そのポケモンの世界で俺は   作:puc119

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第11話

 

 

 かなり苦戦してしまったが、どうにかタケシに勝つことができ、グレーバッジとやらもいただけた。バッジの方はさして興味ないが、とりあえずこれでアイツが通らせてくれなかった道を進むことができるはず。

 前へ進むことができる。それが大きい。

 

 ポケモンセンターへ行き、傷ついたポケモンを回復させた後はフレンドリィショップへ立ち寄り買い物。残念ながらグレーバッジを売ることはできなかったし、技マシン34も売値は1000円と微妙だったため、売らないことにした。代わりに、タケシに勝ったことで得られた賞金を使い、あなぬけのヒモとモンスターボールを購入。あなぬけのヒモは550円となかなかに高価。けれども、これを使えば一瞬で洞窟から脱出し、ポケモンセンターへワープができる便利な道具らしい。どう言う原理かは知らん。

 そんじゃ、出発する準備もできたし、そろそろ行くとしましょうか。

 

 目指すはハナダシティ。ポケモンを捕まえながら、のんびり行くとしよう。

 

 因みに、何がなんでも俺にジムへ挑戦させようとしていたアイツはいなくなっていた。別に会いたいと思っていたわけではないけれど……なんだろう。いなくなったらいなくなったらで、寂しいものだ。

 

 きっとこれからも沢山の人と出会い、沢山の人と別れることになるんだろうな。なんて自分には似合わないようなことを考えながら、ニビシティの東へ伸びる3番道路を進んでいたわけだが……

 

 ――ちょっと君! 今、私の方……

 ――お前は! トキワの森で……

 ――短パンって動きやすくていい……

 ――君、トレーナーだよね? じゃ、早速……

 

 いやいや、なんでこんなにポケモントレーナーがいるんだよ。倒しても倒してもまた新しいトレーナーがいる。

 ハラマキがいるから負けることはない。それにデブチュウのレベル上げにもなるが……正直面倒臭い。しかも全員が全員、避けられない場所に立っているせいで、どうしても戦う必要があった。

 なんだろう。世界レベルで俺に嫌がらせでもしているのか? そんなことをされるほど、大きな人間じゃないんだけどねぇ。

 

 結局、3番道路では計8人ものトレーナーと戦った。デブチュウのレベルも上がったし、お金もそこそこ集まったのは良いが、それよりも大切なのは新しいポケモンを捕まえること。それだけは忘れないようにしたい。

 

 そして漸く見つけた草むらでは、オニスズメとプリンと言うポケモンを捕まえた。

 オニスズメは鳥ポケモンで、同じ鳥のポケモンであるポッポよりは強そうに見える。まぁ、だからと言って育てることはしないが。だって雀が強くなるとは思えないし。

 

 一方、プリンの方だが……

 

 なんだコイツは。すごく説明が難しいフォルムをしてらっしゃるせいで、どう言ったら良いのかが分からない。

 

 そんなプリンの見た目は――目が大きく、全身ピンクの丸い生き物。

 

 ……言葉だけだとバケモノみたいだが、容姿はカッコイイと言うよりも可愛い系だ。一応、ポケモン図鑑で調べてみると、プリンは風船ポケモンらしい。うむ、コイツを理解することは諦めよう。

 風船ってなんだよ……もしかして飛んだりするのだろうか?

 

 また、それなりの時間をかけて草むらの中を散策したが、他に新しいポケモンは見つからなかった。まぁ、2匹も捕まえることができたのだし、十分と言ったところか。

 

 

 其処までは順調だったのだが……ちょいと問題が見つかった。

 ニビシティからハナダシティへは道があるものだと思い込んでいたけれど、どうやらお月見山と呼ばれる山を抜けないといけないらしい。一応、お月見山にはトンネルが掘られているため、山を越える必要はないが、それでも楽な道のりではないだろう。お月見山のトンネル入口にいた青年も、トンネルと言うより洞窟だ。なんて言っていたし。

 

 とは言え、文句を言っていたって仕様が無い。今はこのお月見山を抜けるしか道がないのだ。頑張っていこー。

 

 そんな気合を入れつつ、トンネル入口にあったポケモンセンターで一休み。先程、捕まえたオニスズメとプリンは持っていても仕方無いため、パソコンに預けることに。

 それにしても、どうやってパソコンにポケモンを預けるのかね? 実はポケモンって電子情報だったりするのか? それならできなくもなさそうだが、質量はあるし、実際に触ることもできるんだよなぁ……

 うむ、考えても分からんな。難しい話は苦手だ。

 

 そして、そんなことをパソコンの前でうんうん考えていた時だった。

 

 

「坊ちゃん。貴方だけにいいお話がありますよ?」

 

 

 だなんて、もう逆に態となんじゃないかと思うくらい怪しい男が声をかけてきた。

 はぁ、変なのに絡まれちゃったなぁ……

 

「いえ、間に合ってます」

 

 どんな話か知らんが、良いお話なわけがない。どうせ詐欺か何かだろう。

 

「まぁまぁ、そう言わずに話だけでも聞いてくださいな。なんと今ならあの秘密のコイキングがたったの500円! 今しか手に入らないチャンスだけどどうですか? 坊ちゃん」

 

 コイキング? ん~……それはポケモンの名前か何かだろうか? そして秘密のってなんだよ。

 

「そのコイキングってのはポケモンなのか?」

「はいはい。もちろん。ポケモンのあのコイキングです。しかもコイキングの中でもすごく元気のいい奴ですよ」

 

 なるほど、ポケモンなのか。

 んで、値段は500円、と。所持金的には……ああ、少なくとも1000円はあるから買えることは買えるな。

 

「それってモンスターボールに入ってる?」

「もちろんですとも!」

 

 ふむ、そうか。

 ……さて、これは微妙なところだな。

 

 モンスターボールの価格は一つ200円。そうなると、実質的なコイキングの値段は300円となる。そして俺はどの道、コイキングを捕まえる必要がある。

 この男の態度はどう考えたって詐欺のそれだ。しかし、たった300円でまだ捕まえたことのないポケモンを手に入れることができるのはかなり美味しい。それにこの先、コイキングが手に入る保証は何もない。そんなことを考えると、此処は買うと言う選択肢しかないのだが……なんか負けた気がするんだよなぁ。

 

 ま、300円くらいで渋るほど小さい男になりたくはないか。

 負け続けたこの人生。此処でまた負けた数が一つ増えたところで、何かが変わるわけでもないだろう。

 

 

「わかった。買うよ」

「へっへっへー。毎度あり」

 

 男に500円を渡すと、モンスターボールを一つ受け取った。うむ、中にちゃんとポケモンはいるようだ。それだけ確認できれば十分。

 

 

「あっ、そうそう! ポケモンの返品はお断りだからな!」

 

 

 そして男は俺にコイキングを渡すと、そんな捨て台詞は吐き、足早にポケモンセンターを出て行った。

 う~ん、最後の最後まで小さい男だったな。もしかしたら、最後くらいカッコイイ姿を見せてくれるのかと期待していたんだが……それに俺のような子供へそんなことをしても仕様が無いだろうに。とてもじゃないがたった300円に其処までかけられる気はしない。

 

 さて、せっかく手に入ったのだ、コイキングにニックネームをつけよう。

 コイキングって名前を考えるに、多分鯉の王様と言った感じだろう。ああ、じゃあ、もしかして水ポケモンってことか? それは有り難いな。

 んで、鯉と言えば……まぁ、あの野球球団だよな。とは言え、カープじゃそのままだし……ん~……よし、決めた。

 

 

「お前は今日から“アカヘル”だ!」

 

 

 1979年の時のような強さを見せてくれると嬉しいよ。大丈夫、きっとお前なら輝ける。これからよろしくなアカヘル。

 

 まぁ、俺は虎党だけどさ。

 

 そのあと、ちょっと気になったから、コイキングをポケモン図鑑で調べてみると、そりゃあもう酷い言われようだった。あの図鑑を作った奴は、コイキングに恨みでもあるのだろうか? それほどの書かれよう。

 その図鑑に書いてあることが正しいのだとしたら、コイキングはポケモンの中で一番弱いポケモンなんだろう。

 一番弱いねぇ……そう言われると、逆に育てたくなるのが人間ってもの。

 

 俺なんかが上手く育てられるとは思えないが、俺にできる限りは頑張ってやろうと、心の中でそっと誓った。

 

 







~補足とか~

『コイキング』

力もスピードもほとんどダメ。世界で一番弱くて情けないポケモンだ。



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