そのポケモンの世界で俺は   作:puc119

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第35話

 

 

 バトル中だと言うのに、グーグーと寝始めてしまったカビゴンとか言うポケモン。なんなんだコイツ。今までそれなりの種類のポケモンと戦ってきたが、バトル中に寝られるのは初めてだ。慣れないことされても、おっさんは上手く処理できないのだから勘弁してほしい。

 

 はぁ、寝てしまったのだから仕方無い。バッグからポケモンの笛を取り出しまた吹くことに。

 

 そして、ポヒョーポヒョーと力の抜けるような音が響くと寝ていたカビゴンは起きてくれた。しかし、でんきショックで少しだけ減らしたはずの体力は回復してしまっているし、麻痺状態だって治っている。なんで寝ただけでこんなに回復してるんだよ。

 さらに、カビゴンの“ずつき”がデブチュウへ直撃。カビゴンのレベルは30でデブチュウは40超え。そうだと言うのに、たった一発でデブチュウのHPの半分以上を持っていかれてしまった。

 

 やばいやばい。またデブチュウが瀕死になる。いやしかし、このカビゴンとか言う奴、なかなか強いぞ。確かにデブチュウは強くない。それでも、このダメージは予想外だ。そして、起きたばかりだと言うのにカビゴンったら随分攻撃的なのね。

 仕方無い。デブチュウに頑張ってもらおうと思っていたが、流石にこれは厳しいだろう。

 

「戻れデブチュウ。頼んだぞ、ハラマキ」

 

 カビゴンがどの程度の強さかはわからんが、流石にハラマキなら大丈夫なはず。いつも頼りにしているぞ。デブチュウは少しの間、休んでいてくれ。

 

 ハラマキを出したターン、カビゴンはまたド忘れとか言うよく分からん技を使ってきた。ホント、あの技にはどんな意味があるのだろうか。

 さて、此処からが問題だ。現在、ハラマキのレベルは45。ポケモンを捕まえるとき、できるだけ弱らせる必要があるわけだが……このカビゴン、ハラマキの“きりさく”を耐えてくれるだろうか。タマムシシティの西に伸びている道路にもカビゴンはいたため、このカビゴンは捕まえなくても良いが、できれば今回で捕まえておきたい。もしかしたらあっちのカビゴン、どっか行っちまうかもしれないし。

 

 ま、倒してしまったらその時はその時か。

 

「ハラマキ、倒しきらない程度の強さで切り裂け」

 

 そう言えば、最近ハラマキを使ってあげていなかったな。デブチュウのレベルも追いついてきたことだし、またハラマキのレベル上げをするとしようか。それでカッコイイ炎技を覚えてくれれば本当に嬉しい。炎のポケモンなのに“きりさく”しかしないのは寂しいもんな。

 そして、ハラマキの“きりさく”だが、一発でカビゴンのHP75%ほどを持っていった。丁度良いダメージ量。流石はハラマキ。本当に頼りになる。

 

 よっし、これであとは捕まえるだけだ。

 なんて思っていたが、カビゴンがまた寝始めた。もちろん、これでカビゴンのHPは全回復。

 

 ……なんだろうか、内側から溢れ出すこの感情は。寝る度に吹きたくもない、下手くそな笛を吹かなきゃならん俺の気持ちも考えてくれ。

 

 文句を言っていても仕様が無い。頑張るとしよう。

 

 そして、長い戦いが始まった。

 

 

 

 この戦いが長くなることは分かっていたため、まずハラマキには“なきごえ”をさせまくり、カビゴンの攻撃力を限界まで落とすことに。キズぐすりなどの回復アイテムはたくさん持っているが、やっておいて損はないはず。

 カビゴンのHPが少ない、かつハラマキのHPに余裕があるときは積極的にスーパーボールを投げた。まぁ、全然捕まらないが。

 そもそも、このカビゴンが寝すぎるんだ。そして寝ると減っていたHPは全て回復し、俺もまた笛を吹かなきゃいけなくなる。デブチュウあたりに隣でずっと笛を吹いててもらえば良かったかもしれない。

 

 そんなことをしていたものだから、その戦いは本当に長くなってしまった。

 そして、10個目のスーパーボールでも捕まらず、またカビゴンがグーグー寝始めやがったときのこと。

 

 

「ああ、もう! 本当に面倒くさい。いけ、ハラマキ寝てようが関係ない。切り裂け!」

 

 

 ポケモンってのはトレーナーの奴だろうが、野性の奴だろうが関係なく皆紳士的で、背後から集団で襲ったりもしないし、命令してもトレーナーを狙ったりはしない。また、命令した時もカビゴンみたいに道路で寝ているポケモンへ攻撃をすることはなかった。

 

 そうだと言うのに、その時は寝ているカビゴンに向かってハラマキが攻撃した。

 

 一瞬、混乱。だって、今までこんなことはなかったのだから。俺がどんなにグリーンへ直接攻撃させようとしても、このハラマキはしなかったし、ポケモンの笛で叩き起こす前のカビゴンにも攻撃しなかった。しかも、ハラマキの顔を見ても、あの申し訳なさそうな顔じゃない。今もバトルに集中していますと言った感じ。

 どう言うことだ? 一度バトルが始まれば寝ていようが何をしていようが、攻撃してくれるってことだろうか。

 

 う~ん……考えても分からん。それに、寝ていても攻撃できると言うのはかなり有り難い情報だ。これから役立つ場面があるのかは分からんが、少なくとも今ばかりは役に立つ。

 さらに――ああ、攻撃できたのだし、もしかして、モンスターボールを投げても反応してくれたりするのか? なんてそんな考えが浮かんだ。

 ハラマキの攻撃を受けても未だ起きる気配のないカビゴン。まぁ、ダメ元でやるだけやってみるとしようか。

 

 バッグから取り出したスーパーボールを、カビゴンへ向かって投げつけてみることに。

 すると、空中でスーパーボールが光り、カビゴンを飲み込んだ。そして、数回ほど揺れてから――カチっと言う心地よい音。

 

 ……マジか。捕まえられるとは本当に思っていなかった。

 この世界にも慣れてきたと思っていたが、やはり俺の知らないことはまだまだありそうだ。新しいことに挑戦するのは苦手だが……何と言うか悪い気分じゃない。昔の俺にもそんな時があったんかねぇ。

 

 そして、捕まえたカビゴンはパソコンへ送られずそのまま手持ちへ。名前は……うむ、“メタボン”にしよう。中性脂肪とかすごそうだし。

 このメタボンを育てるかどうかはまだ分からない。それでも、コイツの強さは分かっているし、例え戦闘中に寝始めようが笛を吹いて叩き起こせば良い。それに進化したらカッコイイポケモンとなってくれる可能性もある。それは楽しみだ。

 これからよろしくなメタボン。

 

 しっかし、どうしてハラマキは攻撃してくれたんだろうな? ハラマキの性格が悪くなったのは考えられん。見ろ、このつぶらな瞳。確かに人相はちょっと悪いかもしれんが、コイツは誰よりも優しい性格なんだ。そんなハラマキが寝ているメタボンに攻撃した理由は分からない。

 ふむ……これは色々と調べなければいけないことがありそうだ。

 

 とりあえず、これで俺は先へ進みセキチクシティへ行けるようになった。きっと新しいポケモンとの出会いだってあるだろうし、止まらず歩いて行こうか。

 

 

 メタボンとの戦いで疲弊してしまったデブチュウの代わりにクリボーを先頭にして、早速出発。シオンタウンのポケモンセンターへ戻っても良かったが、危なくなったら戻れば良い。それに、アカヘルも元気だし、まず大丈夫だろう。

 そして、少し歩くと電気グループとか言う……えと、なんて言えば良いんだろうか。あー……まぁ、なんだかよく分からん奴がバトルを仕掛けてきた。此処、12番道路のトレーナーの使うポケモンのレベルはそれほど高くないし、余裕だろうと思っていたが、その電気グループが出してきたポケモンのレベル29となかなか高い。

 

 ただ、相手はその名前から電気タイプのポケモンだろう。此方はそんな電気タイプに相性抜群のクリボー。

 俺がクリボーを出した瞬間に何かを察したのか、自信満々だった相手の顔は歪んだ。まぁ、アレだ。人生長いのだしそう言う時もあるさ。

 

 因みにバトルの内容もまた酷いもので、まずビリリダマだがクリボーの“あなをほる”で一発。効果は抜群だった。次に出してきたのはマルマインと言う、ビリリダマによく似たポケモン。多分、ビリリダマが進化したポケモンなんじゃないだろうか。

 ただ、そのマルマインのレベルも29。もしマルマインがビリリダマの進化したポケモンだと言うなら、どうして最初に出してきたビリリダマは進化していなかったのやら……

 

 そして、そのマルマインは、クリボーが“あなをほる”で地面へ潜っている間に自爆した。

 

 いや、俺が言えたことじゃないが、もうちょっとこう……ねぇ?

 

 そんな色々と可哀想な奴だった電気グループだが、ソイツのいた直ぐ側には一件の家。

 周りには他の家もなく、どうしてこの家だけ此処にあるのやら。例え御近所付き合いが苦手だとしてもこれはやりすぎだ。とは言え、とりあえずお邪魔することに。この世界に来てから、知らない人の家へ入ることに抵抗がなくなってきてしまっている気がする。

 

「やぁ、よく来たな少年! わしは釣り親父の弟じゃ!」

 

 イスへ座っていた男性がそう言った。

 釣り親父と言えば……ああ、そうだ。クチバシティでコイキングしか釣れない釣竿をくれた人か。確か、あっちは兄とか言っていたと思う。

 因みにあの釣竿はパソコンの中で大事に保存してある。多分、もう使うことはないだろう。

 

「わしは本当に釣りが好きなんだが……君は釣りが好きかね?」

 

 目を輝かせながら聞いてくる男性。きっと心の底から釣りが好きなんだろうな。俺にはそう言うモノがなかったから少し羨ましいよ。

 ふむ……好きか嫌いかで言うと“好き”になるかな。ただ、またコイキングしか釣れない釣竿をもらってもなぁ……

 

「いいえ」

 

 だから、とりあえずそう答えてみた。

 

「なんじゃ……がっかりだ」

 

 輝いていた目が戻ってしまった。なんだか申し訳なくなる。

 

 釣り親父弟の家を出て、もう一度家の中へ。

 

「やぁ! よく来たな少年! わしは釣り親父の弟じゃ! わしは本当に釣りが好きなんだが……君は釣りが好きかね?」

 

 ……この人、大丈夫だろうか。なんとなくこうなるって分かっていたが色々と心配になってくる。

 

「はい」

「そうか! 君とは気が合いそうだ」

 

 マジか。多分だが、そんなに合わないと思うぞ。

 

「そんな君にはこれをあげよう! その釣竿を使って君も釣りまくるんだ!」

 

 そして、クチバシティにいた釣り親父兄の時のように釣竿をもらってしまった。一度、釣りが好きじゃないと答えてしまったせいで非常に申し訳なくなる。

 

「お、おう、ありがとう。大事に使わせてもらうよ」

「それは“すごいつりざお”だ。釣りこそ男のロマン! 海でも川でも、その釣竿を使ってくれい!」

 

 へー、これは“すごいつりざお”と言うのか。兄の方からもらった釣竿は確か“ボロのつりざお”と言う名前だったはず。

 

 ……ふむ、ちょいと釣りでもしてみるか。

 

 

 


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