体バリアジャケットみたいなものだし、使い魔もデバイスはなくてもバリアジャケットは張れるんだ」

 

 ならやっぱり生身の要君だけが危険な状況なんだ。バインドで口も防げないし。それでも要君は平然とプレシアさんへ話し掛けた。

 

「そういえばお前がジュエルシードを集めていた理由は娘を生き返らせるためだけなんだよな?」

 

「問題なく話せるという事はガスが効いていないみたいね。ならバインドから抜け出すのも出来るでしょうに

 

「怠いからやらないだけだ。んで、俺の質問の答えは?」

 

「その通りよ。ジュエルシードだけで生き返らせる事が出来れば楽だったわ。でも出来なかったからアルハザードへ向かう事にしたのよ」

 

「アルハザードってのは?」

 

「全ての魔法が生まれたという幻の世界よ。今では伝説上のものとなっているけれども、存在した証拠はいくらでもあるわ」

 

 地球で言うアトランティスとかそういうものかな。要君がプレシアさんと話をしているのは油断や隙を誘うためと考えていつでも攻撃出来る準備はしておこう。

 

「全ての魔法。その中なら確かに人を生き返らせる魔法もあるかもな。だが行くにしても場所が分かるのか?」

 

「そうでなければやりはしないわ。アルハザードは魔法そのものと言っていい世界。それが無くなる原因は虚数空間に呑み込まれたとしか考えられないわ。だから私は虚数空間へ向かう。魔法が使えなくともロストロギアであるジュエルシードを使えば行ける可能性があるわ

 

「ジュエルシードは魔法の技術だろう?」

 

「しかし解析不能な技術も使われている。私はそれに賭ける。21個全て無いのは残念だけど、時間が無いのよ。アルハザードへ辿り着けた時の事を考えて貴方の魔力も欲しかったのだけど、私の使える限りの手段で操れないのならば無理に連れていく必要もないわ。じゃあそろそろ行くとしましょう。ねぇアリシア」

 

「させな、ぐぁあああっ!!?」

 

 行動を起こそうとしたプレシアさんをクロノ君が攻撃をしたけれど、攻撃はクロノ君へと反射された。そしてプレシアさんの周りにジュエルシードが浮かぶと世界が揺れ始めた。要君が穴掘りをしていた時とは違う。一体何をするつもりなの?

 

「やっと、やっと願いが……」

 

 ! 地面が崩れている!? 確か崩れた先には虚数空間が広がっているはず。さっきプレシアさんが虚数空間へ向かうと言っていたけど、逃げないと私達まで巻き込まれちゃう。

 

「お母さん! お母さん!?!」

 

「フェイト落ちちゃうよ!! 早く逃げるよ!!」

 

「やだ! 離して!!」

 

「そう騒ぐな。俺が連れ戻してやるからよ」

 

「要君、それはまさか」

 

「心配そうな顔するな。俺が死ぬと思っているのか?」

 

「そうじゃないけど……」

 

 ううん。これは嘘だ。いくら要君でもここに落ちたら無事じゃないはず。心配しない方が無理だよ。

 

「帰ってきたら士郎さんにコーヒーをタダで飲ませてくれるように頼んでくれ。桃子さんのシュークリームも欲しいな」

 

「分かったよ……」

 

 きっと要君は止めても聞いてくれない。力づくで止めようにも要君には敵わない。だったら大人しく見送ろう。

 要君はいつもと何も変わらない様子で手を降ってから暗闇へと飛び込んでいった。私達は要君を信じて脱出しよう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 お母さんはもう居ない。脱出しながらそんな事を考えてしまう。お母さんを止める事は考えていたけど、居なくなるのは予想もしていなかった。要は連れ戻すって言っていたけど、要がどんな力を持っていても虚数空間から戻ってくるのは不可能だ。

 私の我が儘で1つの命が無くなってしまった。要の仲間である彼女、高町なのははきっと私を恨むだろう。やっぱり私は生まれてはいけない命だったんだ。死ぬなら私が死ねばよかったんだ。

 

「フェイトちゃん立ち止まったら駄目だよ!」

 

「私は、ここに居る」

 

「何を言うんだ君は! 死ぬかもしれないんだぞ!!」

 

「私のせいで要は死んだ。私が最初から居なければこんな事には」

 

ーーパァン

 

 言葉を紡ごうとしたが、高町なのはのビンタで止められてしまった。その目は凄く怒っていた。そうだよね。怒って当然だ。

 

「フェイトちゃん、居なくなるなんて言ったら駄目。それに要君を勝手に殺すのも駄目なの」

 

「でも、虚数空間に」

 

「死んだ証拠がないの。きっと元気帰ってくるよ」

 

 怒った理由は私が死のうとした事と私が要が死んだと判断したから? どうして彼女はこんなにも要を信じる事が出来るの?

 

「要君は嘘も言うし約束も破る。幼馴染みだからよく知ってるの」

 

「その理屈だと要が帰ってこない可能性もあるんだけど」

 

「うん。でも私の勘だと今回は嘘は言ってないの。帰ってくる気満々だよ」

 

「勘で信用出来るの?」

 

「勘でも信用しないだけマシだよ」

 

 今の言葉で何となく察した。彼女も内心は心配でならないんだ。何かにすがり付きたいから勘なんてものを出してるんだ。私は彼女の心配を煽ってしまっていたのだろう。

 

「…………ごめんなさい」

 

「謝らなくていいよ。謝る暇があるなら脱出しないとね。また変な事をしたら叩くからね」

 

「うん」

 

 要は言っていた。私を疎ましく感じる人も居れば慕う人も居る。彼女が私が死のうとするのに怒る理由は彼女にとって私は死んでほしくないと感じるからなのかもしれない。なら彼女の期待に応えよう。私に出来る些細な感謝の気持ちだ。

 しかし私達が再び脱出をしようと進み始めてすぐに全員が足を止める事態が起こった。

 

「これ、は……一体……?」

 

「世界が、変わった」

 

 突如として時の庭園は消え去り、私達は水晶で出来た渓谷に立たされていた。この世界そのものから異常な力を感じるが、それよりも更に異常な気配が背後からする。ゆっくり、油をさしていないブリキ人形の首のようにゆっくりと振り返ると、そこにはこれまで見た事のない何かが佇んでいた。

 

「ば、化け物……」

 

 アルフがぼそりと呟く。みんなその意見には賛成に違いない。

 そこに居たのは体長4~50mはあるかというほどの存在だった。私の知る存在で近いものを挙げるならば蜘蛛だ。しかしあんなに鉄のような色や光沢はしていないし、円盤のようなものを背負ったりはしていない。私達の知識にはない存在。だから化け物としか言えない。

 

「Giiii」

 

 化け物は低い唸り声を上げて近付いてくる。その姿に恐怖と同時に神々しさや美しさを感じてしまった。まるで芸術品を見たかのような感情だ。きっとこの存在は完成しつくされてしまっているのだ。だからそんな異常な感情を抱いてしまう。

 もう誰も戦う意思をみせない。勝てないというのは分かりきった結果。ならばせめて見逃してもらえるのを祈るだけ。私達にはそれしか出来なかった。次の瞬間までは

 

「Giiii,Gyuaa」『おいおい、固まるなよ』

 

 化け物が唸ると同時に念話が聞こえてきた。少し前まで聞いていた声だ。

 

「要君、なの?」

 

「Gyuiiii」『今戻ってやるよ』

 

 化け物の全身が光に包まれていく。その光が小さくなるに伴い世界も元に戻っていき、光が消えた頃には世界は先程までの時の庭園になり、お母さんと培養槽に入ったアリシアを担いでいる要が居た。

 

「ちゃんと連れ戻してやったぞ」

 

「…………」

 

「何か言う事があるんじゃないか?」

 

「あ……あり、がとう」

 

「よろしい。おっ、崩れ始めたな。脱出だ」

 

 何事もなかったかのように要は走り出した。一条要。彼は何?




今回要君が虚数空間から抜け出した方法ですが、ORTになる事で侵食固有結界の水晶渓谷を発動し、虚数空間ごと時の庭園を呑み込んだという形になります。ちなみにこの水晶渓谷は要君が敵意を向けている相手にしか効果は出ないというご都合主義的な設定です。他に気になる事があれば遠慮なくどうぞ。
では以下はいつもの茶番となります。










アリサ「突然ですが実は私、名字がローウェルだったのです!!」

すずか「アリサちゃん、エイプリルフールには早いよ」

アリサ「ただの練習よ。しかし3月ももうすぐ終わりね。そんな本日3月30日はどんな日?」

すずか「国立競技場落成記念日だよ」

アリサ「おお、国立競技場。それで落成って何?」

すずか「建設が終わる事だね。つまり今日国立競技場が出来たんだよ」

アリサ「東京オリンピックの開閉式も行われた由緒ある場所ね。まさに記念日って感じがするわ」

すずか「次回はエイプリルフールに更新されるといいね」

アリサ「そうね。練習の意味がなくなるわ。ではまた次回」

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