チートじゃ済まない   作:雨期

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まさかプロローグだけで作品お気に入りが30人を超えるとは思わなかったよ。今回からリリカル世界へ突入となりますが、まだ魔法要素はないですよ。


無印
第1話


 リリカルなのはの世界に来て、というか前世の記憶が戻ってから数日。最初は頭も体も混乱して風邪になってしまったが、今は問題ない。しかし本当に夢じゃないとは。

 

「要、ご飯だよ」

 

「分かった。今行く」

 

 改めて現状確認をするか。今の俺は12歳。聖祥大附属小学校とやらに通っている。両親は一昨年他界。今は祖父母に世話になっている。この世界の一条要に憑依したというか記憶を思い出したというか、まあこんな感じか。

 

「昨日の余りだけど我慢してね」

 

「婆ちゃんのご飯は旨いから大丈夫」

 

「要、無理しなくても良いぞ」

 

「爺ちゃん、肉がないからって俺に要求させるのはどうかと思うよ」

 

 祖父母は結構個性的だがかなり好きだ。特に爺ちゃんからは昔の遊びや戦争中の思い出なんかを教えてもらえたし、古武術も習った。

 

「ご馳走さま。じゃあ学校行ってくる」

 

「あ、学校行く前に高町さん家に回覧板を置いてきてくれないかい?」

 

「分かった。行ってきます」

 

 家を出て5分もしないところにある喫茶店『翠屋』。ここが高町さん家だ。この店のシュークリームとコーヒーが絶品なんだ。普段もよく利用させてもらっている。

 

「おはようございます。回覧板を持ってきました」

 

「おはよう要君。回覧板ご苦労様」

 

「おはようございます士郎さん」

 

 この若い男性がオーナーの士郎さん。奥さんの桃子さんもだがとても3人の子供が居る親には見えない。訊いた事はないが、30は超えているだろう。

 

「ついでで悪いけど、なのはを連れていってくれないか?」

 

「構いませんよ」

 

「ありがとう。なのは! 要君が来てるよ!」

 

「はーい」

 

 やってきたのは茶髪のツインテール少女。高町家の次女、高町なのはだ。近所だから昔からそれなりの付き合いがある。そして俺の予想が正しければこの世界の主人公はこいつだろう。なにせリリカルなのはだしな。

 

「眠そうだな」

 

「朝は苦手なの……」

 

 この歳で低血圧なのは大丈夫なのか? まあ寝る子は育つと言うし、これで良いのかもしれない。

 

「さっさとバスに乗って学校に行くぞ」

 

「うん」

 

 俺の妹分とも言えるなのはと、学校行きのバスが止まるバス停へと向かう。バスは既に停車しており、バス内に入ると2人の少女が最後列からこちらへ手を振っていた。

 

「おはよー、アリサちゃん、すずかちゃん」

 

「あんたは相変わらず眠そうね」

 

「おはようなのはちゃん。一条さんもおはようございます」

 

「おはよう、バニングスに月村」

 

 金髪の活発そうな少女がアリサ・バニングス。紫髪の大人しそうな少女が月村すずかだ。どちらもかなりのお嬢様で、初めてこいつらの家にお邪魔した時にはその家の規模に驚かされたもんだ。テレビで観るような豪邸を実際に目の当たりにした衝撃は凄かった。

 

「一条さん、この勉強教えてくれませんか?

 

「算数か。なのはが得意だろ」

 

「ほら、なのはは出来るタイプの人間ですから」

 

「何が分からないかが分からないと。そういうのも難儀だな」

 

「にゃ~……」

 

「別に責めてないから落ち込むな」

 

 教員でも目指さない限りは人に何か教える勉強をする必要もないし、自分が分かっているならそれでいい。俺の持論だがな。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 最初エスカレーター式の学校なんて学業一辺倒かと考えていたんだが、聖祥大附属小学校は俺が思っているほどでもなかった。むしろ児童の自主性を重んじる部分も感じられる。飯なんかも自由な場所で食える。

 

「3人娘は居るか?」

 

「要君、その呼び方は止めてほしいの」

 

「気にすんな。飯食おうぜ」

 

「いいよ。アリサちゃんとすずかちゃんもいいね?」

 

「「勿論」」

 

「んじゃいつもの場所でな」

 

 俺はなのは達より早く屋上へ向かい場所取りをしておく。屋上は人気の昼食スポットだからな。

 

「お待たせー」

 

「待ってないから大丈夫だ」

 

「いつも場所取りありがとうございます」

 

「こんな事で感謝されてもな。んじゃ、いただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

 弁当を開けてみんなで昼飯を食べる。今日のうちの弁当は純和風。芋の煮転がしが旨い。

 

「明日授業で将来について考えるというのがあるんですけど、一条さんはどうしたか覚えてます?」

 

「懐かしいな。どうしたっけか……確か、オリンピック選手か酒屋だったかな?」

 

「オリンピック選手は分かるけど……」

 

「スポーツ万能の一条さんが酒屋?あっ、すずか、ミニハンバーグあげるからミニ春巻頂戴」

 

「うんいいよ」

 

 酒屋は前世が酒好きだったからには違いないが、あの頃の俺はまだ前世の記憶がなかったはずだが、本能だろうか?

 

「将来なんて3人は家業を継ぐのが早いだろ」

 

 この3人は親が立派な会社や店を持っている。それを継げば特に問題ないだろう。ただ本人が進みたい道があるなら話は変わってくる。

 

「うーん、やっぱりそうなるかな?」

 

「ま、将来なんてのは自由に決めろ。親だって強制はしないだろ?」

 

 こいつらの親は寛容だ。あまりにとんでもない、例えば軍隊でもない限り納得するだろうさ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 時間は飛んで下校中、俺は真っ直ぐ家には帰らずに翠屋に寄っていく。週に一度は行う習慣だ。

 

「いらっしゃい。今日はどうするんだい?」

 

「コーヒーをお願いします」

 

「いつも通りのでいいかな?」

 

「はい」

 

 翠屋で俺が毎回頼むのはコーヒー1杯だ。たまにシュークリームや季節のスイーツも頼んだりする。

 

「お待たせ致しました」

 

 来た来た。士郎さんが淹れてくれるこのコーヒーは子供でも飲めるようにするためか苦味が少なく、砂糖やミルクにも合うようになっている。子供のためにそこまでする必要性は感じられないが、そこが士郎さんの良いところだ。

 

「要君来ていたのね」

 

「桃子さん? 何かご用ですか?」

 

「お婆ちゃんから貰った沢庵の御返しをしたいのよ。準備するから少し待っていてくれる?」

 

「コーヒーを飲んでますからゆっくりどうぞ」

 

 婆ちゃんの漬物は旨い。これは絶対言い切れる。

 

「あの沢庵か……旨かった」

 

「士郎さん、口が開きっぱなしですよ」

 

 気持ちは分からんでもないが、イケメンが台無しだぞ士郎さん。

 

「お待たせ。これシュークリームの詰め合わせよ」

 

「ワオッ! ありがとうございます!!」

 

 なかなか買えないシュークリームをまさか詰め合わせで貰えるなんて。これは嬉しい。正直貰っていいのかと思うレベルの品物だが、善意を無下にしてはいけないと婆ちゃんから教わっている。

 

「ふぅ、ご馳走さまでした」

 

「お粗末様。また来てくれ」

 

「勿論ですよ」

 

 御返しを手にのんびりと家路に着く。こんな日常にいつか魔法少女が入ってくるのか。俺は必然的に巻き込まれるだろう。それまでは日常を謳歌しよう。それくらいは許されるはず。




せっかくですから要君の設定を簡単に紹介しておきましょう。

一条要(12)
143cm 38kg
特技:運動全般
好物:翠屋のコーヒー、前世は酒
能力:ORT

これだけです。うちの要君は常に俺の気紛れで設定が追加されます。何か疑問がありましたら気軽に質問どうぞ。

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