ジムの中は室内だと言うのにも関わらず、大きな石が配置され、なんとも不思議な感じだった。お世辞にもオシャレな内装ではないし、石を置く理由が分からない。
まぁ、そんなことは良いのだ。それよりも大きな問題がある。
俺の視線の先にいる一人の青年。何があったのかは知らんが、何故か上半身は裸。それでいて仁王立ち。どう見ても関わっちゃダメな人。
なに? ジムってそう言う場所だったの? 残念ながら俺にはそっちの気はない。普通に可愛い女の子が好きだ。
やだなぁ。帰りたいなぁ……けれどもこのジムに挑戦しなければ、アイツは通してくれないだろうし……はぁ、やるしかないんかねぇ?
そんな変態のいるジムの中には、変態を抜かしてもう2人ほどいた。一人は入口に、もう一人は変態と入口の間にと言った感じ。
ジムがどんな場所なのか分かっていない俺には、これからどうしたら良いのか全く分からない。
「おっす! ポケモントレーナー」
やはり関わりたくはなかったため、出ていこうとした時、入口にいた男性から話しかけられた。
「ポケモンチャンピオンを目指してみないか?」
ポケモンチャンピオン? なんのこっちゃ。ポケモンの大会でもあるのだろうか?
「いや、遠慮するよ」
まぁ、興味ないが。そんなものを目指している暇はない。それよりも今は他に目指すものがあるのだから。
「遠慮はいらんぜ! 俺はジムのトレーナーじゃなく、ジムへ挑む奴らへアドバイスをしている者だ。此処のジムは一応、岩タイプのポケモンを使ってくるらしいぜ。ジムリーダーのタケシに勝つことができれば、ポケモンリーグ公認のバッジをもらえるんだ。頑張って挑戦してみなよ!」
随分とお喋りな奴なことで。
バッジと言うと……確かポケモンリーグへ入る時に必要だとか言っていたかな。まぁ、それにあまり興味はないが、岩タイプのポケモンねぇ……多分だけど、俺はまだ出会ってないよな。
詳しいことはまだ分からんが、どうやらポケモンにはタイプってやつがあり、それによって技の効果が抜群になったり、いま一つになったりするっぽい。例えば、ハラマキのひのこはビードルなんかの虫に効果抜群だけど、グリーンのゼニガメにはいま一つだった。
んで、此処のジムのトレーナーは岩タイプを使うと。
しかし、岩に効きやすい技なんてあるのか? 風の技とかならなんか効きそうだが。他にはどんな技が効きそうだろう。
そして、入口にある石像のような物に書かれている文字がふと目に止まった。其処には――
『公認トレーナー、グリーン』
なんて文字。
おお、すごいな。グリーンの奴、タケシに勝つことができたのか。それじゃあ、もうハナダシティへ向かっているのかもしれんな。相変わらず忙しいやつだ。もう少しゆっくりしていたって良いだろうに。
さて、あんまりのんびりしていると、グリーンに置いてかれてしまう。俺もさっさとクリアしてしまおうじゃないか。今回はデブチュウのレベル上げと考えよう。
そんなわけで一度ジムは後にし、ポケモンセンターへ行き、デブチュウ以外のポケモンを全てパソコンへ預けた。ここからはデブチュウの個別特訓だ。
あと、何度も負けることになるのはわかっていたから、有り金はフレンドリィショップで使い切っておいた。
よし、行くか。
準備を終え、再びジムへ。
戦ってみないと分からないが、多分今回戦う相手は今まで戦ってきた相手よりかなり強いはず。油断せずいこう。
とりあえず一人目。
「待ちな! 子供が何の用だ!」
いや、こう見えても40過ぎのおっさんなんだが。てか、お前だってどう見ても子供だろうが。
「タケシさんに挑もうなんて10000光年早いんだよ!」
意味分からんがな。何言ってんだコイツ。
色々とツッコミたかったが……とりあえずバトルスタート。
「いけっ! ディグダ!」
そう言って、相手の出してきたポケモンはやはり初めて見るポケモンだった。
ディグダと呼ばれたポケモンの身体は地面に埋まっていて、顔だけが出ている。掘り起こして地面の下がどうなっているのか確認してみたい。
因みに、相手のレベルは11と俺のデブチュウと一緒だ。
「蹴散らしてこい。デブチュウ」
実力は互角。俺のデブチュウなら十分勝てるはず。お前のでんきショックを見せてやれ。
「え、えと……」
そして、勝負が始まったと言うのに、どうにも微妙な表情をしている相手。
なんだよ、俺のデブチュウに文句でもあるのか。
「お、お前、ピカチュウしか持ってないのか?」
「そうだが。何か問題でも?」
デブチュウを馬鹿にするのは許さんぞ。見た目は弱そうだし、ハラマキと比べるとかなり弱いが、強い心を持っていると俺は信じている。
心の強さってのは大切なのだ。
「いや、別に俺はいいんだけどさ。その……ま、まぁ、いいか」
うん? コイツは何が言いたいんだ? 何がなんだか全く分からん。
まぁ、相手が戸惑っているようだし、これはチャンス。
いけっ、デブチュウ! でんきショックだ!
――相手に効果はないようだ。
…………うん?
「……デ、ディグダ。ひっかくだ!」
相手の攻撃を受け、デブチュウのHPは4分の3ほどに。ダメージはそれほどない。
そんなことより……ちょ、ちょっと待て。なんだこれは。ずるい! そんなの聞いてないぞ。
「タイム!」
「あっ、はい。どうぞ」
待て待て、落ち着け。なんだ? どうしてデブチュウの攻撃は効果がないんだ? 今までそんなことはなかったはずだが……
たまたま効果がなかっただけなのか、それともディグダにはでんきショックが効かないのか……
ん~……分からんが、もう一度試してみよう。
デブチュウ、でんきショックだ。
――相手に効果はないようだ。
はいはい。ダメでした。詰みました。でんきショック効かんわ。やってられんわ。だってデブチュウったら他に攻撃技ないし。コイツ、でんきショックしかできないし。
デブチュウもデブチュウで困ったらしく、不安そうな顔を此方に向けちゃってる。
その後、でんじはも試してみたが此方もでんきショックと同じで効果はなく、もしかしたらビームの一つでも出るんじゃないかと、なきごえを連打させたりしたが……
まぁ、そんなわけがなく、結局デブチュウは負けてしまった。う~ん、困ったねこりゃ。強い心があったってどうしようもないことだってある。
「お待ちどうさま! お預かりしたポケモンは元気になりました。ポケモンの体力が減ってきたと思ったら、直ぐにポケモンセンターをご利用くださいませ」
さてさて、どうするか。今のままじゃ、デブチュウがディグダに勝つことはできない。ハラマキならあの程度のポケモンに負けることはないが、なんとかしてデブチュウに勝たせてやりたい。
……しゃーない。時間はかかるが新しい技を覚えるまでレベルを上げよう。流石に一つくらい何か新しい技を覚えるだろ。
そんなことで、ニビシティの南にある草むらでレベルを上げることに。グリーンとの距離はどんどん離れてしまうが、男には逃げちゃダメな時があるのだ。
せめてあのディグダを倒すことができるようになれば、アイツを使ってレベル上げができる。デブチュウ、それまでの辛抱だぞ。
そして、野生ポケモンをせっせと倒しまくり、デブチュウのレベルが16となった時だった。でんこうせっかと言う新しい技をデブチュウが習得。
電光石火……うむ。随分とカッコイイ技じゃないか。
試してみたところ、あんまり強い技ではないっぽいのが残念なところ。まぁ、とりあえずこれでディグダと戦いにはなるはずだ。さて、リベンジといこうか。
「待ちな! 子供が――」
バトルスタート。
頼んだぞデブチュウ。強くなったお前の力を見せつけてやれ。
先程はまさに手も足も出なかったが、デブチュウのでんこうせっかはディグダに効くらしく、相手のHPを半分も削ることができた。ディグダの攻撃も5分の1程度しか喰らわないし、うむ、これならまず負けないだろう。
そんなことで、問題なくディグダには勝利。
「頼んだぞ、サンド!」
そして2匹目のポケモン。
おお、また初めて見るポケモンだ。なんだかアルマジロみたいで可愛いかもしれない。ソイツは何処で捕まえられるのだろうか?
さてさて、どうしようか。此処でサンドにやられれば多分もう一度戦うことができると思うが……まぁ、それはタケシでやれば良いのかな。
「デブチュウ。でんきショックだ」
やはりデブチュウにはでんきショックが似合う。手なんて抜かない。お前の全力を見せてやれ!
――相手に効果はないようだ。
……いや、もう、なんだろうね?
「タ、タケシさんほどじゃないけど、お前もなかなかやるな!」
でんきショックで倒すことはできなかったが、問題なく勝利。
う~ん、タイプによっては効かない技があるってことなのかね? 多分だけど岩っぽいポケモンに電気の技は効果がないのだろう。ディグダもサンドも岩っぽくは見えなかったから、微妙なところではあるが。
さて、次はいよいよタケシとの戦いだ。
どうせ勝つことなんてできないだろうし、デブチュウには申し訳ないが、このまま戦うとしよう。
いったい、どんなポケモンを出してくるのやら。
とは言え、戦う前にまず言わなきゃいけないことがある。
「来たな! 俺はニビポケモンジムリーダーのタケシだ!」
「どうでも良いから服着ろよ」
話はそれからだ。