「いい加減にしなさいよ!!」
おおっ!? いつも通りなのは達を昼飯に誘いに来たらアリサが怒鳴っている声が聞こえた。あいつがここまでキレるのは初めてかもしれないな。
ちょっと教室を覗くとなのはに対してアリサが怒鳴っている姿が見えた。なのはが何かをしていたのだろうか。
「あ、一条さん。なのはちゃん達を呼びに来たんですか?」
「お、おう。しかし何だあれ」
「高町さんが何かを隠しているとかで、バニングスさん達がそれに怒ったようです」
「あー、成る程」
魔法、いやフェイトとやらの話だな。絶対話せる事ではないが、このままだと三人娘の関係が大変な事になるな。ここは年長者としてフォローしてやろう。
「アリサ、すずか、飯にしようぜ」
「一条さん……今はそんな気分じゃ」
「こまけぇ事はいいんだよ。行くぞ」
「あの、なのはちゃんは?」
「今は独りにしておけ」
話し合う中で喧嘩相手が居たらめんどくさい。なのはのフォローは後でやればいいから今は悩ませておこう。
さて、屋上まで連れてきたはいいが、物凄い空気が重い。話しにくいからもうちょっと明るくしてくれれば助かるんだがな。
「一条さん…………」
「何だ?」
「なのはが何を隠しているかは知っていますか?」
「知ってるぞ。すずかも知りたいか?」
「当然ですよ。私だってなのはちゃんの親友ですから」
「そうか。でも無理だ。教えられない」
「何でよ!?」
余程興奮したのだろうな。俺に掴みかかってきた。普段年上は敬うアリサがここまでするのは正直予想外だった。
「アリサちゃん落ち着いて!!」
「っ! すみません」
「別に気にする事はない。ま、教えられない理由なんだが、お前達に教えても意味がないからだ」
「意味がないって」
「言葉通りだ。どうしても言えない事、どうしても自分でやらなきゃいけない事、お前達にもあったんじゃないか?」
「……………………」
「でも、あんなに悩んでるなら力になりたいじゃないですか…………」
「なのはの事をそこまで思っているなら我慢しろ。無理に悩みを聞き出すのは相談にならないぞ」
「……はい」
納得してもらえたならそれで十分だ。アリサやすずかがなのはを心から心配しているのはよく分かった。だが今回はその心配をぐっと堪えてもらわないといけないのが心苦しいな。
「あの、他にも訊きたいのですけど」
「答えられるものなら」
「一条さんはどうしてなのはちゃんの悩みを知っているんですか?」
「……わり、それもいつか話すって事で許してくれ」
「なんだかズルいです」
「はは、確かにズルいな。唐揚げやるから見逃してくれ」
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「って事があったんだぞ。全て終わったらあいつらに説明しろよ」
「でも魔法なんてどう言えば」
「魔法は言わなくても何とかなる。説明しなきゃなんないのはお前がフェイトとぶつかって悩んでいた事だ。これだけなら魔法を言わなくても済むだろ」
「うん……ごめんね要君」
「謝るなら唐揚げくれ」
「なんで唐揚げ?」
下校してからなのはを家に呼んでしっかりと話をした。こいつもめんどくさい奴だよ。しっかりと自分から話せば俺が仲介する必要だってなかったのに。
「なのはちゃーん、お夕飯はどうする?」
「あ、結構です。うちで食べます。じゃあ要君、もう帰るね」
「ああ。すぐにとは言わないが、全てが終わった頃にはしっかり説明してやれよ」
「うん」
なのはを見送って飯にする。今日のおかずは肉じゃがのようだ。当然のように旨い夕飯を完食して部屋で読書をするなクラスメイトから借りたものだが、あんまり受け付けないな。俺の肌には合わなかったか。
『要君!! ジュエルシードが見つかったよ!!』
『えっ、マジか』
あ、本当だ。魔力感じる。肌に合わないとか言っておきながら本に集中していたようだな。もうなのは達は向かっているだろうから早く向かわないとな。
ーーーーーーーーーーーー
出遅れてしまったようだ。既になのはとフェイトの戦闘が始まっていた。いつでもやれるように解放準備だけはしておかないとな。
「あ、あんたは!? 来やがったのかい!!」
「よう犬耳。元気そうで何より」
「ふざけんじゃないよ!!」
おうおう、牙剥き出して威嚇してきやがって。確かにのき重傷にはしたが、生きてるんだから許してくれよ。とりあえず今は放っておいてユーノと話すか。
「どうだ? なのははいけそうか?」
「どうだろう。以前より戦えているけど……ただジュエルシードが心配かな。全く封印処理をしていないからいつ暴走してもおかしくないよ」
「……馬鹿かあいつら」
危ないものを放置して戦うんじゃねぇよ。まあ旅館付近で戦わせた時も封印していない状態だったからな。
「そういえば魔法って使うと空気中に魔力が放出されるんじゃなかったか? それがジュエルシードに取り込まれる可能性は?」
「…………あるね」
「ヤバイだろ!! 止めるぞ!!」
旅館の時とは違って今はまともに戦えている。つまりその分魔力放出は多い。どうなるか分からんぞ。
「あんた何するつもりだい!? 邪魔はさせないよ!!」
「また死にかけたいか?」
「そ、そんな脅し効くもんか!!」
「いいぜ。なら」
ーーゴオォッ
あぁ、遅かったか。ジュエルシードからこれまで感じた事のない程の魔力が迸る。なのはとフェイトも戦闘を止めて封印に取り掛かるが、膨大な力の前に2人は吹き飛ばされた。デバイスも耐えきれなかったのか所々崩れてしまっている。
「ユーノ、あれを破壊する」
「えっ」
「100%解放!!!!」
その場に居た全員がジュエルシードではなく俺を見る。当然だ。今の俺からは暴走中のジュエルシードをいくつ併せても足りない程の魔力を放出しているのだから。
これが現在使える俺の限界。やってやろうか。
「フッ!!!!」
ーーパンッ
俺の一連の行動が見えた奴はいただろうか。俺はジュエルシードの前に一瞬で移動し、ジュエルシードを平手で挟んで押し潰したのだ。壊れたジュエルシードは中に収まっていた魔力も全て吐き出したが、それは俺の手の中で抑え込んだ。そして残ったのはジュエルシードだった粉。ユーノは悪いが、これしか方法が思い浮かばなかったんだ。
「あ…………あ…………」
! 俺の力に当てられたかなのはの呼吸がおかしい。即座に力を停止しないと。
「封印」
これで良し。なのはも落ち着いて気を失っているようだ。100%は周りにまで被害が出るのかよ。勘弁してくれ。
「ユーノ、ジュエルシード壊して悪かったな」
「……………………」
「ユーノ?」
「あ……い、いいんだ別に」
「そうか。フェイト達は?」
「さ、さあ?」
もう逃げたか? 逃げたなら逃げたでいい。なのはを起こして帰ろう。
ーーーーーーーーーーーー
フェイトとアルフはとある人の元へ急いでいた。魔法で帰還すると長い廊下を走り抜け、大きな扉を開けた。そして部屋で椅子に座っている女性、フェイトの母であるプレシアに話しかけた。
「何かしら? ジュエルシードが全て集まった?」
「どうしても、観てもらいたいものがあります。恐ろしい存在を発見しました」
「そんなものを見つけている暇があるならジュエルシードを見つけなさい!!」
プレシアは鞭を使いフェイトを叩く。それでもフェイトは揺るがず、主のためなら命すら投げ捨てるようなアルフも動かない。流石に奇妙だとプレシアも感じた。
「……一応観てあげない事もないわ」
「ありがとうございます。バルディッシュ」
《yes sir》
バルディッシュが映し出した映像にプレシアは目を疑った。子供が人間ではあり得ない速度で移動し、ジュエルシードを素手で粉砕したのだ。しかも映像はスローだというのに残像すらも残らない速さだ。
「これは、人間?」
「はい。しかもデバイスすら持っていません。しかし力は自在に制御出来ているようです」
「そう…………映像データを渡して下がりなさい」
「はい」
フェイトとアルフが居なくなった後、プレシアは映像をあらゆる側面から解析した。しかしどう解析しようが、人間離れ、いや生物離れしているとしか結論は出なかった。
「こいつ、何者?」
あのような動きをすれば肉体は一瞬にして崩壊する。瞬時に再生する存在。不老不死ならばもしかしたら可能かもしれないが……
「………………」
もし不老不死だとすれば自分の目的の足掛かりになるかもしれない。プレシアは映像を眺め、独りほくそ笑んだ。
なのは「きいてレイジングハート
ちょっと言いにくいんだけど
きいてレイジングハート
友達と険悪な仲になったの」
レイハ《本当の友達ならちゃんと仲直り出来ますよ》
なのは「きいてくれてありがと、レイジングハート」