釣り親父弟と名乗る男性から“すごいつりざお”とやらをもらえたため、早速使ってみることに。
この世界へ来る前は、釣りなんぞ全くやったことがなかったが、クチバシティでもらったボロのつりざおは何度も使った。だから、釣りのやり方くらいは分かる。まぁ、結局あの釣竿ではコイキングしか釣れなかったんだけどさ。
あの時は50回ほど釣り上げ、その全てがコイキングだった。しかし、今回は違う。ボロのつりざおではなく、“すごいつりざお”なのだから。
何がすごいのか全く分からんが、すごいって名前についているのだし、きっとすごいのだろう。繰り返しになるが、何がすごいかは知らん。何かがすごいんだ。
とりあえず釣り親父弟の家の傍にある海へすごいつりざおの糸を垂らしてみた。ボロのつりざおがそうだったが、エサはいらないらしい。こうやって糸を垂らすだけで、ほぼ入れ食いと言っても良いくらい釣れる。元の世界の釣りはこんな簡単じゃないだろう。まぁ、其処に文句は何もない。
釣り糸を垂らして直ぐ、釣竿が強く引かれる感覚がした。どうやら早速何かが食いついてくれたらしい。
コイキングじゃなければ良いが……なんて考えながら釣竿を上げると、レベル5のメノクラゲだった。サント・アンヌ号で見た覚えはあるが、コイツはまだ捕まえたことのないポケモン。
「頼んだ、デブチュウ」
メタボンとの戦いで残りのHPは心もとないが、流石にレベル5の相手に負けることはないはず。
デブチュウには“でんじは”をしてもらい、メノクラゲを麻痺させてから、直ぐにモンスターボールを投げた。HPを減らしていなかったが、レベルが低かったおかげかそれでメノクラゲをゲット。
ふむ……どうやらボロのつりざおと違い、“すごいつりざお”はコイキング以外のポケモンを釣ることができそうだ。
水タイプっぽいポケモンはアカヘルがいるため育てることはしないが、オーキドの爺さんのため、色々と釣って図鑑を埋めてみるとしよう。
しっかし、この世界の海にはポケモンしかいないのだろうか。まぁ、食事を必要としない体質なのだし、それほど問題はなさそうだが。
それからも、それなりの時間釣り糸を垂らし続けてみた。
結果は、最初に釣り上げたメノクラゲの他に、トサキント、クラブ、コイキングなんかのポケモンを釣ることに成功。まだ捕まえたことのないポケモンも多いため、かなり満足のいく結果だ。
それにしてもアレだ。釣り、面白いわ。
ポコポコ釣れてくれるためストレスはないし、新しいポケモンと出会えるのが有り難い。そして、そうなると違う場所でも釣りをしたくなってくる。釣りでどれだけのポケモンを捕まられるのか知らんが、きっとまだ俺が出会ったことのないポケモンだっているはず。
釣竿一本を手にしただけで、まるで世界が広がったように思える。そんなことが面白いって思ってしまうんだ。
ふむ、それじゃあちょいと戻って色々な場所で釣ってみるとしようか。
とりあえず向かったのは、カビゴンを起こしたことで通れるようになった11番道路だった。ボロのつりざおではコイキングしか釣れなかったが、さて、此処はどうだろうか。
強そうでカッコイイポケモンとか釣ってみてぇなぁ。なんて考えながら暫くの間釣り。そして、それなりの時間釣ってみたが、釣り上げたのはクラブとシェルダーの2種類のみ。
そんな少々残念な結果ではあったものの、シェルダーを捕まえられたのは美味しい。
その後、ポケモンセンターでデブチュウたちを回復させてから、クチバシティでも釣りを試してみた。しかし、釣れるのは11ばん道路と同じポケモン。まぁ、11番道路の海とも繋がっているし、それもそうか。もう少し離れないとダメってことだろう。
しかし、此処以外に海なんてあっただろうか? 川ならハナダシティやあのイワヤマトンネルの入口近くに流れていたはず。ただ、川にポケモンがいるのかは分からない。まぁ、試すだけ試してみようか。
今度はクチバシティの北、6番道路で試してみることに。今までは海で釣ってきたが、今回は川……と言うか池だ。それもあまり大きくない池。此処にポケモンがいるのかは知らんが、もしいるとしたら今までとは違うポケモンなはず。期待しているぞ。
クラブとシェルダーが釣れた。
えと……ここ淡水、だよな?
いや、そりゃあ淡水でも海水でも生きることのできる生物はいるが、なんだかそう言うことじゃない気がする。
この世界の生物学者は色々と苦労していそうだ。そもそもポケモンってなんだよって話になるが……まぁ、俺が考えたって分かることじゃあない。今は釣りを楽しむとしよう。
また謎は増えてしまったが、淡水でもポケモンを釣ることができると言うのは大きな情報だ。それにどうやら、小さな池でもポケモンは釣れるらしい。
小さな池でもポケモンを釣ることができると言うと……ちょいと試してみたい場所があった。それはもう悪ふざけに近いものだが、気になったのだから試してみよう。
せっかくこの世界へ来たのだから、自分の気持ちを大切にしたいんだ。
やると決めたら即行動。そんなこと昔の俺じゃ絶対にやらなかっただろうが、今ばかりは気怠さよりも好奇心が優ってくれる。
この世界へ来て俺も変わり始めているってことなんかね?
6番道路を抜け、ヤマブキシティを通り、7番道路を越え、タマムシシティへ。其処に俺が試してみたい場所があった。其処はスロットのある店の直ぐ西。丁度、タマムシシティの真ん中くらいだろうか。
其処には明らかに人工物と思われる小さな小さな池。さて、此処はどうなんだろうな? てか、此処で釣りをしても怒られないだろうか。そして、先程から対岸にいる老人が俺を見ているが、この池はあの老人のモノだったりするのかね?
まぁ、ダメなようなら流石に止めてくれるか。
対岸の老人は気になるが、できるだけ気にせず釣りをしてみよう。
バッグからすごいつりざおを取り出し、糸を垂らす。さてさて、此処はどうなのやら。
……釣れてしまった。
しかも、ニョロゾと言うまだ俺が捕まえていないポケモンを。対岸にいる老人の視線が痛い。
いや、これはどうするか。流石に此処じゃ釣れないだろ。なんて思っていたのに、まさかこんなことになるとは思わなかった。しかもこのニョロゾ、どう考えてもあの老人のポケモンだよなぁ……
コイツを捕まえることなんてできないし、倒すのも申し訳ない。それに、そんなことしたら対岸の老人が泳いで此方へ渡って来そうだ。そんなもの下手なホラー映画よりよっぽど怖い。
だから“にげる”を選択した。
キャッチアンドリリース。釣れただけでも十分楽しめたのだし、良しとしよう。
もう少しばかりあの池で釣りを続けても良かったが、老人の視線が無視できないほどだったため、其処は諦めることに。ただ、収穫が全くなかったわけでもない。これは俺の予想でしかないが、ポケモンって水と多少の広ささえあれば、何処でも釣れたりするんじゃないだろうか。少なくともその生命力はかなり強そうだ。
さて、さてさて。まだまだ釣りを続けていたいが、試すのは次で最後にしようか。
海では釣れた。川でも釣れた。民家の池でも釣れた。そして、最後にあともう一種類だけ試してみたい場所がある。
そんじゃ、行くとしようか。
自分で感じた疑問を自分の手で解決していくこの感じはやはり悪くない。ホント、こんなことを感じるのって何年ぶりだろうな?
「あら、レッドじゃない。久しぶりねって、どうして釣竿なんて持ってるのよ……」
タマムシシティから移動し、ハナダシティまで戻ってきた。僅かに香る塩素臭はやはり懐かしい気持ちにさせてくれる。
最後に試してみたいと思ったのは、そのハナダシティのジムにあるプールだ。正直なところ、試すってよりもほぼおふざけだったりするが。
「何って、釣りをしに来たんだよ」
「……色々なトレーナーがこのジムへ訪れたけど、釣りをしに来たトレーナーは初めてよ」
そして、ジムの中へ入ると直ぐにジムリーダーであるカスミが声をかけてきた。そんなカスミは俺の言葉を受け呆れ顔だ。
釣竿持ってプールに来るとかどんな奴だよ。俺のことか。そうか。
「此処ってさ、ポケモン釣れるか?」
「さぁ? 少なくとも私は試したことないわ」
いや、試すとか試してないとかそう言うレベルの話じゃないと思うんだが……泳いでいればポケモンがいるかどうかくらい分かりそうだし。
「んじゃあ、試してみるわ。ああ、釣りしても大丈夫か?」
「ええ、別に大丈夫よ。私もどんなポケモンが釣れるか知りたいし」
……良いんだ。ジムの中で釣りしても良いんだ。いや、文句は何もないけどさ。
相変わらず価値観と言うか、考え方が合わないものだ。この世界へ来てから俺の中の常識はかなり危うくなってきている。
色々と思うところはあるが、ジムリーダーから許可をもらったため、早速試してみることに。
なんで俺、プールで釣りをしているんだろうか。プールで釣れるわけないだろうが。なんて思わなくもなかったが、もうアレだ。勢いだとかそう言うものに身を任せごり押すことにした。
そして、暫くの間釣り糸を垂らしていたが、なかなか当たりがこない。ふむ、此処でポケモンを釣ることはできないのか。
いや、普通に考えて釣れるわけがないんだけどさ。
プールじゃ釣れないことも分かったし、それじゃまた旅へ戻るとしようか。
なんて思った時だった。
ぐいっと釣竿が何かに強く引かれた。
……嘘だろ。
「あっ、レッド引いてる! 引いてるわよ!」
い、いや、それは分かってるんだが……えっ? 何? ここプールだろ? しかも屋内だよ? そんな場所でポケモンが釣れて良いのか?
頭は混乱。何が起きているのか分からない。いや、じゃあそんなこと初めから試すなよ。って話だが、ちょいと遊び心に揺さぶられてやりたくなってしまったのだ。
流石にプールじゃあ無理だったか。なんてクスリ笑える思い出にする予定が、なんだか面倒なことになってきた。
混乱した頭のまま、全力で釣竿を引き上げた。
釣り上げたのはレベル15のコダックだった。
「へー、私のジムにコダックなんていたんだ」
何処か的の外れたカスミの言葉が遠くの方で聞こえた。
ああ、その……なんだ。釣りって面白いな。