そのポケモンの世界で俺は   作:puc119

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第42話

 

 

 タマムシシティを目指し、サイクリングロードまで来たのは良いものの、眼前に広がるのはやめてほしいレベルの坂道。まいったね、こりゃあ……

 サイクリングロードと呼ぶくらいなのだし、なんかこう、爽快な感じで自転車をこいで進めるものだとばかり思っていたが、これじゃあ爽快も何もあったもんじゃない。そりゃあまぁ、タマムシシティ側からなら爽快なのだろうけれど、ここまでの坂道とか普通に危ない。走っている途中でブレーキが壊れようものなら大事故につながる。

 せめて原動機付自転車でもあればまだ良いが、売っているのは見たことがないし、どうせ今の俺の年齢じゃあ免許だって取得できないだろう。

 パソコンのシステムだとかモンスターボールだとか、文明レベルの高さはすごいと思うが、こと交通関係についてこの世界は弱すぎると思うんだ。

 

 はぁ……とはいえ、他に進む道もなくいくら文句を垂れ流したところで現状が変わるわけでもない。

 

「しゃーない……進むとしようか」

 

 んなわけで、えっちらおっちら坂道を登っていくわけだが、やはりスピードは出ない。体感的に歩く速度とほぼ同じくらいだ。じゃあもう自転車なんて使わず歩いて行こうかと思い自転車を降りようとすると例のごとくオーキドボイスが聞こえてきて降ろさせてくれない。

 オーキドボイスなんてハイテクな機能を付ける前に、せめて変速機能くらいはつけてもらいたかった。この自転車100万円もするんだけどなぁ……

 

 坂道を自転車で上るのなんて、もうそれこそ数十年ぶりくらいになるよぁ、なんてことを考えつつこの長い長い上り坂をゆっくりゆっくり上っていく。今の季節が夏かどうかはわからん。

 

 本当であれば景色なんかも楽しみつつ進みたいところではあるが、そんな余裕はない。この世界に来てこんな必死になったのは初めてかもしれない。そんな状況だというのに――

 

「ひょひょー! 少し遊んでやるぜ!」

 

 大型二輪に乗っているお兄ちゃんからなんか声をかけられた。

 サイクリングロードは大型バイクで走るものじゃないと思うんだが……てか、その大きなバイクでどうやってあの関所を抜けたのだろうか。

 

 おやじ狩りとかだったら怖いなぁ、とか思ったりもしたが始まったのはいつも通りポケモンバトル。見た目怖いお兄ちゃんがポケモンバトルをしている姿はなかなかにほほえましい。

 

「アカヘル、叩き潰せ」

 

 だからといって容赦はしないが。

 さてさて、経験値経験値。

 

「下り坂を一気に降りると気持ちいいぜ!」

 

 ああ、うん。事故には気をつけてな。

 バトルには問題なく勝利。

 

 そのバトル中、試しにと思いアカヘルが覚えたばかりの『なみのり』を使わせてみた。正直なところ、技名が技名だしあまり期待していなかったのだが、この技が予想以上に強い。

 

 この『なみのり』はどこから出してくるのかわからん大波を使い相手を飲み込むような攻撃だ。『ハイドロポンプ』のようにすっごい強そう! って感じではないもののこの技ならまず相手に当たらないということもないだろうし、15回も使用することができる。これなら『ハイドロポンプ』よりもずっと使いやすい。『ハイドロポンプ』も嫌いではないが、よく外れるし明後日の方向へ飛んでいく高圧水流を見るとなんだか切なくなる。あと、関係ない人を巻き込みそうで普通に危ない。

 

 ……この世界の人々がポケモンを悪いことに利用しないでいてくれて良かったと心から思う。別にそんなつもりは全くないが、俺のポケモンたちくらいの実力でもやろうと思えばひとつの町くらいなら破壊できるだろう。ニビシティとか強いポケモンを持っているトレーナーも少なそうだし……

 悪の代名詞的なポジションであるロケット団ですら今のところそういった行動を起こしてはいない。うーむ、ポケモンがそういうことをしないってことなのかねぇ。それなら有り難いのだが。

 

 どうかこの色のある世界ではつまらない争いごとなど起こらないことをひたすらに願っているよ。

 

 

 大型二輪に乗った怖いお兄ちゃんとのバトルも終え、上り坂を進む旅を再開。さてさてこのサイクリングロードではどんな出会いが待っているのだろう。なんてことを考えていたのだが……出会うトレーナーはでっかいバイクに乗ったお兄ちゃんやスキンヘッドのお兄ちゃんのような怖い見た目のやつらばかり。なんだこれは。俺の知っているサイクリングロードはこういう場所じゃなかったと思うんだけどなぁ……

 他人がどんな格好をしていようが別にいろいろ言うつもりも資格もないような人間だが、コイツ口が悪いから苦手なんだ。おっさんは傷つきやすいのだし、もう少し優しい言葉を落としてもらいたい。

 

 そんななんとも物騒なサイクリングロードであったが、ようやっとゴールが見えてきた。ゴール直前ではまた大量の怖いお兄ちゃんたちがたむろしていたが、ハラマキが蹴散らして終了。なんだかんだで10人くらいのお兄ちゃんと戦うことになった気がする……

 そんなお兄ちゃんたちとのバトルでの収穫は『マタドガス』『ベトベトン』『ゴーリキー』『オコリザル』との出会い。たぶんだが、どのポケモンも進化した後のポケモンだと思う。『マタドガス』は『ドガース』が進化したもの見たいな感じ。

 

 また、ビリリダマを出してきたお兄ちゃんが――

 

『このビリリダマを無人発電所で捕ったぜえ!』

 

 なんてことを言っていた。

 これまで無人発電所なんて場所は聞いたことがない。ただ、そこへ行けば少なくともビリリダマを捕まえることができる。ビリリダマなら岩山トンネルの近くで既に捕まえているが、無人発電所とは何とも気になる響きだ。おそらくデブチュウやビリリダマのような電気タイプのポケモンが多く生息しているのだろう。是非ともいつか訪れてみたいものだ。

 

 そんなことがあったりもしたが、長い長い上り坂であったサイクリングロードもようやっとゴールに。流石にここをもう一度上ったりするのは遠慮したいかな。

 サイクリングロードの終わり(始まりとも言えるか)にはセキチクシティ側のように2階建ての関所があり、その2階へ寄ってみると見た目俺よりもまだ幼い男の子と女の子が1組いた。別に話しかけたわけでもないが、その男の子曰く、これから女の子とデートするらしい。それもサイクリングロードで。

 悪いこと言わんからサイクリングロードでデートはやめておいた方が良いと思うぞ……怖いお兄ちゃんだらけだし、幼い子供には危なすぎるくらいの坂道だし……いやまぁ、うん、君たちの仲が悪くならないことは祈っておこう。

 

 幼すぎるカップルの未来は心配であったが、まぁもうなるようにしかならんと考え、サイクリングロードを後に。

 そして関所を抜け、タマムシシティを目指すと――

 

「あー……そうか。お前がいたんだったか」

 

 長い上り坂と怖いお兄ちゃん達のせいですっかり忘れていたが、目の前には気持ちよさそうにグーグーと寝ている1匹のポケモンの姿。

 実はもう退いてくれているんじゃないかとも期待していたんだが……やはりダメだったか。こりゃあ、アレだよなぁ、やっぱり俺がやらなきゃダメってことだよなぁ……

 ポケモン図鑑曰くコイツは1日で400 kgの食事が必要なはずだが、コイツの食事はどうしていたのだろうか。まぁ、考えたところでわからないんだけどさ。

 

 ……さってと、やるとしますか。

 ため息を落としつつバッグからポケモンの笛を取り出し、相も変わらず残念の笛の音を響かせる。音楽というにはあまりにも稚拙な音が流れたところで目の前で寝ていたポケモン――カビゴンが起き上がった。

 

「気持ちよさそうに寝ていたとこごめんな。……悪いけど退いてもらうぞ」

 

 ハラマキ、頼んだ。

 

 前回の対戦時はかなり苦労した相手であったが、こちらのレベルも上がったためか、ハラマキの『きりさく』2回でカビゴンに勝利。カビゴンというポケモンはもしかしたらものすごく珍しいポケモンなのかもしれないが、俺にはメタボンがいることだし、捕まえることはやめておいた。もったいなかったかもしれんが、いたずらに多くのポケモンを捕まえたってしゃーないしな。

 バトルに負けたカビゴンはのそのそと起き上がってから何処かへ消えていった。

 

 カビゴンを退かすことに成功したところで大きくひと伸び。アイツが退いてくれたことでこの道路も使いやすくなるだろう。別に良いことをしたとは思わないが、これでひとりでも助かったって思ってもらえれば嬉しいよ。……なんてな。

 

 カビゴンが退いてくれたことでもう久しぶりとさえ感じてしまうタマムシシティへ到着。

 大きなショッピングモールがあったり、スロットゲームを楽しめたりと面白い街ではあると思うが、今はどちらの気分でもない。

 じゃあ、どうするかって話だが、ヤマブキシティへと通じる関所にいる警備員が喉乾いた、なんて言っていることを思い出した。んで、俺のバッグの中にはタマムシデパートの屋上にいた女の子のために買った『おいしいみず』がひとつ余っている。

 この飲み物を渡したところで関所を通ることができるようになるとは思っていないが、他にやることもないし喉が渇いたままにさせておくのも可哀想だ。あまり考えないようにしているが、どうせ俺が渡さないとあの警備員も喉が渇いたままだろうし……

 んじゃ、待たせておくのも可哀想だし、早く行ってやるとしましょうか。

 

 

 

「……え? その飲み物僕にくれるの? サンキュー! ……ゴクゴク……ゴクゴク……ヤマブキシティに行くなら………………通っていいよ。ジュースを向こうのゲートの警備員にも分けてあげよう……」

 

 ……ヤマブキシティへ行けるようになった。

 流石にあの『おいしいみず』だけで通れるようになるとは思っていなかったからかなり驚いている。良いのか? 良いのかなぁ……

 そもそもとして何故ヤマブキシティへの通行が禁止になっていたのかは不明だが、何かしらの理由はあったはず。そうだというのに……まぁ、ヤマブキシティへ行けるようになったのだし、良しとしようか。

 

 そんなわけでついにヤマブキシティへ中へ。

 山吹なんて名前なのだし、さぞピカピカで目に優しくない感じの町なのだろう、なんてことを考えていたが、町並みはオレンジ色を主体とし、派手っぽさはあのるもののそこまでうるさい見た目ではなかった。

 タマムシシティも都会って感じだったが、このヤマブキシティもそのタマムシシティに負けないくらいの都会っぽさがある。

 

 人の多い都会という場所はそれほど好きではなかったが、不思議とこのポケモンの世界ではそういうことを感じなかった。どちらかというとワクワクしてくるくらいだ。元の世界にいた時じゃ考えられんことなんだけどさ。

 

 ヤマブキシティはそんなワクワクの広がる街ではあった。そんな街ではあったんだが……

 

「いや、なんでこの町はこんなロケット団が多いんだよ」

 

 ワクワクだけで終わるような街ではなさそうだ。

 

 






サイクリングロードで自転車から降りられませんが、釣りはできたりします
そんなこんなでヤマブキシティ着
グリーンさんシルフカンパニー内ではよろしくお願いしますね


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