そのポケモンの世界で俺は   作:puc119

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第2話

 

 

 爺さんに連れられ、研究所へ。

 昔っから、研究所みたいなお堅い施設は苦手だった。此処の研究所がどんなことをやっているのかは知らんが、俺みたいに学のない人間には、到底理解のできないことをやっているのだろう。

 研究所ってのは、そんな排他的な感を出すものだから好きになれそうになかった。

 

 そんな研究所の中はそれになりに広く、入って直ぐ研究員だと思われる人間と大量の本が収まっている本棚が目に入る。研究所らしいと言えば研究所らしいけれど……実験卓みたいな物はないんだな。いったいどうやって研究を進めているのやら。

 

「おっ、やっと来たか。待ちくたびれたぜ爺さん」

 

 そしてそんな言葉が響いた。

 声の主の方を見ると其処にはレッドと同い年くらいの少年が一人。流石に研究員ではなさそうだが、誰だろうか?

 

「グリーンか? おお、そうか。そう言えば、わしが呼んだんじゃったな」

 

 悲しいことだが、どうやらオーキド博士の痴呆は始まっているらしい。この研究所の未来が心配だ。

 そして、ふむ。この少年はグリーンと言うのか。すごい名前だな……いや、俺の名前もどうかとは思うけどさ。グリーンと言えば、隣の家に書いてあった名前だよなぁ。

 

「さて、レッドよ。其処に3匹のポケモンがおるじゃろう?」

 

 3匹のポケモン? いや、何処にも見当たらないんだが……ああ、もしかして、その机の上にある丸っこいやつのことか? 俺がイメージしていたポケモンとはかけ離れるけれど、そうなのかもしれない。

 

「ほっほ! そのモンスターボールの中へ入れてあるんじゃ」

 

 また知らない単語が出てきた。たぶん、モンスターボールってのがその丸っこい奴のことだと思う。

 この中にポケモンがねぇ……なんだ、ポケモンってそんなに小さいものだったのか。結構、大きいイメージだったんだけどなぁ。

 

「わしも昔はポケモントレーナーとして腕を鳴らしたもんじゃ。今はもう3匹しか残っておらんが……そのうち1匹をお前さんにやろう」

 

 あら、博士ったら太っ腹なのね。もらえるのなら有り難くいただこう。これで俺もあの草むらの先へ進むことができる。

 

「あっ! ずるいぞ、爺さん。俺もほしい」

「まー、慌てるなグリーン。お前もレッドの後に好きなポケモンを選ばせてやる」

 

 ふむ。そう言うことか。それなら先に選ばせてもらおう。

 とは言え、本当にポケモンなんて知らないから、どれを選べば良いのか全く分からない。これから長い付き合いになりそうだし、できるだけ頼りになるポケモンの方が嬉しい。

 

 とりあえず、机に近づいてモンスターボールを手に取ってみた。

 

「ふむ。植物ポケモンのフシギダネにするんじゃな? ソイツは育てやすいポケモンじゃよ」

 

 なるほど、姿はわからんがコイツはフシギダネって言うのか。

 ただ……あまり強そうではないな。だって植物って……ねぇ?

 

 フシギダネは机に戻し、次にポケモンを手に取ってみる。

 

「コイツは?」

「水ポケモンのゼニガメじゃな。育てがいのあるポケモンじゃよ」

 

 どうやら亀らしい。亀かぁ。小さなころ、亀を育てたこともあるし、亀には思い出もあるのだけど……まぁ、最後の一匹を見てから決めようか。

 

 ゼニガメも机に置き、最後の一匹へ手を伸ばす。

 

「それは炎ポケモンのヒトカゲじゃな。じっくり育てると良いぞ」

 

 炎ポケモン! なんと、そんなポケモンもいるのか。

 決めた。コイツにしよう。炎とか絶対強い。弱いわけがない。それに、俺の名前的にも炎ってのは合っている気がする。これが運命の出会いってやつなのだろう。

 

「ふむ。ヒトカゲにするんじゃな。ニックネームをつけられるが、どうする?」

 

 ……ニックネームねぇ。できればピッタリな奴をつけてやりたいが、残念なことにそう言うセンスはない。

 炎ポケモンでヒトカゲ……姿を見てみないと分からないが、名前の由来は火蜥蜴ってところだろう。火蜥蜴、つまり蜥蜴。蜥蜴と言えば……リザードか。ただ、リザードじゃそのまま過ぎる。

 

 そうだな……コイツには強くなってもらい、できれば親玉的存在になれば良いと思う。

 よしっ、決めたぞ。トカゲの親玉。リザードのドン。

 

 つまり、こいつの名前は――

 

 

「リザードn「それはやめておけ」

 

 

 せっかく考えた名前を爺さんに止められた。何がいけなかったのか、さっぱりわからない。結構良い名前だと思うんだが。

 

「じゃあ、ハラマキにするわ」

 

 暖かそうな良い名前だ。人間に付ける名前ではないけれど、ポケモンならこれくらいが丁度良い気がする。

 よろしくなハラマキ。俺はただのおっさんでしかないけれど、一緒に頑張っていこう。

 

「よしっ、俺はコイツにするぜ」

 

 そして、グリーンはゼニガメを選んだらしい。まぁ、俺だってフシギダネとゼニガメならゼニガメを選ぶだろう。

 

「へへー、俺のポケモンの方が強そうだな」

 

 なんて、グリーンの言葉。

 いや、どう見ても俺のハラマキの方が強そうだろ。だって炎だぞ。炎。少なくとも、亀なんかよりは強そうだ。

 本当はグリーンだって俺のポケモンを選びたかったのだろう。つまり、負け惜しみと言ったところか。

 

 さて、ポケモンも手に入ったことだし、これで漸く先へ進めることができる。何を目指せば良いのかまだ分からないが、おっさんの冒険はまだ始まったばかりだ。

 

「ちょっと待てよ。レッド」

 

 爺さんに礼を言い、研究所の外へ出ようとした時、グリーンに呼び止められた。

 なんだよ。残念だがポケモンの交換ならしないぞ?

 

「せっかくポケモンをもらったんだ。ちょっと勝負しようぜ」

 

 勝負? ああ、そう言えば、あの真っ白な世界で爺さんが言っていたっけかな。ポケモンを使って戦ったりとか。

 この世界のことはよくわからない。ただ、もしこの世界がゲームの世界だとしたら、きっとポケモンってのはそう言うゲームなんだろう。争いごとは苦手なんだがなぁ。

 

 そして、俺の意見なんか全く聞かずに、勝負が始まった。

 しゃーない。此処は大人として、この遊びに付き合ってやるとしよう。

 

「行けっ! ゼニガメ!」

 

 だなんてグリーンが言い、モンスターボールを投げた。更にその投げられたモンスターボールから、水色の亀みたいなポケモンが現れる。

 ふむ、これがゼニガメか。やはり強そうには見えんな。

 

 そんなグリーンの動きを真似して、俺もモンスターボールを投げる。

 行ってこい、ハラマキ。亀畜生に格の違いを見せつけてやれ。

 

 ハラマキがどんな姿なのか、少しばかり期待。そして、俺の投げたモンスターボールから現れたのは、オレンジ色でのぺっとした蜥蜴のようなポケモンだった。

 

 ……うん。なんか思っていたよりは強そうではないね。アレだ。カッコイイと言うよりは可愛い感じだ。ただ、尻尾の先端に点っている炎はなかなかに素敵。

 

 お互いにポケモンを出すと、どう言う仕組みかさっぱり分からんが、自分と相手のポケモンの名前・レベル、そしてHPバーのようなものが見えた。レベルはお互いに5。HPバーは緑色だ。

 さて、戦うのは良いけれど、此処からどうすれば良いんだ?

 

 どうしたものか悩んでいると、頭の中に、戦う・ポケモン・道具・逃げると言った選択肢のようなものが浮かんできた。

 そんなものが突然浮かんできたものだから、多少驚いたものの、きっとこう言うものなのだろうと直ぐに納得した。人生諦めってのは大切だ。

 

 迷うことなく“逃げる”を選択。

 

 しかし、何故か逃げることができない。どうなってんだ。

 道具を選択しても、何も持っていないし、ポケモンを選択しても、特に何も起こらない。どうやら今は、戦うしかないらしい。現実ってのはいつだって厳しいものだ。

 

 仕方無く戦うを選択すると、さらに“ひっかく”と“なきごえ”の二つの選択肢が現れた。なにこれ、碌な選択肢がない。そんくらいなら俺でもできるぞ。炎ポケモンって言うくらいだし、火とか吐く攻撃があっても良いと思うんだけどなぁ。

 

 どう考えても“なきごえ”が強いとは思えなかったから、“ひっかく”を選択。

 

 

「行け、ハラマキ。目だ! 相手の目を狙うんだっ!」

 

 

 そんな俺のアドバイスが良かったのか、ハラマキの攻撃は急所に当たったらしく、相手のゼニガメのHPはかなり減った。

 

「……ゼ、ゼニガメ。たいあたりだ!」

 

 すごく微妙な顔をしたグリーンはそんなことを言うと、ゼニガメがハラマキへ体当たりをしてきた。そんな攻撃を喰らい、ハラマキは多少のダメージを受けてしまったものの、まだまだHPは充分残っている。これならなんとか勝つことができそうだ。

 

 ――次は脚だ! 下から崩せ!

 

 ――よしっ崩れたぞ! 今だ。たたみかけろ! マウント取れ! マウント。

 

 ――違う! 腕じゃない! 目か腹を狙うんだ!

 

 その後も、俺のアドバイスは冴え渡り、5回目の攻撃が当たったところで、ハラマキがゼニガメを倒した。圧勝とは言えないが、初戦にしては上出来だろう。

 しかし、ポケモン勝負って思った以上に地味なんだな。もっと、こう……ハデな感じが良かった。

 

 倒れたゼニガメはモンスターボールの中へ戻り、そのモンスターボールはグリーンの手へ。

 一方、ハラマキはゼニガメを倒したおかげか、経験値って奴をもらい、レベルが5から6へ上がった。なるほど、勝負に勝つとレベルが上がるのか。もしかしたら、カッコイイ技を覚えたりするのかもしれない。

 

「…………」

 

 何と言うか、すごく複雑そうな顔のグリーン。悪いな、大人気なくてさ。ただな、勝負と言われたら手を抜くわけにはいかないんだ。

 そして勝負に勝ったおかげか、グリーンから賞金として175円をもらった。もっとくれても良いと思うんだが……まぁ、グリーンだってまだ子供なのだし、仕方無い。これくらいで勘弁してやろう。だって、グリーンってば、ちょっと涙目だもん。

 

 まだ、なんとも言えないが、ポケモン勝負で勝てば賞金をもらえるってことなのだろうか? ポケモンの世界は意外と厳しいものなんだな。

 

 ゼニガメとの勝負に勝ち、レベルの上がったハラマキはモンスターボールの中へ。お疲れ様。これからもよろしく頼むよ。

 

「……よ、よーし。他のポケモンと戦わせてもっともっと、強くしてやるぜ。爺さん、レッドそんじゃ、あばよ!」

 

 そう言ってグリーンは逃げるように研究所を後にした。頑張れグリーン強く生きるんだ。

 

 さてっと。俺も行くとしようかね。この世界のこともなんとなくだがわかってきた。とりあえず、ポケモンと戦わせつつ、ハラマキを強くしていけば良いのだろう。

 

 大丈夫、俺の未来は明るいはずだ。

 

 


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