そのポケモンの世界で俺は   作:puc119

11 / 46
第10話

 

 

「えっ……いや、あの……」

「あのな。別に他人のことをうだうだと言う資格は俺にないが、流石にそれはマズイだろ。お前、歳いくつよ?」

 

 俺のセリフに対し、急に戸惑い始めたジムリーダーのタケシ。

 自分が真人間だなんて思ってはいないが、一応、大人として言わなきゃいけないことがある。

 

「15だが……」

 

 あら、思ったよりも若いんだな。18くらいかと思ったよ。

 ふむ、15歳と言うと……中3~高1くらいか? 確かにまだ子供だが、それでも自分の格好がおかしいことくらい分かると思うんだが……

 

「そうか、んで、お前さんはどうして上半身裸なんだよ。なに? もしかしてそれでカッコイイとか思ってるのか? それともジムリーダーって奴はそう言うルールでもあるの?」

 

 上半身裸になるのが決まりだとしたら、ジムリーダーなんて碌なもんじゃない。てか、今までその格好に対して何か言ってやる奴はいなかったのだろうか?

 コイツはまだ若い。今ならまだ若気の至り的な感じで間に合うが、このまま拗らせ続けたら可哀想だ。

 

「べ、別にそう言うルールはないが……その、こっちの方がいいかなって……」

 

 全くもって良くないわ。何を考えているんだ。

 コイツとは今会ったばかりであるけれど、知らないフリってのは流石にできなかった。

 

 

「と、とにかく、来たのなら勝負だ! かかってこい!」

 

 

 タケシの格好が格好なだけに、どうにもやる気は起きなかったが、それでもポケモンバトルはちゃんとやるらしい。

 そして、タケシが最初に出してきたポケモンはイシツブテとか言う、石に手が生えたようなポケモン。明らかにデブチュウのでんきショックが効かないような見た目。見たことないポケモンだし、レベルも12となかなか高い。

 

「頼んだぞデブチュウ。でんこうせっかだ」

 

 先程の戦いでデブチュウのレベルはまた上がって17となった。レベル差的に負けはしないと思うが……

 

 

 ――効果はいま一つのようだ。

 

 

 イシツブテったら全然喰らわないのね。どうせでんきショックも効かないだろうし……困ったなおい。

 一方、イシツブテの攻撃も強くはないらしく、たいあたりをデブチュウへしてきたが、HPの8分の1くらいしか減らなかった。

 

 泥試合の始まりだ。

 

 

 

 

 それから、お互いにHPを少しずつしか減らせない、なんとも見せ場のないバトルが続いたが、運良くデブチュウの攻撃が急所に当たったらしく、なんとか勝利することはできた。

 けれども、デブチュウのHPはもう4分の1もなく、次のポケモンを倒すことはできないだろう。まぁ、何度だって挑戦すれば良いんだ。当たって砕けるくらいが丁度良い。

 

 

「行ってこいイワーク!」

 

 

 そして現れた2匹目のポケモンは、いくつもの岩が繋がり、まるで大蛇のようになったポケモンだった。大きさは10m近くあり、どうやって倒せば良いのか全く分からない。

 レベルは14しかないから、レベルだけならまだデブチュウが勝っているけれど……いや、これは無理だろ。絶望感がヤバい。

 

 しかもヤバイのは見た目だけでないらしく、デブチュウのでんこうせっかがイワークに与えたダメージは本当に小さなものだった。これじゃあ、あと20回はでんこうせっかをしないと勝てないだろう。

 それでいて、イワークのたいあたりはなかなか強く、残り少なくなっていたデブチュウはソレを2回喰らったところで力尽きた。

 

 う~ん、これは厳しいな。勝てる未来が全く見えてこない。流石はジムリーダーと言うだけはある。

 

「戻れイワーク。……ポケモンのタイプを考えるんだな。ピカチュウじゃ俺のイワークに勝てないぞ」

 

 うるせー。そんなことくらい俺だって分かってるわ。

 

 しかし、なんて言うかなぁ……な~んか、モヤモヤするね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからは、タケシへ挑戦し続けた。パーティーは変えずデブチュウ1匹で。

 

 ただ、グリーンのときとは違い、レベル上げはニビシティの南にある草むらで行うことに。タケシのイシツブテでレベルを上げても良いが、毎度泥試合になるため、効率は悪いと思う。

 

 ……たぶん10回は挑戦したんじゃないかと思う。タケシの上裸姿も良い加減見飽きてきた。しかし、あのイワークにデブチュウが勝つことはできない。レベルも17だったのが、今じゃ21にもなっている。それでも、あのイワークを倒すのにはとどかなかった。

 

 

「だから、何度も言っているだろ! お前のピカチュウじゃ俺のイワークを倒すことはできないと!」

 

 もう何度も聞かされたセリフ。

 いやな。俺だって分かってるさ。デブチュウじゃ無理なんだろうなって。でもさ、なんか諦めたくなかったんだよ。

 

 諦めてばかりの人生だった。

 引いてばかりの人生だった。

 今じゃ張れる意地すら残っていない。

 

 

 そんな俺だけど……なんか悔しかったんだよ。

 

 

 せっかくこの世界に来て、せっかく頑張ろうって決めたのに、諦めるのはさ。筋が通ってないことだって分かっているし、自分の行動が愚かなことだって分かっている。

 

 歳食って頑固にでもなったんかねぇ? ホント……碌なもんじゃない。

 

 悪いなデブチュウ。無茶させてさ。俺がもっとちゃんとしていれば、お前に此処まで苦労をかけることはなかったんだと思う。

 もうお前1匹に頑張れなんて言わない。でも、もう一度だけタケシと戦ってもらいたいんだ。これからもそんな我が儘を言うことがあると思う。それでもついて来てくれれば嬉しいよ。

 

 

 ポケモンセンターへ戻り、直ぐにデブチュウを回復させる。そうしてからパソコンをいじり、預けておいたハラマキを取り出した。

 おかえり。頼りにしているよ。

 

 そんじゃ、これで最後にしましょうかね。

 

 

 

 

 

 

「……また来たのか。負けると分かっていて戦うのはポケモントレーナーの性だとは言うけれど、お前のソレは違うんだろうな」

「そんくらい知っているさ」

 

 こんなものがポケモントレーナーの性であってたまるか。そもそも俺はポケモントレーナーなど憧れていない。

 それでも、なんかさ。久しぶりに抗ってみようかなって気持ちになったんだ。遠い昔に置いて来ちまったと思っていた感情は、どうやら心のずっと奥底に残ってくれていたらしい。

 

「頼んだぞデブチュウ」

「っつ! どんなにレベルを上げようが! ピカチュウじゃ俺には勝てない! どうしてそれが分からないんだ!」

 

 あー、もう。わーわーとうっさいわ。確かに俺のデブチュウだけじゃお前のポケモン2匹を倒すことはできない。それでも、お前のイシツブテくらいなら倒すことはできるぜ? 俺のデブチュウを馬鹿にしちゃあ、いけない。

 

 そして、いつもと同じように始まったポケモンバトル。

 相変わらず、デブチュウとイシツブテの戦いは泥試合となってしまうが、それでもその戦っている時間は最初と比べてかなり短くなったと思う。相手が相手だけに見え難いけれども、俺のデブチュウだってちゃんと成長しているんだ。

 

「戻れ、デブチュウ」

 

 イシツブテを倒したところで、デブチュウをモンスターボールの中へ。お疲れ様。よく頑張ってくれた。

 悪いな。本当はお前にイワークを倒してもらいたかったが、それはちょいと難しそうだ。あとはゆっくり休んでくれ。

 

 俺がもっとしっかりしたトレーナーだったら、デブチュウでもイワークに勝たせてやることができたんだろうな。

 

 ホント……悔しいねぇ。

 

 

「……新しいポケモンか?」

「いんや、一番の古株だよ」

 

 最初に出会い、初めて仲間になったポケモン。

 

 そして……一番頼りにしている奴だ。

 

 

「そうか……いってこい! イワーク!」

 

 相変わらず馬鹿でかい身体だねぇ。

 ん~もしかしてハラマキでも……いや、まぁ、ハラマキなら大丈夫か。ハラマキが負ける姿なんて想像できないし。

 

 

「格の違いを見せつけてやれ。頼んだぞハラマキ」

 

 

 最近はデブチュウばかり活躍してたもんな。そろそろお前だって活躍したいだろう。

 

 

「どんなポケモンかと思えばリザードか……ピカチュウよりはマシかもしれんが、リザードだって……あれ? レベル30?」

 

 だから言ったじゃん。俺のハラマキは強いって。

 本当は40くらいまで上げてやろうかと思ったけれど、1つのレベルを上げるのにビードルを数百匹倒さないといけなくなったため流石に諦めた。それでも合計で数千体のポケモンは倒したと思う。

 

 其処ら辺のポケモンとは積み重ねてきたものが違う。

 

 

 そんじゃ、そろそろ終わりにしようか。

 

 ありがとうタケシ。お前のおかげでなくしたと思っていたモノを思い出すことができたよ。これで俺はまた前に一歩進むことができる。

 

 

「ハラマキ――焼き払え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……君を見縊っていたようだ」

 

 ハラマキのひのこもイワークに効果はいま一つだった。けれども流石はハラマキと言うべきか、それでもイワークは一発でKO。あのイワークの巨体が倒れる姿はなかなか見事な光景だった。

 デブチュウもハラマキくらい強ければ良かったんだがなぁ。まぁ、それも俺のせいか。

 

「俺に勝った証として、ポケモンリーグ公認のグレーバッジを授けよう。そのバッジがあるだけで、フラッシュと言う技を戦闘中以外でも使えるようになるぞ」

 

 なんだよフラッシュって。そんなもん知らんぞ。

 あとバッジねぇ……別に欲しいわけじゃないけれど、まぁ、もらえるのならもらっておこう。もしかしたら高く売れるかもしれないし。

 

「あと、そうだ。これもレッドにあげるよ」

「うん? こりゃあ、なんだい?」

 

 タケシからディスクのようなモノを受け取った。なんだこれ? フロッピーディスクか? なんかちょっと違う気がするけど。

 

「それは技マシン34で中にはがまんが入っている」

 

 ……うん?

 

 何を言っているんだろうか。がまんが入っている? この中に? ダメだ、何を言っているのかさっぱり分からん。そもそも技マシンってなんだよ。

 

「技マシンを使えば、ポケモンは直ぐにその技を覚える。しかし、技マシンは使い捨てだから、使うときにはよく考えた方がいいぞ」

 

 ああ、なるほど。なんとなく分かったわ。

 つまり、この技マシンと言うアイテムを使えばポケモンが技を覚えるってことなんだな。んで、この技マシン34の中には“がまん”と言う技が入っていると。

 なるほど、なるほど。理解できたわ。

 

「がまんと言う技だが、攻撃される時じっと耐え……後で一気に2倍にして打ち返す技だ!」

 

 ……随分と使いにくそうな技だな。

 うむ、俺のポケモンには覚えさせないようにしておこうかな。タケシには悪いが此処は有り難くフレンドリィショップへ売却しよう。

 

 さて、無事タケシも倒すことができたのだし、アイツも通してくれるだろう。時間はかかってしまったが、これで前へ進むことができる。

 

「そんじゃあなタケシ。風邪ひくなよ」

「ああ、お前も気をつけろよレッド」

 

 その後、タケシはちゃんと服を着るようになったわけだけど……まぁ、それはまた別のお話だったりする。

 

 

 

 






~補足とか~

トキワの森でリザードのレベルを30まで上げることができれば、まず努力レベルは最大まで上がります
そして、そのリザードなら個体値9以下のイワークの場合、一発で倒すことが可能です(リザードの個体値は平均の7と仮定)

因みにレベル1からレベル30まで上げるのに必要なレベル4のビードルの数は5517匹です


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。