ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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07 バタフライエフェクト

 裁判が終わり、無事ハリーとシリウスはグリモール・プレイス12番地で暮らすこととなった。

 

 この件に関するメリットは非常に大きい。

 

 まず、万が一にヴォルデモートが復活した時、シリウスが『不死鳥の騎士団』の一員として大手を振って動けること。

 ハリーをあのダーズリー一家から引き離し、シリウスと同居することができたこと。

 シリウスの恩を得ることで、いずれダンブルドア校長に出会う時の足がかりができたこと。

 そして、僕にとって一番大事なのは、ハリーからリリーが施した『保護魔法』を引き剥がせた事だ。

 

 ヴォルデモートは復活するときにハリーのなかにある『保護魔法』の力を得ることで、ホークラックスがある限り『死の呪文』が効かないようになってしまう。それは避けたい。

 確かに『保護魔法』が無くなってしまうとデメリットは発生する。

 しかしそのデメリットは少ない。

 何故なら『保護魔法』の発動条件は非常に難しいため、発動する機会がほとんどないのだ。

 その条件とは、

 1つ、17歳までが有効期限であり、ダーズリー一家の家を『我が家』と認識していること。

 1つ、ハリーが逃げられる状況にも関わらず、逃げださずに立ち向かうこと。

 1つ、ヴォルデモート卿から『アバダケダブラ』の呪文を食らうこと、だ。

 この3つが揃わないと、『保護魔法』での呪文の反射はできない。この限定的すぎる条件は、『闇の帝王』の死の呪文の威力を考えると仕方がないことではあるのだけど……

 

 そして『保護魔法』の無くなったハリーの安全に関しては、シリウスが目を光らせている。

 その上住む場所のグリモール・プレイス12番地は『忠誠の術』により保護されているし、秘密の守り人はダンブルドア校長だから万全の体制だ。

 ヴォルデモートは『保護魔法』の発動条件を理解していなかったので絶対の守りと思い、警戒していた。だからハリーが家にいるときは手出ししてこなかった。だけど、実はできたことを考えると、むしろ今の方が安全といえる。

 

 以上の事からハリーをシリウスの元に送る決心をした。

 

 いや、結局、僕は本人達の意思を尊重したかったのだ。

 かつて孤独で、愛に飢えていたシリウスにジェームズが住む場所や愛を提供したように、ハリーとシリウスもそうなるべきだと僕は考える。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 万が一にヴォルデモートが復活した時の為に、僕自身の強化について考えた。

 

 さて、突然だがまずは『臭い』について考えてみよう。

 

 実はハリー・ポッターを読み返した時からずっと考えていたことなのだが、『臭い』というのはひどく欠点があると常々思っていた。

 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』においてドビーが魔法を使ったのにもかかわらず近くにいたハリーが『臭い』にひっかかっていた。

 つまり『臭い』は未成年が魔法を使ったことに反応するのではなく、魔法を使ったことに反応し、その後に未成年が使っていた場合は通報する、というシステムではないだろうか?

 そして魔法界に実際に来て、『臭い』を研究した結果この予想は大きく外れてはいなかった。

 『臭い』は魔法を使ったことに反応し、その座標を特定、魔法をおこなった地点からもっとも近くにいたものが未成年かどうかで判断している。というのが研究によってわかったことだった。

 原作の場合、『臭い』はドビーの魔法に反応。その後探知をした結果、当然屋敷しもべ妖精の事は検知できなかったので、魔法の発信地からもっとも近かったハリーが魔法を行使した、と判断したのだろう。

 

 さらに『臭い』には検知できる魔法とできない魔法がある事がさらなる研究でわかった。

 原作にしても、ハリーが初めて自分の杖に出会う時、杖を一振りすると明らかに魔法を使ったとみられる演出が起きていた。

 にも関わらずあのとき『臭い』は反応しなかった。

 他にもアーサー・ウィーズリーが、ハリーが自分の杖から勝手に魔法が放たれた事を相談した際に、自我のない子供はたまにとんでもない魔法を無意識に使うことがある、と言っていた。恐らくこの子供達も『臭い』に反応していない。

 では自我のほとんどない子供だけなのか、というと自我のあったハリーが最初の頃に動物園のヘビがいたガラスケースを消したり、自分の髪の毛を伸ばしたりした際も『臭い』は反応していない。

 更にトム・リドルも若い頃に孤児院で魔法を使っていた描写がされているが、『臭い』は同じく反応していない。

 

 つまり、『臭い』が反応できるのは『意識的に魔法を使った際』に限られるのではないか、ということだ。

 そしてこの結論は当たっていた。

 さらに『臭い』を消すためのこの研究は僕に新たな疑問点を与えた。

 子供の頃は杖なしでも魔法が使えていた人間でも大人になると杖なしでは呪文が使えない。これはかのダンブルドア校長でさえ例外ではない

 

 これはなんとも奇妙ではないだろうか?

 

 『杖を使うと魔法が強化される』というのならまだわかるのだが、まったく使えないというのはおかしい。屋敷しもべ妖精や子供が当たり前のようにしていることが、歴代の優秀な魔法使いの誰一人として本当に出来なかったのだろうか?

 そこで思い出されるのが『闇の帝王』の飛行魔法だ。あれは杖や箒を使わず、魔法を使っていた。

 しかし逆に言えば『闇の帝王』でさえ飛行魔法しか杖なし呪文を生み出せなかったのだ。たったの1つだけである。何故他の魔法は生み出せなかったのか?その方法は飛行魔法で確立しているはずだ。何故ほかの魔法に適応させないのか?

 

 ここで視点を変えてみよう。

 

 歴代の魔法使い達は杖なし呪文を生み出していた、しかしあえて使わなかったのではないだろうか。

 

 魔法というのは体内にある魂や気力、体力などを魔力に変え、杖から放つものだ。ここで魔力が杖を通るときに様々な形、つまり呪文になる。

 このときに魔力をどんな形にするのかは魔法を使う人の意思によって決まる。

 だから最初はハッキリ魔力の形を意識するために声に出して魔法を唱え、次第に無言でも魔法が使えるようになるのだ。魔法詠唱の発音は所詮『自分は正しく発音できてるから魔法を使える』という自信をつけるだけに過ぎず、結局大事なのは意思なのだ。

 

 では杖を使わずに呪文をおこない、その途中で意思がぶれたらどうなるか?

 

 答えは暴発である。

 

 本来、呪文を失敗しても杖があれば魔力は何らかの形をとるため不完全ではあるが、呪文となり一応発射されるのだ。

 例えば『変身呪文』でマッチ棒をハリに変える呪文を失敗した場合、途中までできた『変身呪文』が放たれ、マッチ棒を半分だけハリに変えたりする結果となる。

 しかし杖がない場合、失敗したその瞬間に『変身呪文のなりかけ』という形は崩れ、ただの魔力の塊となり爆発するのだ。

 子供や無意識下で魔法を使った際は少しも『疑いの意思』が混ざらないために杖なし呪文が使える。

 杖なし呪文を歴代の魔法使い達は使えないのではない、使わないのだ。何人もの人が杖なし呪文に失敗し、犠牲になった過去があるのだ

 

 ここからが本題となるのだが、屋敷しもべ妖精達は杖なし呪文をおこなえている、これは何故だろうか?

 

 その答えは、屋敷しもべ妖精達はそうせざるを得なかったのだ。

 過去、いや今も、魔法使い達にとって杖は誇りの象徴、人間以外(一部の人間にとっては純血以外)が杖を持つなどとんでもない事である。

 しかし屋敷しもべ妖精達は己に課された任務を遂行しなければならない。

 故におびただしい程の同僚の犠牲の上に『杖なし呪文』つまりは『妖精式呪文』を完成させたのだ。

 これは屋敷しもべ妖精達の、主人のために自分の命さえ投げ出してきた高貴なる誇りの賜物であり、人類には到底到達できないものである。

 そして元来人間の使う魔法と同じものだった屋敷しもべ妖精の魔法は本来なら人間も使えるのだ。

 ただ、やはり若干の危険があるために誰も使わない。

 

 しかし僕は違う。

 

 元々魂だけ、つまり体そのものの形が元々ない僕は他の人間に比べて格段に『魔力の形』を意識しやすい。

 今は5つしか『妖精式呪文』つまり『杖なし呪文』は使えないが、これからもっと色々な呪文を杖なしで使える事になる確信があった。

 そして『杖なし呪文』で覚えた呪文を、杖ありで唱えると格段に威力が増すのだ。これは杖を『呪文を放つため』に使っていたのを『呪文を強化するため』だけに使えるようになったからだ。

 前述した『臭い』の話と合わせてわかる通り、魔法には深く『意識』というものが関わっている。これが僕が出した結論であり、研究の成果だ。

 

 そしてこの結果はある事実を裏付けした。

 

 『守護霊の呪文』に代表させる特別な意識を必要とする魔法が何故強いのかという疑問に対し、『魔法を使う意識』に『特別な意識』が加わるから。という明確な答えを証明したのだ。

 あの『許されざる呪文』さえ『相手を殺す』という1つの意識しか出されていないのにあの威力である。

 

 

 

結局何が言いたいのかというと──もし、もし僕が『魔力』に『複数の意識』を呪文に込めることに成功すれば・・・

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「この中に入っているのは『モノマネ妖怪(ボガート)』だ。誰か説明できる人はいるかい? お、早速手を上げてきたね。君の優秀さはよく聞いているよ。それじゃあジニー説明してくれるかい」

 

「『モノマネ妖怪(ボガート)』は見た人の最も怖いものになります。なので本当の姿は誰にもわからない妖怪です」

 

「いいね!対処法はわかるかい?」

 

「はい。対処法は4つあります。

1つは複数の人で囲む事です。そうすれば何に変身して良いのかわからず、混乱します。

2つ目は笑顔や楽しい気持ちです。妖怪の類は基本的にそういったものを嫌います。

3つ目は呪文の『リディクラス 馬鹿馬鹿しい』です。自分のイメージを相手に押し付けて形を変えられます。

最後は『閉心術』です。相手の心が読めないので何に変身していいのかわからず、逃げていきます」

 

「驚いた… 君は熟練の闇祓いと同じくらい『モノマネ妖怪(ボガート)』に詳しいね。特に最後の2つは教科書にも載っていないことだ… 素晴らしい!グリフィンドールに20点あげよう」

 

「ありがとうございます、ルーピン先生」

 

 これは僕が力を貸したんじゃなく、ジニー本人の力だ。

 僕が勉強法を教えた彼女はメキメキと力を伸ばし、教科書レベルは完璧に理解した、というものについてだけ僕が補足説明をしたが、それでもそれを覚えたのは彼女の努力の賜物だ。

 

 この後の授業で僕はクラスメイトをみた『モノマネ妖怪(ボガート)』がどういった形になるのかワクワクしながら見ていたのだが、コリンの番になってボガートがバジリスクになって以来、バジリスクを見たクラス全員の(ジニーを除いて)もっとも怖いものがバジリスクになってしまったようだった。

 ジニーだけは僕とハリーに剣が突き刺さっている姿だった。もし一昨年に『モノマネ妖怪(ボガート)』に遭遇していたらここにロックハートが加わっていのだろうか?

 ちなみにジニーは僕とハリーの死体を大理石に変えて、『英雄の最後』という名前を彫り、像にしてしまった。流石にこれにはルーピン先生含め、クラス全員が苦笑いだった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「それでは、ネズミをゴブレットに変えてくださいね。生き物なので当然動きます、イメージをしっかり作らないと出来ませんよ」

 

 みんなが呪文を唱える中、マクゴナガル先生が生徒たちの間を縫うように歩き回った。どうやら、それぞれの呪文の出来を見ている様だ。

 

「コリン、貴方の家のゴブレットには尻尾と耳があるのですか?アドレー、随分毛深いゴブレットですね。メーガン、よく出来ました。ホッとしましたよ、私の思うゴブレットは貴方達の思っているものと違うのかと思いました」

 

 マクゴナガル先生があまりの出来の悪さに疲れていた。みんな夏休みの間にすっかり脳みそを溶かしてしまったみたいだ。

 でも、私は頑張った。セドリックやトムに近づきたかったから、ハリーの力になりたかったから。

 

「ジニー・ウィーズリー!これは今まで見ていきたどの生徒より素晴らしい!いえ、生徒に限らず大人の魔法使い含めても中々お目にかかれません。有意義な夏休みを過ごしたようですね。その勤勉さも加味して、グリフィンドールに25点差し上げます」

 

 私はネズミを金でできた、グリフィンドールの象徴であるライオンの装飾が施されたゴブレットを作った。しかもこのライオンは動き回るのだ。加えてライオンの目はルビーになっていてキラキラ輝いている。

 ついでに羊皮紙で銀のトレーも作った。こっちにはホグワーツの校章が施してある。

 周りの人達が驚きと尊敬の眼差しで見てくる。いつか私も、他の人の私にとってのトムやセドリックのような存在になりたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジニーの成長速度が怖い。

 原作のハーマイオニーを遥かに超えてるんだけど……

 

 ジニーはどの授業もこんな感じに完璧にこなす。僕の力はほとんど貸してない。たまにどうしても理解できない理論やイメージし辛い呪文を聞いてくるが、どれもこれも7年生、その中でも優秀な人のみが勉強するものばかりだ。

 こないだ聞いてきた『不死鳥の涙薬』の作り方は『魔法薬学』の中でも最高峰に複雑な薬だが、ジニーは自力で8割は理解していた。

 もう一度いうがこの薬は『魔法薬学』の中で最高峰だ。学生レベルで、ではなく『魔法薬学』の分野で最高峰なのだ。

 

 そしてさらに恐ろしいことに、ジニーに触発されたハーマイオニーとセドリックは猛勉強を重ね、今のジニーの二、三歩上をいっている。

 そしてジニー、ハーマイオニー、セドリックの三学年で主席を取られたレイブンクローとスリザリンは知恵でグリフィンドールとハッフルパフに負けるわけにはいかない!と異様な空気を発して勉強した。

 その結果ホグワーツの学力は大きく底上げされ、スネイプが意地悪問題を出しても何人かの生徒は答えられるほどになっていた。

 

 更にスポーツに関してもハリーの親となったシリウスが『ファイアボルト』を送ったことが新聞に載り、その取材にきた記者がスリザリンのチームが全員『二ンバス2001』を持っていることをミニコラムに乗っけた。すると意外なことにこれが大きな反響を呼んだ。

 世間が大きく『ファイアボルト』と『ニンバス2001』の戦いに注目すると、それに便乗しようとした多くの会社がレイブンクローとハッフルパフにもそれぞれ最新の箒を送ってきた。

そのために最早普通の大人のクィディッチと変わらない、スポンサーを呼び込んでの大会は当然大規模になった。

 当然のこととして選手たちや先生方、特にハリーとセドリックの居るグリフィンドールとハッフルパフはますますクィディッチに力を入れた。

 

 そしてホグワーツが勉強面でもスポーツ面でも原作を大きく超えた成長を見せたころ、ピーター・ペティグリューの脱走をついに魔法省は隠しきれなくなり公表した。

 その結果クディッチやハリーの事で連日新聞に載っていたホグワーツは世間から『保護されるべきだ』という声が上がり、『吸魂鬼』と闇祓いが配置されることとなった。そして闇祓いの中にはハリーの父親、つまりシリウス・ブラックも含まれていた。


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