とある中佐の悪あがき 作:銀峰
ミサイルが飛び交いビーム砲の光が宇宙を照らす。
一筋のビームがすれすれに通り過ぎるたびに船は傷つき速度が落ちる。
その繰り返し、また中にいる人間の絶叫が響く___
方や輸送艦方や2隻の軽巡洋艦。
初めから決まっている勝負。
今でこそ一定の距離をとって走行しているが距離が離れてもいない。
いや追いつかれてすらいる。
軽巡洋艦は速度を早くして戦艦を狩るように設定されている。
輸送艦はもともと積荷をたくさんつみ安全な航路をゆっくり進むようにできている。
例外もあるが、大方そのとおりだ。
まず設計思想が違う。この艦も例外ではない。
むしろ軽巡洋艦におわれてここまで、逃げていられるのは艦の操縦士の腕がいいのか、はたまた敵の砲撃主の腕が悪いのか・・・はたまた誰かの策略か・・・
そんなことはこの輸送艦の一角に閉じ込められている少女には関係なかった。
窓も無い部屋でうずくまっている少女には外の様子など分かりはしない。
だが予想はできる。艦が揺れるたび少女の体がボールのように跳ね部屋のあちこちにぶつかる。
なにもない部屋だったのが幸いしたのかもしれない。
家具などがあったら打撲の上に切り傷まで追加されていたかもしれない。
そもそもつかまるものが無いからボールのように跳ねているのだが・・・
揺れるたびに少女は数々の実験で色素が薄くなった髪が広がり、整っている顔をしかめる。
どうせ生きのこったところでこの艦に乗っているかぎりつらい訓練の繰り返しなのだから、いや辛いとすら思ってもいないのかもしれない。知らない薬を飲んで機械を動かして敵を破壊する。
その生活も終わる。
よく逃げているがいずれあたり私ごとこいつらも死ぬ。そのときはざまぁとも思うかも知れないが・・・いや思わないのかもしれない。そのときは私は肉片になってるだろう、いや欠片ひとつないのかもしれない
もう関係ない。私は____
バンッ!
ある女性はいらだっていた。
さっきから後ろについているサラミス級がうざい。
すれすれに掠って行く光を見るたびにうるせぇ!!とでも叫びたくなる。
苛立ちすぎて蹴り上げた私は、悪くわない。
だから嫌だったんだ!ア・バオア・クーへの移送任務など!!
いや混乱しすぎだ落ち着け。頭を冷やせ!なんていった声も女性には届かない。
女性を抑えようとしたメガネをかけたひょろい男性が、暴れる女性にヒールで股間を蹴り上げられて悲鳴を上げる。
ブリッチにいた男性が悲鳴と潰される本能的恐怖にみな股間をガードする。
そうしてる間にも攻撃はつづいている。
こちら貨物船エーデルワイウ敵サラミス級の攻撃を受けている!!この___
我に返った女性が通信機に飛びつき救難信号を出してはいるが、助けになど来ないだろう。
助けに来る軍などもう降伏したし、これは連邦軍のストレス発散だ。
弱者をいたぶりやられた恨みを晴らす。
別に歴史を見ればこんなことをやってる軍隊など珍しくない。
しないのはよっぽど教育が行き届いた軍だけだ。
荒い軍など止めようとする上官を無視、いや口封じに刺すと言ったこともあったそうだ。
一応捕虜を捕るようにいわれてはいるが監視の目がゆるいこんな辺境ではとこんなことも起きてしまう。
ただそれだけのこと。
爆発音。
その追いかけっこもついに終わる。
ついにエンジン部分に直撃弾が出たのだ。
大きく揺れる艦橋。
艦長はで迎撃と言う選択肢が浮かんできたがモビルスーツと変なモビルアーマー一機ずつしか積んでいない。モビルアーマーは一機でモビルスーツ五機分の戦力になるといわれているが、あいては一隻に五機は積んでいる。どう考えても負ける。
賭けても良いが逃げ切れないそれじゃあ。かすかな希望をかけて救援を待ってこの鬼ごっこを続けていた方がいくらかマシだ。そう結論付けてこう叫んだ。
修理急がせい!!
そんな中、女性はゲージが振り切れたのか、逆に静かになってしまう。
そして覚束無い足取りでどこかへ消えてしまった。
「救難信号?」
「はい。結構近いです。HK-23ポイント。これですお聞きになりますか?」
「ああ流してくれ。」
こちら貨・・エー・・・・・敵サラミ・・の攻・・・・受け・・・!!こちら___
いくらか雑音が流れた後かすかに分かる断片的な情報。
こちら貨物船エ……敵サラミス級の攻撃を受けている。救援を
だろうな、たぶん。
救援信号が送られてきた方向に目を向けてみる。
両隣には偽装作業中の艦隊。
ふーむ。どうしたものか・・・
あの後俺たちはサイド3に行くのを取りやめ、少し離れたデブリ地点で簡易拠点を作り潜むことを選択した。
え?サイド3に行かなかっただって?
いきなり艦隊を動かすわけにも行かず、先に偵察機を出したがサイド3駐屯軍が大規模に動いているのを確認した。偵察機にはその監視を命じてある。
全軍ではないようだったがサイド3はほぼもぬけの殻状態になっていて補給を受けられそうになかったからな。
補給は諦めた。
三艦の全クルーに確認を取ったが全員付いてきてくれるんだそう。
それならわざわざ行く意味もない。
あの会話の後少しぐれた俺は転生うんぬんをぼかして、これからの世の中の動きと
「スペースノイド(自分の欲望)のために俺は連邦(世界)に戦争を仕掛け、差別の無い平和な(俺の)世の中にしてみせる。だから俺に付いて来てくれ!」
と(本音)の言葉は抜かして宣言してやった。
兵の大半は俺の言葉にわりと感銘を受けてくれたようだった。まぁ、艦長たちや艦橋のみんなにはばれてそうだっが、皆苦笑していた。
でも、まぁそういうことならと考えを出してくれた。
曰く、
「それなら戦力が必要よね。じゃあこの(ア・バオア・クー)空域に残って(ジオン)残存勢力を回収したらどうか」と
割と目から鱗だった。
俺的にはデラーズ艦隊に合流して、コロニー落としの後の戦力を集めて配下にする予定だったが(シーマ艦隊とか)そう言ったら、
「人望無いんだし。
君ら息ぴったりだね!俺、君たちの上官なんだが!もっと敬ってくれよ!
割と傷つく。そんな俺の姿見て更に笑ってやがった。
傷つく。
と言うわけで、戦争は終わったがまだ連邦に下るのを良しとしない艦隊や戦力はいっぱいいる。
そいつらを助けながら集めたり、併合することになった。
確かによく考えれば確かにそのほうがいい。
連邦軍の追撃を逃れるために戦力増強をしておいてもいいし。
もちろん増加した分、発見される確立は大きくなるが、ある程度固まっていたほうが相手がパトロール艦隊なら攻撃を躊躇する。
本格的な攻撃なら散開して逃れるなり迎撃したりできるメリットは大きい。
あの戦いに生き残ってまだ反抗するやつは、骨が有りそうだし、即戦力が手に入る。
なかなかいい事ずくめだ。
それからはたびたび逃げてくる同胞のやつらを救ったり、連邦の輸送艦隊を襲いながら生計を立て生活している。
なんで補給部隊が必要かって?
戦争は終わったしそう考えると要らないのかもしれないが、ア・バオア・クーを手に入れてまだ日が浅いし完全に分かってない部分もあるんだろう。
そのうえ大きい反乱勢力が居座っている。
そう我が艦隊である。
こいつらはジオン軍残党をまとめて補給物資を奪っていく。
連邦にとっては目の上のタンコブだろう。
今は補給がなくなっていく連邦軍は焦って、それぞれ艦隊を分けばらばらに荷を運ぶ作戦を取っている。
これは正直悪手だと思う。戦力を分けたらほぼ確実に奪われるし取られる。
俺たちを討伐しようとしてもパトロール艦隊じゃ手に負えないし、大規模討伐軍を差し向けても、パトロール艦隊は撃破された上に、もう逃げられている。
その討伐戦力確保の為艦隊が引き上げられない。
むしろやられてるから補充する。物資が足りなくなる。
補給部隊を派遣する。また奪われる。
見事な悪循環だ。しかも相手は時間がたてばたつほど残党を回収し大きくなる。
いまごろ
「どんな無理ゲーだ」
と、連邦軍の上層部の偉い方は涙目で頭でも抱えているころだろう。
はっはっは。ざまぁ。
そのおかげで懐は結構ウハウハだ。
あまりに多すぎて
もうこっちの弾もったいなくね?
みたいな発想が出てきてモビルスーツの武装が連邦製になってるぐらいだ。
なんかもう、いっそのことモーレツな宇宙海賊にでも転職でもしてしまおうか?
話を戻そう。
輸送船を助けるか助けないかだ。
正直こんなこと言うとすべてうまく言ってるように聞こえるが、現状は割と苦しい。
回収した奴等は激しい戦闘から逃げてきただけあって結構、損害が激しい。
逃げるときもそいつらに足並みそろえてやる必要があるから全体速度が落ちる。
昨日の戦闘なんてあと五分遅かったら討伐隊に追いつかれて宇宙の藻屑になるところだった。
それに最近は規模が大きくなり襲撃回数が多くなってきた。
そろそろ潮時だろうか・・・?
いや別に助けてやりたいとも思うし、いきたいのが今は拠点偽装建造中で艦隊規模の艦を動かすとなると(現在の戦力=チべ級1隻にムサイ級14隻、小中補給艦、補助艦15隻)これだけの数が動くと流石にばれてしまう。絶対。
だから必然的に一隻だけということになる。
そうなると出すのは成功率を上げるため我が艦隊の最高戦力であるチベ級になる。
サラミス級は一隻とは限らないし武装解除させるのも手間がかかる。結局は沈めるしかない。
となると物資も奪えない。
そうなると弾は減る。燃料も減る機械の寿命だってくる。
最近の攻撃回数が増えた所為でクルーの疲れも溜まっている。
動かすのもたたじゃないのだ。
無い無いずくしだ。
「どうするべきだと思う?」
元々の我が艦隊、三人の衆に相談してみる。
コートニー少佐、うちの艦の艦長。ルドルフ大尉、ヘルタだ。
「ワシは助けるべきだとは思うぞ!同胞を見捨てては置けんしなぁ近いので直ぐに行けるのだろう?」
「そうだな少佐の言うとおりだ。味方は見捨てて置けないだろう。だが近すぎるのも問題だ。流石にこの規模の艦隊を動かすとなると発見されてしまうだろう?」
「むぅ、言いだしっぺとしては、やっぱり助けないといけないと思うのだけれど。こちらの損ばかりでいいことは無いよね。近いからこそ、見つかってこの簡易拠点が報告されるかもしれないし。反対・・・かなぁ」
「うん。賛成が二で反対一か・・・そうだね。大尉、だから助けに行くなら速度が一番速いこのチベ級で行こうかなとは考えている」
「一隻だけじゃ不安じゃないかのう?」
「そうだな少佐の言うとおりだ」
「全体的には行くみたいな雰囲気ね・・・それでもいかないべきだと私は思う。最近は私たちの所為でパトーロール艦が二隻以上になってるし、それにつかまったんだ…と思う。一隻で行くならなおさら危険だ」
「たしかにヘルタの言う通りだなぁ。それなら途中までチベ級が向かって、撃破されてたら人命救助。されてなくて助けられそうなら、交戦して殲滅する。これでどうだ?」
まあ見捨てるのも後味が悪い。
どの道、通信があったのはほんとに目と鼻の先だ。
見つからないならいいが見つかったら増援を呼ばれる。
見捨ててもこっちが見つかるかもしれない。
そうなると、どの道どうせ艦隊は移動しなければいけない。
どうせなら気持ちのいいほうを選んだほうがいい。
それならと言って肯いてくる三人。
「各員。第一戦闘配備!これより我が艦は、味方輸送船の救援に向かう!!」
「了解!各部署に連絡。船を出すぞ!」
俺の指示で艦内が慌しく動き出す。
こうして俺は味方輸送艦の救援に向かった。
それ自体が罠だと知らずに・・・
???:「かかりおったな!野蛮な猿共が!」