とある中佐の悪あがき 作:銀峰
注意。____/223654の表記の後。グロ注意。あとちょっとのホラー。残酷な描写君が、アップを始めたようです。
「しかし広すぎるぞ。この基地」
ユーセルは迷っていた。広すぎるのだこの基地は。蟻の巣の様に構成されたグラナダ基地は、通路にある案内板を見なければ、ろくに進めはしない。目の前にひたすらにひろがる光景は、エヴァンゲリオンのジオフロントの様だった。
「引き返すか?……いや、こんなチャンスは2度と無い。トイレに縛って放置してある奴が見つかったらアウトだ」
前にも使った手だが、アルコールを直接体内に仕込んだ。
エリア88で見た。上等な酒だぜ。味わって飲みな。トムキャットとミッキーすこ。
ベロンベロンに酔っ払った兵士はさまざまな情報を吐いてくれた。最近搬出された怪しい車。クーディの姿は見たことがないと言っていたが、ほぼ確定だろう。細部の詳しい場所は分からなかった。
「この先のは地図にも無い空間だったが……」
目星をつけるとしたら、地図には拡張工事中と書かれたこの区域以外には分からなかった。自然と駆け出そうとする足を押さえつつ、かつかつと、足を進める。狭い通路を抜けた。
するとまず大きな敷地が目に入った。大きなグラウンド、白亜の校舎。プールなんてものもある。まるで学校のようだったが、一般の建物との大きな違いは__
「……これでは牢獄だ」
__窓が全て無く、敷地全てに有刺鉄線が張り巡らされている所だろう。
「……ここが、フラナガン機関か」
真っ黒に塗りつぶされた表札がかかった正門前を通過して、建物の入り口にたどり着く。懐から警護の者から奪った、認識番号が書かれたドックタグを提示する。
「ジョージ・ジェー・ロール伍長です。D1倉庫の方で、必要な素材があるということでこちらのほうに受領に来たのですが」
もちろん方便だったが、他に侵入できそうな場所も道具もない。正面突破しか、方法は無かった。時間もない。
「分かった。しかし悪いが、後にしてくれないか?」
「……どうしてです?こちらも仕事なんです。理由もなく帰れません」
「……それもそうだな。同じ職場のよしみで、ここだけの話にして欲しいんだが」
すわ、こちらが偽物だと暴露してしまったかと慌てたが、どうやらそうではないようだった。兵士は仕切りに背後をチラチラと確認し、小声で話す。
「ここにジャブローの上の人が来るのは知ってるな?」
「……あぁ」
いや、知らん。
「最近この施設に運び込まれた人間が、敵の捕虜だったらしいんだがそのお偉いさんに、気に入られたらしくてな。もうすぐ来られるらしい」
「……へぇ。ジャブローってぇとゴップ将軍とかか?」
「ハハッ。そりゃないぜ。何しろそんな偉い人が、来るわけがないだろ。確か……ジーン・コリニー提督の軍財財務官だったっけかな?」
「知らないな。……なんでそんな人がいちいち捕虜を連れてくんだ?」
「そりゃこれだろ。ちらっとみただけだが、綺麗な子だったからな。需要があるんだろうな」
門番は下衆な笑みを浮かべて、小指を立てた。その言葉は朧げには理解できた。戦場で捕まった捕虜が、なぶられるのはどこの戦争でも同じだ。ユーセルは拳をきつく握って、先を促す。
「……へぇ。そんなに綺麗な子だったのか。年はどのくらいだった?背丈は?怪我とか」
「……やけに聞きたがるな?」
門番の男は先程までのニヤニヤを引っ込めて、こちらを凝視してくる。
首筋に汗が伝わっていくのがわかった。
「ジョージ伍長とか言ったな。その響きで言うと、オーストラリアとかそこら辺の発音だな。地元はどこだ?」
「……シドニーだよ」
オーストラリア=シドニーしか、思い浮かばなかった。脳内で閃きが、起きて、何処かのコロニーでクリスマスを盛大に祝っている映像が流れてきた。コロニーに雪を降らせて、随分と力を入れていた。金髪の青年がぐっ、と親指を立てている姿まで幻視した。
オーストラリアは今ごろ雪で真っ白なんだろうなぁ。
助けてくれるのかバーニィ。ありがとう。
「へぇ。シドニー。良いとこだな。クリスマスには、
「ははは。そうだな。シドニーのサンタは、うきうきとしながらプレゼント配ってるよ」
そこまで言い切ったところで、ふと違和感に気づいたが、門番の男はにこにこ、と笑顔を浮かべる。釣られて俺も笑う。世界は平和になった。
にこにこ、と2人は会話を再開する。どうやら乗り切ったみたいだ。
「そうなのか?夢がないなぁ」
「ははは。そうだよ。ああゆうのは夢が無いもんだ」
「違いねぇ……ところで伍長。お前の所のサンタは、真夏に厚着してサーフィンをするらしいな」
「……あ」
「おい、シドニー生まれ。オーストラリアは、その時期は夏だぞ」
カチリと、何かの安全装置が解かれた音がした。すっと、銃口がこちらを向く。
「……まて」
「あばよ。ジオン野郎」
1発、銃声がフラナガン機関の敷地内に響き渡った。
クーディが狭苦しいドラムに閉じ込められてから、すでに数時間がたっていた。拘束具で身動きひとつできないために、肩とお尻が痛くてしょうがなかった。何回も止めるように懇願したが、白衣の男たちはまるで取り合ってはくれなかった。
写真や、ノスタルジックな動画。
氷山が、巨人が食べるように崩れた。又は、大勢の人が中央の銅像に向け、祈りを捧げる。又は、少女が裸体のまま心臓にナイフを突きつけて、事切れた。又は……又は……又は__
意味不明な映像は流れ続ける。目を閉じると、相手にはわかるらしく、「目を閉じるな」と、叱られた。
その映像が、前触れもなくぷつり、と途切れた。視界が真っ暗になる。
「……」
程なくずるり、ずるり、と何かを引きずるような不気味な音が耳元から流れる。妙な不安を感じさせた。
__気づくといつもの見慣れた部屋に居た。
体を見下ろすといつものフードパーカーとショートパンツのパジャマを着ていた。
右手には小さなじょうろ。あくびをかみころしながら、カーテンを開ける。窓から漏れる朝日が控えめに、彼女と自室をてらした。座り込み、ベランダに面した場所から花に水をやる。ちょろちょろと、じょうろのはず口から、流れる流水を見ながらほおづえをつく。
「大きくなったなぁ。ちみは」
当時私は得にミニマリストを気取っているわけでは無かったのだが、私物が少なかった。せめてもの暇つぶしでと、彼が買ってきたものだった。別に花が好きと言うわけでは無かったのだが、数ヶ月もすれば流石に愛着が湧いてくる。
「私には……これだけで十分だよ」
そうひとりごちて、水やりをやめた。大きく弓なりに伸びをする。肺から押し出された空気が、吐息となって口から漏れた。
__ぱちり、と瞬きを一つすると、いつの間にかクーディはキッチンにいた。キッチンから外に繋がる窓から覗く夕陽が、彼女を照らしていた。何処か遠くでカラスたちがカァカァ、と楽しそうな声を上げていた。
「何を……していたんだっけ」
手元に視線を下ろす。手に持った包丁がキャベツのなかばほどで、突き刺さって止まっていた。
そうだ。私は今、夕飯の準備をしていたんだ。
鼻腔をくすぐる、焼き魚のいい匂い。濃厚な味噌の香り。コトコト、と鍋がなり、中に入っているわかめが、ぐるぐると底と水面を行ったり来たりしていた。
「……寝ちゃってたかな」
ふと、違和感を覚えたが、寝不足だろう。
今日は彼の好物の、鯖の味噌煮込みだ。帰ってくる前に、早く作らなければいけない。
__……彼って誰だろう。不思議な事に彼の顔が思い出せなかった。
彼は大事な人、大事な人の筈。私に生きる目標をくれた人。
軽く頭を左右にふり、左手で額を触る。ずきり、と頭の奥で痛みが走った。もしかしてこれは妄想なのだろうか?一人暮らしの女が、見せる都合の良い妄想。
……良いや。そんなはずはない。だってほら、窓の外、500メートルほど先のところで、彼の姿が見えた。リズムに乗るように規則的に身体を揺らして、ゆっくりと自転車を進めていた。彼が良いことがあった時、又はああやってご機嫌なときはあったときは、毎回あんな感じだ。そして必ず何かおみやげを買ってきてくれる。今日は何があったのだろうか、彼の嬉しさが伝わってきたかのように、先程までの思考は何処かへと消えて、私はゴキゲンなナンバーを口ずさむ。
「いそがないとね」
私は中途半端に切り込みが入ったキャベツを、断ち切るように包丁を滑らせた。
__トン
____/223654
クーディは小さな額を彼の背中に預ける。意図せず瞳からぽろほろ、と涙が溢れる。
「……なにも、言ってはくれないんだ。いい分かった。でもこれだけは教えて。どうしてやめられ理由があるの?それとも私のことが嫌いかい?」
それは言ってはいけない言葉だって、分かってはいた。言葉にした勇気は、直ぐに後悔へと変わった。これは彼を縛る言葉だ。私は、クーディと言う人間は不安だったのだ。いくら一緒に暮らしても、どれだけ時を重ねようとも、彼の大事なときにはそばにいられない。
1人なら耐えられた。……殻を閉じて、耐えるだけで済んだから
彼女がいたから耐えられた。……背中には守る人がいたから。
嗚呼、私は弱くなってしまった。なんで忘れていたのだろう。彼の名前を。ユーさん。優しい人、時々変に思う事もあるけどきっと、彼はいつものように直ぐに否定してくれるだろう。なんてずるい、
__あぁ、嫌いだ
その言葉は想像していた言葉とは違う、強い否定の言葉だった。信じられず彼の背中から額を離し、のろのろ、と顔を上げて__そして彼と目があった。
「……ひっ」
180度ぐりん、と彼の顔が背中側に回っていた。思わず引き攣ったような声が漏れる。
「嫌いだ。何を勘違いしている。お前はただの拾い子で、ずっと追い出す機会を待っていた。家に帰ればヘラヘラ、とお前が玄関で待つ。その顔を見るたびに虫唾が走った」
ぱきぱき、と。小枝をおるような音を立てながら腕が、落ちる。堕ちたそれは蛇のように、くねくね、と絡み付くように床を這った
「煩わしかった。誰がお前のような奴を好き好んで、一緒に住むのか、1人が気ままで、楽だった。お前が来たせいで俺は死ぬ。全てお前のせいだ」
「こ、来ないで……」
思わず身が強張り、彼を、ユーセルだったものを押す。呆気ないほど簡単に彼の体は、前のめりに倒れ込み、べちゃり、と嫌な水音を立てた。
コロコロ、と何かが転がり、クーディのつま先を押す。
それは__私の、クーディの顔をしてにっ、と歪な笑みを浮かべた。
彼女の、瞳と目があった。
__お前の存在価値は戦うことしか、無いと言うのに。
____/223654
無機質な電子音が、不吉な調べを奏でた。
クーディは狭苦しいドラムの中で、激しく暴れていた。
「大人しくしろ!画面を見ろ!」
研究員の声がするが、構わずに足をばたつかせ、頭を動かそうと身悶えする。全身が汗ばみ、呼吸は乱れ、激しい耳鳴りがした。
「出してくれ!……私を私をここから出して!」
頭が激しく痛み、彼の声が脳裏で不協和音を撒き散らしていた。嘘だ。これは夢だ。体を動かしていないと、頭がどうにかなってしまいそうだった。
あまりに強く暴れたせいで、メットは頭からずれてしまっていた。
「いい加減にしろ!」
クーディを寝かせてあった台が、ドラムから引き出される。横までやってきた男たちが数人で、彼女の体を押さえつける。男たちの力は凄まじく、一歩間違えれば骨が折れてしまうかと思えた。
「嘘!嘘だよ!こんなこと!ユーさん。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい」
「実験は中止だ!鎮静剤を!」
右腕に注射針が押し当てられた。クーディはかくり、と力無く横たわった。
コンクリートが打ちっぱなしの無機質な壁。クーディは真っ黒な部屋の床に放られていた。ゆっくりと身を起こす。体の節々がパキパキ、となり、ひどい頭痛がした。
「目が覚めたのね」
「……だれだい?」
背後から声をかけられた。女の人の声だ。苦労して痛む頭を手のひらで押さえながら、声の方向に顔を向けた。薄っすらとする視界の中で、姿を確認する。背丈は私と同じぐらいの、ボブカットの少女だった。
「心配しないで、別にとって食べようってわけじゃ無いの」
「信用……できないよ……っ」
「無理しないで」
少女がベットから、心配そうに立ち上がってこちらに歩をすすめる。
「彼らにやられたのですか」
コツンと、おでこに温かいものが当たった。クーディの頬を女性の毛先が撫で、彼女のうつろな瞳が全てを見透かすように、覗き込んでくる。彼女に触れただけで、不思議と頭の痛みが引いていった。まるで、冷たくなった血が、心臓を__彼女を通して暖かくなって帰ってくるようだった。
「……大切な人を失ったのね。私と同じように」
「……一体何のこと」
「隠さなくても分かるわ。だって貴方は私と同じだもの」
まるで瞼に100トンのおもりを付けられたかのようだった。ぼんやりとうすれる視界の中で、彼女は優しげに微笑んだ。
「せめて、今は少しだけでも良き夢を__」
??「これで良いんですよね……大尉」
飛ばした人向け、
クーディは連邦軍のニタ研に悪夢を見せられて、錯乱。
大切な人が悪夢となって、彼女に襲いかかる。
牢屋に入れられ、虚な目をした少女に出会う。←いまここ
ユーセル。何してんだお前!早く助けに来い!