とある中佐の悪あがき 作:銀峰
「っ・・・!」
とある少女の口から声にならない叫びがもれる。
今、少女が乗っている船の周りには大量の閃光が飛び交っている。
その光景は他者(傍観者)からみたら大層美しい光景だっただろう。
実際叫び声を上げた少女も、少しきれいだとは感じている。
この閃光の一つ一つが、今乗艦している船に当たったら、洒落にならないぐらいの威力でなかったのなら、ここから降りてこの光景を作り出している者に拍手喝采を浴びせたであろう。
そう考えているうちに第・・・何射目か多すぎて覚えてない一斉射がくる。確か十五は超えていたかな・・・?いや超えてないのかもしれない。閃光が絶え間なく続いていて、正確な数など数えられないのだ。
艦橋スレスレに艦砲が通っていって、後方に流れる。
背中に冷や汗が垂れる。
「・・・・」
艦橋にいるクルーはさっきから叫び声一つ上げていない。・・・怖くはないのだろうか?
さっき副指令と呼ばれていた女性は拳を青くなるまで握り締め、前方を見据えている。
オペレーター席についている女性はインカムを押さえ、何かの数字を呟いている。
その様子は、少女には何をしているかあまり理解出来なかったが、ただ自分に与えられた役割を必死にやろうとしているのは、分る。
自分たちが着いてきた男がこの状況をどうにかしてくれると、信じて・・・・
「・・・・・?」
なぜあの男にそこまでして着いてくのだろうか?
彼女は疑問に思い、自分が彼と会った時のことを思い出してみる。
純粋に此方を心配し、頭を撫でてもらった。
その時彼が考えていることも、彼の手のひらからなんとなく伝わってきた。
____見捨て、_____。____いと___た。
「・・・っ!」
何故か顔に熱が集まって来たので、手で押さえて冷やす。
ぜんぜん収まらない。頭を振ってその考えを何処かに押しやる。
何故かこれ以上考えてはいけない気がする・・・
だいぶ収まってきた。周りを見てさっきの行動を見られてないか確認。
胸を撫で下ろす。それぞれ集中していて、こっちををみてはいないようだ。
すごい気迫である。なんだかひどく自分が場違いな気がする・・・
さっきまでの顔の熱が急激に引く。
「なにしてんだろうね。私・・・」
その空気に当てられたわけではないが両手を合わせて祈る。
私に出来ることはこれぐらいしかないから・・・
「どっせい!」
おっさん臭い掛け声と共に、ワイヤーを引っ張る。
部下の機体も船体に取り付きながら、ワイヤーをひっぱりそれはチベ級とドッキング。
飛んできた敵弾をぎりぎり防ぐ。
「・・・間に合ったか」
『はぁ・・・』
心臓に悪い。胸を撫で下ろしながら次の指示を出す。
「各員船体に取り付き、全力防御!急げよ!」
第一射は防いだ。それぞれの機体が移動したところで船が高速移動を開始する。
機体が振り落としそうになるが、機体に接続されている命綱を握り締めさせ、なんとか落とされずにすんだ。
後は・・・
後の指示を考えながら艦の行動を思い浮かべる。
唐突だがジオン軍の艦船の特徴というものを知っているだろうか?
いや優れている所といったほうが良いか。
ジオン軍の艦船は連邦軍の艦船より航続距離が長い。
ペガサス級といった例外はあるがこの場にはいないので、問題ないので無視させてもらう。
連邦軍のサラミス級やマゼラン級には火力面では到底勝てない。
そう考えたスペースノイドはミノフスキー粒子やモビルスーツを開発し、先のルウム戦役に勝利したのは周知の事実である。
根本にある開発思考が違うのだ。
どう違うかというと、地球連邦の艦艇は総じてジオンよりも強力な火砲を装備している。
これは単にビーム兵器技術が連邦側の方が上だということも確かにあった。
もともと連邦の想定していた宇宙での戦いが「超長距離での艦隊同士による撃ち合いで決まるものである」というのが当時の官僚の主な考えであったためだ。
だからあまり動かず、ポイントに移動して固定砲台の役目に徹するのが、与えられた役割だったため航続距離は短い。
これに対して、ジオン軍の艦船は撃ち合いでは勝てないから、確実に勝てるモビルスーツを戦場まで運搬する補助兵器。というザビ家が考えたジオン軍の艦船の基本姿勢だ。
ムサイ級が輸送船を利用した粗末な改造船だったのが、この考えの証明になるのではなかろうか。
というか輸送船すら狩り出さないといけないジオンの貧しい財布事情、というのが正しいかもしれないが。
突っ込んでモビルスーツを吐き出す片道列車、というのは言いすぎだろうが・・・
ともかく、より優れているこのチベ級は、諸説あるとは思うが大体ムサイ級の上位変換である。
無論、航続距離は長い。
航続距離が長くて何になるのだ、と思うだろうが簡単に言うとジオン軍の艦船は早いのだ。
最近(?)昔の日本軍の艦船を女体化して、有名になっているゲームに登場する。
昔最速の名をほしいままにしていた島風だって、他の艦船と最高速度はあんまり変わらないのだ。
だから他の船にだって最高速度を出せば、一時的に島風にだって追いつけるのだ。
ただ最高速度を出したまま長く航行できるから島風は最速の艦と呼ばれるのだ。
これもこのチベ級にも同じことが言えるんじゃないかな?と考え、(微妙に違うかもしれんが)俺が考えたのは、速い速度を生かしての戦域突破だ。
ただ決めたのはいいが、まず連邦の船と追いかけっこになる前に、か!く!じ!つ!に!蜂の巣になるのが目に見えている。
それで考えたのが、
たかだか一隻に耐えられる弾の数は限られている?ならもう一隻足せばいいじゃない、と。
「危険ですよ!?そんなことしたら衝撃でサラミス級の弾薬とかに引火して最悪、こっちも爆発するかも知れ無いんですよ!?」
副官に反対されたが、ほかに手もない。
決行した。
さっきの戦闘で艦橋がつぶれ無効化したサラミス級に、ハーケンを取り付け開戦と共に思いっきり引っ張って、チベ級の艦首に盾としてくっ付けたのだ。
地上なら自分と同じ物体を引っ張るなど出来ないだろうが、ここは宇宙だ。
重さなんて関係はない。
ガスッと音がなって、一瞬止まりはしたが、力強く進んでいる。
これで前方の艦砲射撃は防げる。
いやガスガス言ってて怖いけど。
問題は両隣にいる敵第二艦隊と敵第四艦隊だ。
後ろにいる奴は無視していい。
何故かというと艦が縦に長くなっている構造上、被弾しにくいからだ。
それに後ろにいる輸送船には壊れかけのエンジンを吹かしてもらい、煙を出させて絶賛目くらまし中だ。
まず当たらないだろう・・・たぶん。きっと。
両隣にいる奴の砲撃は、我が艦隊が誇るドムが防いでいる。
どうかって?
「うわっ!」
機体すれすれにビームが掠れていき、冷や汗が垂れる。
「殺す気か!」
殺す気なんだろうなぁ。
なに言ってんだろ。
危機的状況で気が動転してんだよそうに違いない。
「くらえ!」
また船体に命中しそうな閃光に向け、搭載されている武装を当てる。
それで相殺され、ビームが消える。
『それ!』
部下の機体も順調に迎撃できている。
ふはははは。
実は私は。
吸血kじゃなかったチート保持者だったのだーーーー!!
ナッナンダッテーー!
そうなのだよ。
転生して神に会って特典でこのチートを貰ってから、こんな力を授かってしまった。
好きな二次元キャラの力を自由に使えるようになっているのだ。
しかもその力を他人にも譲渡できるっていうね・・・
今は次元大介の弾打ち落としを譲渡している。
ふははまさにチート!
部下たちが弾を打ち落としている光景に思わず悦に浸る。
ふはふあはははははっはあ。
ははは、はぁ。
『いまの信じたバカどのくらいいる?』
というかチートなんて貰ってないし、譲渡なんて出来ないです。勘弁してください。
ふはっは。バーカ。
あっごめんなさい。石投げないで!自分が悪かったです!気が動転してたんです!
堪忍して!かんにんやぁーーー!
まっことにもうし訳ありませんでしたぁ!(聖帝十字陵からのフライング土下座)ぐはぁ。
・・・・実際は出力が上がったドムの胸部拡散ビーム砲を当てて威力散らしてるだけなんですけどね!
あんな凄腕ガンマンみたいに弾に弾を当てるなんて出来ないです。無理です。
マジ尊敬します。昔エアガンでやって見たけど、無理でした。あたんないんでし。
出力が上がったから威力もまあまあ増しになったし、艦砲の威力がガンダムのライフルからジムのビームスプレーガンぐらいに下がる。
なにより当てやすいし、俺のドムは一般機より出力が上がってるから機銃ぐらいには威力が下がる。
というわけで、この作戦でこの大艦隊を攻略中である。
うお!あぶなぁ!殺す気かぁ!
「ばかな・・・」
思わず自分の口からそんな声が漏れる。
「うぐぅこの野蛮人共がぁ!」
ワイアット中将が席から立ち上がり、そんな発言が聞こえる。
実際、目の前の光景は囮に使った味方サラミス級の片方を盾にとって此方に突撃してくるチベ級の姿が見える。
ひどいものだ・・・
今も砲撃を与えているが、いまいち決めきれない。
当然だ。味方を人質にとられながらこっちに走ってくるのだ。
当たる度に、まるで子供が砂山をけるように、サラミス級の装甲が削れていく。
そのたびにチベ級の姿が明らかになって、弾があたるようになるが、あまりは気分がよろしくない。
こっちに向かってまっすぐ突撃してくる。
「・・・やはり艦砲の威力を上げ、一撃で叩き伏せられる戦艦を作らなければな・・・」
「なんですか!?」
「いや何も無い。それより敵の横面にいる味方艦隊は何をしている!?」
何事か呟いているワイアット中将に聞き返すが、はぐらかされてしまった。
確かにいまはそんなことは関係はない。
いまはどうやってあの忌まわしい船を沈めるかだ。
予定ではとっくの昔に沈めていたはずなのに・・・
オペレーターに報告を求める。
「それがチカチカ光る謎の光に邪魔されて決定打を与えられないそうです!」
「なんだそれは!?」
「不明です!・・・・っ!」
部下の報告にあった光を確認ようとしたオペレータが敵船をみて、慌てて何かを計算する。
顔を上げて私に向かって叫ぶ。
「大佐!このままのコースでは敵チベ級は本艦にぶつかります!」
なに!?
確かに此方に接近しているが、目的はこの船との心中か!?
確かにさっきより近くなっている・・・が・・・
「なにをしている!?回避だ!緊急回避!!」
いつの間にかもう目と鼻の先にまで接近していた敵船を見て、慌てて回避命令を出す。
マゼラン級は慌てて横に回避運動をするが、突っ込んでくる敵船に比べたらはるかにその動きは鈍い。
・・・あたるか・・・!?
「全員対ショックぼうぎょぉ!!」
叫んだ数瞬後、マゼラン級の艦橋がミシリという嫌な音を立てた・・・・