そのポケモンの世界で俺は   作:puc119

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第7話

 

 

 アレからコツを掴んだってわけではないと思うが、面白いようにポケモンを捕まえられるようになった。相変わらずトキワの森には虫ポケモンしか出ないが、それでももう4匹も捕まえ、手持ちのポケモンの数も5匹となった。順調順調。

 

 とは言え、どうにも虫ポケモンを育てる気にはなれず、レベルを上げることはしていない。それに先程捕まえた、コクーンとトランセルとか言うポケモンなんて“かたくなる”とか言う技しか覚えていないせいで、育てることができない。コイツらは何がしたいんだ。

 せめて“たいあたり”くらい覚えていてくれれば良かったんだがなぁ。

 そんなわけで、ポケモンの数は増えたものの、実質使っているポケモンはハラマキの一匹のみ。まぁ、ハラマキはすごく強いし問題ないんだけど。

 

 しっかし、ポケモンって意外と種類が少ないんだな。それにイモムシや蛹みたいなポケモンしか出ない。イモムシや蛹がいるのなら蝶や蛾みたいなポケモンがいても良いと思うんだが……

 

「おーい! 君はポケモンを持っているな? それなら勝負だ!」

 

 さてさて、もう捕まえていないポケモンもいないだろうし、このトキワの森も出るとしようか。なんて思っていると、そんな元気な声をかけられた。

 声の主の方を向くと、其処には麦わら帽子を被り、手には虫アミと虫カゴ。そして短パンにタンクトップと言う、現在じゃ絶滅危惧種となってしまった典型的な虫取り少年が此方へ近づいてきた。此処までテンプレ的な見た目はすごいな。コスプレと言っても良いくらいだ。

 

 しかし、いきなり勝負を仕掛けてくるとは……グリーンと言い、この絶滅危惧種の少年と言い、この世界ではこれが当たり前なのだろうか?

 

「いけっ! ビードル!」

 

 そう言って少年はレベル6のビードルを出してきた。

 あら、随分と弱いんだな。そして使うポケモンはやっぱり虫ポケモンか。

 

 

「焼き払えハラマキ」

 

 

 負ける要素は何もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、負けたぁ。やっぱりキャタピーじゃダメか……」

 

 キャタピー自体も弱いだろうけれど、そもそもレベルが低すぎるだろ。レベル6って……グリーンとか言う良いブリーダーを知っているんだが、紹介しようか?

 

 少年はビードルとキャタピーを出してきたが、ハラマキのひのこで一掃。ハラマキ強いよ、ハラマキ。あと、戦うポケモンが弱いせいか、最近はなかなか上がらなかったハラマキだけど、キャタピーを倒したところで、レベルが上がった。体感でしかないが、野生のポケモンと戦うより、トレーナーのポケモンと戦った方が得られる経験値はやはり多いと思う。

 

 そして、少年とのバトルが終わり、賞金として60円をもらった直後だった。

 突然、ハラマキの体から光が溢れ出した。

 

 えっ? え、なにこれ。どうなってんだ? ハラマキに何かあったらすごく困るのだが。ポ、ポケモンセンターへ行った方が良いのか?

 

 突然の出来事だったせいで、頭は混乱。どしたものかと、ワタワタしていると光が一気に強くなり、ハラマキが見えなくなった。

 ヤバいヤバい、何が起こっているのか分からんが、とにかくヤバそうだ。

 

 そして、漸く光が収まりハラマキの姿が見えてきたわけだが――

 

 

「えと……ハ、ハラマキだよな?」

 

 

 なんか凛々しくなりました。

 

 どうなっているんだ? 背丈は倍ほどにもなり、つぶらだった瞳はなんだか凶暴になっているし、頭からは角なんか生えちゃってる。変わる前は可愛い見た目だったのに、今じゃその可愛らしさがかなり減ってしまった。誰だお前。

 

「おおー! スゲー。君のポケモン進化したんだね!」

 

 先程戦った少年がそんな声を出した。

 

「進化?」

「そんなことも知らないのかよー。ポケモンの中には進化する奴がいるんだぜ。俺のビードルやキャタピーも、コクーンやトランセルに進化するんだ」

 

 それは初耳だ。

 なんとポケモンは進化するのか。キャタピーみたいなイモムシが蛹となるのはまだわかるが、ハラマキのような蜥蜴がいきなり姿の変わると言うのは違和感すごいな。生物が果てしないような時間をかけてきたものを、ポケモンは一瞬でやってしまうのか。

 まるで生命の神秘って奴を垣間見たような気分だ。

 

「……ふむ。どうにもまだ慣れないが、お前はハラマキって事で良いんだな?」

 

 俺がそうやってハラマキに尋ねると、ハラマキはコクリと頷いてから、元気な声をあげた。

 戸惑いは大きいし、可愛らしさは減ってしまったけれど、それ以上に頼もしくなってくれた。それはきっと悪いことじゃあないはずだ。これからもよろしくな、ハラマキ。

 

 

 ハラマキが進化したのだし、種族なんかも変わったんじゃないかと思い、ポケモン図鑑って奴を初めて起動させてみた。

 そこでわかったのだが、現在捕まえたポケモンの数は6。見つけたポケモンの数は9らしい。う~ん、これは順調……なのか? そして、捕まえた数が5ではなく6となっていると言うことは、ポケモンは進化することで、違う種族となるってことっぽい。

 ハラマキはヒトカゲと言うポケモンだったが、今は進化して“リザード”と言うポケモンとなった。リザードって……もう少し捻った名前をつけてやることはできなかったのだろうか?

 

 そんなことでハラマキはリザードとなったわけだが、ハラマキはハラマキなのだし、呼び方を変えるつもりはない。どんなに姿が変わろうが、このままでいくつもりだ。

 

 さてさて、少し立ち止まってしまったが、また進み始めようか。少なくとも、トキワの森くらいは出られるように。

 

 因みに、先程戦った虫取り少年と再戦してみようとしたが、見事に断られた。相手からは勝手に勝負を仕掛けて来るくせに、此方から勝負を仕掛けることはできならしい。そう考えると、グリーンはやっぱり良い奴だと思う。アレだけ連続で戦ってくれる奴はなかなかいない。

 そんなこの世界に、愚痴の一つでも落としたいところではあったが、どうにかソレを飲み込み、ひたすらにトキワの森を進んでみる。

 

 そんな時だった。

 俺はポケモンのことは全くと言って良いほど知らない。けれども、ソイツの名前と顔だけは知っていた。つまり、ソイツはそれほどに有名なポケモンってこと。

 

 先端が黒い黄色の大きな耳。雷を彷彿させる根元が茶色で黄色の尻尾。その顔にはオレンジ色のぷっくらと膨らんだ頬袋のようなものがある。全身は黄色。レベルは3。

 

 ソイツの名前は――

 

 

「……あれ? ピカチュウってこんなデブだったっけ?」

 

 

 たぶんピカチュウだと思う。てか、ピカチュウって文字が出ているからピカチュウなんだろうけれど、俺が知っているピカチュウと比べるとどうにも太ましい。誰だこのデブ。

 まぁ、でもこっちの方が可愛いかも。此処は何がなんでも捕まえたいところだ。

 

 ふむ……しかし、どうしようか、とりあえずハラマキを出したが、ハラマキが攻撃したら絶対に倒しちゃうよなぁ……ハラマキって手加減できないし。

 まぁ、それでもとりあえずはモンスターボールを投げてみよう。

 

 そんなわけで、モンスターボールを投げることに。空中でピカッと光ったモンスターボールはピカチュウを吸い込み、地面へ。そして3回揺れてから……ああ、ダメだ。また出てきた。

 なるほど、失敗するとこうなるのか。

 

 捕獲に失敗したピカチュウは“でんきショック”とか言う技をハラマキへ放ってきた。

 おおー! すごい! めっちゃビリビリしてる。

 

 うむうむ。これは何がなんでも捕まえたいな。

 

 どうするか少し考え、ビードルに戦わせてみることにした。ビードルの攻撃ならピカチュウを一発で倒すことはないだろうし。

 ピカチュウが可愛らしい“なきごえ”を響かせている間に、ハラマキをモンスターボールへ戻し、ビードルを代わりに出す、頼んだぞビードル。多分もう活躍する機会はないだろうから、お前の全てを懸けて頑張ってくれ。

 

 ビードルのレベルは5。覚えている技は“どくばり”と“いとをはく”のみ。糸を吐かせたところで仕様が無いため、技は“どくばり”を選択。これでピカチュウを倒してしまったら、笑うに笑えないな。

 祈るような気持ちでビードルの攻撃を見守っていたが、そんな俺の心配を余所に、ビードルの攻撃ではピカチュウのHPを半分も減らすことができなかった。

 

 う~ん、やはりビードルは強くないのか。それともハラマキが強すぎるだけなんかねぇ? まぁ、とりあえず上手くいったんだ。今はそれだけで良しとしよう。

 ビードルの弱さには少々ガッカリしたものの、ビードルの攻撃を受けたピカチュウの様子がおかしいことに気づいた。なんか体から、紫色の泡のようなものが発生している。ん~……よくわからんが、ピカチュウの能力だろうか?

 ああ、なんだ。HPバーの横に“毒”って出てるじゃないか。なるほど、ビードルの攻撃で毒状態になったのか。

 

 そんな状態のピカチュウはもう一度“なきごえ”をしてきた。聞いていて癒されるな。

 その後、毒の影響かピカチュウのHPが少し減ったらしく、HPバーは短くなった。そしてビードルでもう一度攻撃。ピカチュウのHPはもう半分を切っている。

 うむ、これならいけそうだ。

 

 ビードルにピカチュウのでんきショックが直撃するのを見届けてから、2回目のモンスターボールをピカチュウへ向かって投げた。

 

 ピカチュウを包み込み地面へ落ちたモンスターボールは、また3回揺れ――カチっと心地良い音を出した。

 っしゃ! ピカチュウゲット。

 

 ピカチュウは虫ポケモンとは違い、ちゃんと育てるためニックネームはつけることに。

 

 ニックネームはコイツと出会った瞬間から決まっていた。

 

 “デブチュウ”にしよう。

 

 ピカチュウの名前を残しつつ、外見の特徴も表す良い名前だ。

 よろしくなデブチュウ。俺がお前を立派なポケモンにしてやるからな。

 

 

 よしよし、ハラマキは進化したし、ピカチュウも捕まえることができた。これはかなり順調なんじゃないか? 勢いそのままにどんどん進んでいこうじゃないか。

 

 そんなウキウキ気分でトキワの森を進んでいたが、途中で『ピーカーッ!』なんてまるで断末魔のような叫び声が聞こえた。

 

 確認してみたところ、デブチュウが力尽きていた。

 なるほど、毒状態だとこうなるのか。

 

 相変わらず分からないことだらけの世界だよ。

 

 

 


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